キリマンジャロの雪が消えていく: アフリカ環境報告 (岩波新書 新赤版 1208)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004312086

作品紹介・あらすじ

アフリカは雄大で変化に富む自然をもつ大陸であった。しかし、近年は温暖化などで急激に環境が悪化している。積雪量が減り、頂上の氷雪が消えようとしているキリマンジャロ。野生動物が食糧になって激減し、エイズの原因になっているなど、かつてない事態が起こっている。三〇年間かかわってきた環境研究者が語る最新レポート。

感想・レビュー・書評

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  • アフリカが環境問題のオンパレードであることがよくわかる。殺虫剤や医薬品の普及によって死亡率が減少したことが人口の急増を引き起こし、災害に対して脆弱な土地への侵入や内戦をまねいた。

    アフリカの問題を考えるときに、ヨーロッパが大きな悪影響を及ぼしていることを改めて知らされた。植民地時代に有用な農地を収用されたり、商品作物やメイズの導入によって伝統的な農業が破壊された。今でも、近海に大量の漁船が進出したり、産業廃棄物を投棄したり、利権を守るために独裁政権を擁護したりしている。真の独立と自立に向けた地域の環境にあった産業へと導かない限り、人口問題も環境問題も政治や内戦も解決しないのではないかと暗澹たる気持ちにさせられる。

    ・アフリカの部族は800以上、言語は1500以上。
    ・緑のサハラの時代には、寒帯前線が南下し、熱帯収束帯が北上した。7000年前から狩猟の時代、5500年前から乾燥化が始まって牧畜の時代となりフルベ人が侵入、3200年前から馬の時代になってベルベル人が南下、2700年前からアジアからラクダが導入された。
    ・海外からの援助されたDDTなどの殺虫剤によって伝染病を運ぶ昆虫が大幅に減り、医薬品も普及して感染症の治療が進んだため、死亡率が急減した。5歳未満の死亡率は1000人当たり174人(世界平均の2.3倍)。子どもは労働力となり、娘の場合も結婚の際に婚資が入るため、多産が美徳とされているため、人口が爆発的に増加した。ほとんどの国で妊娠中絶は違法。
    ・サハラ以南地域の成人のエイズ感染率は5%。都市人口に占めるスラム人口の割合は72%。
    ・自然災害による死亡者数の中で、干ばつによるものが圧倒的に多い。人口増加により、災害に対して脆弱な場所に住まざるを得なくなっている。植民地時代に有用な農地を白人入植者に収容された歴史も影響している。
    ・単一輸出産品に依存する割合が高いほど、政治腐敗や価格変動によって貧困が進み、内戦が発生する確率が高くなる(マイケル・ロス)。
    ・アフリカで伐採された木材の半分以上が違法。安価な違法木材が市場に流入することによって、木材価格が7〜16%引き下げられている。
    ・市場経済を推進して貿易収入の増加を目指すIMFの構造調整政策は、ほとんどの国で失敗に終わった。この一環として実施された為替レートの切り下げによって木材伐採量が急増して森林が破壊されたが、利益は特権階級に吸い上げられ、汚職が広がった。
    ・ソマリア政府が崩壊して混乱した1990年代に外国船籍が殺到して乱獲した。漁民が武装したのは、自力で外国漁船を追い払うためだった。ガーナ沖でも、1950年以降にヨーロッパからの漁船が20倍に増加して水産資源が減少した。
    ・チンパンジーの生息数は、1900年代初めの200万頭から15万頭に、ボノボは1980年の10万頭から1万頭以下に減少した。アフリカゾウは100年前の数百万頭から47万頭に減少した。
    ・砂漠化の原因のうち人為的要因は87%を占める。人為的要因の58%が過放牧、20%が灌漑、17%が開墾、5%が森林破壊。サハラ以南で放牧されているウシ、ヒツジは、1961年以来2.2倍に増加した。家畜頭数は、草や木の葉などの餌の生産量よりも1.5倍多い(FAO)。砂漠化を抑制し復旧することによって得られる利益は、砂漠の拡大を放置するコストの2.5倍を超えるという分析もある。
    ・アフリカの地質は古いものが多く、肥沃度が低い。耕地の94%は天水農業。農業生産の増加率は1.5%で人口増加率の2.2%より低い。耕地の66%で中程度または高度の土壌劣化が起きている(UNEP)。
    ・かつては乾燥に強いミレットやモロコシ(ソルガム)に依存してきたが、植民地時代に商品作物が導入され、食用には乾燥や高温に弱いメイズが導入されたため、干ばつが起こるたびに深刻な被害が広がることになった。サハラ以南の食料自給率は74%。
    ・アフリカ諸国の3分の2は、都市と政権の安定のために農産物の価格統制をしき、価格を安く設定するため、疲弊した農民は都市に流入する。
    ・独裁政治を行うジンバブエ、ウガンダ、コンゴ民主共和国の背景には、兵器を売りつけ、鉱山の利権を守り、木材資源を確保するために英・米・仏などが擁護してきたことがある。
    ・スウェーデン赤十字社は1980年以降、開発を中心とした援助から、地域の生態系の回復へ方針を切り替え、植林や土壌の管理指導などを始めた。
    ・1990年代の初めに、欧米の企業はソマリアの政治的混乱に乗じて産業廃棄物の投棄を認めさせる協定を結んだ。コートジボワールでも、オランダの企業が数百トンの有毒廃棄物を不法投棄した。
    ・食糧や古着の援助によって地元の農民や繊維産業が打撃を受けている側面もある。

