生きる意味 (岩波新書 新赤版 931)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004309314

作品紹介・あらすじ

経済的不況よりもはるかに深刻な「生きる意味の不況」の中で、「本当に欲しいもの」がわからない「空しさ」に苦しむ私たち。時には命をも奪うほどのこの苦しみはどこから来るのか?苦悩をむしろバネとして未来へ向かうために、いま出来ることは何か?生きることへの素直な欲求を肯定し合える社会づくりへ、熱い提言の書。

感想・レビュー・書評

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  • 高度経済成長後の社会において、誰もが他人の欲しがるもの(他人と同じもの)を欲しがるっており、自分が本当に欲しいものを手に入れていない
    みんなと同じ欲求を持ち、みんなが目指す人生を歩むことが推奨された今、自分自身が生きる意味を見失った人が多い

    現代日本人の虚しさの核心は、自分がどこまでも交換可能であるという意識からくる、「かけがえのなさの喪失」→日本の伝統の、他社の目を意識した恥の文化から来ている
    これを、日本文化のせいだ、親のせいだと言い続けることで、「自分を確立する」という次のステップに進むことから逃げている。自分が被害者、アダルトチルドレンの立場にとどまることへの言い訳を提供してしまっている。

    グローバリズムの弊害
    ①格差の拡大
    ②自然環境と文化の破壊

    バブル崩壊後の日本が構造改革を進めた結果、社会制度の持続性への不安を生んだ→人がヒトという経済成長のための道具として扱われ、透明な存在へと変わっていった。
    グローバリズムは、「場」を重視する日本社会独自の閉鎖性への解放者かのように、日本に受け入れられた。

    グローバル化とは効率性と評価による市場原理であり、それは自分の能力を常に効率的に生かし、ひとりひとりがより大きな社会に対して評価を問いていくものである。
    →そんなことが全ての人間に可能なのか?一握りの強い人間にはいいが、弱い人間には、「努力が足りない」という自己責任論で見放すような社会となる。
    →これからの社会で大事なのは、自分の弱さも他者の弱さも認める包容力のある人間

    【数字信仰】から【人生の質へ】
    数字は評価の場で、曖昧さがない圧倒的な強みを持つ。
    世界には様々な文化があり、その中には多様性、生きる意味があるが、そうした多様性は効率性の悪いシステムである。そうした世界では客観的指標である「数字」により瞬時にコミュニケーションが取れるが、そういった誰にでも通用する意味を求めることが、結局誰の意味にもならない時代となっている。

    これからは、自分の心、感じ方を尊重し、自分が一番何を求めているかを重視する「心の時代」
    自分が好きなことに一点豪華主義を貫ける人間は強い
    生きることの内的成長の豊かさを重視し、「生きる意味の創造者になる」

    そのためには、「ワクワクすること」と、「苦悩」への感性を研ぎ澄ます
    ※苦悩とは、自分が何を求めているかが分からないため、何にワクワクするかをもがきながら探求していくこと。苦悩すべきときに苦悩することで、生きる意味の再構築につながる。
    これら2つは、仲間との豊かなコミュニケーションにより強く育まれる。
    他の人のワクワクすることと刺激し合って、相乗的に実現していき、また、苦悩が他社に受け止められ、自分の生きる意味をコミュニケーションの中から発見していけるようなコミュニティーの再創造が、今こそ求められている。
    (NPO、ワークショップ、セルフ・ヘルプグループなど)
    生きる意味を育むネットワークを、職場の内外に張り巡らせておく。

  • ===qte===
    質問は自己表現だ 文化人類学者 上田紀行
    2022/6/22付日本経済新聞 夕刊
    大学でも、企業でも、講義やプレゼンテーションが終わった後の反応は日本と外国では全然違う。外国では話が終わった途端に我先にと手が上がり、質問やコメントが殺到する。日本はほかの人の質問を待つ人が多く、特定の人がいつも口火を切ることになりやすい。

    それを痛感したのはアメリカ西海岸のスタンフォード大学で教えていた頃だ。90分の講義時間で50分以上話すと学生がイライラしだす。そして講義が終わるやいなや、矢のように質問が四方八方から飛んでくる。渡米直前に出版した『生きる意味』の中で、ぼくは日本人の創造性を封殺しているのは「他人の目」だと論じた。自分の言いたいことより「周囲からどう見えるか」を気にして牽制(けんせい)しあう。世界中から集まった学生たちの姿に、さらに思いが強まった。

    講義の受け方がまず違う。日本では講義後に「質問ありますか?」と聞かれて考え始めるが、外国では講義の冒頭から「何を質問してやろうか」と考えながら聞いている。だから日本人は出遅れて、結局質問できない。また日本では小さい頃から「授業で分からなかったことを質問する」と思い込まされている。でも外国人学生にとっては自分の考えを、問題意識をぶつける場だ。質問は「自己表現」なのだ。

    日本には日本の良さがある。でも「先生、ここがわかりませ~ん」と「先生、ここが納得できないんですけど……」の差は大きい。『生きる意味』も読みつがれて36刷になった。それは嬉(うれ)しいけど、日本社会のあり方は変わったのだろうか。「質問」を変えましょう!
    ===unqte===

  •  生きる意味を創造する自由が奪われている現在の日本の根源的な問題を扱っている。標語や数字を追い求めるのではなく、ひとりひとりの独自の生きる意味を創造することが大切

