家計からみる日本経済 (岩波新書 新赤版 873)

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  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004308737

感想・レビュー・書評

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  • 日本は低福祉低負担の国なのだな、とあらためて思った。政治への不信感があって、負担を増やしても福祉に回されるかどうか分からないからなあ。

  • 家計の観点から日本経済の歩みと現状を分析し、今後、どうあるべきかについて政策提言するもの。ロールズ流のリベラリズムと普遍主義の立場からの主張です。全体的に抑制の利いた簡潔な文章で、読みやすい。

  • 家計を通して日本経済を評価した一冊。戦後からの変遷など、勉強になった。

    バブルについて、土地と株は大きく変動したが、その他の消費は特異な変化をしておらず一部の家計における異常な物語と記憶すればよい、としてあったのは意外な印象を受けた。

    貯蓄率の高さが日本の経済成長を支えたというのはすっきりした。自分の周りにいる人の中には「貯金=悪、消費=善」とあまりにも単純に考えている人も多い。

    年金の世代間不公平はよく話題になるところだけど、戦争やベビーブームなどの不確実性、引退世代が現役だった頃の所得が低かったこと、生活水準が上がっていることなどを考慮に入れた主張はなるほどと思った。単純な金額の比較ではわからない。

    社会保障について、「自分が負担するのは拒否するが、誰か他人が負担することによって、自分の社会保障受給額を増加させたいというやや身勝手な論理を、国民は考えている」と書いてあるのを読んでちょっと笑ってしまった。確かに選挙時などの街頭インタビューでは大概の人が増税はいやだと言ってる。北欧諸国とまでいかなくても、その他のヨーロッパと同程度の社会保障を充実させてほしい。そのためには増税も仕方がないのでは。アメリカのような社会にはなってほしくない。

  • 経済学の課題本。

  • 家計からみる日本経済というタイトル通り、章を進めるごとにより広い視点からの日本経済俯瞰を論じています。
    経済格差の拡大は厳然たる事実として統計にも表れている。世代間格差はどうしても不可避であり、なくすことは不可能だが、格差を縮小することは可能。
    また、セーフティネットの充実を訴える、つまり最低限の保障は必要で、日本の社会保障は先進諸国の中でも最低レベルに留まっている。

    年金制度の解決法として、著者は経済活性化を提言しています。景気が良くなれば給付も保険料もアップできるので一挙両得、この発想には気付きませんでした。実行できるかはともかく……。
    ロールズの自由主義に共感する著者。この思想は僕も同じです。

    『恵まれた者は、恵まれない者の状況を改善するという条件でのみその幸運から便益を得ることが許される』

    例を挙げるなら、イチロー(才能に恵まれた者)は、未来を含む野球選手(才能に恵まれない者)に、野球の才能を伸ばすような社会還元を積極的に行わなければならない。野球教室を開く、収入の一部を球界に寄付する等、そういった義務を追うという事ですが、球界全体の質的向上を図るならば適した主張で、良策だと思います。
    なぜかといえば、仕事でも社会でもなんでも、トータルとして見れば、大まかに分類すると、出来る人と出来ない人とその中間層の3つになります。その割合はおおよそ、2:2:6ぐらいでしょうか。出来る人というのは自発的に行動するから出来るのであって、特に支援しなくても問題ありません。反対に出来ない人というのは不得手・苦手分野を強制させられている可能性があるので、できるのであれば分野を変えた方が望ましいでしょう。そして大多数である中間層を伸ばすには外部環境の整備が必要で、特に競争促進の環境をつくるとグッと伸びます(しかし、競争が目的になるとモチベーションが下がるので、あくまでも中間層の質的向上を目的にする事が肝要です)。

    昨今の成果主義の問題は、その世界全体の質的向上(レベルアップ)を置き去りにして、『競争することが是である』『成果をあげなければクビだ』といったような、非常に近視眼的な目標による本末転倒にあると思います。目先の利益に目が眩み、本質を蔑ろにしてきた結果が、雇用問題として露呈しています。
    メディアの一面提示もさることながら、(悪い意味での)成果主義を容認してきた政府にも問題があると思います。

    概ね著者の主張には賛成しますが、一つだけ、ワークシェアリングには疑問が残ります。ワークシェアが出来る職種・業種と、ワークシェアが出来ない職種・業種があり、端的に言えば、ブルーカラーはワークシェア可であるのに対し、ホワイトカラーはワークシェア不可です。勿論、ブルーカラーでも、一部の熟練工はワークシェアは不可能だったり、ホワイトカラーでもワークシェアリング可能なものもありますが、今後の展望としては果たしてそうなるのかと疑問が残ります。

    高度経済成長から低経済成長となり、物質的にも満たされている日本の今後を考えると、次は質的欲求の向上が鍵になるのではないかと思います。機械を使えば誰でも同じものが作れる、そういう時代は終わり、個々人の能力、特性、資質、性格等、オリジナリティが求められる時代になるのではないかと考えます。対物ではなく、対人(つまりサービス)の経済が発展するのは間違いなく、そうなった時に、例えば介護にしても、○○さんじゃなくて××さんにお願いしたい、とか、○○さんのカルチャースクールに参加する、というような、人を選んで行動する経済にシフトするのではないかと思うんです。そうなったときに、代替の利かないオリジナル同士のワークシェアが果たして可能であるか。そのあたりはまだまだ結論が出ませんので、時が経つのを待つしかありません。

    気になったのは、超過勤務の現行25%から他の先進諸国並みの50%に引き上げる政策ですが、不況下でこの政策をすると、間違いなく残業は増えるのではないでしょうか?僕は反対に、超過勤務の割増率を減らす方が、働き過ぎの防止策になるし、引き下げた分を基本給に振り替えれば、労働者としてはメリットだと感じられます。

    潤沢なデータを引用して分かりやすく日本経済を俯瞰しているので、経済を学んだことのない人でも比較的咀嚼しやすい本じゃないかと思います。僕の評価はAにします。

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著者プロフィール

京都女子大学客員教授,京都大学名誉教授
1943年兵庫県生まれ。
小樽商科大学,大阪大学大学院を経て,ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。京都大学教授,同志社大学教授を歴任。元日本経済学会会長。
専門は経済学,特に労働経済学。フランス,アメリカ,イギリス,ドイツで研究職・教育職に従事するとともに,日本銀行,経済産業省などで客員研究員を経験。
和文,英文,仏文の著書・論文が多数ある。
〔主要近著〕
『日本の構造:50の統計データで読む国のかたち』(講談社,2021年)
『教育格差の経済学:何が子どもの将来を決めるのか』(NHK出版,2020年)
『“フランスかぶれ”ニッポン』(藤原書店,2019年)
『日本の経済学史』(法律文化社,2019年)
『21世紀日本の格差』(岩波書店,2016年)
『フランス産エリートはなぜ凄いのか』(中央公論新社,2015年)

「2021年 『フランス経済学史教養講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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