支配する人道主義――植民地統治から平和構築まで

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000611121

作品紹介・あらすじ

「人間の痛みへの共感」としての人道主義。純粋な心情に基づくものとして賞賛されがちだが、それは対象社会に「病理」を見出し、その「処方箋」を描く過程で、相手との非対称な関係を築いてしまう。一九世紀の植民地統治から冷戦後の人道的介入・平和構築活動まで、介入・統治を「する側」「される側」の非対称な関係の生成に、人道主義が不可分に関わってきたことを示す。国際政治学への斬新な問題提起。

感想・レビュー・書評

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  • 罪無き人々の惨殺、不当な苦痛を与える旧習、耐え難いような飢餓や貧困……憫然たる惨劇が日々報じられています。こうした〝人間の痛み〟は人々の共感を惹き起こし、根本的原因の除去へ駆り立てることもあるでしょう。対象地域に介入する政策も説得的に聞こえるかもしれません。
    人道主義の理念は爛々と煌いています。しかし、それが国際社会における非対称な権力関係を助長してきたと視るのが本書です。介入・統治を〝する側/される側〟が分離している現況が形作られる過程で、人道主義的な言説も加勢していたと指摘しています。
    具体的には、この逆説的関係の系譜が跡付けられています。植民地帝国の〝宗主国/植民地〟(19世紀~20世紀半ば)→脱植民地化後の〝援助国/被援助国〟(20世紀半ば~)→冷戦後の平和構築の〝実施国/紛争地域〟(20世紀末~)と連なる非対称な権力関係が辿られており、各局面における人道主義的言説の作用(対象地域の〝病理〟に対する〝処方箋〟としての正当化)が浮き彫りにされています。
    とはいえ、人道主義を放棄せよと述べているわけではありません。潜在的な危険性を自覚した上で漸進的に対処していく粘り強い姿勢が説かれています。国際関係や援助/支援に関心のある方には示唆に富む視点ではないでしょうか。多くの方に手に取っていただきたい一冊です。
    (ラーニング・アドバイザー/国際 OYAMA)

    ▼筑波大学附属図書館の所蔵情報はこちら
    https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/mylimedio/search/book.do?bibid=1694566

  • 無意識に目を背けていた部分を突きつけられた。自戒となるよき論考。

  • 今まで知らなかった、植民地制度から信託統治の制度まで、人道主義とは?非対称な構造は何が原因で何者なのか? など、話自体は哲学論的な部分があるはずでもしかしたら分かりにくいかもしれない内容なのだが、非常に分かりやすく書かれていて好感が持てた。

    結論は、結局、何事も非対称な力関係になり得るのだと言うことを理解してそれを常に意識しつつ実務をすべし、という、(作者本人も認めている)謙虚な結論であり、残念ながら結局現実があまり変わるような内容ではないのだが、そして何か目の覚めるような発見があるようなものでもないのだが、それでも、こういうことを一度も考えたことがなかったかもしれないような人にとっては、考えるきっかけにはなってくれるんじゃないかなぁと思える本でした。

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著者プロフィール

五十嵐元道
1984年北海道生まれ。2014年英サセックス大学国際関係学部博士課程修了(D.Phil)。北海道大学大学院法学研究科高等法政教育研究センター助教、日本学術振興会特別研究員(PD)、関西大学政策創造学部准教授を経て、23年より教授。専攻は国際関係論、国際関係史。著書に『支配する人道主義―植民地統治から平和構築まで』(岩波書店、2016年)。共著に『グローバル・ガバナンスの歴史と思想』(有斐閣、2010年)、『EUの規制力』(日本経済評論社、2012年)、『「国際政治学」は終わったのか』(ナカニシヤ出版、2018年)ほか。

「2023年 『戦争とデータ―死者はいかに数値となったか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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