江戸川乱歩短篇集 (岩波文庫 緑 181-1)

著者 :
制作 : 千葉 俊二 
  • 岩波書店
3.94
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本棚登録 : 603
感想 : 61
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003118115

作品紹介・あらすじ

大正末期、大震災直後の東京にひとりの異才が登場、卓抜な着想、緻密な構成、巧みな語り口で読者をひきこむ優れた短篇を次々と発表していった。日本文学に探偵小説の分野を開拓し普及させた江戸川乱歩(1894‐1965)の、デビュー作「二銭銅貨」をはじめ「心理試験」「押絵と旅する男」など代表作12篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 江戸川乱歩『江戸川乱歩短篇集』岩波文庫。

    千葉俊二により編纂された12編収録の江戸川乱歩短編集。江戸川乱歩の短編は様々な出版社から様々な形式で出版されているが、何度でも読みたくなる。

    『二銭銅貨』『D坂の殺人事件』『心理試験』が絶品。

    『二銭銅貨』。これがデビュー作かと驚くばかりの完成度。真相もトリックも解りきっているのに何度読んでも面白い。作中に登場する乱歩オリジナルの暗号にも驚かされるが、ツイストの魔術師と呼ばれるジェフリー・ディーヴァーも驚くレベルの捻りには脱帽するしかない。工場から給料の5万円を盗んだ泥棒紳士と呼ばれる男を羨むほど生活に困窮していた松村武と私。★★★★★

    『D坂の殺人事件』。明智小五郎の初登場作。まだ若い、書生時代の明智小五郎が殺人犯に疑われるが、見事な推理で犯人の正体を暴く。現代では、さもありなんという事件の真相なのだが、この時代にこうした設定で推理小説を描いた江戸川乱歩という作家は稀有な存在である。中学生の時に春陽堂文庫で読んだが、中学生には刺激が強過ぎた。★★★★★

    『心理試験』。これも名作。犯人と名探偵の攻防が面白い。読者には最初から犯人が提示されており、どのような結末が待っているのかという興味が最後まで読ませる理由なのだろう。『D坂の殺人事件』に続き、明智小五郎が今度は探偵として登場する。学費にも困窮する蕗屋清一郎は友人の下宿先の主である老婆が金を貯めていると聞き、老婆を殺害し、老婆の金を奪う。綿密に計画された蕗屋の犯罪は、担当する判事にも見抜くことが出来なかった。★★★★★

    『白昼夢』。ホラー短編。ありふれた日常の中に潜む狂気と恐怖。狂気と恐怖の飼い主が、その事実について熱弁を奮うが、主人公の私以外、それが事実であることに気付かない。★★★★

    『屋根裏の散歩者』。これもまた名作。明智小五郎と知り合った郷田三良は明智から様々な犯罪について講釈を受けるうちに生来の犯罪嗜好が強くなっていく。そして、ついに殺人という重大犯罪を犯してしまうのだ。再読してみて、明智が郷田を焚き付けなければ良かったのではと思う。★★★★★

    『人間椅子』。捻りの効いた傑作。とある女性作家の元に届いた書簡。そこには身の毛のよだつような内容がしたためられていた。★★★★★

    『火星の運河』。『白昼夢』と同じような系統のホラー。描写が幻想的である。★★★★

    『お勢登場』。浮気者のお勢がチャンスとばかり、夫を亡きものにする。女は怖いという感想は差別的な発言になるのか。★★★★

    『鏡地獄』。球体の内部を鏡貼りにしたらどんな光景が見えるのだろうか。中学生の頃、この短編を読み、興味を持った。鏡に魅了された男が球体の鏡の部屋に入る。★★★★

    『木馬は廻る』。今一つしっくり来ない結末。木馬のある木馬館で働くラッパ吹きの格二郎と女車掌の少女お冬の淡い恋の物語。★★★

    『押絵と旅する男』。ある男が汽車に乗り合せた西洋の魔術師のような風采の男から彼が持つ押絵細工にまつわる不思議な逸話を聞く。世にも奇妙な物語。★★★★

    『目羅博士の不思議な犯罪』。探偵小説の筋を考えるために浅草や上野あたりを散策していた私の前に髪を長く延ばした、青白い顔の青年が現れ、語る月夜に住人が首吊自殺してしまうというビルの部屋の話。★★★

    本体価格850円
    ★★★★★

    • 土瓶さん
      ことぶきジローさん、こんばんは~^^
      選りすぐりの名作ぞろいですね。
      江戸川乱歩さんはほんとに定期的に読み返したくなってしまいます。
      ...
      ことぶきジローさん、こんばんは~^^
      選りすぐりの名作ぞろいですね。
      江戸川乱歩さんはほんとに定期的に読み返したくなってしまいます。
      凄いですよね。
      2023/05/10
    • ことぶきジローさん
      おはようございます。江戸川乱歩の作品は何度読んでも面白いです。
      おはようございます。江戸川乱歩の作品は何度読んでも面白いです。
      2023/05/11
  • 日本の近代ミステリ小説の礎を切り開いた乱歩の
    代表作が多く集められている短編集で、当時日本では、珍しい探偵が主人公の作品シリーズ、明智小五郎が謎を解決していくのだが、今回の短編集には、「D坂の殺人事件」「心理試験」「屋根裏の散歩者」が、明智小五郎がでてくるのだが、全部面白かったですね。現代のミステリ作品にも通じるトリックなどが、この時代にもう出来上がって
    いるのかと、ビックリしましたね。

  • 近年では使わなくなった表現もレトロだと思えば新鮮。読みづらい漢字にはルビもふってあり、漢字の知識も習得できる!

