原発と大津波 警告を葬った人々 (岩波新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004315155

作品紹介・あらすじ

けっして「想定外」などではなかった…。科学の粋を集めたはずの原子力産業で、地震学の最新の科学的知見は、なぜ活かされなかったのか。その後のプレートテクトニクス理論導入期において、どのような議論で「補強せず」の方針が採られたのか、綿密な調査によって詳細に明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  • メルトダウンに至る津波地震が発生する可能性を、東電自身は知ってはいたが、対応していなかったことは、政府事故調報告などで明らかになっていたが、何故そんなことになったかを徹底して取材して明らかにした記録。
    とても読みごたえがあった。
    特に、首藤信夫氏インタビューは衝撃的。
    建設省OBとはいえ、津波工学の第一人者が、原発会社の会社経営を忖度して「安全性」にお墨付きを与えていたとは。
    さらに、本人に後悔の念がないようなところにも驚く。
    「原発は必要」との考えに固まってしまい、科学者としての良心が後景に退いてしまったとしか思えない。

  • 福島第一原子力発電所の過酷事故は想定外の津波が原因だった。
    事故以降の東京電力の言い分だ。津波以前に、地震で配管の
    一部が損傷していたのではないかとの疑問は解明されていない。

    そもそも、川に面し津波の心配のないアメリカ型の原子炉を
    そのまま日本に持って来たことが第一の誤りだと思うのだけ
    れどね、私は。

    だって、あれだけ海のそばに建つ原子力発電所の非常用発電
    装置が地下にあるってことがおかしいだろう。

    そういった基本的で個人的な疑問は置くとして、では東日本
    大震災で発生した大津波は本当に「想定外」だったのかを
    検証したのが本書である。

    東日本大震災後、貞観津波が各メディアによって取り上げられて
    いた。だが、貞観津波については古文書にその記述があるのみ
    で研究は始まったばかりであったから貞観津波を念頭に置いての
    津波想定は出来なかったと言われた。

    だが、同じ東北地方にあった東北電力の女川原子力発電所は
    福島第一原発のような被害を受けていない。それは東北電力が
    貞観津波を念頭に置き、それに備えた対策を取っていたから
    だった。

    東京電力は東北電力の対策を知らぬ立場にあったのではない。
    知る立場にあったし、対策を取ろうと思えば取れたはずだ。
    そうしていれば津波による(あくまで東電の言い分)全交流
    電源喪失には至らなかったのではないか。

    安全対策にはお金がかかる。地域独占企業とは言え、コスト
    ダウンは企業の至上命題。莫大なコストのかかる安全対策
    など、取らぬに越したことはない。

    地震や津波の研究者からは福島第一原発が建設された当初に
    想定した以上の地震や津波が起きる可能性があることが言われ
    ていた。

    それは政府機関の報告でも行われていた。しかし、既存の
    想定を上回る想定を出されると都合が悪い人たちがいた。
    それが電力会社に他ならない。

    本書は津波や地震の研究者へのインタビュー、各種情報の
    開示請求を行って、東京電力が繰り返す「想定外」という
    言い分がいい加減であるかを暴いている。

    何度も繰り返された議論。その度に火消しに回る電力会社。
    備えられることをせずに、すべて自然災害が原因であると
    の責任逃れをする企業の姿勢は許されることじゃない。

    「安全神話」がいかに作為的なものなのかを実感する。
    「絶対の安全」がないことくらいは知っている。だったら、
    危険をより少なくするか。それを考えなきゃいけないんじゃ
    ないのか。

    この点だけを考えても、やはり福島第一原発の事故は人災
    だったと思うんだけどね。東京電力はそれでも当事者意識が
    希薄なようだが…。(-_-;)

