越境の声

著者 :
  • 岩波書店
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本棚登録 : 54
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000222761

作品紹介・あらすじ

青木保、大江健三郎、多和田葉子、富岡幸一郎、沼野充義、莫言、水村美苗の各氏との対話を軸に、西洋出身者として初めて現代日本文学作家である著者が、自らの体験をふり返りながら、"越境"によって切り拓かれる文学の最先端を縦横に語る。にじみと重なり、ゆらぎと移動、取り込みと融合がある複雑で動的な"越境"の現実から、いかなる文学が生まれるのか。

感想・レビュー・書評

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  • アメリカの外交官でユダヤ系の父を持つリービ英雄氏の対談・エッセイ集。対談相手が大変豪華で楽しい。著者の散文を読むのは初めてだったけど、心揺さぶられるものがあった。

    ざっくり内容は以下の通り;
    I 文学はどこへ向かうか
    ー富岡幸一郎・沼野充義との鼎談
    II 越境の声
    ー多和田葉子、水村美苗、青木保、莫言、大江健三郎との文学対談
    III 〈9・11〉、日本語として
    ー911を巡って、『千々にくだけて』、ほか
    IV 越境の跡
    ー中国人になったユダヤ人を探す旅、かつて「自分の家」があった台湾訪問

    感想:
    ・「日本語は普遍性を拒んでる」この発言にはハッとした。「自国の文化・言語は普遍的だ」という表明は自信に裏打ちされており、また自国の外を意識しそこへ開かれた姿勢があることを物語っている。日本語が普遍性を拒んでいるんだとしたら、外への意識・開かれた姿勢・自信のうちのいずれか、または複数が欠けているということなのか? ※
    ・本書全体を通して、越境という現象は、決してグローバル化した現代に特異な現象ではなく、数千年前から生じていた現象だという主張が手を替え品を替え提示される。その一つが、ユダヤ人の痕跡を探す中国奥地の旅。そこで、著者は「リービ」という苗字も、「李」となって中国社会に受け入れられた史実に出会い、強く心を揺さぶられる。文学者として、この越境現象を「なる」という日本語の動詞を足がかりに表現しようとしているのが面白い。生まれたときとは違う自分に「なる」。「なる」という動詞の主語(=明確なアイデンティティ)の不在さ。
    著者が魅了された日本語表現、ユダヤ系の出自、越境し続けた人生の中のアイデンティティ探索、それらが全て絡み合って一つの結晶となったことが味わえる、著者の魂の叫びのような文書だった。
    そうでありながら、ユダヤ人の末裔の家を訪問して、そこに「耐えがたいほどの生活の密度」を見、そこに実在した生身の人間の生活文化と、自分が追い求めるアイデンティティ探索の比喩とは違うということも認識する。この主観と客観の微妙なバランスを保ち、自分の追い求める結論に飛びつくことはせず、現実の距離感を正しく描写しようとするところに表現者としての誠実さを感じた。
    ・台湾訪問の文書はカズオイシグロのノーベル賞受賞講演の内容と呼応した。
    https://www.nobelprize.org/prizes/literature/2017/ishiguro/lecture/

    ※2022.7.10追記
    ポストコロニアルに関する本を読んで、自国の文化が普遍的だと思うその観念は帝国主義的だ、という指摘に接した。自国の文化が普遍的だ!と高らかに詠うのも、自国の文化は固有で他者にわかりっこないも思うのも、どちらも極端なのかも。

  • 我々がいかに「一国」の視点(日本国、日本人、日本語母語者)に依ってものを考えているかを痛感。
    特に言葉と文化で一つの領域に固まって生きていることが、こんなに自然で支配的なんだと。良くも悪くもコスモポリタン、マルチカルチャリズム(多文化主義)を徹底して理念通り実践することの困難さも。

    ただ著者のように(多和田葉子さんも?)、「言葉と文化」の領域を越境(※)して渡ってきた人物が、こうしてきちんと評価を得て生活されていることに、人類の新しい枠組み(『国家』・『国民』感を超えたもの)を提示されているようにも感じる。
    (※ 西洋白色人種からアジア黄色人種文化への越境という自体そのものが、まずは衝撃の一つだったが)

    本そのものは著者のエッセイ、対談集。ただ文学の世界にとどまらない、人間の暮らしていく集団(カテゴリー)を考える上で示唆に富む一冊かと。

  • ふむ

  • 更なる読書フィールドへ誘われた。国語の授業で文学評論の方法を習えていたらと思う。時代ごとに作家の名前を並べて覚えたり、作品から心情を読み取る練習をしたり、それだけでは意味がない。時代背景、歴史、他文化との比較。言語とは何か。文学を学ぶ意味は何か。そこから出発しなければ、「本を読む」「言葉を学ぶ」真の意味を伝えられないと思う。


  •  越境、その組織を超えたルール。

  • 2009/11/26購入

  • 青木保、大江健三郎、多和田葉子らとの対話を軸に、西洋出身者として初めての現代日本文学作家である著者が、自らの体験を振り返りながら、「越境」によって切り拓かれる文学の最先端を縦横に語る。

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著者プロフィール

リービ英雄(1950・11・29~)小説家。アメリカ合衆国カリフォルニア州生まれ。少年時代を台湾、香港で過ごす。プリンストン大学とスタンフォード大学で日本文学の教鞭を執り、『万葉集』の英訳により全米図書賞を受賞。1989年から日本に定住。1987年、「群像」に「星条旗の聞えない部屋」を発表し小説家としてデビュー。1992年に作品集『星条旗の聞こえない部屋』で野間文芸新人賞を受賞し、西洋人で初の日本文学作家として注目を浴びる。2005年『千々にくだけて』で大佛次郎賞、2009年『仮の水』で伊藤整文学賞 、2016年『模範郷』で読売文学賞、2021年『天路』で野間文芸賞を受賞。法政大学名誉教授。

「2023年 『日本語の勝利/アイデンティティーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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