- Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
- / ISBN・EAN: 9784001142501
作品紹介・あらすじ
ロンドンに暮らすベンの夢は犬を飼うこと.誕生日に,約束していた犬のかわりに刺繍の犬の絵をもらって失望したベンは,想像の犬を飼いはじめる.やがて引っ越しを機に念願の犬を手に入れるが,それは想像の犬とあまりにも違っていた…….少年の心の渇望と,葛藤を乗りこえる姿をくっきりと写した傑作.[解説・小川洋子]
感想・レビュー・書評
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約30年ぶりの再読。ピアスの代表作「トムは真夜中の庭で」に負けず劣らず好きな作品で、最近岩波少年文庫から発売されたことを知り、早速手に取ってみた。
犬を飼うことに憧れ続けている、ロンドンに住む少年ベン。誕生日に祖父が犬をプレゼントしてくれるという約束はかなえられなかったが、代わりにもらったチワワの犬の絵がきっかけで、想像の犬を頭の中で飼い始める。徐々に想像と現実の境目が曖昧になっていくベン。目を閉じると現れる彼の犬はそりゃあ可愛らしく、初めて読んだときも今回も、ベンと同様に私自身も夢中になった。
空想に溺れるという経験を、誰もが多少は経験済みなのではないか。五人姉弟の真ん中で孤立しがちな彼は、心優しいが本音をなかなか露わにしない。だからこそ自らが生み出した理想の犬に固執していく過程に危うさを感じ、共感できる反面ザワザワした不安が読むほどに強くなっていく。
再読してみると、年齢のせいか親サイドの視点で読んでいることに気付く。今回改めて、母親・母方の祖父母など、大人の人物造形がしっかり作り込まれているなぁと思った。ベンの本心が読めず、不安がる母(娘達が家を離れ、寂しがるところがリアルに母親あるある)。ベンを優しく見守る(ちょっと詰めが甘いがそこが憎めない)祖父。気難しく、祖父を尻に敷いているように見えて実は物事を冷静にに見ている祖母。十代の頃に読んだときはベンの心情を追うのに終始したということもあり、再読することで物語のディテールを楽しむこともできた。
反面、ベンの心情に100%寄り添うことはできなかったかな。理想を追うあまり、現実を受け入れられない頑なな彼にちょっとイラッとしたところも。でも、物語としては敢えてベタな流れにならないところがリアル。クライマックスからラストへの話の展開は神がかっている。胸がギュッと締め付けられること間違いなし。
教えられることがたくさんある、とても大切な作品だ。
30年前には、既に絶版になっていた学習研究社版を幸運にも図書館で見つけて読んだ。今回少年文庫で発売されたことで、もっとたくさんの読者に出会って読み継がれて欲しいなと思う。
また再読する機会があるときは…ベンの祖父母目線で読むことになるのかな?また違った捉え方ができそうだ。 -
ベン・ブリューイット少年は犬が欲しくてほしくて仕方がない。
ブリューイット一家は子供5人いてロンドンの狭いアパート暮らし。だから犬なんて飼えない。
兄弟の中で孤立しがちなベンは、汽車に乗っておじいちゃん、おばあちゃんの家に遊びに行く。ここには厳しく一族の規律であるおばあちゃんと、それよりは甘いおじいちゃん、そしてなんと行っても雌犬のティリーがいる。
ある時おじいちゃんが、ベンの誕生日に犬を贈ってくれると言ってくれた。ぼくの犬!
ベンは誕生日まで犬を想像する。大きなアイリッシュ・ハウンド、狼にも負けないボルゾイ、勇ましいマスチフ…。
だが街に待った誕生日の日に届いたのは、犬の刺繍だった。女の子の手と小さな犬。「チキチト・チワワ」と刺繍されている。
ベンは失望した。ぼくのボルゾイ、ハウンド、グレートピレニーズは去ってしまったのだ…。
だがベンは失望を抑えて祖父母の家に遊びに行く。手紙の「犬のことごめよ(※ごめん、の誤字)」というおじいちゃんの気持ちは本当だと知っていたのだ。
しかしロンドンでは犬は飼えない。飼えるのは目を閉じないと見えないくらいの小さな犬だ。
そのうえ帰り道でベンは、誕生日プレゼントの「チキチト・チワワ」の刺繍をなくしてしまったのだ。
その後ベンは目を閉じるたびにチキチトの姿をはっきりと思い描くようになった。
息遣いを感じる、散歩している、一緒にオオカミとだって闘う。
ベンは現実の世界より、目を閉じたチキチトとの想像の世界に夢中になっていった。
それは家族を不安がらせ、成績も落ち、とうとう事故にまであってしまう。
病院のベッドで、ベンは幻のチキチトが去ってゆくのを感じる。ぼくの犬!
