勝てないアメリカ――「対テロ戦争」の日常 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
3.86
  • (6)
  • (13)
  • (8)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 109
感想 : 24
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004313847

作品紹介・あらすじ

圧倒的優位にあるはずの米軍が「弱者」に翻弄される。衛星通信を使った無人の爆撃機や偵察ロボットなどハイテク技術を追求するが、市民の犠牲は増え続け、反米感情は高まる。負のスパイラルに墜ちた「オバマの戦争」。従軍取材で爆弾攻撃を受けながら生き延びた気鋭の記者が、綿密な現場取材から、その実像を解き明かす。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • SDGs|目標16 平和と公正をすべての人に|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/705988

  • 2001.9.11から19年。

  • 2001年のニューヨークでの大規模テロを受けてアメリカはアフガニスタン、そしてイランへと派兵し戦争を継続してきました。軍事力の質・量では圧倒的な米軍が大きな犠牲を払っても勝利を得られない現実を様々な角度から報告する1冊です。4部構成となっており、1章は帰還兵が直面するTBI(外傷性脳損傷)と呼ばれる爆風によるショックが生み出す脳機能への影響、2章は米軍と戦争を報道するメディアとの関係、3章は著者によるアフガニスタン最前線での従軍取材記録、4章はアメリカが本格的に導入した無人機による弊害、について詳しく述べられています。
    装備がより充実し兵士の死傷率が下がる一方、以前であれば命を落としていたような衝撃を受けても命を落とさなくなった結果、慢性的な頭痛や疲労、記憶障害を併発し、自殺の増加や社会復帰できない帰還兵が激増しているという現実は、戦場に兵士を派遣すれば避けることができない事実であると感じます。
    本書のタイトルにもありますが、質・量で圧倒的なアメリカ軍がアフガニスタン、イラクのテロ組織を相手に決定的な勝利を得られない構図として、戦う相手が正規軍でなく、戦場とそれ以外の区域の境界が明確でないことが挙げられています。
    現地に駐留するアメリカ軍としては、現地民間人の世論は何としても味方につけて「アメリカ軍はテロ組織から民間人を守る」という意識づけを試みますが、民間人に紛れ込んだ武装組織メンバーからの攻撃を繰り返し受けるうちに、民間人の誤爆や巻き添えを生み、次第に敵視されるようになります。
    これら現地に派兵することで発生する諸問題を解決する切り札として投入された無人機ですが、宣戦布告もなく、また現地政府に無断で武装組織の要人を殺害する手法は、主権侵害との誹りや、無人機での誤爆も引き起こし、アメリカに対する反感を増長する結果をもたらしています。特にCIA主導の運用では、誰をどういう容疑で殺害したのかといった重要な事実が安全保障上の機密として公開されないケースが多く、恣意的な運用を疑われる温床となっており、これは今後、中国が無人機を広く運用した場合に付け入る隙を与えているとも言えます。
    アメリカとしては武装勢力を一掃した後、現地の人による統治、治安維持の道筋をつけてテロリストの温床とならない国づくりまでを目指したのですが、GHQが日本の民主化に成功したのとは異なり、長年紛争地域であったアフガニスタンでは国としての成り立ちが脆弱で、識字率の低さや、道路などのインフラの不足など様々な問題から成果は上がっていない現実が述べられています。
    本書は2012年に発売となっており、その後のイスラム国の盛衰や、アメリカとイランの対立には言及していませんが、本書で危惧されている事がまさに現実となっている感があります。
    また、最前線の従軍取材紀は著者が乗車したアメリカ軍装甲車が地雷を踏み、その爆発に実際に遭遇した様子など、非常に臨場感あふれるルポでした。
    著者はジャーナリストとして数々の賞を受賞した毎日新聞の記者であり、本書も根気よく様々な情報源にあたり執筆されている印象を受けます。本書で取り上げられているアメリカ、イラン、アフガニスタンだけではなく「持てる国」と「持たざる国」の対立の構図を理解するにあたり、非常に情報量も豊富で説得力のある1冊であると思います。

