その日の予定――事実にもとづく物語

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000229722

作品紹介・あらすじ

「いちばん大きなカタストロフは、しばしば小さな足音で近づいてくる」。第二次大戦前夜、オーストリア併合に至る舞台裏を、事実の断片から描き出す。大企業家とナチ高官との秘密会合、オーストリア首相を恫喝するヒトラー、チェンバレンを煙に巻くリッベントロープ…。彼らの卑小で時に荒唐無稽な行動・決断が、世界を破局に引き込んでゆく。事実に基づく物語。仏ゴンクール賞(2017)受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 第二次世界大戦前、オーストリアがナチスドイツに併合されるまでの舞台裏を小説化した一冊。
    多くの資料を参考にしているようで、大変濃く難い内容となっています。
    頁数は少ないのですが、何度か読み返して理解を深めながらの読了となりました。
    オーストリアはドイツに近い国に違いありませんが、無理に併合すれば不和や軋轢が生じて当然です。
    ヒトラー率いるナチスドイツが強制的併合をじわじわと進める不気味さを、文学的に描いています。

  • オーストリア併合の実態は、その後の電撃戦のイメージとは程遠い、車両故障と渋滞の連続のお粗末な軍事侵攻で、旗を持って沿道で待ちわびる市民は諦めて家路につくほどだった。
    この時に真に驚くべきは、ポーカーのブラフにも似たはったりの前代未聞の成功であり、関わった権力者たちがまんまとヒトラーの虚勢に屈従したことである。
    とりわけ少人数の会見になるほど、魅惑の魔術に支配されやすかったが、この時のオーストリア首相との会見も、鬼気迫るものがある。
    扉の閉まった執務室のなかを縦横無尽に、興奮状態で喚き散らし、一転して笑顔で諭す。

    怪物はどんどんと要求をエスカレートさせ、シュシュニクに首相を辞職して、ナチ党員を後釜に就けよと指示を出す。
    この時の作者の文章が奮っている。
    「若い頃、第一次世界大戦でイタリア軍の捕虜になった時、シュシュニクは恋愛小説よりグラムシ(イタリアの思想家)の論文を読んでおくべきだった」。
    そうすれば「敵と論争する時は、相手の立場に身を置いて」みることを思い出せたに違いない、と。
    しかしこれまでの人生で相手の立場になったこともない小独裁者は、「声を詰まらせ鼻は赤く涙目で、弱々しく」イエスと言うほかなかったのだ。

    オーストリアでは権勢を誇る小独裁者シュシュニクも、唯々諾々と怪物に従順ではなかった。
    反論を試み、切り返しのカードも切ったが、なすすべもない。
    怪物はその度に、沈黙してじっと相手の目を覗き込むのだ。
    緊張の瞬間である。
    それまでのとげとげしい語調を変え、笑顔で「私の人生ではじめてのことだが、すでに踏み切った決定を見直すことにした」と宣言する。
    が、実質はさらなる要求の引き上げにつながるのだが、それでも相手は「降りかかった不幸を片付けて、もとの平和な状態に戻りたい」と譲歩を繰り返していくことになる。

  • 史実に基づきながら、一幕の芝居のような
    読後感。アウシュビッツへ繋がるカタストロフィへの
    序曲が喜劇的。

    いちばん大きなカタストロフは、
    しばしば小さな足音で近づいてくる

    私たちが心に刻み込むべき真理だと思う。

  • 難しくて二度読んだ。

  • ゴンクール賞受賞と書かれていたが、それほど特別のことが書かれているようには思えないのは訳の問題のせいであろうか。すらすらと読んでしまえる。

  • なかなか東洋の人間にはわからなかった話。ナチスのオーストリア併合もこんな感じだったのかと今もってまだまだ解き明かされることもある。

  • 第二次世界大戦前夜のオーストリア併合の
    舞台裏、歴史の変換時の、なんとも言えない
    人間の行動。
    重苦しい作品。

  • ゲーリングは数年前の自分の大げさな表現を思いだし、おそらく、あの時の芝居じみたやりとりが後世の謹厳な歴史書の記述や重大な出来事について人びとが抱くイメージとはるかにかけ離れていると感じて、リッペントロープに向かって笑い始めた。すると、リッベントロープも引きつったような笑い声を立てた。、、、この廃墟のまっただなかで、二人は笑いが止らなかった。

    この瞬間も、それ以前の重大であろう会合の場での人びとの語らいも、刻々とただ時は過ぎていくのだ。偉大な指導者でも、一介の市井の人びとでもその時の進みは同じ。

  • フランスのゴンクール賞受賞作。まだ第二次世界大戦に至る以前、ナチスドイツは戦うことなくオーストリアを併合した。その舞台裏を短く簡潔にまとめた物語。あくまで事実に基づいているものの細部の会話は作者の創作、という意味でのフィクションは個人的な好みからすると翻訳のせいかもしれないが文体が少し華美に過ぎるかな。ナチに協力しオーストリア併合に際しても献金を行う今も存続かつ繁栄し続ける大企業家たち、オーストリアの独裁者を呼びつけ恫喝するヒトラー、併合の発表に対する動きを遅れさせるためにくだらない話でイギリスの首相をランチのテーブルに引き止め続けるナチの外交官、一見ばらばらな動きが流血なく一つの国が征服される過程のデタラメさを描き出している。ナチスドイツが権力を握る前に既にハリウッドにはナチの軍服が映画用に準備されそれをユダヤ人が手入れしていたエピソードや、ヒトラーによって追い落とされるオーストリアの首相と彼の後釜に座るオーストリアナチスのリーダーがブルックナーについて意見を交わす場面など、一見ストーリーに関係のないそれでいて興味深いエピソードの插入も効果的。ちょっと読みにくい部分はあるけどもかなり興味深い物語で面白かった。

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