物語が生きる力を育てる

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000253017

作品紹介・あらすじ

子どもが本を読むことの大切さを語った『読む力は生きる力』は、多くの読者の共感を得た。本書では、絵本から本格的な物語へと移行する重要な時期に、なぜ昔話や民話ふうの物語がふさわしいのか、語り継がれ、読み継がれてきた「物語」にはどんなすばらしい力が秘められているのか、明快に説く。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルにある「物語」は小説のことではない。
    厳しく醜い現実を見つめたものが多い小説に対し、「物語」はこうなったらいいなという夢や願望を担ったものが多い。
    本書は、絵本から本格的な物語へ移行する重要な時期に、なぜ昔話や民話風の物語がふさわしいのかを考察する。「読む力は生きる力」の続編。

    柔らかな語りの中に、お勧めの本が何冊も入る。古今東西の絵本や児童書。
    なぜその本か、どのような本か、どんな影響があるのか、それは丁寧に解説する。

    「不快感情の体験と物語の役割」という箇所がある。
    怒り・憎しみ・妬み・欲求不満・さびしさ・落胆・恨みなどという不快な感情にふりまわされずに済むには、物語の力が大きいという。
    ゲームやネット、音楽という「不快感情消去マシーン」に頼ると、対処すべきことに勇気を出して対処するすべを学べない。不快感情を認識して原因を見きわめること。
    すぐれた物語の中では、不快感情を追体験し乗り越える方法を学ぶことが出来る。

    憎しみや妬みなどという感情を抱くと「そんな気持ちになるなんて悪い子だ」と自分を責めてしまいがちだが、物語の主人公たちも同じなのだ。
    子どもにとって、それがどれほど救いになることだろう。
    参考になる本が掲載されているので、一部だけ列挙してみよう。

    やかまし村の子どもたち(リンドグレーン)
    小さい牛追い (ハムズン)
    ハイジ (シュピリ)
    小さなジョセフィーン―(グリーぺ)
    秘密の花園 (バーネット)
    ゲド戦記(ル・グウィン)
    人形の家(ゴッデン)

    これらの物語は、大人も読むべき。私も強くそう思う。
    子どもの心を知るためにも貴重だし、「不快感情消去マシーン」に親しんで育った世代の場合、子ども時代に味わっておくべき喜怒哀楽をろくに体験していない可能性もある。
    子どもが感情の動かし方を学ぶためにも、大人がすぐれた児童文学を読むことが解決策のひとつでもあるのだ。
    耳からの物語体験が大切で、目の前にいる人が自分のために読んでくれるとなれば子どもは聞くものである。選書の注意点も詳しく語られている。

    夢を描くことと現実を認識することのあいだを行ったり来たりするのが物語というもの。著者の言葉が言い得て妙である。
    すみずみまで配慮された物語の世界にひたり、「自分を見つめるもうひとりの自分」を、しっかりと育てていくこと。計画性のない行動に走ったり、誘惑に屈したりしないように。
    良い物語が子どもたちの手に届くように、大人として配慮を忘れないでいたい。

    以前読んだ小澤俊夫さんの本と重なる内容がかなり多かった。
    それでも、良質な本は何度読んでも良いものだ。
    脇明子さんの語りは読み手に訴えるものがある。
    速読を戒める章の最後に「王への手紙(トンケ・ドラフト)が紹介されていた。これだけ未読なのでぜひ読んでみたい。
    親御さんや子どもに関わるお仕事の方、児童文学に縁のある方もない方も、ぜひともお勧め。

    • 夜型さん
      早業でした!
      本日は……これ!
      日本の物語から。
      楠山正雄さんの日本の古典童話は既読ですか?
      早業でした!
      本日は……これ!
      日本の物語から。
      楠山正雄さんの日本の古典童話は既読ですか?
      2021/02/16
    • nejidonさん
      goya626さん♪
      そうそう、その不快の話は深いのですよ(*^^*)
      物語の主人公たちと一緒になって乗り越えるということが、とても良い...
      goya626さん♪
      そうそう、その不快の話は深いのですよ(*^^*)
      物語の主人公たちと一緒になって乗り越えるということが、とても良い学びになりますよね。
      それに、自分の負の感情を言語化することもできるようになりますし。
      「うざい」と感じる自分を俯瞰して原因を考えることが出来たら、刺すまでもないと判断できるんじゃないかと。。
      「ゲド戦記」は、最初の「影との戦い」を紹介しています。
      希望も野心もあった主人公がことごとく行く先を阻まれてしまうところは、私も読んでいて辛かったですね(だいぶ前ですよ)
      ユングと繋げて考えるなんて、ちょっと驚きです。
      goya626さんの視点が面白いです♪
      おお、「闇の左手」!!
      猫丸さんがこっそりパクることがあると、告げ口しておきます(笑)
      2021/02/16
    • nejidonさん
      夜型さん♪
      稀に見る早業でした(*^^*)
      いつもこうだと良いのですが、なかなか遅々としてすすみません。悩みどころです。
      楠山正雄さん...
      夜型さん♪
      稀に見る早業でした(*^^*)
      いつもこうだと良いのですが、なかなか遅々としてすすみません。悩みどころです。
      楠山正雄さんは、実は読んでない本を堂々と語っているのです(大笑い)
      ということで、今度チャレンジしてみますね。
      お勧めは「古典童話」ですか?
      先ずは手元にある本からぼちぼちと。。。
      2021/02/16
  • 私は小学低学年に定期的に読み聞かせしているのですが、物語を楽しめない子供も多く色々考えてしまいます。まずは子供にとって物語、お話しってどんなものなのかと思って読みました。

