- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784001141016
作品紹介・あらすじ
裕福に暮らすチト少年は、お父さんが兵器を作る人だったことを知り、驚きました。じぶんが不思議な(みどりのゆび)をもっていることに気づいた少年は、町じゅうに花を咲かせます。チトって、だれだったのでしょう?小学4・5年以上。
感想・レビュー・書評
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ミルポワルという町に、みんなからチトと呼ばれる小さな男の子がいました。金色の髪はカールして、目は大きく青く、頬はつやつやとばら色でした。おとうさんもおかあさんも美しい人で、家は大きくピカピカです。おとうさん氏は大きな工場を持っていました。その工場で作る鉄砲や大砲を世界中に売っていたのです。
チトは、料理担当のアメリー、召使いのカルロス、庭師のムスターシュおじさん、工場監督のかみなりおじさんたちから色々なことを教わります。なかでもムスターシュさんとは特別な秘密を共有しています。
チトは、隠されていた種に触れたら芽を出させる「みどりのゆび」を持っていたのです。
ミルポワルの町を見て回ったチトは不思議に思います。どうして刑務所はこんなに寂しいの?どうして貧しい人たちはボロボロの家に住んでいるの?どうして病気の人は天井だけを見ているの?
生きるには「望み」が大切だとチトはおもいました。その人達を愛すれば希望を持てる?お花を咲かせたら?きれいになってきっといい気持ちになるよ。
チトが咲かせた花は、ミルポワルの人々の気持ちを変えていきます。
そのころおとうさんの工場は大忙しでした。
2つの国が戦争を始めたのです。
どうして戦争なんかするの?弾の代わりにお花を咲かせればいいのに。
チトは「みどりのゆび」を使って戦争をやめさせようとします。
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とても幸せな生まれの男の子が、みんなを幸せにします。ラストは少し切ないような。
言葉もお話も優しいのですが、名前やたとえに皮肉さが感じられます、さすがフランス人 笑。
この世は一つの面だけでは有りません。紳士のおとうさん氏は死の商人、厳しいかみなりさんはチトが困ったときは愛情で決断する、争いが起きた時好きな相手と味方をする相手は違う、規律とは人を縛るのではなく人を幸せにするもの…。
チト少年は、誰だったのでしょう?詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
好きな本を再読。
この物語は、大人の方にも読んでもらいたい。
訳者のことばにあるように
「『星の王子さま』と共通するフランスの童話の特徴、はなしの筋よりもきめの細やかさ、詩的な雰囲気や言葉のおもしろさが作り出す、宝石のように美しい文章」に浸れます。
そして何より、チトに出会えたことが嬉しい。
愛さずにはいられない。チトのまっすぐな言葉にハッとさせられる。(星の王子さまもそうだった)
「みどりのゆび」の持ち主のチトは、町中に花を咲かせ現状を変えていく、人の心も変えていく。
自戒を込めて、古い考えに凝り固まった大人よ、子どもの言葉に耳を傾けよう。
挿し絵がまたとても良い。 -
再読。
上手に花を咲かせるひとのことを「緑の指を持っている」などと表現するが、このお話はただ優しいだけではない。
穏やかな言葉で紡がれるから見逃してしまうところだ。
レビューが書きにくいのは、その部分である。
ミルポワルの町の裕福な家に生まれ育った少年チト。
しかし学校では居眠りばかり。
「ほかのお子さんと同じではない」という理由で退学させられてしまう。
でもそこは、おおらかなお金持ちの考えること。
両親は、学校の代わりに色々な体験をさせることにしたのだ。
そして、庭師のムスターシュから植物について教わるのだが、チトは自分の親指が「みどりのゆび」であることを知ってしまう・・
人知を超えた不思議な力というものは、それを持った者を時に苦しめる。
刑務所・貧民街・難病を抱える女の子の病室と、チトは次々に花を咲かせていくが、チトの心は休まる暇もなかったのではないだろうか。
ある国と国との間で始まろうとしている戦争。
その罪深さを知り、嘆いたチトは「みどりのゆび」を使うことに決める。
出来すぎたメルヘンと、思われる方も多いことだろう。
しかし「あり得ない」と言う前に、なぜそう思うのかを考えてみる。
考えれば考えるだけ、何かが心の中に実ることだろう。
花というのはひとつの比喩であって、誰しもの胸の中にある種を、芽吹かせ育てることが大切なのだとこの作品は教えてくれる。
深読みし過ぎかもしれない。
その行きつ戻りつの繰り返しで、読むたびにこちらの心も揺れてしまうのだ。
わが家の庭を見て[みどりのゆびをお持ちですね]なんて褒めてくれる人もいたりする。
本作を読んだら決して言わないことだろう。 -
フランスの童話です。
いい大人が童話なんて読んでどうするの?
