三島由紀夫紀行文集 (岩波文庫)

制作 : 佐藤 秀明 
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003121917

感想・レビュー・書評

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  • 三島は10代~20代前半くらいに片っ端から読んだのですっかりおばちゃんになった今となってはもうどれを読んだかほとんどわからなくなってたりするのですが、アポロの杯は確か新潮文庫でも読んでなかったはず・・・というわけで今回岩波文庫から、アポロ~を含む紀行文集。

    アポロ~は1951年(昭和26年)12月から翌年5月までの約4か月半にわたるアメリカ、ブラジル、ヨーロッパをまたいだ旅行日記。まだ20代の三島にとって初の海外旅行だったらしい。アメリカではサンフランシスコ、ロスアンゼルス、ニューヨーク、フロリダ等をめぐり各地でMOMA等の美術館、映画や舞台(オペラ、ミュージカル)を鑑賞、なかなか楽しそう。

    ブラジルではリオのカーニバルにかなりのページ数が費やされているのでとっても気にいった様子。三島と南米、意外な取り合わせ。逆にいかにも好きそうと勝手に思っていたパリは盗難にあったこともあるだろうけど好きじゃなかったとか断言しててこれまた意外。

    ギリシャ、ローマには当然のごとく一番たくさんページも時間も費やされ、とくにアンティノウスについての熱い語りときたら!そしてギリシャでは12~3才の少年につきまとわれて「古代ギリシャの少年愛の伝習を私に教えるつもりなのであろうか。それなら私はもう知っている」と聞かれもしないのに思わせぶり発言。解説によるとどうやらリオで三島はそっちの初体験(?)を済ませていたらしい。

    その他の紀行エッセイでも、やはり「世界で一番ニューヨークが好き」「私はブラジル人を深く愛する」「隠居するならリスボンに限る」等、ニューヨークやブラジル、ポルトガル等を偏愛する発言が見られ、さらにインドについては「世界一の美人国にまちがいがない」と断言、なるほどだから『豊饒の海』で主人公はインドのお姫様に転生しちゃうわけだ(笑)(※インドじゃなくてタイでした)

    後世のこちらが勝手に思う「割腹自殺した右翼デカダンおじさん」のイメージとは裏腹に、実は三島は取り澄ましたヨーロッパ的頽廃よりもパワーやエネルギーに満ちた国のほうに魅力を感じていたようだ(香港のタイガーバームガーデンのことも熱く語っている)。意外にも、とつい言ってしまうけれど、そういえば三島って陽明学好きだったっけ、とふと思い出して妙に納得。

    あと三島は庭園の類も好きだったみたいで、そのたびにポオの「アルンハイムの地所」を引き合いに。フランスでコクトオの稽古場を見学したときの思い出「稽古場のコクトオ」や、「潮騒」の舞台となった離島に実際に映画のロケに同行したくだりなどはミーハーに興味深かった。

    ※収録
    1 アポロの杯(航海日記/北米紀行/南米紀行/欧州紀行)
    2 髭とロタサン/旧教安楽――サン・パウロにて/マドリッドの大晦日/ニューヨーク/口角の泡――「近代能楽集」ニューヨーク試演の記/南蛮趣味のふるさと――ポルトガルの首都リスボン/稽古場のコクトオ/冬のヴェニス/ピラミッドと麻薬/美に逆らうもの/「ホリデイ」誌に招かれて/わがアメリカの影(リフレクション)/インド通信
    3 渋谷――東京の顔/高原ホテル/祇園祭を見て/「潮騒」ロケ随行記/神島の思い出/「百万円煎餅」の背景――浅草新世界/青春の町「銀座」/竜灯祭/もうすぐそこです/熊野路――新日本名所案内/「仙洞御所」序文

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/713267

  • 金大生のための読書案内で展示していた図書です。
    ▼先生の推薦文はこちら
    https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=25881

    ▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
    http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BB2678258X

