プリズン・サークル

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 47
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000615266

作品紹介・あらすじ

受刑者が互いの体験に耳を傾け、本音で語りあう。そんな更生プログラムをもつ男子刑務所がある。埋もれていた自身の傷に、言葉を与えようとする瞬間。償いとは何かを突きつける仲間の一言。取材期間一〇年超、日本で初めて「塀の中」の長期撮影を実現し、繊細なプロセスを見届けた著者がおくる、圧巻のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  •  刑務所での刑罰というイメージが、根底から覆されるノンフィクションです!

     プリズン・サークル‥塀の中の円座。受刑者同士が語り、問い、己の罪と向き合うだけでなく、過去の記憶と喜怒哀楽の感情を呼び起こします。そしてそれらを表現する言葉を獲得し、新たな、いや、ひょっとしたら人生初の価値観や生き方を身に付けていく姿が克明に描かれています。
     読み手はそれらを目の当たりにし、人間的成長や相互影響の大きさを実感し、心を揺さぶられます。

     受刑者の語りからの共通点として、「加害者はかつてもれなく何らかの被害者だった」という事実が浮かび上がります。つまりは「負の連鎖」なのですね。だからこそ、本作で描かれるTCユニット(後述)が、塀の中ではなく、塀の外にこそシステム構築される必要があると痛感しました。
     もうこれは学校教育の中で行われる「対話的で深い学び」に他ならない気がします。ICT(情報通信技術)教育も大切ですが、学校は何か大事なことを疎かにしている気がしてなりません。痛切に考えさせられる秀作でした。

    (以下は、本書刑務所の特徴と著者の紹介です)
     島根にある官民協働の新しい刑務所 : 社会復帰促進センター。初犯、刑期8年以下、男性のみ対象とし、これまでの刑務所の顕著な特徴である〝懲罰対象で半強制の「沈黙」〟の逆のアプローチを推進する刑務所です。特に、受刑者(訓練生)同士の対話により更生を促す「TC(セラピューティック・コミュニティ=回復共同体)」プログラムを、日本で唯一導入しているのが大きな特徴です。

     著者は、米国の受刑者を取材し続けてきた、ドキュメンタリー映画監督の坂上香さん。2022年3月初版発行です。坂上監督による同名ドキュメンタリー映画が2020年1月に公開され、文化庁映画賞・文化記録映画大賞を受賞されているようです。取材許可まで6年、プログラムの密着撮影2年、完成まで計10年を要したとのこと‥。(私はまだ拝見しておりません。動画配信サービス・販売DVDも見つけられず‥、残念です)

  • 島根あさひ社会復帰促進センターという、犯罪を犯した男性たちを収容する刑務所がある。
    そこの画期的な更正プログラムを撮ったドキュメンタリー映画『プリズンサークル』の十年に及ぶ撮影秘話と後日談が収められたノンフィクション。

    犯罪を犯す人間はどういう環境で育ち、どういった思考を持ち、どうやって罪を犯してしまったのか。
    彼らが語る、信頼できるはずの大人からの虐待、周囲からのいじめの被害、自身の加害体験に暗澹たる思いがした。
    暴力は連鎖する、とはアリス・ミラーの言葉。
    犯罪の加害者たちに与えられたのが暴力ではなく、ぎゅっと抱きしめる愛情深い手だったら、と思わずにはいられない。

    みなさん、よくぞ話してくれました。
    坂上さん、よくぞ書いてくれました。

    塀の向こう側にサンクチュアリ(安心できる場所)を作ることができたんなら、塀のこっち側にも作れる。
    それにはこっち側の許容と理解が必要だ。

    読み終わったあと、あらためて、帯の教育学者の上間陽子さん(『海をあげる』)の言葉が突きつけられる。

    「私たちもまた泣いているあの子を見捨てた加害者のひとりではなかったか?」

  • 「プリズン・サークル」 記憶のふた外し自分と向き合う 朝日新聞書評から|好書好日
    https://book.asahi.com/article/14620337

    受刑者 語られぬ内面に迫る [評]荻原魚雷(ライター)
    <書評>プリズン・サークル:北海道新聞 どうしん電子版
    https://www.hokkaido-np.co.jp/article/681172?rct=s_books

