原発と日本の未来――原子力は温暖化対策の切り札か (岩波ブックレット)

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  • Amazon.co.jp ・本 (64ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784002708027

作品紹介・あらすじ

温暖化対策のため、CO2削減の切り札として、一躍クリーンにイメージチェンジを遂げた原子力発電。再処理、最終処分、低稼働率、地震災害など、国内に多くの課題を抱える一方、インドやベトナムなど海外への国策的輸出がめざされている。その政策を問う。

感想・レビュー・書評

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  • わずか70ページ足らずだけど、むちゃくちゃ興味深いことが書かれている。世界的に見て原子力発電の規模が縮小しているのは、新自由主義的な経済政策と電力事業が相容れないためであるからとか、それに抗うために日本の原子力関係のステークホルダーと政府が行ったこと(要は、電力事業を市場原理にさらさないこと)など・・・。なんだかこの原子力政策というのは、どこか日本のメディア業界と似ているような既視感を少し覚えた。
    各国の簡単な原子力政策の現状も書いてあるし、「脱原発」と「反原発」の違いなど本当に基本的なところから論旨も明快になっている。
    とにかく、この本は絶対に読んだ方がいい。目から鱗。値段も500円だし、原子力政策を考えるための最良な入門書。引続き同著者の『原子力の社会史』を。

  • たまたま3.11直前に書かれた小冊子で、最新の世界の原発事情が客観的に整理されていて資料としての価値がある。
    今更ながら日本のマスコミ報道を鵜呑みにするのは危険であることを再認識。反原発か推進かの極論か感情論ばかりで、原発問題の解決の本道からそれている(そらされている?)気がする。
    ○先日ドイツが2022年までに全原発廃止を決定したが、元々2002年に決定された既定路線であること。
    ○欧米での原発新設は、殆どは70年代の古いものの入れ替えに過ぎず、原発産業は成熟産業(むしろ斜陽)であること。
    ○米国で30年以上も新設はない最大の理由は「電力自由化」による競争の結果であること。
    ○原発が安価で安定したエネルギーでありCO2削減にも効果があるというのも疑問で、むしろ火力発電の設備最新化(石炭をガスにするなど)のほうがはるかに安価で効果があること。
    ○日本では政府により強引に、原発~再処理サークルを作り上げてきた理由は、安全保障上の理由もあること(つまり「3日で核を作れる」状態を保つこと)
    いずれにせよ「脱原発」の根本施策は「電力自由化」なんだなーと再認識した次第です。

  • 吉岡さんは、原子力委員会の委員を務めたこともあって、原発と共存していこうという人だ。それは、「世の中に絶対悪として無条件に否定できるものはない」もし、そうしてしまうと、原発推進派と議論の余地がなくなってしまうという。ここからは原発の危険性、問題点を克服しつつ原発と共存していこうという姿勢が伺える。「実質的に脱原発論者に近い」とも言っている。しかし、あの福島の原発震災が起きてからは、「共存すること」の難しさを認識し、脱原発に、より大きく舵をとろうとしているかのようだ。(第2章に2刷に際し、付記がある)どちらにせよ、本書は、現在の原発が置かれている現状に対する分析と多くの問題提起にあふれている。反原発の本はそれなりに刺激的だが、本書のように、原発と共存を計りたいと願ってきた人の書は、また別の意味で啓発される。第1章はそうした筆者の気持ちのゆれを語った部分である。第2章は長期停滞を続ける世界の原発の現況と原発ルネッサンスが必ずしも復活していないことを述べる。こういう情報はとても大切だ。第3章は日本の原発の現状分析で、日本でも原発は低成長であることを指摘する。問題が多すぎるのである。第4章はいわば「国策民営」の原発を早く独り立ちさせ、電力の自由化を進めるべきだと言う。この章でもっとも重要なのは、日本の政府がなぜ原発にこだわるかが書かれていることだ。それは、「日本は核武装を差し控えるが、核武装のための技術的、産業的な潜在力を保持」し、それを日本の安全保障の主要な一環とするという立場をとっているからである。「国家安全保障のための原子力」「原子力は国家なり」なのである。だからこそ、政府の立場からすれば、簡単に脱原発に転換できないわけである。

  • ほんとに、いらない!