  • 然程に長大でもない様々な篇が集まった一冊で、少しずつ読み進めるには好適かもしれない。
    「三島由紀夫」という人物は、敢えて“現在”の流儀で表現すれば「メディア露出が多く、人気が高い文化人」というような存在であったのかもしれない。数々の小説―非常によく知られていて、学校の授業の“文学史”に題名が出ているような作品から、「それ?あの作家の作品?」という存在の作品、「そういう作品が?在った??」という作品まで―を発表している他、雑誌、新聞等へ様々な文章を寄稿しており、そういう文章も伝わっている。発表後に少し時日を経て本として世に送り出された例も在るようだ。そして“全集”にそういう文章の多くが収録されているようだが、本書はそんな“全集”から択んだ文章を一冊に纏めてみたということであるようだ。
    本書は“全集”から「紀行文」と呼び得る文章を択んで纏めてみたという。三島由紀夫が「紀行」というようなことに強い思い入れが在ったか否かはよく判らないが、国外旅行をした経過、国内旅行をした経過、比較的近い辺りで街に出た経過を色々な形で綴って、種々の媒体で発表している。三島由紀夫の活躍は、概ね昭和20年代半ばから昭和40年代前半ということになるが、その期間の様々な文章が本書には収められている。
    偶々、三島由紀夫が話しをしている様子が映っている映像を少しゆっくり拝見したことが在る。東京大学の学生等によるグループの招きに応じて、同大学の大教室を会場に、集まった学生達に向かって語り、発せられた意見に対してコメントをし、テレビカメラ等も入っている場所という様子であった。そういうモノを視て、御本人の話し口調、声の感じを何となく憶えている訳だが、本書は読んでいてそういう「口調と声音」が頭の中を過るような気がした。本当に「活き活きと語る」という具合に綴られた文章が集められた感の一冊がこの『三島由紀夫紀行文集』である。
    前半部の大きな部分は、昭和20年代に船で太平洋を越えるようなこともして、米国、ブラジル、更に欧州諸国を訪ねた経過や、昭和30年代に米国や欧州を訪ねた経過が綴られた内容である。後半部は、色々な事由で国内旅行をした時の経過、少し街を歩いた時の事を綴った随想が集められている。「少し街を歩いた」というような事柄が、何か「小さな旅」という風に綴られていたのが酷く興味深いとも思った。
    本書で綴られる「旅」は概ね昭和20年代半ばから昭和40年代前半の三島由紀夫が活躍した時代のモノである。そうなると、「現在の目線」で紐解く場合には少なからず「時間旅行」というような感も交る。「ここ…この年代にはこんな様子だった!?」と些か驚いた内容も散見した。が、それは綴った御本人の意図と全く離れた事項であろう。それはそれとして、各篇では現場で感じ、考えた様々な事柄、御本人が強く関心を寄せていて戯曲も多く綴った舞台鑑賞に関する事柄、モノに触れて考えた事として示される独特な問題意識の提起というような豊富な内容が盛り込まれ、実に興味深い。
    本書を読んで、よく知られる作品である『潮騒』の取材や初めての映画化に関連して訪ねているという三重県の漁業の町や、雑誌の企画記事の取材や少し後に発表した小説の取材で訪ねたという熊野の話題が在った。そういう辺りを「訪ねてみたい…」というような「余計なこと?」も思った。
    滅多に在ることでもないかもしれないが「好きな作家は?」とでも尋ねられれば“三島由紀夫”を挙げる程度に長く関心は寄せている作家である。最近、少々切っ掛けが在って、彼が綴ったモノをまた読むようになったのだが、本書を読んで「生身」の御本人が眼前に現れたような気さえした。「何処かを訪ねて、そして思う…」というような事柄を綴ってみる場合には、最も「本人らしさ」が反映されるのかもしれない。
    膨大な量の全集から、なかなか好いモノを択んで纏めた編者の労にも敬意を表したい感である。

  • 自殺をした彼のことを知っている現代の我々としては、ある種の伝説化した文豪のように捉えてしまう三島由紀夫。
    さりながら、彼の遺した多彩な文章を俯瞰してみるに、実に多面的な人物だったのではとも思う。

    随筆となると、そんな彼が考えていたこと感じていたことを同時代的に触れることができるのではと思い、本書を手に取った。
    特に自身の「感受性」に対しコンプレックスを抱いており、その反動がその後の彼の活動になったという件は、とても腑に落ちた。

    しかし、これが30歳前後の書く文章かと唸らずにおれなかった。

  • 以下、引用

    名目は観光旅行だが、名もゆかりもない絶景がどれだけの人の心をとらえるかは疑わしい。(略)やはり旅には、実景そのものの美しさに加えるに、古典の夢や伝統の幻や生活の思い出などの、観念的な準備が要るのであって、それらの観念のベールをとおして見たときに、はじめて風景は完全になる。

  • 三島由紀夫氏の紀行
    当時こんなに旅行に行けたのは、本当に贅沢だったことでしょう

    そして、内容が面白いかは置いておいて文書はやはりとても上手だ
    綺麗

  • 航海日記
    北米紀行
    南米紀行
    欧洲紀行
    髭とロタサン
    旧教安楽
    マドリッドの大晦日
    ニューヨーク
    口角の泡
    南蛮趣味のふるさと
    稽古場のコクトオ
    冬のヴェニス
    ピラミッドと麻薬
    美に逆らうもの
    「ホリデイ」誌に招かれて
    わがアメリカの影
    インド通信
    渋谷
    高原ホテル
    祇園祭を見て
    「潮騒」ロケ随行記
    神島の思い出
    「百万円煎餅」の背景
    青春の町「銀座」
    竜灯祭
    もうすぐそこです
    熊野路
    「仙洞御所」序文

    著者:三島由紀夫(1925-1970、新宿区、小説家)
    編者:佐藤秀明(1955-、神奈川県、日本文学)

  • サンフランシスコの味噌汁に怒り、ロサンゼルスのターナーに感嘆し、ニューヨークでオペラとミュージカルをたのしみ。/ギリシャとローマの二週間では、人生でこれまで味わったことのない恍惚を覚え。/リオでの最初は戸惑い、のちに旅慣れる様子を「最初の晩には、海老を待っていると、牛肉が来たものだ。」とユーモラスに描き。/リオでもニューヨークでも夜間一人で歩ける治安の良さ。銀座は若者の街で、渋谷はバラックの目立つ街。どの街も、時代により、描く人により、異なった様相を見せる点を、興味深く思いつつ。以下抜粋。/快楽というものは、欲望をできるだけ純粋に昂揚させ、その欲望の質を純化して、対象との関わりを最小限に止めしめるものでなければならない。/希臘人は外面を信じた。それは偉大な思想である。キリスト教が「精神」を発明するまで、人間は「精神」なんぞを必要としないで、矜らしく生きていたのである。/われわれの生に理由がないのに、死にどうして理由があろうか

  • 2018年9月読了。
    巴里は好きではない三島先生、
    ギリシアにいたく感動される三島先生、
    リオと三島先生という今まではイメージできなかったマッチング等、
    格調高い文体と紀行文というのが両立するという、
    非常に稀有な図書だと思います。

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