そんな声が聞こえてきそうです。
とんでもない。
特に不朽の名作と呼ばれる童話からは、大人が今読んでも学べることがたくさんあります。
もっとも、本書はどちらかと云えばマイナーな部類の童話でしょう。
物語の主人公は、ミルポワルというまちに住む、「チト」というちょっと変わった少年です。
他人より遅れて8つの年に学校へ入りますが、居眠りばかりしてついには退学させられます。
ただ、チトには他のだれもできない特技がありました。
それは、「みどりのおやゆび」を持っていて、どこにでも花を咲かせることができるのです。
貧民街にも、刑務所にも、病気の女の子の病室にも、動物園にもいっぱい花を咲かせ、みんなを幸せにします。
ところで、チトはお金持ちの家の生まれでした。
おとうさんは戦争に使う武器や軍需品を製造する工場を経営していました。
そして、バジーと呼ばれる国と、バタンと呼ばれる国の間で戦争が起きます。
おとうさんの経営する工場はバジーにもバタンにも武器を供給します。
チトはこのことを知り、とても悲しみます。
ただ、悲しんだだけではありません。
チトはとても勇気のある少年でした。
大砲や機関銃など、バジーとバタンに売る武器に「仕掛け」をし、いざ使おうとすると花が咲くように仕向けたのです。
バジーとバタンは戦争するのをあきらめ、平和条約を結びます。
まるで、おとぎ話だと笑うかもしれません。
ただ、注意深く読むと、物語の含意は深いものがあります。
チトは、おとうさんの工場を監督する「かみなりおじさん」に、バジーとバタンがなぜ戦争するのか訊ねます。
かみなりおじさんは、石油が埋蔵している砂漠地帯を両国が欲しがっているからだと説明します。
チトは「どうして石油なんかほしいの?」と至極当然の質問をします。
それに対して、かみなりおじさんはこう答えます。
「ほうっておくと、ほかの国に石油をとられてしまう。戦争をするには、どうしても石油がいるのです、だからほしがる。」
チトは、「もしぼくのききちがいでなければ、バジーとバタンは石油のために戦争をはじめようとしていて、そのわけは、戦争にはどうしても石油がいるからだ。」と考え、「そんなの、ばかげてるよ。」と、やはり真っ当なことを云って、ついには叱られてしまいます。
随所に気の利いたアフォリズムがさりげなく散りばめられているのも本書の特色。
たとえば、病気の女の子はこんなことを云います。
「不幸かどうかわかるためには、幸福だったことがなくちゃだめだわ。あたしは生まれつき病身なの。」
もっとも、こんな言葉は日めくりカレンダーや自己啓発本の類を読めば、いくらも出て来るでしょう。
ただ、物語をこよなく愛してきた自分としては、物語の中に埋め込まれた良い言葉を、当の物語の中から、ご自身の手ですくい上げてほしいなあ、と思うのです。
童話なので言葉は大変にやさしく分かりやすいです。
くわえて宝石のように美しい。
特に、最後にチトが天に昇っていく場面はうっとりするほどです。
心がささくれ立っている時に読むといいかもしれません。
おススメです。 -
60年近く前に翻訳された、フランスの童話。著者のドリュオンは小説『大家族』で有名な文学賞であるゴンクール賞を受賞した作家です。
小学校低学年の年齢に当たる少年チトは、町の大金持ちの両親やその大きな家で働く家政婦や庭師のおじいさん、両親の工場で働くかみなりおじさん、そして馬たちに囲まれて生活しています。学校へ通うことになると、まるでそのシステムに適応できず、すぐに退学することに。両親の指示によって庭師やかみなりおじさんに物事を学んでいくことになるのですが、そのうちに自分の家が武器工場だと知ることになります。
中盤までは横へと筋が流れていくお話だったのが、中盤からはそれまで語られた世界や人びとを濃く描くことによって物語の深みが増していきます。さながら、解像度を上げた部分を端的に、詩的な種類の言葉で語るというように。そういったクローズアップする技法だけではなく、物語の展開にも、ちょっとだけ哲学的なエッセンスを盛り込んだり、物事をフラットに見ることでわかってくる「そもそもの基本」に立ち返る考え方によって物語を通じて現実のベールをはがしてみたりしています。そういうやり方が、物語をおもしろくするんですね。