  • かけがえのなさの喪失

  • 散歩しているときに著者の講演会情報を見かけて、気になった本

  • もう20年近く前の本。新自由主義とか「構造改革」とかが台頭しつつある頃にあって、警鐘を鳴らしているような内容。それから20年近くがたち、まあ、まさに著者が危惧しているようなことが現実として落ち着いてしまっているように思う。
    この本で書かれているべき論がそのとおりになれば、それはそれでよいのだろうけど、ちょっとアオいようにも感じてしまう。何を求めてこの本を読み始めたのかいまやおぼろだけど、この本を読んだところでやはり生きる意味はわからない。ただ、生きるって何があろうとひとまずは生きて(しまって)いるから生きているのだと思う。この本に生きる意味が書いてあるんじゃなくて、結局は自分なりの生きる意味を探すってことなんだろう。
    でもそれって、あてのない自分探しと同じようなものだと思うので、心の片隅で生きる意味を問いながら、まずは日々を重ねていくということなのかと。

  • ■■評価■■
    ★★★★☆

    ■■概要・感想■■
    ○愛する意味の著者と同じ方の書籍。出版年は2005年だが、扱われている問題はむしろ今のほうが深刻になっており共通である。

    ●「自分の幸せのみを喜ぶものの幸せは有限である。しかし他人の幸せを我がことのように喜べるものの幸せは無限である」。
    ○愛は与えると減るものではなく、増えていくものであるという著者の別の本にあるような考え方が大切なんだと思う。

    ○相対化されたあるべき姿を目指すのは、経済的に生きていくためには必要。だけれど、個人の、絶対的な価値観でのワクワクを感じることだったり、理想に向かってのギャップを埋めていく作業こそが、生きる意味につながると感じた。

    ○行間、具体例、想いを受け取って実施していくことが大事なのかと思った。

  • 天竜川ナコン推薦図書。
    社会が競争を強いてる状況を分かりやすく教えてくれる。

  • 上田さんの新書2冊目。幅広い内容に触れられていてカテゴリー決めに困った。

    「生きる意味」の本質は?
    それは「生きる意味」が見えない問題とつながっている。豊かなことが幸せではないということにみなが気づき始めて息苦しさを感じている。物に囲まれて豊かなはずなのに「生きる意味」が見えない。だから断捨離とかミニマムな暮らしに流れていくのかもしれない。

    「世界と私のきずな」P142で、世界と「愛」でつながり、自分が何を愛するのか、世界の「何」と「愛」でつながることができるのか気づき、自分たちの成長を内側から見る力「内的成長」の豊かなことこそが「生きる意味」へ続いていると書かれていた。
    ぼんやりとしていてわかりにくいけど、何となくわかるぞ…と思った。言葉にするのは難しいけど…。

    「苦悩」と向き合い
     ↓
    内的成長へ
     ↓
    それが「生きる意味」へと展開…仲間や仲間とのコミュニケーションが必要
     ↓
    数字信仰がコミュニケーションが奪う
     ↓
    「生きる意味」は瞬時には決まらない時間をかけてじっくりゆっくり熟成されていく
    ここに生きることの豊かさがある(p157)

    「生きる意味」は、例えるなら…熟成チーズ10年ものや、年代物のワインみたいなものなのだろう。時間が生きる意味ってことなんだろうか…。そもそも生きるに意味を求めてもいいものなのだろうか…。

    ムラ社会がしっかりと機能していたころは、他人と同じ「生き意味」を強制されていたから深く考えなくともよかった。だけど異質な人間に対しては容赦がなく排除される。地域社会、会社、学校などもムラシステム。閉鎖的で排除的なムラ社会は伝統的なものではない。
    儲からない学問や研究に生きるための叡智が詰まっている。何でもかんでも一位がいいわけではないということがわかった。

    「マクドナルド理論」P68
    マクドナルドのある国とない国の間には戦争が起こる。マクドナルドのある国(グローバル資本主義、ルールを受け入れた国)同士は戦争をしない。
    …言われてみればそうだよね…、こういう理論があるなんて知らなかった。初めて知った。

  • 単に生きる時間が一年延びたら、私達はそれだkで幸せにあんるというわけではない。残された二年、三年という時間をどのように生きるのかが問題となるのだ、それはあなたの「生きる意味づけ」によって全く違ってくる。
    夢のある人の周りには夢のある人が自然と集まってくる。それはある人の夢を聞いたときうに「おおつ、それはすごい!」と、ますますエネルギーを引き出してくれるからあだ。そしてその場では、ひとりが夢を語ることが他の人の夢を刺激する。長野の松本にある、神宮寺 寺小屋 講演・対談
    「人生は苦である」「その苦には原因がある」「その原因がなくなれば苦もなじゅなり、涅槃の境地に至る。」「涅槃には至る道がある、それが修行の道である。」という「苦・集・滅・道」の四聖諦と呼ばれる教えこそが仏陀の最初の説法であった。現実の苦から出発してその原因を探求し、そこから苦悩を脱した状態に至ろうという教えは、「苦悩を単に除去するのではなく、苦悩に向かい合う」ことから「生きる意味」を再構築し、「内的成長」をもたらす
    諸行無常:すべての物はへんかする。
    諸法無我:すべての物は関係性の中にある
    雇用が確保される安心の中で、賃金が減ったにしても、余暇の時間を豊かに、過ごし、自分自身の生きる意味を想像していくこと

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著者プロフィール

上田紀行(うえだ・のりゆき) 東京工業大学副学長(文理共創戦略担当)・同リベラルアーツ研究教育院教授。専門は文化人類学。特に宗教、癒し、社会変革に関する比較価値研究。著書に『生きる意味』(岩波新書、2005年)、『かけがえのない人間』(講談社現代新書、2008年)、『愛する意味』(光文社新書、2019年)など。

「2022年 『自由に生きるための知性とはなにか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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