    ❐赤ちゃんの成長のために
    子供がちゃんと育つために必要なのは「実体験」だ。赤ちゃんの時に、泣く指差すなどの発信に周りが答えることによりコミュニケーションが取れるようになっていく。言葉はその延長にある。五感の発達も大切になる。全身を使って世界を感じて運動能力を高めてゆく。成長には、赤ちゃんが世界を感じる興味や発見の喜びを味わうことが大切になる。

    ❐昔話
    昔話では聞き手は登場人物と一体化する。しかし「おじいさん/おばあさん/隣のおじいさん」「お兄さん/弟」など個性を持たないので、一体化の相手を一人の登場人物から次の登場人物へと渡っていくことができる。一体化と感情移入とはまた違う。(昔話と物語の橋渡しのような感情移入できるものもある)
    日本の昔話では幸運は突然降って湧いてくることが多い。幸運は「降ってくる」事がある。しかし苦く厳しい現実をしっかり受け止めて生きなければいけない。

    ❐心の理論
    「他者が自分とは違う知識、考え、感情を持っていることを理解し、その内容を推測できる能力」のこと。
    昔話では「自分はこのような人間」という認識が明確ではない語り方なので、おおらかに物語を楽しむことができる。
    しかししっかりと感情移入して物語を楽しむには、心理描写や情景描写が大切になる。

    ❐情動の知性
    自分の心に沸き起こる情動を認識し、必要に応じてコントロールして、破壊的な結果にならなようにする能力。
    子供のうちに、周りの人間と感情を共にする経験を重ね、心を動かすこと(感情体験)を身につける。特に深い感情を体験してそれからどう抜け出すかを習得することが大切。
    豊かな喜怒哀楽感情を持ち、状況に応じてそれを抑える力を育てることが必要になる。

    ❐感情移入
    不快感情に対応するためにも物語には力がある。物語では困ったことや嫌なことにあっても助けてくれる人がいたり、意味のある経験を通して抜け出すことができる。そんな物語に触れていれば、現実での不快なことにあっても「こんな感情を持つのは自分だけではない」「この状況から抜け出せる」という希望を持つことができる。
    物語で主人公の心の中が的確な言葉で表現されることは「感じていることを言葉でとらえる」ことに役立つ。
    物語は、ただ感情移入しきってしまうのではなく、感情移入しながらも読者として客観的に見つめる練習にもなる。すると自分自身の困難の時に冷静に自体を見守って半d何を下せる「もう一人の自分」を育てるトレーニングになる。

    ❐ゆっくり読み取る
    物語では粗筋だけを追うのではなく、情景や風景描写も読み取る。主人公の困難を一緒になって考える。自然描写のなかに感情を読み取る。『ハイジ』の場合、山に帰るハイジの長旅があるからこそ、読者はハイジの喜びや不安を一緒に味わうことができる。
    そして自然描写の豊かさも物語の大切なところになる。自然の持つ複雑さや美しさを言葉にすることはかなり高度な言語表現が必要になる。そこで豊かな表現で自然や情景を描写している物語は読者の心に響く。
    …私は読んでわからないと「ええい、割り切って粗筋だけを追ったり分かるところだけ読み進めよう」としてしまうので、反省いたすところ。

    ❐耳からの物語の大切さ
    読むと飛ばしてしまうようなことも、語られると全ての言葉が耳に入るので、物語の情景や感情に寄り添うことにつながる。

    ❐物語
    子供に良い物語とは、夢を描くことと、現実を認識することを行ったり来たりするもの。現実の厳しさと乗り越える希望を読み取る。
    良い物語とは夢や願いを叶えてくれるもの。ハッピーエンドでなくて悲しい出来事で終わったとしても「良かった」と思えるものがある