  • フォトリーディング&高速リーディング。

  • 長期戦に持ち込めば持ち込むほど、「持てるもの」は費用や兵力がかさみ、反戦世論が高まる。これに対して小規模な戦略で臨む「持たざる者」は失うものも比較的少ないので時間が味方すると言う。タリバンなど反政府勢力は、そのことを十分に解し、最大限に使うつもりのようだ。119-120p

    会合に居合わせたアフガニスタン国軍の拒んだり大39歳がつぶやいた「この国は戦争続きだ。人々は国家の未来より、まず自分の未来を考える」。…政府も警察も長らく存在しなかった地域の村村に、突然、政治だ選挙だと言って急ごしらえの「中央政府」を作っても、それがどれほど人々の信頼を集めるだろうか。138p

    一般に、アフガニスタンで1人の青年に戦闘を教え、武器と給与を与えた場合の1ヵ月の費用は200から500ドル(16,000円から40,000円)。アフガニスタン駐留の米兵が、1ヵ月に消費する食品にも満たないほどだ。…IETは民家の台所で作ることができるほど簡単な作りで、安いものでは1個10ドル程度で製造できる148p

    兵士の戦士と言う犠牲があるからこそ、米国はこれまで国民も政治家も、戦争には慎重になってきました。多数が死傷すれば、派遣に賛成した議員は選挙で負けるからです。けれどもパキスタンでの空爆は(米兵が死なないので)米議会で審議されず、戦争と言う認識さえ持たれていません。これは無人機戦争の拡大が生み出した民主主義社会の破壊です210p

    オバマ政権は、地上部隊によるCOINが充分進まず、人心をつかめていない中、空爆戦略を中心とするCTを同時並行で進め「成果」を見せようと急いだ。…だが正確な情報がないままの空爆は誤爆を生み、そのことで反米感情はさらに高まり、地上での「人心をつかむ競争」をさらに不利にした。これこそがまさに、オバマ政権の陥った悪循環のスパイラルだ。223-4p

  • MRAPや軍病院などゲーツさんの自伝で見た懐かしい単語が出てきた。現場でのあるいは帰国してからの米兵の苦しみが生々しい。外傷性脳挫傷TBIは初めて知った。実際に対テロ戦争の現場を取材してIED攻撃を体験しており、その話も面白い。

  • ゼミ同期の毎日新聞大治記者の渾身の作品。
    アメリカはもちろんのこと、戦地であるアフガニスタン、隣国のパキスタンまで足を運び非対称戦争の持つ意味や今後予想される未来まで、事実に裏打ちされた確かな文章で読む者を感心させた。

  • 毎日新聞女性記者が米軍に随伴し取材したレポート。
    対テロ戦争のリアルが淡々と語られている。

  • 時間切れ タイムリーだった ISとのこれまでのこと少しわかります アメリカに巻き込まれるのはごめんです

  • 本当に文章がうまい人は擬音語をほとんど使わないんだなあと思った。

全24件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

東京都生まれ。1989年毎日新聞社入社。阪神支局、サンデー毎日編集部、東京本社社会部、英オックスフォード大学留学(ロイター・ジャーナリズムスタディー・フェロー)、ワシントン特派員を経て、現在はエルサレム支局長。
2002年の防衛庁(当時)における情報公開請求者への違法な身元調査に関する調査報道、03年の防衛庁(同)自衛官勧誘のための住民票等個人情報不正使用についての調査報道で02、03年の新聞協会賞をそれぞれ受賞。
ワシントン特派員時代は米国の対テロ戦争の実情を描いた長期連載「テロとの戦いと米国」、米メディアの盛衰と再編についての長期連載「ネット時代のメディア・ウォーズ」で10年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞した。
著書に『勝てないアメリカーー「対テロ戦争」の日常』(岩波文庫)、『少女売春供述調書ーーいま、ふたたび問いなおされる家族の絆』(リヨン社)、共著に『個人情報は誰のものかー防衛庁リストとメディア規制』(毎日新聞社)、『ジャーナリズムの条件1、職業としてのジャーナリスト』(岩波書店)がある。

「2013年 『アメリカ・メディア・ウォーズ ジャーナリズムの現在地』 で使われていた紹介文から引用しています。」

大治朋子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
三浦 しをん
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×