    プリズン・サークル - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b600988.html

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ◆安心して過去 語れる場[評]河原理子(ジャーナリスト、東京大特任教授)
      プリズン・サークル 坂上香著:東京新聞 TOKYO Web
      h...
      ◆安心して過去 語れる場[評]河原理子(ジャーナリスト、東京大特任教授)
      プリズン・サークル 坂上香著:東京新聞 TOKYO Web
      https://www.tokyo-np.co.jp/article/180105?rct=book
      2022/05/30
  • マイノリティ同士が出会い心を開かせ合う経験がそこでは積み重ねられている。

    このような積み重ねが、刑務所のようなところではなかなか行われないだろうがもっとも大切に行われるべきだと思う。刑務所じゃないところでも、心が通う取り組みの場がもっと必要だと思う。

    島根あさひの中のごく一部の人たちが経験し、参加した一人一人の、人生が言葉、出会い、助け合いにより立ち上がってくる。これまで助けを求めることが選択肢になかった人たちが少しずつ、手を伸ばし口を開き、、

    著者が交流していた、東京拘置所の死刑囚の話。
    ハワイ大学のジョンソン教授は、日本の死刑制度が過剰に社会との交流を阻んでいる、日本では死刑囚が、社会的死と、死刑執行により二度殺されるという批判が記されている。
    日本でも力があるものはなんぼでもやり直しがきいたり罪にさえ問われないことが多いが、この死刑囚にかんする言説以外にもそもそも社会的弱者として生まれたり、一度なった者は何度も何度も陰湿な社会的死、無関心、そうなって当たり前という関心のみに晒され続ける。

    映画でも、この本に載っている写真でも、あさひの受刑者の後ろ姿、皆同じ髪型、、子どもの頃から髪型や髪の色、着るものに細かい規則を作ってそれを守らせる、昔の軍隊みたいなことをみんなおかしいと思わないで今も変わらずやってる社会おかしくないか。受刑者だろうが学生だろうが、なんで髪型まで他人に決められてて当たり前と感じてしまうのか。

    自分のものがたり。
    学び落とし。
    エモーショナルリテラシーの獲得。
    感盲。
    いろいろな言葉が全く想定すら想像すらできないレベルのもので、あまりに無知であったし、このサークルの中で語りだまり笑いうつむきTCに取り組む方たちにとっても未知の塊だったと思うのだがこれだけの果実がひとりひとりの言葉となり行為となり生まれることに恐れ入る。

    それにしても日本のシステムのひとでなしっぷりがすごい。腹が立つ。
    映画でも忘れられないシーン、映画の取材の最後に監督と面談した受刑者が、規則外の発言(発言のたびに手をあげ許可を求めるとルール自体意味がわからない!)監督という著者である坂上さんにはにかみながらも笑顔で、握手してもいいですかと聞いたシーン。握手もハグもできない、そのことがとても理不尽であり、痛く、辛い。誰とも触れ合うことができない規則これで更生とか社会に戻るため、なんてなんなんだろうか。
    映画でも本書でも泣いてしまうところ。
    さらに最後エピローグで坂上さんの家族が同じ時期に別の刑務所に入られていたことが記されていて驚いた。坂上さんの共感力、感度の高さ。人それぞれの人生の蓄積、積み重ねだものの重みによるところもあるのかなと思う。
    普通の刑務所より、明るい建物、壁、パステルイエローとグレーの作業制服、それでも私には無機的で冷たい空間に感じられたが本書の表紙の装丁、装画は黄色い椅子が光り輝く金色に見えて、読み終えたあと表紙を見て、ハッとした。繋がり、関わり、愛情、希望を感じる金色の光。

  • 図書館で借りたのですがちょうど借りるタイミングで同タイトルの映画を先に観ることができ
    、映画を振り返りつつ理解を深めるという感じで手にすることができました。

    映画ではちょっと伝わらなかったと感じた箇所も本書を読むことで「ああいうことだったか」とか「あの場面の背景にはそういう経緯もあったのか」などよくわかるところがありました。
    機会があるなら映画と合わせて読まれるといいと思います。