  • 本ではなくて、物語やお話が人に与える影響は大きい。極端なはなし、モノである書籍より語り部が重要なのだと思う。そういう物語に出会える機会が、子どもの糧となって、後に生きる力に繋がるということを、中年となった今改めて実感している。

  • 自分がいかに貧しい?読書をしてきたかが痛感させられた。
    そんな自分が図書館員として働いているのはある意味大きな意義のあることかもしれないなぁ。
    こどもたちを取り巻く環境は、あたしの子ども時代とさえ大きな隔たりがある。

    脇さんも言っていたけど、子どもたちに必要なのはもちろん実体験だと思う。
    それをする時間さえとってしまう読書推進活動ならいらない。

    本当にもっともなこと言ってると思う。

    でも、やっぱり読書を通して得られるものは多くって、その得られるものっていうのは本人に認識させなくていいところ何だと思う。
    だって、想像力かつくとかメタ認知能力が発達するとか意識して読んで何か身に付く訳ないもの(笑)

    実体験をベースにして、読書の可能性、図書館の可能性を実現していけるような環境を作っていけたらいいなぁ。

  • 物語をゆっくり味わいながら読むこと、耳からの読書等の大切さ。私が大好きな作品についても取り上げられていて、得るところ共感するところ多し。何度も読んで確認したくなる。
    クレスカ、あらしの…

  • 日本の昔話は“どんなに願おうと、努力しようと、天からの恵みが降ってこなければ幸せをつかむことなどできはしない、というのは、人生の苦くて厳しい真実”だということを教えているという文章にはっとした。たくさんの物語が紹介されていて、読んでみたいと思った。

  • 今の世の中
    大人も子どもも
    みんな
    「急ぎすぎて」いないか、
    もっとゆっくり歩くことは出来ないか。

    進歩という名の
    快適な生活の中で
    大事なものを忘れていないか。

    そんなことを考えさせられました。

    ゆっくり味わって読むに値する本が
    減っているのも確かだなあ、と思う。

    一度
    話題になった「ハリーポッター」の本を
    手に取ったが
    読み進めることが出来なかった。

    なぜだかわからなかったけれど
    私にはこれは読めない、と諦めてしまっていた、
    その理由をこの本に教えてもらった。

  • 本文より
    「人々は映像やゲームの形をとった物語を、あるいは、事件報道や噂話の中にひそむ物語を、貪欲に追い求め続けています。物語は確かに、時には私たちをなぐさめ、ときには勇気付け、ときには知恵を与えてくれる、大きな力があります。しかしその一方で、知らないうちに物語に踊らされ、視界をゆがめられ、心に毒を注がれていることも少なくありません。ネットワークの中で噂話が暴走する現代、その危険度はきわめて大きいものになっています。
    でも、そんな時代だからこそ、子供たちがその成長過程において物語に接すること、本を読むことには、やはり大きな意味があると思うのです。(中略)確かに子供の成長には実体験が何より大切ですが、物語による仮想体験にも、場合によっては、実体験では不足するものを補う大きな力があります。それどころか、質のいい物語には、今の子供たちから人間らしい輝きを奪っているこの社会状況そのものを動かしていく可能性さえ秘められていると思うのです。
    (中略)どんな本でもいい、どんな読み方でもいい、というわけにはいきません。」

    同感ですね。
    質jの良い読書が、正しい知性と心を作り守ってくれる力は侮れません。そして、これだけ書籍を含め情報が氾濫し、良い情報悪い情報が、amazonランキングに一緒に入っているような時代です。何でもいいというわけにはいきません。本を選ぶのも、書評を書くのも、問題意識と責任が問われる気がします。

  • 「子どもが本を読むことの大切さを語った『読む力は生きる力』は、多くの読者の共感を得た。本書では、絵本から本格的な物語へと移行する重要な時期に、なぜ昔話や民話ふうの物語がふさわしいのか、語り継がれ、読み継がれてきた「物語」にはどんなすばらしい力が秘められているのか、明快に説く。」

  •  最近、読書ということが注目を集めています。特に教育現場では、「朝読書」という取り組みが、全国的に行われています。

     ところで、本当に本を読むことは、そんなにいいことなのでしょうか。何となくためになりそうだということは分かりますが、○○で○○だから、○○にいいというようなことは、なかなか言い切れないような気がします。

     そんな問いに明確に答えてくれたのが、著者の『読む力は生きる力』です。

     さて、この本は、そこから一歩踏み出しています。つまり、本が読まれること自体が大切なのではなく、子どもたちがちゃんと育つことこそが大切である、そのために、「物語」が重要な役を担うというのが、著者の主張のようです。

     物語って、そんなに奥が深かったのか。思わずうならずにはいられません。ぜひこの本と出会って、深遠な物語の世界に足を踏み込んでみてください。

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著者プロフィール

脇明子

「2018年 『ねこのオーランドー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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