インディアスの破壊についての簡潔な報告 (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003342718

感想・レビュー・書評

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  •  タイトルに簡潔な報告、とあるくらいなので本当に簡潔な報告です。読み始めは、スペイン人の極悪非道ぶりに寒気がしますが、読み進めると各地域(キューバ、ユカタン、グァテマラ、ペルーなど)でほぼ同じ内容の繰り返しです。
     まずスペイン人が入植すると、インディオ達は羊のように従順で、親が子にするように世話を焼き、無理な要求にも応えるが、最終的には虐殺される、というものです。また各地域での犠牲者の数も百万単位で報告されています。
     インディオの族長が、拷問されたあとの死刑執行を待つ僅かな時間での宣教師との会話で、天国にキリスト教徒たちがいるのなら、二度と会いたくない、いっそ地獄に行った方がましである、と言い放ったのが印象的でした。
     現実に中南米の文明は、ヨーロッパの勢力によって滅ぼされているので、まったく嘘ではないでしょうが、かなり誇張があるのは、と途中から感じるようになりました。ジョン・ラーベの『南京の真実』に似た読後感があります。
     ラス・サカスは多少大げさに書いてでも、スペイン国王に現状を理解してもらって、インディオの窮状を救いたかったのだろう、と良い方に解釈しました。生涯に大西洋を6回も往復し、92歳まで生きたキリスト教的信仰心の厚さに関心しました。

  • この古い書物そのものについて私などが評価できるものではないが、解説を読んで思ったことを簡単に書き記す。

    本書はキリストの教えに忠実にしたがい、その正義を守るために、スペイン国王や貴族に注進するために書かれたものであり、インディアスと呼ばれるいわゆる新大陸においてのスペイン人の無法ぶりを網羅的に描写している。

    しかし、著者である聖職者ラス・カサスの思ったような、スペイン人の無法をとどまらせ、インディオたちの権利を守るために本書が使われたのは、著者の存命中に過ぎなかった。

    本書での告白により、当時の覇権国家であったスペインの国際的な評判は著しく下がり、周辺国の思惑と絡んで国力は衰退。何世代も後になってスペイン本国のもつ国際的な影響力が微々たるものとなったころ南米で起こった、本書が記されたころに入植したスペイン人の末裔である「インディオ」の独立運動の際には、本書がその戦いの大義を示すものとなったという。


    聖職者として、キリストの教えに忠実であった著者の行動はまっすぐであったにもかかわらず、その結果はスペインにとってことごとくマイナスな影響を与えることになったことは皮肉である。階段を一度転がり始めたら、もう止めることはできないのだろうか。私は歴史の研究者ではないので、本書の内容とその後の扱いを知り、人間の悲しさばかりを思った。

  • ラス・カサスという、カトリックの司教が、アメリカ大陸で行われる大殺戮の様子を見て、スペインの王様に「どうかやめさせてください」と報告している短い書簡です。
    数ページ読んだだけで、言葉にするのもおぞましいほどの人の皮を被った悪魔が、現地の清く美しく、戦うことを知らないインディオたちをいかに残虐に殺しまくったかという様子が描かれています。
    イエスの行いや教えをそれこそ、180度正反対にしたベクトルの悪事という悪事です。
    同じような描写が、一部ではなく新世界全体で行われていたというのですから、いかに「キリスト教徒たち」「スペイン人」がやりたい放題やっていたかということがわかります。

    おおよそ人間が想像つく限り以上の残虐な所業です。

    さらにこの書簡が、インディオの権利の擁護のためでなく、
    のちに、スペインに対立している国のスペイン叩きにために利用され、
    さらに、独立を目指す征服者たちの子孫が、本書をたたき台にしてスペイン政府を批判します。
    スペイン王国はこのラス・カサス報告を虚偽として葬り去ってきたという不幸な歴史もあるわけです。