    しかし取り組みとしては素晴らしいと思ったものの、これが全国に広まるわけではないこと、更生は大事なのは当たり前ではあるけれども、例えば死者が出てしまっているような事件の受刑者である場合(実際主要な登場人物にそのような罪を犯してしまった人が出てきますが)、その彼がTCを経て社会復帰後、目覚ましいほどの感受性の発展や感情や語彙の獲得していることを知ると「亡くなった人はもう何も得ることが出来ない」という現実に私は複雑な思いがしてしまいました。その辺りをこの元受刑者の人は考えるのだろうかということも疑問でした。

    罪は罪ですが、やはり窃盗と殺人は全く違う罪であり向き合い方も当然変わるのが普通なのではないかと私は考えるので、最後の方の試写会のくだりはもやもやとした気持ちで読み進みました。
    本書で13章にあたる部分は、映画では描かれていないことであり、それを知ることができたのはとても良かった。きっとこの部分を映画にも盛り込みたかったのではとも思いました。

    そしてエピローグに綴られた著者自身の話は衝撃的でした。私も著者の立場によく似ている境遇にあるからです。このような本を手に取る人には知識や社会を識るというためよりも(もちろんそういう人もたくさんいるでしょうが)犯罪というものに対する何らかの当事者性がある人が多いような気がします。
    奇しくも作品としての刑務所と身内が収容されている刑務所を行き来しなくてはならなくなり、帰りの車の中で声を上げて泣いたという著者の告白には私も思わず泣きました。

    人生って時々何の巡り合わせなのかそういう皮肉な現実にぶち当てられてしまうことがあるなとつくづく感じます。よくぞ最後まで映画を仕上げ本書を著してくださったと思います。
    最後のページにあった喪失の出来事についても何があったのか、乗り越えることができてかつ可能ならばいつか本にしていただきたい。
    今手に取るべくして取った必要な一冊でした。

  • 衝撃的だ。犯罪者といえば忌むべき恐ろしい存在で厳しい懲罰と管理が必要だ、というのが固定観念だったことに驚かされる。本書を読むと、刑務所に収容されている受刑者こそ、世代間連鎖の被害者であり、社会的弱者であり、刑務官、弁護士、社会常識のほうが冷酷で無慈悲な悪だと感じ、映画の主人公たちに感情移入し、エールを送りたくなる。成熟した社会は、加害者をうみださないのだろうか。映画を見てみたい。

  • 出版のタイミングで期間限定の配信があり、同名の映画と監督のトークイベントを先に見たのが大正解。このふたつはそれぞれ完成された作品なのだけど、併せて鑑賞することで見えてくるものが立体的になってくる。個人的な傾聴経験からも、社会には「安全に語り合える場」が必要だと常々感じるところでもあり、「今ここ」で、自分にできる事を続けたい。

  • 2008年に「新しい刑務所」として開所された「島根あさひ社会復帰促進センター」で行われているTC(回復共同体)という更生プログラム。それは、受刑者同士が互いの話に耳を傾け本音で話し合いながら罪と向き合う。
    日本で初めて刑務所内での長期撮影を行った模様が映画化された『プリズン・サークル』(坂上香監督)の書籍版。映画で登場した彼らの「その後」を知れ、罪とは、罰とは、更生とは何か?ということを問いかけてくる。昨年、映画を見ましたがその衝撃が大きく、このように書籍化され冷静に自分自身に向き合えました。

  • 表題作の映画が公開されたらしいことは何となく知っていた。今年になって本書が刊行されて、ああ『ライファーズ』の坂上さんか、と気づき読んでみることに。(『ライファーズ』を読んだのは4、5年前かなあ、と思いながら本棚を検索したら…もう10年近くも前だった!びっくり。最近、時間の感覚が実際より短いことが多くて…分母となる時間が伸びたせいかなとやや自虐的に思い返しつつ。汗)

