白い病 (岩波文庫 赤 774-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003277430

作品紹介・あらすじ

戦争目前の世界で、突如「雪崩のように」流行り始めた未知の疫病。大理石のような白い斑点が体のどこかにできたが最後、人は生きながら腐敗してゆく。そこへ特効薬を発見したという貧しい町医者が現れたのだが——。死に至る病を前に、人びとは何を選ぶのか? 一九三七年刊行の名作SF戯曲が、現代の我々に鋭く問いかける。

感想・レビュー・書評

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  • 以前「『その他の外国文学』の翻訳者」(白水社編集部 編)を読んだ時、そのうち読んでみたいと思う本を沢山チェックしておいた。

    それらは古い作品であったり、『その他の外国文学』というだけあって地味目だったりするので、図書館に他の方の予約は全く入っていない(需要がない)ので、いつでもすぐに借りられる。
    図書館がシステム変更に伴い長期休館期間に入る前に、ごっそりまとめて借りてきたうちの1冊。


    先にカレル・チャペックの「長い長いお医者さんの話」から読み始めていたのだが、途中から並行して読み始めた本書の方が薄くて読みやすくて惹き込まれた。

    戯曲。
    原作は1937年。
    カレル・チャペックはその翌年に亡くなっている。
    彼の死後も、第二次世界大戦だけでなく、世界のどこかで紛争・戦争の無かったことなどない。
    また各種疫病もしかり。
    やはり特には、世界規模に蔓延したコロナ。
    彼の書いた話がずーっと85年以上も続いてしまっているではないか。

    解説に色々あったが、私は本書は「病」の書というより「独裁政治」の書と捉える派。
    「独裁政治」だけではなく、戦争・紛争・無能な政治家・群衆の怖さも含めて。

    しかしこの作品の日本語訳は別の翻訳者により既に2作出ているとのことだが、2020年に本書を新たに発行したことは「病」の部分とも大いにマッチして、ベストタイミングであり、多くの人が読んだのではないだろうか。

    いずれにしても、凄い作品だ。
    どういう結末を迎えるのかと読み進めていくと、唐突に衝撃的結末を迎えた。

  • コロナ禍で多くの方が病や貧困に苦しむ中で他国を侵略したり、政治家が一部の大企業や業界と癒着している現代社会と重ねながら読んだ。
    80年以上前の作品だが人類は進歩していないと痛感した。

  • 第二次世界大戦前に描かれたチャペックのパンデミックを扱った戯曲。

    40代以降の人物しか罹らない白い病。致死率100%、治療法は見つからない。

    その状態で、貧しい町医者が治療法を発見する。だが、彼はある条件をもとに枢機卿顧問官や元帥に治療法を渡すことを拒む。

    自身が診察をするのは本当に貧しい人物だけ。

    皮肉な戯曲だと思った。医師と政治家たちの意思の違い。それは互いに患者や国民のことを考えているようで、全く違うと私は感じた。

    チャペックはこの元帥にヒットラーの姿を見ていたのだろう。
    今も世界はとてもきな臭い。そんな時にこの本が翻訳されて出るのもまたとてつもない皮肉だ。

  • 「ロボット」という言葉を小説で最初に著した著者。序盤の病気の発生源からして、まるで現代の状況を予言していたかのようで驚かされます。

    内容は、パンデミックと戦争の両方とも解決しようとする、平和を希求して妥協を知らない医師の孤独な闘い。はたして彼は、国家を動かすことができるのかというお話し。最後の終わり方が、何かを暗示しているようで、考えさせられます。

    この戯曲が書かれたのが1937年。第一次世界大戦、スペイン風邪、世界恐慌などを経験。スペイン内戦が起きて、まさにナチスが台頭し始めた頃のこと。このような混沌とした世の中で、二度と戦争を起こして欲しくないと平和を願って書かれたと思います。しかし、そんな彼も翌年には、ミュンヘン会談で故郷がナチスに割譲されて、人類は二度目の大戦に突入していきます…著者の心情を思うと、なんだかやりきれない気持ちになります。

  • 1937年刊行の戯曲です。
    新型コロナパンデミックの今の一冊、ということで本屋さんで見つけて買いました。
    小一時間もあれば読めます。
    謎の疫病の治療薬を開発した一人の医師の、命を救いたいという想いや平和への願いと、戦争をしたい国家や民衆・・・。
    ラストは衝撃的でした。
    ファシズム批判の作品ですが、正義感・群集心理・倫理観・マスメディアについてなど…色々と考えさせられる作品でした。

  • 謎の伝染病、通称「白い病」の流行により大勢の死者が出ているある国。国立リリエンタール大学病院の教授にして枢密顧問官でもあるジーゲリウスのもとへ、一人の町医者がやってくる。彼、ガレーン博士は、白い病の治療方法を見つけたというが、それを頑なに教授に教えようとせず、引き換えに到底不可能なある条件を提示し…。

    1937年に刊行されたチャペックのパンデミック戯曲。まさにコロナ禍の今を思わせる内容で身につまされる。枢密顧問官にこんなセリフ「パンデミックだ。雪崩のように世界中で流行する病気のこと。いいかね、中国では毎年のように興味深い新しい病気が誕生している。(16頁)」もあり、まるで予言のようだ。

    ただコロナとこの白い病の決定的な違いは、白い病は40代~50代、つまりアラフィフ世代にしか感染しないという点。子供や若者は安全で、すでにある程度の地位や権力を持つ初老の人間のみが感染してしまう。

    患者たちはこんな病が流行したことについて「ああ、理由はあるよ。この世に人間が増え過ぎたってこと、だから、ほかの連中に場所を明け渡すために、我々の半分を厄介払いしようってわけ。(11頁)」と言い、感染の心配のない若者たちは「だって、今の若者にはチャンスがないの、この世の中に十分な場所がないの。だから、私たち若者がどうにか暮らして、家族をもてるようになるには、何かが起きないとだめなの!(39頁)」と言う。