  • アフリカという国を見てみない振りをする…
    それはもうできないように思えます。
    地球がもしこの国を見ない振りをして
    崩壊するのだとしたらなおさらでしょう。

    私たちには今、何もできないように
    思えてなりません。
    しかしながら唯一できることは
    私たちが防ぐことができる事態を
    防ぐこと、それが何よりのできることなのかもしれません。
    そう、エイズを防ぐために…

    こうして生きていること
    それが幸せに思えてきました。

  • アフリカの環境についての実情がただただ書きつづられている本。
    エチオピアについて調べようと思って手に取ったのが本書を読んだきっかけ。
    結果としてエチオピアについてすごく詳しくなったわけではなかったので、目的とは多少ずれるのだが、非常に面白かったので★4つ。

    アフリカ。行ったことはないけど世界の矛盾を詰め込んだような地域だと思う。植民地として自治権がなかった時代が長く、独立したものの産業が発展しない。貧しい生活を強いられる人がスラムに住む。

    スラムに人々が行く理由は産業によるものだけではない。
    地球温暖化や持続的農業がなされていないことから環境破壊・砂漠化が恐ろしく進んでいることも大きな理由だ。

    日本の災害も大変だが、アフリカでは毎日が災害と言っても過言ではない状況。病気・飢餓が蔓延するアフリカにODAは有効なソリューションを提供できていない。

    諦めてはダメだから、考え続けないといけない。考え続けなくても常に頭の片隅に置いて僕らも生きていかなければならない現実。世界はそんなに広くはない。

  • 繰り返される干ばつと洪水、砂漠化、疫病の蔓延、人口爆発、政治腐敗、成功しない海外からの援助。アフリカが置かれている厳しい現実は好転する時が来るのだろうか。

  • [ 内容 ]
    アフリカは雄大で変化に富む自然をもつ大陸であった。
    しかし、近年は温暖化などで急激に環境が悪化している。
    積雪量が減り、頂上の氷雪が消えようとしているキリマンジャロ。
    野生動物が食糧になって激減し、エイズの原因になっているなど、かつてない事態が起こっている。
    三〇年間かかわってきた環境研究者が語る最新レポート。

    [ 目次 ]
    第1章 アフリカの豊かな自然
    第2章 キリマンジャロの雪が消えていく
    第3章 人口増加という名の時限爆弾
    第4章 都市の二つの顔
    第5章 干ばつか洪水か
    第6章 呪われた天然資源
    第7章 ブッシュミートと霊長類の危機
    第8章 大西洋をわたるサハラの砂塵
    第9章 カギをにぎる農業
    第10章 どうするアフリカの環境

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    [ 参考となる書評 ]

  • アフリカの高まる人口圧は食糧、環境に深刻な影響を与える。
    スラムはエイズの温床である。
    干ばつの影響は経済、農業、生態系、水資源、健康に複合的に及んでいる。
    小泉首相はアフリカ訪問時にアフリカ問題の解決なくして、21世紀の安定と繁栄はない、日本もどうアフリカを支援していくのかが問われる、と演説した。

  • 地球環境におけるアフリカの現地の問題と、メディアが問題視しているギャップを記してある。日本人が想像できない負の連鎖になってしまっている問題を取り上げているが解決策が難しいと指摘している。経済的支援だけで解決する問題より現地人に根ざした解決策を打ち立てた方がよいと感じた。

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著者プロフィール

1940年東京都生まれ。東京大学卒業後、朝日新聞入社。ニューヨーク特派員、編集委員などを経て退社。国連環境計画上級顧問。96年より東京大学大学院教授、ザンビア特命全権大使、北海道大学大学院教授、東京農業大学教授を歴任。この間、国際協力事業団参与、東中欧環境センター理事などを兼務。国連ボーマ賞、国連グローバル500賞、毎日出版文化賞をそれぞれ受賞。主な著書に『感染症の世界史』『鉄条網の世界史』(角川ソフィア文庫)、『環境再興史』(角川新書)、『地球環境報告』(岩波新書)など多数。

「2022年 『噴火と寒冷化の災害史 「火山の冬」がやってくる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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