クモの糸でバイオリン (岩波科学ライブラリー)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000296540

感想・レビュー・書評

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  • 昆虫が専門のわけでもなければ、バイオリンをやったことがあるわけでもない。
    そんな著者がクモの糸に魅せられ、本業の傍ら趣味の研究を続け、バイオリン教室に通い、ついに「クモの糸でバイオリンを弾く」という偉業を成し遂げた記録が本書です。

    クモは巣を作るときに7種類の糸を使い分けているなんて知らなかった!
    これらの糸のうち、著者はクモの命綱である牽引糸のみを収集しているのだそう…1本の弦を作るのに必要なクモの糸は3000~15000本というから、途方もない!
    先行研究が少ない分野を開拓していくこと自体、並大抵のことではないと思います。
    でも、大変さより楽しさのほうが伝わってくるのは著者のお茶目さが感じられる文章のせいかもしれません。
    「糸をとる人の意図通りにはなってくれないのである」
    「せっかく糸を取り出したと喜んでいても、こちらの意図とは違った糸をつかまされることもある」
    …さらりと書いていらっしゃいますが、「糸」と「意図」、かけてますよね?

    1つのことにとことん向き合い、好奇心で突き進んでいく人の背中が眩しく見える1冊でした。

  • 本業の研究とは別に「クモの糸」を“趣味としての生涯の研究対象”に決めた著者が、研究の過程でタイトル通り「クモの糸でバイオリン」を弾くまでに至った経緯を綴ったのが本書です。

    肝心の研究の中身は気が遠くなるほど時間を要する作業ばかり。昆虫学者でもなく音楽専門家でもない著者にとっては手探りの連続です。
    クモが使いこなす7種類もの糸のうち、著者が注目したのはクモの命綱にあたる「牽引糸」の1種類。街中・郊外・山の中など日本各地へクモ採りに行き、自然に吐く糸を手に入れるためクモの性格分析に5年を費やし、クモの繊細な性格(「優しすぎれば舐められる、厳しすぎればへそ曲げる」)と上手く付き合いながら、たくさんのクモから長く丈夫な糸をせっせとかき集めます。

    趣味と断言しているものの、性質の分析方法などは本格的。
    苦労を重ねながらも新しい発見には目を輝かせ、一貫して楽しそうに研究されているのが伝わってきます。文章も自然体なので読者も気負うことなく最新の研究に触れることができます。
    「好きこそ物の上手なれ」を体現しているような大人は素直に素敵です。

  • 奈良県立医療大学の名誉教授、大崎重芳氏の著書。大学の名前からもわかるように、大崎氏の専門は皮膚移植などの医療で、決して昆虫博士ではない。

    作品のタイトルからして少しキワモノ的、というかゲテモノ的な内容かと思っていたが、意外にもクモの糸で作ったバイオリンの絃は音色が素晴らしく、本作では科学的にその事を証明している。クモの糸には繊維の隙間を埋める特殊な性質があるらしく、そのことが音色に良い影響を与えているようだ。

    大崎氏が解析したところ、良い音の評価基準とされる「倍音」の数値が、現在バイオリン弦の主流である金属製やナイロン製より優れているのだ。音大の教授からもその音色の良さを認めてられおり、実際に海外のバイオリニストから、弦を使わせてほしいと熱烈なオファーがあったそうだ。ただ残念ながら原料調達がクモのご機嫌次第なので量産は難しいらしい。

    弦の作製にあたり近所のバイオリン教室に通ったり、自宅の庭にオオジョロウグモを放し飼いするなど、大崎氏の行動力というか執念には、すっかり感服させられてしまった。ノーベル賞は無理でも、せめてイグノーベル賞を差し上げたい。

  • ビブリオバトルチャンプ本('23.4 教員大会)
    先生おすすめ本('23.7 図書室通信掲載)

  • こんなにも、ロマンにあふれた研究があるなんて!
    しかも、本業じゃないなんてw
    こんなにワクワクしながら読んだの、久々です!
    たまたま図書館で出会えた本でした。

  • タイトルが「クモの糸でバイオリン」。比喩的な何かかと思いきや、なんと本当にクモの糸でバイオリンの弦を作る話です。すごいです。
    しかも単に音が出るだけじゃなく、普通の弦より倍音が出まくりで、とても良い弦なんだとか。いや、なんともすごい話しです。
    途中、論文提出の話があって、どんな感じで論文掲載まで進むのかが書いてあり、これもなかなか面白かったです。クモの糸でバイオリンの弦を作る論文は、いったい何の雑誌に送るのが良いのか?って、普通では出てこないような悩みでしたね。

  • 著者は研究者ではあるが、昆虫学者ではない。でもクモの糸でバイオリンの弦を作ろうと思い付き、クモの糸の収集に励み、バイオリンを一から学び、最終的にはクモの糸の弦を張ったバイオリンを学会で演奏する。クモの糸を集めると言っても簡単なことじゃない。それをコツコツと実行し、緻密な検証を重ねて実現に至る。あくまでもライフワークで、本業の分野は全く違うのだが、趣味の域を超えて立派な研究になっている。これぞ研究者気質。

