会計と犯罪――郵便不正から日産ゴーン事件まで

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000613415

作品紹介・あらすじ

厚労省村木元局長が無罪となった郵便不正事件の研究から未踏の「犯罪会計学」を切り開いた「伝説の会計士」の眼は,日産ゴーン事件をも鋭く抉っていく.核心は経済事件における特捜検察の捜査思想と冤罪構造にあった.

感想・レビュー・書評

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  • 粉飾決算といった会計絡みの経済事件に関する検証がメインかと思ったが、むしろ特捜検察のあり方に対する検証がメインの本だった。

    しかし、本書の著者の専門分野が経済犯罪に関する研究であるだけに、その分析を行った後段の部分は、勉強になることが多かった。

    特捜検察の捜査、立件においては、犯罪を構成するストーリーの構築が必要であることはよく言われるが、それだけではなくそのストーリーを支える証拠として何を採用するかが決定的な要因になっている。

    そして、証拠のうち、自白の検面調書などの証拠(乙号証)以外の証拠(甲号証)に対する同意・不同意が、検察のストーリーを支える上で非常に重要な役割を果たしているということが分かった。

    一般的に、経済事件において、弁護側は事実関係について検察と争うことは非常に少ないようだが、本書で検証をされている郵便不正事件(厚労省村木元局長に対する立件)なども見ると、経済事件におけるそもそもの公判戦略自体が見直されるべきなのではないかと考えさせられた。

    また、最後に日産のゴーン元会長の起訴に関する分析の中で筆者が述べている、「この裁判の帰趨を決めるのは結局国民世論だ」という指摘も、新鮮だった。

    経済事件では、客観事実より検面調書による犯罪のストーリーが判決を左右する傾向があるとのことだが、そのような状況において、ストーリーに基づく関係者の調書だけではなく客観的な事実関係を十分に考慮した判決を裁判所が出すためにも、世論が裁判所、検察、弁護団のそれぞれを十分に監視することが重要だということではないかと感じた。

  • 【ここで最高検は、社会の強烈な検察批判の幕引きをすべく、全検察組織を挙げて大坪特捜部長と佐賀副部長を起訴したのである。】(文中より引用)

    「犯罪会計学」を説く著者が、近年に発生した郵便不正事件や日産ゴーン事件といった経済事件を論じつつ、日本の司法・検察の問題点を鋭く指摘した作品。著者は『公認会計士vs特捜検察』や『司法に経済犯罪は裁けるか』などの著作で知られる細野祐二。

    世の中の経済事件に対する見方ががらっと変わる衝撃的な内容でした。特に郵便不正事件以降の流れを詳細に論じた箇所は本書の白眉とも言えるかと。当事者たちの頭の中に潜り込んだかのような緻密な筆の運びに凄まじいさすら感じました。

    末尾に出てくる「戦時刑事特別法」の記述は圧巻☆5つ

  • 前半は経営コンサルタントとしての「自慢話」のようだがどこか面白味と可笑しさがある。ドラマとしても面白いと思った。
    東京地検特捜部の「郵便不正事件」と「日産ゴーン事件」の分析は鋭い。ただ、この本はこの二つだけを取り上げるだけでよかったのではないか。
    東京地検特捜部が多くの問題を抱えた組織だとは感じていたが、本書を読んでその内容がクリアにわかったように思えたし興味深く読めた。
    しかし「会計と犯罪」という表題には内容からちょっと違和感を感じる。前半の自慢話といい、本書の編集にちょっと不満。

  • 私怨が先に立つ感があり、読むのを躊躇。

  • ふむ

  • 他の方も書いてますが、会計の話は無く1割筆者のコンサルタントとしての業績、7割郵便不正の詳細を踏まえ村木さんの冤罪が生み出されるまで、特捜部の問題点の指摘。2割は日産ゴーン事件。ゴーンさんは無実との主張。(ここは一部会計要素あり)。
    ドラマにあるのうな特捜部の強引なやり方が本当にあるんだ。という衝撃と火のないところにも煙は立つ、いや、煙を無理やり流すことで火事にすることがわかった。
    それで犯罪を取り締まっていることもあるだろうし素人目で良い悪いは分からないが、アンチ特捜部の視点だけではない意見も聞いてみたい。
    日産ゴーンはテレビを見ているだけだとゴーンさんが過小所得申告、会社のお金使い込みとしか捉えられなかったが、そうとも言えない、弁護側の意見を思慮することが出来た。でもこちらもやっぱりゴーンさんの黒い所もあったんじゃないか?とは思うので、両側面で見ながら争点ポイントをみたいなと思った。