    間違いなく、西洋キリスト教および人類にとっての最悪な負の歴史の一つでしょう。

    秀吉や家康はその実態をよく知っていたので、
    植民地支配の尖兵となったキリシタンたちを拷問にかけて棄教を迫りました。
    明治期になっても禁教は続き、
    戦時中になってからも弾圧の対象となりました。

    ラス・カサスは、このように勇気ある告発をして、
    晩年には教皇庁に、そういうことをするキリスト教徒、インディオを野蛮とみなす者は破門に処するように嘆願し、
    カルロス国王もそのような侵略をやめさせる決定をしているということです。

    確かに、キリスト教徒たちの残虐非道な行いには全く弁解の余地のない悪魔的な行い以外の何者でもありません。
    しかし、内部でこのように強い強いブレーキをかけようとする動きや命を恐れぬ内部告発があったということです。
    その告発は、外部からの批判よりも、何倍も強い自己批判であることがわかります。

    「征服者側」の司教の悲痛な訴えかけは、過去の話だけでなく、
    何か現代の帝国主義や植民地支配、格差の姿勢を厳しく訴えかけているように思われます。

  • 短大時代の哲学の時間の教科書。

  •  「一五一四年から一五六六年に他界するまで、六回にわたり大西洋を横断し、インディオの自由と生存権を守る運動の中心的な役割を果した」(p.183)ドミニコ会のスペイン人宣教師であるラス・カサスが、「国王カルロス五世に謁見して、インディオの蒙っている不正とスペイン人の非道な所業を詳説した報告書を提出し、制服を即時中止するよう訴えた」(同)報告書。1552年に刊行されたもの。
     10年以上前にメキシコに旅行に行き、その後で読んだ中公新書の『物語メキシコの歴史』の中で紹介されており、その時に買ったものを今やっと読んでみた。
     「インディアス」とはスペイン人が植民していった地域、西インド諸島と南アメリカと北アメリカの一部のことらしいが「ラス・カサスはインディアスがインドの一部であると信じ、『新大陸』であることに気付いていなかった。」(p.173)らしい。
     それはともかく、それらの地域の各々で、要するに「小羊のように従順で謙虚な原住民が、寛大な心でスペイン人をもてなしたのにもかかわらず、金目的のスペイン人によって騙されたり脅されたりした挙句、サディスティックな拷問を受けたり、レイプされたり、槍で突き刺され、犬に八つ裂きにされ、生きたまま火あぶりにされたりして殺される、あるいは奴隷にされて、最終的には死ぬ」という話が繰り返される。
     ナチスのホロコーストとか、アメリカ原住民の迫害の話とか、色々あるけど、なんでこの話はそれほど有名ではないのだろうというくらい、凄惨で残酷。ものすごい悲劇で、気分が悪くなるし、これを目にしたこの著者はどうやってこれを見ることに耐えられているのか不思議で仕方なかった。良い結末になる話はほぼゼロで、絶望的な感じになる。
     どこかで聞いたか読んだことがあるが、昔に比べれば人間は残酷なことをしないようになってきた、という話はあるけど、人間の本性というのはそんなに変わるものなのか、人の残虐性というものについて考える本だった。確かに幼児期には虫とかに残酷なことをするものだけれど、あれこそが人間の本性なのだろうか、とか。歴史の書というよりはそういうことを考えた本だった。(21/04/01)

  • 16世紀のスペイン人司教が、新大陸=インディアスでのスペイン人たちによるインディオに対する非道な行いを、ときのスペイン皇太子に報告・告発した文書。著者には「インディアス史」という大著もあるが、そちらはとても読んでいられないと思い、こちらに手をつける。