退院したベンは祖父母の家で、ティリーが産んだ9匹の子犬と対面する。
おじいちゃんはこの中の一匹はお前のものだよ、と言ってくれた。ベンは一番小さな茶色い犬を抱き上げる。この子はブラウン、でも本当の名前はチキチト、ぼくの犬!
でも分かっていた。ロンドンでは犬は飼えない。チキチト・ブラウンはぼくの犬だ。でもきっと誰かにもらわれてしまう。
その頃ブリューイット家は、長女の結婚に伴う引っ越しの話が出ていた。
新しいに行ったベンは近くに大きな公園を、犬を好きに走らせることができる公園を見つける。
1匹1匹ともらわれてゆく子犬たち。ぼくのチキチトブラウンはまだ残っている?
希望に胸を膨らませて祖父母の家に行ったベンだが、久しぶりにあったブラウンに戸惑う。
こんなに大きかったっけ?ぼくの想像の犬とは全然違うじゃないか!
口輪を嫌がる、電車では注目される、本当の名前はチキチトなのにブラウンという名前にしか反応しない!
念願の公園で子犬を走らせるベンは、目を閉じるがもう自分の想像の犬、理想のチキチトがいなくなったことに失望する。
目を開けた視界の隅に映る現実のブラウン。
その時ベンは気がついた。手に入れられないものはどんなに欲しがったって無理なんだ。手に届くものがあるのにそれを手にしないなら、なおさらなんにも手に入れることなんてできないんだ。チキチトはいなくなった。でもブラウンがいる。ブラウンを飼わせてくれたおじいちゃんやおばあちゃんやお父さんお母さんがいる。
はっきりと目を開けて、ベンはブラウンを呼ぶ。二人はこれからの日々を過ごすのだ。
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こちらもブクログみなさまの高評価で手に取った本です。
みなさまありがとうございます。
前作「トムは真夜中の庭で」がファンタジーだったことと、この話の「目を閉じたら幻の犬が浮かぶ」という粗筋を読んで、てっきりこちらもファンタジーかと思っていたら、少年の羨望と現実を受け入れる力を記したとても現実的な物語でした。
途中でベンが無気力になり想像の世界に逃げ込むようになって行くあたりは、ベンの母と一緒になって本気で心配しましたよ…。
物語のテーマは、よくある「望んだものを手に入れた」というものではありますが、その望んだものが理想と違った戸惑い、でも最後に空想だけの理想に別れを告げて現実と向き合うまでを書き、そして周りの大人の優しさもよく現れていて、とても良い話でした。
現実じゃ無理だから想像の動物を飼う人は多いということで、この物語に同調する読者も多いでしょう。
犬!私も犬が飼いたい!頑張る気力体力はないから想像を膨らませる、だったらフクロウを飼いたい!無理だって分かってるから想像なら良いだろう、それなら庭にヤギとアヒルを放したい!
それなら一層のこと庭にキリンを!!
…そんな私は、想像の動物と、会社の机のフクロウと鹿の置物を並べて満足し、ギャップのある現実の動物飼いはしないことにした(笑)。-
淳水堂さん。こんばんは(^^♪
もう読まれたのですね!
「トム・・」とは違う世界観ですが、こちらも素晴らしい名作だと思います。
ブック...淳水堂さん。こんばんは(^^♪
もう読まれたのですね!