  •  福島の原発を襲った津波は「想定外」などでは全くなく、東京電力は、全電源喪失もメルトダウンも十分起こりうる可能性として把握していたこと、そうでありながら全力を挙げて無視していたことを、明瞭に証明している本です。
     本書は結果として原発を認めない論調になっていますが、著者は初めから原発をすべて否定していたわけではありません。 著者は本書執筆まではある程度の再稼働はやむを得ないと考えていて、福島とほぼ同じ13メートルの津波が押し寄せた東北電力女川原発が、大津波対策をとっていたおかげで被害が小さく、翌日には冷温停止に至ったことを評価しています。
     しかし様々な事実がわかるにつれ、原発を否定せざるを得ない結論に落ち着きます。
     本書を読むと、日本に原発が導入され、福島に建てられた頃にははっきりしていなかった事実、例えば、869年、東北を襲った貞観津波が、東電の主張する規模よりはるかに大きく、福島原発付近で起こっていたことなど、現代の知見で明らかとなった危険性、それに基づいて地震学者が発してきた警告を、東京電力がどのように封じ込めてきたかが具体的に大変よくわかります。
     原発は津波に襲われる前に既に地震で壊れていたという説も有力ですから、原発というものは国が言うほど堅固でも安全でもなく、あれだけの規模の震災に耐えられる代物では、そもそもないのでしょう。ただ、もう少し真剣に生命を考える姿勢が国と東電にあれば、あれほどの惨事にならなかったのは間違いありません。
     原発の廃炉には400億円以上の金、30年以上の時間が必要だそうです。著者も言う通り、利潤追求が目的である企業が、あとたかだか10数年で老朽化、廃炉の道を辿ることがわかっている施設に莫大な金をかけて安全対策を講じることは、考えてみればありえないことなのでしょう。
     なんのことはない、原発を所有する電力会社は、科学的客観性に基づいて安全を判断するのではなく、このくらいは金をかけてもいいかという範囲でできることを、「安全」と称しているだけなのです。
     現在、再稼働の条件だった免震棟の約束は反故にされ、活断層の存在は否定され、処理できない放射性廃棄物の問題は置き去りのまま、耐用年数を越えた原発すら次々動き出す勢いです。
     生命を蔑ろにするこうした構造に組み込まれ、自身の研究、仕事に誇りも責任も持たない学者、役人の姿が、浅ましく、悲しく、人として惨めです。

  • プレートテクニクス理論導入以前に設計された原発に対し、その後の知見を反映した対策を実施しなてみ済むように、東電が、政府機関と学会を取り込んで工作してきた実態が明らかにされている。福島原発を襲った津波が「想定」通りだったことがわかる。
    自身が津波対策を先送にりした吉田所長は、何を考えて、事故に向き合ったのだろうか? インタビューで触れることもなく死んでしまった。
    「経済的合理性」からは、発生時期を予想できない津波に対し、寿命が近づいた原発の補強工事など実施できないことがよくわかる。
    評価5点でも足りない。

  • 一気に読みました。多くの人に読んでほしい。ジャーナリストとしての魂のようなものを感じる本。取材や調査というのはこういうものなのかと思った。
    物事の決定がどのようになされるのか。責任逃れはどのようにして生まれるのか。膨大な資料と徹底的な取材に基づき、疑問に対して深く切り込んでいく。
    とても勉強になりました。

  • 表題が示す通り。
    胸が悪くなるような人々。
    わが身に置き換える必要はないでしょう。サラリーマンと言えど、ヒトとしていかに生きるかは絶えず自らに問いかけて生きるべきですから。

  • 国や原子力ムラの隠蔽体質が赤裸々に書かれています。
    「こりゃもうダメだ」と思い、苦笑いしました。
    著者の取材力に脱帽。

  • 本書の記述によると、津波による福一の被災は十分に想定できた、しかも東京電力も把握していた可能性があるという驚きの結論である。
    土木学会がかなりボロクソ言われている。

  • 勉強になりました。

  • 原子力発電所の安全性評価について,電力会社によってこんなにひどいことが行われていたのかと唖然とした.ただ,著者のいうように,自分がこの立場だったらどうしただろうというのも重い問いである.

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著者プロフィール

添田 孝史:科学ジャーナリスト。1964年生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科修士課程修了。90年朝日新聞社入社。大津支局、学研都市支局を経て、大阪本社科学部、東京本社科学部などで科学・医療分野を担当。原発と地震についての取材を続ける。2011年5月に退社しフリーに。東電福島原発事故の国会事故調査委員会で協力調査員として津波分野の調査を担当。著書に『原発と大津波 警告を葬った人々』『東電原発裁判』(ともに岩波新書)などがある。

「2021年 『東電原発事故 10年で明らかになったこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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