    そして新聞記者の質問に枢密顧問官はこう答える「そう。では……では、こう書きなさい……ただ、この病を受け入れるしかないと。(19頁)」

    特効薬をみつけたガレーン博士は、著者自身の解題によると「ある種の平和のテロリスト」であり「ユートピア的脅迫者」とも呼ばれている。博士は言う「軍艦をつくるのと同程度の予算を病院に充当すれば――(71頁)」彼は貧しい人々しか治療せず、金持ち(軍事産業で成功したクリューク男爵や、国家元帥)には、あることを要求する。

    戦争で儲けたい者、とにかく戦争がしたくて仕方ない者は、博士の要求を聞き入れようとしないが、結果的には自分の命と秤にかけて、当然の判断をせざるをえなくなる。しかしそのとき博士は…。ラストはなんともいえない後味。希望が全くないわけではないけれど、本当に愚かなのは誰なのか、鋭い切っ先を突き付けられた気がする。

  • 海山社からも出るから読み比べ。

    岩波は「クラカチット」を蹴った。と何かで読んだ記憶がある、、、

    白い病 - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b515909.html

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第2回|パンデミック・シミュレーター カレル・チャペック『白い病』|山本貴光|コロナの時代の想像力|not...
      【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第2回|パンデミック・シミュレーター カレル・チャペック『白い病』|山本貴光|コロナの時代の想像力|note
      https://note.com/iwanaminote/n/n3b8a42da6983
      2021/06/19
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      銀ゲンタ演出でカレル・チャペック「白い病」を上演 - ステージナタリー
      https://natalie.mu/stage/news/4767...
      銀ゲンタ演出でカレル・チャペック「白い病」を上演 - ステージナタリー
      https://natalie.mu/stage/news/476758
      2022/05/11
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      コロナ禍の2020年にチャペック『白い病』を訳す - 阿部賢一|論座 - 朝日新聞社の言論サイト(2020年10月18日)
      https://...
      コロナ禍の2020年にチャペック『白い病』を訳す - 阿部賢一|論座 - 朝日新聞社の言論サイト(2020年10月18日)
      https://webronza.asahi.com/culture/articles/2020101600002.html
      2022/07/07
  • 1937年の作品。独裁者である元帥が戦争準備を進めつつある国において、治療法のみつからない未知の感染症が蔓延している。チェン氏病と呼ばれるこの病に罹った患者は、初期に皮膚に白い斑点が現れ、やがて臭気を放ち、肉を腐らせて死んでいく。そして感染者は45歳から50歳以上の年齢の人間に限られている。隔離する以外に打つ手のない大学病院長(枢密顧問官)のもとに、治療法を知るという町医者ガレーン博士が現れる。ガレーンは大学病院で貧しい患者のみに治療を施して全快させ、治療薬の有効性を証明する。貧しい人間のみにしか治療を施さないガレーンは、薬の配合を教える交換条件の要求内容で人々を驚かせる。

    戦争の熱狂に批判的な眼差しを向ける、全三幕の戯曲。幕ごとのタイトルは「枢密顧問官(大学病院の院長)」「クリューク男爵(軍需企業の経営者)」「元帥(独裁者)」と、物語の舞台となる独裁国家の重要人物から取られている。カバーの紹介文にはSF戯曲とあるが、パンデミックの発生と病状が描かれる以外、いわゆるSFらしさはない現実的な展開。帯にある「閣下、握手はできません…私は…<白い病>なんです」というセリフの使われ方は想像とは違い、感動的なシーンではなかった。筋を追うだけなら、かなり短時間で読める。

  • 文庫化で再読。非常事態宣言下でnoteの連載で読ませてもらったときは、話の展開を追うのに意識が集中していた。今回は作者による前書きや解題・訳者による解説も加わって、本作への視座が深まる。作者はパンデミック災禍を体験した訳ではなく、遠い昔の感染症を架空の病に置き換えて、人間の矛盾を描いたという経緯に驚き。短い戯曲に詰められた鋭さが見事。

  •  コロナ禍の中、カミュの「ペスト」や、デフォーの「ペスト」が読まれているようだが、本書も"白い病"と呼ばれるパンデミックを題材として扱っている、ということで、興味本位で手に取ってみた。  

     カバー裏には、突如流行り始めた未知の疫病。そこへ特効薬を発見したという医者が現れるが、施療に際し、彼は一つだけ条件を提示した、と筋のあらましが紹介されている。
     果たして、彼の示した条件とは?そして、人々はその条件を承諾するのか?

     この戯曲は1937年の作品であるが、作者チャペックの生きた、かなりキナ臭くなってきた祖国チェコを取り巻くヨーロッパ情勢が、作品の背景として思い起こされる。
     本作の結末は、抑制の効かなくなる現代社会を象徴しているようで、実に悲劇的であるが、作者は完全に絶望している訳ではなく、一抹の希望を残してくれている。
     
     短い作品であるが、汲み取るべき課題は重い。

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著者プロフィール

一八九〇年、東ボヘミア(現在のチェコ)の小さな町マレー・スヴァトニョヴィツェで生まれる。十五歳頃から散文や詩の創作を発表し、プラハのカレル大学で哲学を学ぶ。一九二一年、「人民新聞」に入社。チェコ「第一共和国」時代の文壇・言論界で活躍した。著書に『ロボット』『山椒魚戦争』『ダーシェンカ』など多数。三八年、プラハで死去。兄ヨゼフは特異な画家・詩人として知られ、カレルの生涯の協力者であった。

「2020年 『ロボット RUR』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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