  • 時系列を時間単位で延々と追っていく中盤は正直しんどかった。会計の点からの分析をもっと期待していたので、星1つ減らした
    著者とは顧問契約して色々意見を聞いてみたい。特に収益認識やリースなど、何の意味があるのか分からない最近の会計について(笑)

  • 決算がらみの犯罪の実例的な本かと思っていたが、村木厚労省次官の不当逮捕に象徴される検察の不正捜査の話であった。
    そもそも日本の検察は起訴後の有罪率99%であり、こんな国はおよそ日本以外の民主主義国家では存在しない。どんな人でも有罪にできる訳で、「一般論として、言ってもいないことを検面調書にすることは良く有る。証拠を作り上げたり、揉み消したりするという点では(証拠捏造も)同じ。」ということらしい。だからこそ捏造等も平然と行われた。村木氏が無罪になったのは「幸運」だっただけだそうだから、同様の事は今まで日常的に行われてきたのであろう。
    そもそも検察に捜査権が有ることが異常。なんでも日本では官僚組織として権力(国民ではない事に留意)に奉仕する警察では、強大な権力を持っている「巨悪」には歯が立たない(そっちもどうかと思うが)、というのが地検の特捜部が存在する理由という。
    そして上記事件の失点を挽回する事件として出てきたのが、日産ゴーン事件とのこと。日産内の社内抗争に検察が介入し、現執行部が虎の威を借りてゴーン会長を追い出した事件。有価証券報告書の虚偽記載(そもそもあの報酬額は虚偽ではない。理由は本に書かれている)ごときで、いちいち経営者が逮捕されていては日本経済は崩壊する。私も有報の作成には何年も携わってきたので、本当にこの事件には違和感しかなかった。ゴーン氏はその後も為替スワップ取引で会社に損害を与えたなどの罪状で何回も逮捕されているが、このスワップ取引はヘッジ目的で組まれており、スワップだけで見れば確かに損失を出したかもしれないが、それは会社としては相殺されている。これも私事だが、デリバティブ管理業務も10年以上やってきたが、スワップなぞ基本ヘッジ目的であり、こんなことで逮捕されていたら財務担当役員は全滅である。
    かようにこの国では逮捕しようと思えば、いくらでも可能であり、およそ真っ当な民主国家とはいえないから、非合法な手段でレバノンに「亡命」するのも理解できるというものだ。

  • 元会計士による経済犯罪の解説。とても面白い。
    厚労省村木さんの無罪判決からの大阪地検特捜部のフロッピー改竄事件は圧巻でサスペンス映画を見るようだ。
    このために信頼が地に落ちた大阪地検が、安倍1強政権と対峙し森友事件をまともに捜査するのは、そもそも無理だったのかもしれない(信頼回復の良い機会だったのだが)。
    にしても、虚偽自白で村木さんをハメた塩田部長は、逮捕されず出身地の小豆島町長に収まったという。ここにも理不尽なことが起きていた。
    筆者自身の逮捕をはじめとする体験談がまた読ませる。
    ゴーン逃亡で、日産ゴーン事件の司法判断が見れないのはちょっと残念。

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著者プロフィール

1953年生まれ。早稲田大学政経学部卒業。82年3月、公認会計士登録。78年からKPMG日本およびロンドンで会計監査とコンサルタント業務に従事。2004年3月、キャッツ株価操縦事件に絡み、有価証券虚偽記載罪で逮捕・起訴。一貫して容疑を否認し、無罪を主張するが、2010年、最高裁で上告棄却、懲役2年、執行猶予4年の刑が確定。公認会計士登録抹消。著書に『公認会計士vs特捜検察』、『法廷会計学vs粉飾決算』、『司法に経済犯罪は裁けるか』。

「2017年 『粉飾決算vs会計基準』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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