ナグネ――中国朝鮮族の友と日本 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004315391

作品紹介・あらすじ

電車の行先を訊ねられたのがきっかけで親しくなった中国朝鮮族の女性と過ごした十六年間。実家の「地下教会」での抑圧された日々、日本で砕かれた夢と現実、植民地支配と戦争で分断され、移動を余儀なくされたナグネ(旅人)としての朝鮮族の歴史などを振り返り、東アジアを跨ぎ自立していく女性の姿を描くノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • ふと西武線のホームであった女性を、アシスタントに。それをきっかけに中国での朝鮮族について深く知ることに。韓国人からも差別され、日本人からも差別され。それは著者の知らない日本であり、韓国であり、中国であった、と。/時に、自分の関わり方を悔い、私に人を支える資格などあるのだろうか、と思い悩むシーンもあったけど、正直、自分に置き換えてみて、ここまでできるだろうかと考えると心もとない。それをやってのけるところに感銘。そして、差別されるだけでなく、故郷に帰省した恩恵が、漢族が増えてから村が汚くなった、と言うところも描く。また、中国では地下にもぐらざるをえない、国家に認定されない宗派のクリスチャンであり、「奇跡をうたい、現世利益を前面に押し出す彼らをひとえに非難できないのは、占領、戦争、南北分断、差別、そして流浪と家族離散の歴史を生きざるをえなかった朝鮮民族の宿命を、日本人の私に理解できるわけがないと思うからだ 」(p.188)とも語られる。/あなたがたは地の塩である、あなたがたは世の光である、というマタイの福音書の言葉が心に残る。

  • 電車で聞かれただけの人と、こんなに長く付き合うとは、人との出会いってすごいなと思う。

    この朝鮮族の中国人女性の努力する力に脱帽する。
    山手線何周分か寝て、あとは仕事して日本語覚えてってすごい。

  • どの国に住んでいるからとか、国籍はどこだからとか、〇〇教だからとか、そういうことで「こういう人たち」とひとくくりにするのは本当にバカバカしいことだな、と。まあ、あたりまえのことなんだけど。

  • さすが、最相氏の著作である。表層から真相へと導く。中国朝鮮族の軌跡。ノンフィクションとしても、交友録としても珠玉である。自省に基づく観察眼は、読む者の心を揺さぶる。著者は懐疑的だが、宗教への姿勢の深まり方も唸らされる。そして、極め付けのあとがきだ。ナショナリズムと人間の抜き差しならない緊張関係への配慮に涙する思いだ。

  • なかなか面白いルポ

  • 東欧に強制移住させられた朝鮮族のことしか知らなかったので、宗教弾圧のことも含め、初めて知ることばかりだった。親の莫大な借金のため働き続ける彼女の頑張りは、切なくて言葉にならない。最相さんが本にすることで、貸し借りがチャラになるという発想はいいなと思った。

  • 最相さんの年下の中国朝鮮族の友達・具恩恵との十数年のかかわりを書いたもの。
    日本に来てまもない恩恵に駅で道を聞かれた最相さんは、そんな行きずりを機に彼女に資料整理のアルバイトをしてもらったりしながら仲を深めていく。とはいえ、自分との接点以外には立ち入らないという一定の線を引きながら。ところが、細々と続く関係性のなかで、何度か危なっかしい恩恵の行状に触れもする。そして、本書を書くにあたり改めて彼女の話を聞くことで、自分がものわかりよく一歩引いているときに、いかに恩恵が大変な道を歩いていたかを知る。
    最相さんは身元引受人になったり、まとまった額の金を貸したりと決していいとこどりのつき合いだけをしていたわけじゃないし、日本人の友としての責任を常々考えていたと思うが、それでも恩恵の来た道を知らされると、日本で異邦人として生きることの大変さを改めて知らされるようなことがいろいろあった。
    特に、恩恵は中国朝鮮族だ。私も数年前に韓国に興味をもつようになってようやく知ったこの人々のことを日本のどれだけの人が知っているだろう。彼らのような境遇の人々の誕生にかつての日本が一枚かんでいたというのに。
    ただ、恩恵も恩恵の家族も過去のことは「過去のことだから」と大して触れようとしない。それは渦中の人の本音でもあるだろうし、また恩恵が言っていたように、過去を振り返っている暇もないからかもしれない。そこに日本人はあぐらをかいているといえないか。
    と、何だか硬い話になってきたけど、何があろうとやはり友達は友達。この仲が、国家とか形のないものを通じて生まれた恩讐を癒したり赦しや理解に導いてくれる。
    東日本大震災の直後、もともと人間には期待しないと言っていた恩恵に対して、最相さんは「世の中が絆、絆と連呼している最中、私のすぐ目の前で、絆という文字がバラバラにほどけていく。私は、これほどの事態となっても日本に留まろうとした恩恵の日本人に対する信頼が失われる日が訪れるとしたら、その最終的な責任は私にあるのだと覚悟した。」(p.160)という。
    このように、真剣に誠実につき合いたいもの。そういう意味で最相さんがこういうごく私的なつき合いをもとに一冊書いたのは素敵なことだと思う。個人的なつき合いとして書かれるなかに、普遍的な関係性のあり方が含められているような気がするから。

  • ウイグル人、ユダヤ人、クルド人、チベット民族、、、歴史に翻弄され、流浪と家族離散、差別に苦しめられてきた民族は少なくありません。
    中国朝鮮族もまた、そのような民族の一つであり、本書は日本に渡り生活基盤を築いてきた一人の中国朝鮮族のの女性と著者(最相葉月氏)との交流をもとにしたノンフィクションです。
    中国・朝鮮・日本、それぞれの国に深く関係しながらも、どこからも不当な扱いを受けつづける民族。日本の歴史に深く関係し、地理的にも近いにも関わらず、これまで私は、ほとんどその実態を知ろうとしたことがありませんでした。本書はそのきっかけを、強烈な形で与えてくれました。

    安定した国家に生まれ、その国民として生きることができる幸せにしっかり向き合わなければならないことを、教えてくれる一冊です。

    【本書抜粋 具恩恵(仮名)】
    なぜクリスチャンになったかとか、文化大革命のこととか、少数民族がどうだとか、そんなことはこれまでまったく考えたことがなかったです。今日を生きるのに必死だったから。そんなことを考えられる人は余裕があるからですよ。
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  • 勉強になりました。

  • 2015年5月新着

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著者プロフィール

1963年、東京生まれの神戸育ち。関西学院大学法学部卒業。科学技術と人間の関係性、スポーツ、精神医療、信仰などをテーマに執筆活動を展開。著書に『絶対音感』(小学館ノンフィクション大賞)、『星新一 一〇〇一話をつくった人』(大佛次郎賞、講談社ノンフィクション賞ほか)、『青いバラ』『セラピスト』『れるられる』『ナグネ 中国朝鮮族の友と日本』『証し 日本のキリスト者』『中井久夫 人と仕事』ほか、エッセイ集に『なんといふ空』『最相葉月のさいとび』『最相葉月 仕事の手帳』など多数。ミシマ社では『辛口サイショーの人生案内』『辛口サイショーの人生案内DX』『未来への周遊券』(瀬名秀明との共著)『胎児のはなし』(増﨑英明との共著)を刊行。

「2024年 『母の最終講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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