ルポ 同性カップルの子どもたち――アメリカ「ゲイビーブーム」を追う

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000611138

作品紹介・あらすじ

ニューヨークで暮らす著者の長男の親友チャーリーには、二人のパパがいる。この一〇年間で子どもを育てる米国の同性カップルは倍増し、一〇万組以上にのぼるとされる。チャーリー一家のような同性親家庭は、米国の都市部を中心に日常の風景となりつつあるようだ。同性婚の合法化など性的マイノリティ(LGBT)の権利保障が注目されるなか、本書は、米国で進行中の「家族のかたち革命」の現実を追う。里子や養子だけでなく、精子・卵子提供、代理出産など生殖補助医療で子をもうける同性カップルと、その子どもたちの肉声を伝える。

感想・レビュー・書評

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  • 貴重な証言が数多く集められており、著者の取材能力の高さと真摯さは疑いないが、他の方のレビューにもあるとおり「良いことと悪いことのバランスが悪い」と感じた。いちおう両論併記・紹介という形を取ってはいるが、全体的な印象は明らかに、読者をポジティヴな感情へと導くものだ。終章で紹介されている日本のレズビアンカップルが、本質的に女性をどうしようもなく搾取する行為である代理出産を、ゲイ向けに「軽率に」(としか言いようのない態度だった)仲介する事業を興そうとして「炎上」した人たちであることを、いったい著者は把握しているのだろうか。知っていて頬かむりしているのなら、相当な確信犯である。

    さらに本書には、そういった著者による「印象操作」を除いても、ぞっとさせられる記述がいくつもあった。
    自分たちの両親、甥姪、カップルの一方が前妻ともうけた子供たちまで動員して「すばらしき拡大家族」を演出しつつ、息子たちの1歳の誕生日を華々しく祝うそのアルバムに、生命を懸けて彼らを生んだ代理母の存在はかけらもない。著者にそれを指摘され、著者の「パパ友」でもあるゲイ男性は「当時は僕らも固定観念に縛られていたんでしょうね。今なら彼女(代理母)の写真も入れるんですけどねー」とあっさり言い放つ。
    紆余曲折を乗り越えて、みごと子供を「ゲット」したゲイカップル。その一方が他方に言う。「この子たちを手に入れるのに、16万ドルかかったんだ。それほどに値打ちのある子供たちのため、きみは家庭に入って育児に専念してもいいんじゃないのかい?」
    アメリカで行われる代理出産は有償のものが多い。「だから代理母の胎内に、受精卵を2つ戻してもらったんだ。多胎妊娠のリスクは知ってるけど、子供は2人欲しかった。2度に分けて頼んだら、費用が倍かかるから」。経済的な面と「双子はかわいいから」、双子を望む依頼者は多いという。
    代理出産という技術がなかった前世紀、同性愛者、なかんずくゲイの「子づくり」はもっぱら養子縁組によっていた。同性愛者が養子を取るハードルは高く、カップルのうち経済力の高いほうが「独身男性」として縁組に臨むことが多かった。生母に事実を秘したまま養子をもらい受けたという男性は、我が子の生みの母が「今どこでどうしているか知らない」…まさかとは思うが、「自分は独身であり、シングルファーザーとして子育てする」という嘘をつきとおしたまま、子供をもらい受けたのだろうか? その態度はとうてい、誠実と呼ぶには値しない。
    またこの男性は「独身男性だけ、児童性愛者でないと証明するテストを受けさせられた。いったいどこに、6万ドル払って養子を取ろうという児童性愛者がいるんだ?」と憤っていたが、家庭という密室の中で好き放題できる子供が手に入るなら6万ドルでも高くない、と考える児童性愛者は大いにありえると、過去と現在の児童性愛者どもの振る舞いを見ていると結論せざるをえない。テスト実施者の懸念はまったく正当なものだ。この男性の怒りはわかるが、それは男性全般の評判を落とすようなことばかりしている同胞男性の児童性愛者に向けるべきで、そちらは不問に付しつつ女性や子供に怒りをぶつけてはばからない時点で、連中の片棒を担いでいるも同然という批判は免れないだろう。
    さらに言えば、本書にはゲイ・レズビアンとも片手に余る数のカップルが登場するが、ゲイカップルはいずれも10歳以上の年の差婚で、(少なくとも)一方は裕福なエリートである。そして裕福なほうが白人で、カップルの年長側であるケースが圧倒的だった…揃いも揃ってのこの関係性に、何かいびつなものを見てしまったのは私だけだろうか。レズビアンのほうにはそんなことはなく、同年配が圧倒的だったのに。