  • 柔らかくて強いクモの糸の神秘 大崎 茂芳 氏- こだわりアカデミー
    https://www.athome-academy.jp/archive/biology/0000001043_all.html

    岩波書店のPR
    クモとつきあうこと40年.「クモの糸にぶら下がる」など数多の挑戦を経て,ついに「クモの糸でバイオリンの弦をつくる!」という無謀な試みへと突き進む.――暗中模索,数年がかりで完成した弦が,やがて名器ストラディバリウスの上で奏でられ,世界的な反響を巻き起こすまで.たゆまぬ好奇心が生んだ成功物語のすべてをレポート.
    ■編集部からのメッセージ
    「クモの糸でな,バイオリン,ゆうのは,どうや」
    編集部への1本のお電話から,すべてが始まりました.なんと,寡聞にして存じ上げなかったのですが,検索するとあるわあるわ.1万本を超えるクモの糸を集めてバイオリンの弦をつくり,その音色で世界中を驚嘆させたその人,大﨑茂芳さんからの直々のお電話だったのです.
    本業は医学部教授で(現在は名誉教授),「趣味」としてクモの糸の研究を続けて40年――.お電話口でのコテコテの関西弁の主は,知れば知るほど「ただ者ではない」先生でした.数万本のクモの糸を集め,自らぶら下がったりされているところもビジュアル的にすごいのですが,大﨑さんの真骨頂は,「趣味」の研究成果を一流誌「Nature」や「Physical Review Letters」にちゃっかりと載せておられるところです.しかも堂々の単著!
    本書は,大﨑さんご自身が明らかにされてきたクモの糸のさまざまな性質を紹介したうえで,「Physical Review Letters」誌に音源つき(電子版)でその成果が掲載された,「クモの糸でバイオリンの弦をつくる」までの試行錯誤のすべてをお伝えします.
    科学者らしく一つ一つ課題をクリアしていかれたほか,弦の完成度を上げるべく,定年間際にしてバイオリンを習い始めるなど,まさに青春を謳歌された姿はまばゆいばかりです.楽しく生きるってすばらしい! と,あらためて感じさせてくれる一冊,どうぞご堪能ください.
    https://www.iwanami.co.jp/book/b266360.html

  • タイトルのインパクトにひかれて手にした本書。
    著者がいかにクモの糸に興味を持ち、バイオリンの弦として使えるようにするまでの奮闘ぶりが描かれています。

    クモの糸に興味を持つものの、研究があまりされていない事を知り、趣味で研究開始。
    そこからはクモとの付き合いを極めようとしたり、バイオリンレッスンを受けて自ら演奏しようとしていたり。はたまた、研究成果を論文で発表しようにも、どの雑誌に送ればいいか右往左往したり…。

    著者の忍耐力、集中力は、素晴らしいの一言に尽きます。
    素晴らしすぎて、追従実験がうまくいかない程に……。
    ひたすら大変だなぁと思いつつも、どこか微笑ましい印象も受けました。
    のんびりとクモが糸を出すのを待っている図がありありと想像できたからかも知れません。

    化学的になかなかの精度を持つクモの糸の弦は、柔らかくて深い音色を出すのだとか。
    その音に魅せられてラブコールを送るプロ演奏者もいらっしゃるそうですが、機会があればぜひ聞いてみたいです。

    図書館スタッフ(学園前):あんりみ0

    ----------
    帝塚山大学図書館OPAC
    https://lib.tezukayama-u.ac.jp/opac/volume/840785

  • ニュース番組やバラエティ番組で見たことある人がたくさんいるだろう”クモの糸”を研究している人である。

    最初はクモの糸で人の体重が支えられるか?(芥川の蜘蛛の糸みたいに)という研究で、それは別の本にまとめられているそう。
    今度はバイオリンの絃にできるか?音がなるか?どんな音がするか?
    やってみちゃう訳である。
    やったことないバイオリンを買って習いにも行っちゃう。
    面白い研究だけど、それを学術雑誌論文として掲載してもらう悲喜こもごもも興味深く読みました(何せ現在そういう人たちと同じ職場で、ちょっぴりだけ噛んでいる訳で)

    後書きに一部科研費のお世話になっている旨書いてあったので、科研サイトで検索してみたり(国のお金を使った成果なので、どういう研究でいくら補助したか、最終の報告書類が閲覧できるようになっています)

    この本の中に物理分野の人は音楽に関心のある人が多いというのを見て、微生物学者は美術、生物学者は文学かもしれない(身の回り数例による独断)と思ったり。

    いろいろ楽しめた♪

    カバー・章扉イラスト / いずもり よう

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