ネタバレになりますが、最後には、主人公・チトの属性が人間ではないものとして描かれます。チトが考えたこと、成したことを人間のままとしての行いにできなかったところに、著者の「人間への少しばかりの諦念」があったかもしれません。そこまで利他的で博愛的でみんなを幸せにしてしまう存在が、子どもだとしても人間であることに、現実をよく知るであろう作家の目にはほうっておけない食い違いが見えたのかもしれません。
さて、最後に訳者解説から、再び技法についての引用を。
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フランスの童話には、ひとつの特徴があります。おはなしの、筋よりもきめこまかさ、詩的なふんいきやことばのおもしろさを、たいせつにすることです。そしてそれらをうまく使って、まるで宝石のような、うつくしい文章をつくりだすのです。 (p213 訳者解説より)
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僕が物語を書くとき、それも最近の何作かを思い浮かべてなのですが、横の流れであるいわゆる「筋」と、その場その場で立ち上る縦の「味わい」を、意識して書きはしています。でも、そこにぎこちない部分があるというか、まるで数本の竹ひごの骨だけで簡素に組み立てた模型のような感じがちょっとします。肉付けや試みという点で、自分としては物足りないわけです。もっと自由にいろいろとやって楽しめばいいのに、どうもしゃちこばる(まあ、やれている要素もけっこうあるにはあるのですが)。たぶん、創作に使う時間がぎりぎりだからだろうな、と思いますが、そこは二倍の時間がかかったとしてもやっていくといいのではないか、と今回、本作品に触れて、そう感じました。
というように、物語世界を楽しみながらの、学びのある読書になりました。……よき。 -
児童文学に駄作無しと思っています。大人が子供に読んで欲しい本というのは真剣に選んでいるので必然的に名作が残っていくのでしょう。
本作もレビューするのがおこがましい作品です。植物を異常繁殖させる能力を持った、恵まれた家に生まれたチト。彼の生家の家業が兵器商人だと知った時どうするのでしょうか?
人と人が争う事、人が人を裁く事。局地的な平和と貧富の差。誰かの不幸で成り立っている世の中の仕組み。色々な要素が詰まっていて、読み取るものが沢山入っています。
特に目新しい事が書いてあるわけでは実は無いのですが、大人になると真っすぐこういう事と向かい合っていく事も減り、「世の中はこういうものだ」という固定観念に囚われがちなので、こういう素朴に真っすぐ問いかけてくる本は新鮮です。 -
小学校になじめず、宮殿のような自宅で敎育を受けるちょっと変わった男の子チト。友達は馬と庭師のおじいさんだけ。ある日彼は、好きな場所に、好きなタイミングで、好きな植物をにょきにょきと生やすことができる「緑の指」を持っていることに気づく。管理社会化が進む戦後のフランスで書かれた、植物を使った牧歌的なテロで社会機能を平和的に麻痺させていく反戦児童文学。
『星の王子さま』が好きな人が、その次に読むといい本。 -
「花咲家の人々」で桂くんが感想文に取り上げていた本との事で興味を持ちました。とても良いお話でした。挿絵も素敵です。最後にチト自身の事を明らかにして結ぶわけですが、それは結局、人間がおろかさに気付いて戦争を回避したという事でなく、人知を超えた存在の力よると言う事になってしまってないか?と、いささか残念に思ってしまいました。それはキリスト教の影響の為でしょうか。もっと単純に物語を受け取ればよかったかな。