イワシと気候変動: 漁業の未来を考える (岩波新書 新赤版 1192)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (211ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004311928

作品紹介・あらすじ

大漁・不漁を左右する海の魚の数は、地球の大気や海と連動して数十年スケールで変動していた-この「レジーム・シフト」を著書は一九八三年、世界で初めて見いだした。九〇年代以降、世界的に大きく進展した研究成果を踏まえ、これからの海と海洋生物資源の持続的利用のあり方に明確な方向性を示す。新しい地球環境観への誘い。

感想・レビュー・書評

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  • 自らの研究の成果を述べた本。たいへんよく調べられている。数々のデータを駆使し説得力ある論述がなされている。細部まで理解できたわけではないが、単なる乱獲が漁獲高減少をもたらしているわけではなく、キーワードとなっているレジームシフトによる、地球全体の変化のローテーションを理解しないと問題解決に至らないと警鐘を鳴らしている。それにしても欧米の横暴には腹が立つ。

  • 漁獲高が減るのは乱獲が原因という通説を覆す「レジーム・シフト理論」の一般向け解説書。
    遠く離れた日本沿岸と北米西海岸と南米西海岸におけるイワシの漁獲高の高低がシンクロしているという奇妙な事実をきっかけに、人間の乱獲以外のより大きな環境要因を追求した結果、レジーム・シフトなる理論が完成する。数10年単位での太平洋規模~地球規模の環境変動の位相が、魚のバイオマス変動にシンクロ(あるいは逆シンクロ)する例が複数発見されており、漁獲高の予測や操業管理に巨視的な視点が必要なことが明らかになってきているようだ。膨大な数の卵を産む魚類は、親の数と子の数が相関せず、成魚まで生き延びられる環境要因の方が大きく影響するという解説もちょっと新鮮な驚き。
    専門用語も多いが、きっちりと数値データも掲載されていて、科学者による一般向け文章として好感の持てる内容。科学的な知見だけはなく、「海は誰のものか」という主題を歴史的な視点で綴られた第5章も秀逸で、ローマ人の領海意識から、近年の EEZ-排他的経済水域が取り決めれるまでの経緯が、巧く要約されている。
    身近で小さなイワシをモチーフに、地球単位・百年単位のマクロ感覚を刺激される良い読書だった。

  • 海洋変動は数十年

  • SDGs|目標14 海の豊かさを守ろう|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/705822

  • ↓利用状況はこちらから↓
    https://mlib3.nit.ac.jp/webopac/BB00508922

  • イワシなどの漁業資源は、人間による乱獲により減少したという説を否定し、数十年間のスケールで変動する気候変動の下でその数が変動するという説を提唱。
    これがなかなか面白い。数十年間のスケールで、寒冷期と温暖期が繰り返れるが、寒冷期にはイワシなどの小型魚が、温暖期にはカツオやマグロなどの大型魚の数が大きくなるらしい。
    今後、温暖期が進行すると漁業資源はどうなっていくんだろう?

  • 漁業の関係者ではないので、鰯と気候変動の関係はよくわかっていない。

    昔、いわしは安価で、栄養源だった。
    日本の経済を支えてきたのは、鰯かもしれない。
    鰯を大量にとり続けられるようにするにはどうしたらいいかを考えさせられた。

    漁業の未来だけでなく、日本の未来を憂える。

    ps.
    鰯の天麩羅も得意ではなかった。
    鰯が貴重になってきて、鰯の天麩羅が好きになってしまった。

  • 2012 1/16パワー・ブラウジング。筑波大学図書館情報学図書館で借りた。
    なんか新書、それも自分の専門と遠い新書が読みたくなって手にとった本。
    大気-海洋-海洋生態系という地球環境システムの変動を統一的に説明する「レジーム・シフト」理論を、イワシを入り口に紹介する本。海洋動態解析の話。
    その理論自体が筆者のイワシの漁獲量変動の原因の研究からはじまっている。
    普通に話自体が面白いのはもちろん、ふだんあまり馴染みのない分野の研究の話としても興味深かった。

    ・魚は大量の卵を生む、世話はしない
     ⇒・0コンマ数%の生き残り率の変化で個体数が激変する

  • 著者は、魚のバイオマス変動と気候変動との関係、すなわち地球と海の生態系の大きな変動を解明した第一人者。レジームシフトを明らかにし、平衡理論に基づくMSY(最大持続生産量)の概念を覆した功績は大きい。動物プランクトンを食べる小型の浮魚のバイオマスの振幅幅は10〜20倍程度、マイワシやアンチョベータでは数百倍になる。

    気候と海のダイナミクスについても丁寧に説明されている。冬季混合層(亜熱帯モード水など)の水量と性質は、北西太平洋の冬の季節風の強さによって決まり、翌年まで保存される。エルニーニョ・ラニーニャ現象は、気圧の東西の変化である南方振動(SO)が対応している(ENSO)。

    北大西洋振動(NAO)は、冬季のアイスランド低気圧(IL)とアゾレス高気圧による偏西風の強さの変動。寒冷な冬ほどラブラドル海で沈み込む水が多量につくられるため、深層水の熱塩循環の強さはNAOによって変化する。そして、NAOはインド洋と太平洋の熱帯水域の海面水温の変動によって駆動されている。

    FAOの海洋生物資源評価や、ネイチャーに掲載された漁獲物の平均の栄養段階の変化に関する論文、マグロ群集のバイオマスが15年間で80%減少したと主張する論文に対して、レジームシフトを考慮した分析で反論している最終章は注目に値する。

    海の支配権をめぐる歴史や、日本の漁業の歴史についても触れており、索引や参考文献のリストが付いているのも親切。

    多くの要因が複雑に関係しているので、なかなか完全には理解できない。しかし、地球環境と生態系をダイナミックにとらえなければならないということがよくわかった。

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