    と副次的な話から入りましたが、内容はもちろん傑作揃いで、しっかりと怪しげな雰囲気・「乱歩ワールド」を堪能できます。

  • 江戸川乱歩短編集(千葉俊二編/岩浪文庫)
    処女作の「二銭銅貨」「D坂の殺人事件」「心理試験」「白昼夢」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「火星の運河」「お勢登場」「鏡地獄」「木馬は廻る」「押絵と旅する男」「目羅博士の不思議な犯罪」の12篇を収録。
    個人的に好きなのは「押絵と旅する男」「鏡地獄」「二銭銅貨」。特に「押絵と旅する男」では遠眼鏡を逆さまにしたことで見える世界により恐怖心だけでなく不思議な懐かしさを覚えます。今回、再評価したのは完全犯罪をテーマにした「お勢登場」。閉所恐怖症の人にはきついかもしれません。
    編者である日本文学研究者の千葉俊二さんの解説では日本探偵小説の黎明、乱歩と時代の背景についても触れられて興味深い読み物になっています。
    「芋虫」や「二廃人」を収録している新潮文庫版の「江戸川乱歩傑作選」には「お勢登場」「押絵と旅する男」がありません。「傑作選」は表紙もいいので、2冊合わせて持ってもいいと思います。

  • はじめての乱歩の本。
    なるほど確かに明智小五郎シリーズは面白い。

    探偵小説の走りでもあるし、怪奇小説の走りでもあるし、
    現代のエロ・グロにつながっているということが
    よく分かる一冊だった。
    閉じ込められた扉に引っかき傷の中に名前とか
    今でも描かれることが多いと思う。

    全部を書かずに余白を残し、読者の想像力を掻き立てる。
    語り口が淡白だけど、うっかり、その様子を思い浮かべてみたら
    うげぇ…!!!ってなることも。

    しかし、文末に飄々と乱歩が、
    「探偵小説じゃなくてごめんね。(テヘペロ)」
    みたいなことが書いてあるのがお茶目だ。

  •  1923(大正12)年から1931(昭和6)年にかけての作品を収めた江戸川乱歩の短編小説集。「探偵もの」は半ばほどで、明智小五郎が登場するものも数編含まれる。
     驚いたのは、明智小五郎のクセとして「髪をもしゃもしゃとかき回す」というのがあったことで、なんだ、横溝正史の金田一耕助はこれのマネジャないか。と判明したことだ。しかし描写された人物像としては金田一耕助の方が魅力的である。
     乱歩のミステリも面白いと言えば面白いが、横溝正史作品ほど「追い込まれるように読んでいく」急迫感はなかった。
     江戸川乱歩の小説世界は、やはり、いかにも嘘くさく観念的である。作者の思い浮かんだアイディアが流麗に展開されてゆくが、そこに日常的な生活現場にあるはずの質感が全く無い。大地に足の付いていない、ちょっと青臭いような観念的遊戯なのだ。大正モダニズムというものは、そうした傾向をもつものだったかもしれない。後の三島由紀夫の多くの小説にも、このような現実感ゼロの嘘くささがある。
     観念の遊びを読むのも悪くはないが、自分の好みとしてはそれだけでは物足りなく感じる。
     本短編集においては、探偵小説よりもそれ以外の分野の短編の方に面白いものがあったように思う。たとえば「白昼夢」のような掌編は、さっと場面が切り拓かれる刹那的な散文詩のようで美しかった。

  • 初期の代表的な作品を収録。有名どころを押さえているので、乱歩初心者でも楽しめると思う。

  • 昔から少年探偵団シリーズが好きだったのですが、この短編集は読みやすくて、かつ、驚き、うっとりし、げんなりし、恐ろしくなる、とてもいろいろな感情が味わえる、今読んでもおもしろい物語ばかりです。
    この発想は本当にすごいなー。

  • やっぱり人間椅子が好き。

    時々作者の言い訳が挟まるのが人間味あって可愛らしい

  • 乱歩特有の気味の悪さはあるものの、気味が悪すぎることはなく、ギリギリのラインを攻めてくるので、これはこれで興味深く面白い。

    ミステリーに関しては、現代のミステリー作品が参考にしたと思われる作品もチラホラあり、この時代にこの発想はすごいなと思う反面、ちょっと物足りなさを感じます。

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著者プロフィール

1894(明治27)—1965(昭和40)。三重県名張町出身。本名は平井太郎。
大正から昭和にかけて活躍。主に推理小説を得意とし、日本の探偵小説界に多大な影響を与えた。
あの有名な怪人二十面相や明智小五郎も乱歩が生みだしたキャラクターである。
主な小説に『陰獣』『押絵と旅する男』、評論に『幻影城』などがある。

「2023年 『江戸川乱歩 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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