    昨日、刑法が115年前に制定されて以来、初めての改正案が成立したらしい(正確には、成立の見通し、だったか)。懲罰ではなく更生を軸にするという。私個人としては、ようやく、という思い。SNSなどでは、何かと自己責任、犯罪には厳罰化の声が多いように思うが、はっきり言ってそれでは効果がないことは、様々な検証からほぼ間違いないといわれている。再犯してしまう人の多くが、出所後の支援がほとんどないために社会から排除されてしまい、社会での受け皿がないことが再犯に走る大きな原因である。そのことが社会に浸透していない。犯罪を防ぎたければ、社会で彼らを受け入れる土壌、意識、包摂の文化が不可欠なのだ。加害者に税金を使う前に被害者救済だろ、という向きもあるが、もちろん加害者の更生に向けた施策と同時に、あまりに希薄な被害者救済の手立ても進めていく必要もあるだろう。加害者がいれば被害者もいるのだから、どちらにも手を差し伸べなければ、本当の意味での問題解決には至らない。
    そのためのひとつの方法として、修復的司法の取り組みがあると思うが、思いがけず、そこに話が広がっていた。以前から興味を持ち書籍などをあたっていたが、海外では1970年代から取り入れられている手法という記述が本作中にあった。30年くらいの歴史があるものと思っていたが、そんなに以前からある考え方だったとは。死刑制度の存続を支持する人が多かったり、自己責任論、厳罰化の流れが強い日本がいかに遅れているかを改めて痛感する。
    今は包摂の時代。共生、多様性を実現したいなら、過度の自己責任論、個人への責任の押し付けは排除を生むだけだと、皆が理解しなければならない。

    本書に登場する「犯罪者」たちが、犯した罪と向き合い、自分自身と向き合って、彼らが経験できてこなかった「人とのつながりの中で、自分も相手も尊重しあう」体験は、彼らを生き直させる。更生し人として成長し「被害者」や「被害者家族」からも応援され、社会で役割をもって暮らしている姿に涙がとまらなかった。

    すべての人が同じように変われないかもしれないが、変われる人もいるのなら、それは取り組む価値がある。結局は、彼らの更生は、私たち社会に返ってくる。
    みんながそう思えるように、社会が包摂の概念を受け入れられるように、地道に進んでいくしかないのかもしれない。

    筆者によると、施設での職員の入れ替わりに伴って、島根あさひでの取り組みは本作が書かれたころに比べて、活動の様相が変化して弱くなっているらしい。なんとも残念なことだ。ぜひとも続いていってほしいし、ほかの更生施設でも取り入れてほしいと切に願う。

    そして本作を通して強く思ったのは「話す」ことと「話を聞いてもらう」こと、対話の持つ力だ。修復的司法や精神療法としてのオープンダイアローグ、メンタライゼーションや依存症の自助グループの活動、そしてこの島根あさひでの取り組みなど、やり方の多少の違いこそあれ、対話が人を癒し対話が人を変化させている。ベースとなるところはどれも同じで、そのどれもが、人の中でその人がそのまま受け止められることで、人を癒しているということ。
    つまるところ、実はその人自身にはちゃんと回復する力があって、その力を引き出すのは、その人を丸ごと受け止めてくれる誰か、なんだよなあ。
    犯罪や精神疾患に限らず、虐待だったりDVだったり生活困窮だったり、社会の中にある解決すべき課題は、どこかの時点で、その中の誰かが、人とのつながりの中に入ることができたら、きっと何かが変わるはずなのに。
    社会的な孤立や排除は、社会の問題を弱者に押しつけているにすぎない。人は人の中でしか癒されない。

  • とても面白い。

    もちろん全員ではないが、自分の犯した罪に対して罪悪感がない受刑者って一定数いるんだろうなと思った。
    本書でも「なんで悪いのかわからない」とか「なんで自分ばっかりこんな目に遭わないといけないの」とか言ってる人何人もいて驚いた。

    だって彼らは公判でも反省していますと言ったり反省文書いたりする。
    でも、やっぱほんとはそうでもないんだと驚いたし、
    そのリアルな内心を拾えたことが本書のまず大きな成果だと思う。

    受刑者たちは幼少期に虐待やいじめなどの経験がある子も多く、生きづらさを抱えている人が大概であるから、被害者意識の方が強いというのも興味深い。
    そして自分と向き合って自己憐憫を認めてその原因を考えてそれを取り除いた上で初めて、罪悪感をもち反省する気持ちが芽生える、ということもよくわかった。
    私たちは反射的に「悪いことしたら反省しろよ」と思ってしまうが、それは実は途方もなく長いプロセスが必要なんだな。
    罰としての刑務作業ではなく、罪悪感を持ち反省に至るような思考のプロセスを形成できるトレーニングを提供しないと、絶対にまた再犯するだろうしこの世から犯罪はなくならないと強く思う。
    来年の拘禁刑導入を機に、刑罰の形が良い方向に変わるといいな。

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