  • 九州大学の副学長であり、内閣府原子力委員会専門委員や経産省総合資源エネルギー調査委員会委員を歴任した原子力及びエネルギー政策の専門家による原子力発電に関する現状と提言をまとめたもの。著者は、原発反対の立場をとるが、何が何でも反対というわけではなく、多角的に分析をし、利点欠点を明らかにした後、理論的に意見を述べている。本書は、東日本大震災前に書かれたものであるが、日本の原発政策の問題点と原発の未来を考察するために必要な材料を十分に提供しているといえる。重要な箇所を記す。
    「「推進派」と「反対派」の中間に位置し、調査研究に裏打ちされた「中間派」が、多数派を占めるのが当たり前なのだと著者は思う」
    「原子力発電は、インフラストラクチャー・コストが高くつき、これを加えれば火力・水力発電コストと同等またはやや劣位となってしまうことも周知の事実である。ここでいうインフラストラクチャー・コストとは、揚水発電施設の建設・維持管理費、長距離送電網の建設・維持管理費、立地対策費などが含まれる」
    「これら4つの経済的弱点(高いライフサイクルコスト、高い建設コスト、核燃料事業など不透明なシステム全体のリスク、高い経営リスク)ゆえに、全てを自己責任で処理せねばならない自由主義経済のもとでは、電力会社は原子力発電事業を一般的に忌避すると考えられる。政府の手厚い指導・支援があってはじめて、商業原発の成長・存続が可能となる」
    「すでに日本ではエネルギー需要及び電力需要はピークを過ぎ、今後ますます減少していくと予想されており、その状況下では設備投資は基本的に老朽施設の一部のリプレイスという形をとる」
    「日本の原子力発電の施設利用率は不振を続けている。07年度60.7%、08年度60.0%、09年度65.7%と推移している。欧米諸国の原発の施設利用率は70~80%台が標準であり、90%台に達する国もあるが、それらに比べて日本は突出して低い」
    「日本の原子力発電の主要三事業:商業原子力発電、核燃料再処理、高速増殖炉」
    「世界の原子炉3メーカーグループ:東芝・WH、GE・日立、アレヴァ・三菱重工」
    「(著者むすび)政府が原子力発電を優遇する正当な理由は、その諸特性を一覧する限り乏しい。政府が税金により負担してきた一連の支援(立地支援、研究開発支援、安全規制コスト支援、損害賠償支援等)のコストは本来全て、事業者によって負担させるべきであり、それがエネルギー間の公正な競争条件を確保する上で不可欠である。このように原子力発電事業に対する優遇を全て廃止し、それでも電力会社が原子力発電の新増設や、使用済核燃料の全量再処理や、高速増殖炉実用化路線の護持を望むのならば、政府が万全の保安・安全規制を講じた上で、全面的な自己責任においてやっていくしかないだろう。それば自由で公正な社会の当然のルールである」

  •  東日本大震災の直前、2011年2月に発行された本。筆者は以前、原子力委員会専門委員であったとのこと。このような経歴を持っていれば、原発推進の立場をとることが多いと思うが、筆者は「脱原発論者ではないが、…実質的に脱原発論者に近い。」(p.9)
     また、東日本大震災以降に印刷された第2刷にあたってという追加記事の中(p.29)では、「日本は脱原発に向けて舵を切るのが賢明だと思われる。」と述べている。
     原子力発電に関する問題は核開発と絡んで様々な不条理を含んでいるがp.25にあるインドの動向や、p.41にある機微核技術の問題はその最たるものと思われる。
     第五章では本書のサブタイトルでもある地球温暖化の問題に触れられており、その中で原子力発電はCO2削減に全く寄与していないことが触れられている(p.55)。CO2削減のために原子力発電を推進していく立場をとるものは、この事実を重く受け止めるべきである。
     さらに、CO2を削減するための方策として火力発電の制限とか炭素税の導入などと言っているが(p.58)、CO2温暖化論は破たんしているので、このあたりの記述は不要であった。

  • 原発の問題点について、とても分かりやすく説明している。科学的な話は殆どなく、公表された統計データを元に原発「政策」について論じられている。

    約70ページで500円。中学生にはちょっと難しいかもしれないが、高校生の副教材にすると良いのではないか。
    因みに、本書は原発事故の1ヶ月前に出版されている。

  • 2011年2月発行の岩波ブックレット。

    今後、刊行される書籍・雑誌はヒステリックにならざるを得ないが、この書籍は震災前の刊行なので、その点で安心して読める上、震災以前の原発論しては最新(級)である。

    ページも非常に少なく、内容も平易である。

    また、「反原発」の著書が多い中、「脱原発」(もう造ったものは仕方がないから、新しい原発を作らないことで、老朽化による使用終了によって時間をかけて原発脱却すること)に近い意見であるため、極端な内容の偏りもない。

    さらに、原子力発電所を保有・研究していることが、日本が核関連技術を保有・研究する唯一の根拠であり、その放棄は、安全保障や日米関係に影響するなどとしている。

    一方、原子力発電は、「国策民営」事業であり、その癒着構造を批判している。

    そして、原発建設を、今後は完全に市場原理に委ね、電力会社が独立して行うべきだとしている。ここは意見の分かれるところだろう。

    もちろん、著者は原発のリスク・コストを考えれば、これ以上、電力会社が推進することはないという立場なのだが。

  • 議論の種としてすごく良い本。これをベースにしてディベートをしたらよい議論になりそう。

    武田徹さんの私たちはこうして「原発大国」を選んだ、では原子力に関する文化史個人史に重きを置いていたんですが、吉岡斉さんの本書は国内国外の政治史がメインとなっています。
    序章において、原子力の拡大が日本の経済社会にとって有害である、と立場をきっぱりと明言し、それに対して自説やデータを滔々と述べるスタイルはすごく説得力がありました。さすが九大副学長。
    結論に疑問が残る部分はいくつもあるんですけど(揚水発電の負担とか温室効果ガス削減のロジックとかベトナム受注とか)、総じて見れば今後を考え直すいい本でした。原子力ルネッサンスの失敗と、電力自由化により生じたゆらぎの部分は特に見ごたえありました。

    裏付けがあるようでいて主観的な記述が随所に見られるので、最初の1冊としては適してないかなあと思いました。

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