    同性カップルの法律婚、養子、レズビアンカップルが精子提供で出産すること、いずれも結構だ。だが代理出産だけは(同性カップルに限らず)けっして認められるべきでないと、改めて思った。

    2016/5/18読了

  • ・ゲイビー。里親。養子縁組。代理母。自宅人工授精。体外受精。開かれた家族。離婚。搾取としての代理出産、卵子提供。

    ・「一九九〇年代以降、ゲイカップルとレズビアンカップル、異性カップルの子どもの複数の調査から、どのグループも同程度、「男の子と女の子ともに性別にふさわしい行動を示した」という結果が出ている」(p127)。

    ・「米国には現在、血縁のある既婚の父母と住んでいる子どもは四分の一しかいない。里親、養親、一人親、同性親、祖父母、叔父伯母育てられている子どもや、精子提供、卵子提供でできた子ども。実に多様な家族の形があり、それを尊重することを教えていくこと(略)」(FEC事務局長ガブリエル・ブラウ)(p135)。

    ・「米国は、原理原則を重んじ、理念の拘束力が強い国でもある。すべての人が平等に家族を持つ権利があるべきだという理念を突き進めた結果、同性愛者にも異性愛者と同じように生殖医療の利用や養子縁組、そして同性婚が認められるようになった」(p173)。

    ・「日本では家族や地域社会の崩壊が進み、伝統的な家族への回帰が声高に叫ばれている。だが、多様な家族のかたちを認め、共生し、個々の家族を開いていくことこそが、家族を、そして社会を強固なものにしていくのではないだろうか」(p173)。


    ・いろいろな家族の形が紹介されていて、ついていくのが大変だった。

    ・結婚、出産そのものには疑問は感じないのだろうか。

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001083967

  • 同性カップルが子供を持つパターンとして、

    ①異性のパートナーと間の子供を離婚後に引き取り、同性のパートナーと一緒に育てる
    ②養子や里子を迎える
    ③レズビアンカップルが精子提供を受けて、片方の女性が人工授精や体外受精で妊娠、出産する
    ④ゲイカップルの片方の男声の精子を使い、卵子提供をつけるなどして代理母に子どもを産んでもらう

    などのパターンが挙げられる。

    同性婚が認められ生殖ビジネス先進国であるアメリカにおいて、上記のパターンの家庭にインタビューを実施し、まとめられた本。

    特に代理母出産には倫理的な問題が付き纏うと思う。アメリカでは軍人の妻が代理母ビジネスを行うことも多いことや、出産前後で代理母と良好な関係を構築している事例もあることが印象的だった。

  • 最近Twitterでフォローした方が同性愛者で精子を提供してもらって妊娠したことを知り、興味が出て読んだ本。
    2016年刊行。
    実際の人たちの実例を紹介しながらの説明なので、興味が沸きやすい。
    とても丁寧に編集されている印象。

    ・2013年、アメリカでは同性カップル69万組のうち、11万2000組が18歳以下の子供を育てている。
    ・受精卵を一つ戻した場合の妊娠率は6割程度で、二つ戻せば75%に上がるが、3割程度の確率で双子が生まれる。

  • 家族とは何か?を考えさせられる本だ。核家族が当たり前と思われている社会で同性者たちは精子提供や養子で子供を得る。当然、精子提供者や実の父母をも交えた「多元的親子関係」が生まれる。さらに、複数の家族の子どもや親が家族の境界を超えて互いに行き来する「相互浸透的家族」形態が、同性カップルが作る家族を中心に生まれつつある。
    核家族が孤立しつつある中で、新しい家族の形態はそれを打破する鍵かもしれない。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50071285

    2018年度「マイノリティを考える〔1〕 」でも取り上げられました。

  • 2017年2月26日に開催されたビブリオバトルinいこまで発表された本です。テーマは「夫婦」。

  • 自分の中に、差別の気持ちがあるのかないのか?
    近くにLGBTなどのマイノリティがいないので、想像がつかない。もちろん差別や拒否る気持ちはないと思っているとが、実際にはどうか、自分に自信がない。日本では、だいたい似通った人びとしか周りにいないからな…。

  • 考えさせられました。特に、子どもを持つということに。

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著者プロフィール

杉山 麻里子(朝日新聞イベント戦略事務局次長、前社会部次長)

「2022年 『家族の変容と法制度の再構築』 で使われていた紹介文から引用しています。」

杉山麻里子の作品

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