「トム・・」とは違う世界観ですが、こちらも素晴らしい名作だと思います。
ブックトークで何度子供たちに勧めてきたことか。
レビューでも言われる通り、望みとはまるで違う結果になったときどうするか、ですよね。
非常に奥が深いお話だと思います。素敵なレビューでした!2020/03/17 -
nejidonさん
いつもコメントいただき嬉しいです!また、いつも素敵な本をありがとうございます。
読み終わっていたのですが、レビュ...nejidonさん
いつもコメントいただき嬉しいです!また、いつも素敵な本をありがとうございます。
読み終わっていたのですが、レビューに時間がかかるんです^^;
私のブクログ登録は「ほとんどの本は一度しか読まなほいから、自分のレビューでその本の゛雰囲気゛を味わえるように」で残しているので、
長いし粗筋も細かいし、印象に残った文章は書き写すし、ネタバレいれます。(意外な犯人!とかだって数年後には忘れることもあるし…)
それを素敵なレビューと言っていただき悶えそうです(*´ω`*)
さて、若いトムは理想を手放し現実の犬と暮らすことを覚えましたが、
私自身は現実のギャップを乗り越える気力体力も無いから想像のままでいいやと思っていることは色々ありますけどね^^;2020/03/17
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この本大好きです。家族の中で疎外感を感じている、犬(自分だけの相棒)が欲しい、現実世界にうまく馴染めず想像の世界に心が寄りがち(笑)、そんな主人公の少年が自分の幼少期と重なって読む手が止まりませんでした。
また、文章も大変読みやすいです。イギリスの都市部と田舎の景観がまるで目の前にあるかのように頭に浮かんできて、良い文章だとこんなにも本の世界に入り込むことができるのかと感動しました。猪熊葉子さん訳ということで間違いないとはわかっていましたが、本当に素晴らしかったです。
自身の現状に不満を抱きながら過ごしている方は、ぜひこの本をお手に取ってみて下さい。 -
行ったことはないロンドン、そしてイギリスの田舎の風景や習慣(アフタヌーンティー)を想像しながら読みました。
適度な注釈で、子どもにとって読みやすいとはいえないまでも、読めない本ではないと思うので、いつまでも読み継がれてほしいと思います。 -
「ロンドンに暮らすベンの夢は犬を飼うこと.誕生日に,約束していた犬のかわりに刺繍の犬の絵をもらって失望したベンは,想像の犬を飼いはじめる.やがて引っ越しを機に念願の犬を手に入れるが,それは想像の犬とあまりにも違っていた…….少年の心の渇望と,葛藤を乗りこえる姿をくっきりと写した傑作.[解説・小川洋子]」
「犬を飼いたくてたまらないベンは、想像の名kあで「チキチト」という犬を飼い始めます。やっと本物の犬を飼う事になったのですが・・」 -
少年の犬への愛情がよくわかります。おばあさんの粋なはからいがかっこいい。
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最高のラスト!
ピアスっていう作家の、子どもの細やかな心の動きの描き方、なんてすごいんだろう。
本当に欲しかったものを手に入れた時、それが思った通りの最高のものとは限らない。夢に描いたものとはずいぶんかけ離れているかもしれない。少年の想像力と少ない経験ではとくに…
ベンは、誕生日におじいさんから犬をプレゼントされるのを心待ちにしていた。でもその朝、郊外に住むおじいさんとおばあさんから贈られてきた小包の中は、小さな犬が刺繍された額入りの絵だった。
失望したベンは、理想の犬(チキトト チワワ)を頭の中で作り上げてしまう。狼とも戦う、世界一小さいのに勇敢な、自分だけの。まぼろしの犬との世界に逃避して行くベン。家族ともまともに話さず、いつも目を閉じてまぼろしの犬と過ごす。。
そしてある日…
ところで、トムは真夜中の庭での時もブリタニカ百科事典のシーンに心踊りましたが、こちらでもベンが図書館行くシーンかあるんですよ、犬のことを調べに。でも、児童閲覧室の資料に飽き足らず、専門書の方に入る許可証をもらい、司書に嫌がられてるシーン、面白いんです。胸きゅんです←
このタイトルを見つけた時、すごく嬉しかったです!
私も同じく「トム・・」と同じくらい好きな、ピ...
このタイトルを見つけた時、すごく嬉しかったです!
私も同じく「トム・・」と同じくらい好きな、ピアスの作品です。
望むものが手に入らなかった時どうするかで、その人が分かりますよね。
ラストの場面では、涙があふれてしまいます。
かなり古かったですが、こちらでは図書館で借りられました。
こういった良書が、あまり知られることもなく絶版になるのはもったいないですよね。
この本についてコメント出来て、手放しで喜んでおります・笑
レビュー、ありがとうございました。
そのうち「トム…」も再読してみたいと思ってます。