    <blockquote>P.38 同様に、次にあげる法則(レグラ)に注目しなければならない。つまり、インディアスにおいて、キリスト教徒たちが赴いた所ではいつも、罪のないインディオたちは既述したような残虐非道、すなわち、忌まわしい虐殺や虐待や圧迫を蒙り、しかも、キリスト教徒たちは数々の新しい、また、より恐ろしい拷問を次々と考えだしてますます残虐になっていったという法則である。</blockquote>もともとがならず者ぞろいであったろうが、周りの人間の行い、または、己の過去の行いから影響を受けてエスカレートするのか。インディアスという、彼らにとっての世間から隔絶した環境では、修正も効かずにますます異常が当たり前になっていく。


    一部の修道士はインディオをまじめに教化しようとするが、<blockquote>P.96 修道士たちはこうして信仰を弘め、過去の不正な殺戮や戦争に生き残った数少ないその王国の人びとを全員主イエス・キリストへ導くことに大きな喜びを感じ、また、大きな望みをかけていた。</blockquote>しかし、、、<blockquote>P.100 そのため、聖職者たちは、インディオたちが早晩その悪行に耐えかねて自分たちに襲いかかるだろうと思い、また、とくに、スペイン人たちの悪行にたえず脅かされていてはとうてい心を落ち着けてインディオたちに教えを説くことも、インディオたちが教えを受けることも叶わないと考え、王国を立ち去る決心をした。</blockquote>そりゃそうだと言うか、何もしない方がマシと言うか、片棒担ぎと言うか。


    しかし、スペイン人の皆が倫理的にも当然の行為としてインディアスを破壊したかと言えば、それもまた一面的で、一方にラス・カサスのような告発者もおり、新世界での征服者たちを牽制するような立法も(全く不十分ながら)されていた訳だ。むしろ、にもかかわらずこれだけの事態になったのが恐ろしい。

    インディオたちを虐殺した連中も、擁護した人たちも、当然にヨーロッパ人中心の考えである。一部に、「悲しき夜」(ノーチェ・トゥリステ)のような反撃はあるが、本書に描かれるインディオたちは余りにも能無しに見えてしまう。「銃・病原菌・鉄」を再読したい。

    −−−−−−−−−−−−−−−−
    <a href="http://mediamarker.net/u/bookkeeper/?asin=4622073714" target="_blank">池澤夏樹がアイヌにかかわる本に寄せた文章</a>で本書を取り上げていた。なるほど。
    悪行に加担しないことだけでも組織への裏切りとみなされるであろう状況で、告発ができたラス・カサスの気骨たるや。その源が信仰心と思うと、キリスト教が侵略の道具であっただけに皮肉ではあるが。

  • 事象としてはひたすらに外道な侵略者たちの告発となっており、それだけでも興味ある人には十分だろうが、この本にはこのような形の告発の仕方がある、という点で非常に興味深い。
    道徳が言論のうえでどのように力を持たせられるか、言論の政治として読むとまた一興である。

  • たまたま読んだ本であるが、この本に出てくるスペイン人と同じ人類であるというだけで反吐がでる。
    人類から戒めをとるとどうなるか。
    結局、性善的な者は性悪的な者に淘汰される運命で、最後は自滅に向かっているような気がした本でした。

  • コロンブスによる新大陸の発見は歴史の教科書に必ず載っているけれど、スペイン人がそこを植民地とする過程で行った先住民インディオの大虐殺についてはあまり詳しく触れられていない。本書はこれらの悪事を国王へ告発するため、司教ラス・カサスが記した文書。残虐な行為の羅列に気分が悪くなる。自分たちを歓待してくれる従順な人々を、片っ端から殺していく精神は理解に苦しむ。金や財宝に目が眩んだためとされているが、そうだとしても方法が残忍すぎる。ただ殺すだけなら、生きたまま火炙りにしたり、鼻や唇を削ぎ取ってのっぺらぼうにしたりする必要などないはずなのに。本国から遠く離れた土地で、歯止めがきかなくなった暴力。人間は怖い。

  • 当時の征服者たちがインディオに行ってきたことは許されることではないだろう。もちろんこの本の記述を100%うのみにすることはできないが、インディオが激減したのは事実なのだから。

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