「個性」を煽られる子どもたち: 親密圏の変容を考える (岩波ブックレット NO. 633)

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  • Amazon.co.jp ・本 (71ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000093330

感想・レビュー・書評

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  • 自分が生まれ落ちた時から持ってるはずの「本当の私」を探して輝かせるためには、自分の気持ちや感情が一番。だけど社会的には根拠がないから、身近な人の承認を常に求める。感情がなぜ発露したのか、言語化して考えていないから、友達との仲も流動的で、同一の体験や思想の共有がなく、常につながっていないといつ途切れてしまうかわからないため、「優しい技法」で関係持続に力を注ぐ。一方で友人より外の人間には、友人関係で疲弊してしまい、関心を持てない。他者は風景になってしまう。
    だけどその人固有の個性があると期待しているのは社会的な存在の大人の影響。個性は生かすものではなく、教育により伸ばすもの。社会的視点で他者と比べることで初めてその人の持つ力がわかるはず。
    「本当の自分に出会う」ことのおかしさをもっと理解したほうがいい。
    仕事に関して言うと、好きなこと、興味のあることと、出来ること、評価されてきたことの二本柱で考えないと自己理解が深まらないと常々思ってきた。「どう思われるか」の裏には「こう思われたい」という切実な願いがある。なぜこう思われたいのか?こう思われることは自分にとってどういう意味があるのか?を言語化して考えないと、その先のコミュニケーションがない。自分の戒めにもなる本。

  • SMAPの『世界に一つだけの花』がヒットした2003年の翌年に発行されたブックレット。「もともと特別なOnly one~♪」という最後の歌詞のフレーズに対し、「特別なものを見出せない自分には価値がないかのように思わせる煽りの歌ともいえる」と書かかれており、「うーん、そんなふうに捉える必要があるのか」と、いささか違和感を覚えた。
    確かに、私が子どものころの社会は、個性重視よりは、周りとの調和を重んじており、そういう意味では社会規範も変わってはきている。特に2003年以降、「個性的であること素晴らしいこと」だと、社会の認識が変わってきたことも事実ではあろう。いずれにしても、個性、個性と言っているのも、実は個人ではなく「社会」であること、新たな社会規範に拘束され否応なく社会化されているという視点はするどいと言わざるを得ないだろう。

  • 「個性」を煽られる子どもたち―親密圏の変容を考える (岩波ブックレット)

  • 2000年代前半の出版なので、私の時代を反映している内容であるが、早期に自己承認欲求の問題とキャラ化する若者たちを記述している。

  • 中学生向きの小説なんか読むと、本書で語られていることがなんとなく理解できる。分析は鮮やかだし、論理は明快。
    でも思うのが、もうちょっとちゃんとデータを提示してほしいな、ということ。昔と比べて今がそうなのであれば、昔のデータが必要なのだけど、そのあたりの提示が少ないのが気になった。もちろん、こんな薄い本だから仕方ないのかもしれないけど。

    あと、ではどうするか、というつっこんだ処方箋も読みたかったなあ。僕にはとても解決策が想像できない。

  • 親密圏で素の自分を表出することは、他者との対立の危険をはらむようになったため、装った自分を表現せざるを得ない。ストレートに自分を表出しないことは自己欺瞞であると感じ、親密圏における人間関係が加速度的に重く感じられるようになってきている。

    オンリーワンへの強迫も、はじまりは一律詰め込みに対するアンチテーゼだったのでは?人間は難しい。

  • 自分らしさとは何か。現代の子どもたちは、友人との関係に潜在的な駆け引きをし、キャラを装い、個性的でありたいと願う。個性を実感するためには、他人の肯定的な評価が必要であり、その安心を得るために薄い人間関係で他者と繋がっていたい。本来の自分らしさとは、他人の目を気にして成立するものではない。個性的であることが何なのか。人はそれぞれ個性があるのだから、その自分を認めていけばいいと思う。

  • 学校の課題で読みました。
    子供たちの友達関係のこと、個性に対しての考え方などいろいろ書いてあってなるほど、と思うことが多かったです。

  • 薄い本ながら、若者が直面する困難が浮き彫りになっていて、首を縦に振りながらゆっくり読めた。

  •  キャラ論を調べると学校教室の例がよく出てくるので気になり、60ページ程度のブックレットなら軽く読めるだろうと、本当に気楽に手にとって読んでしまった。後戻りなどできなかった。
     本書は2004年刊行で佐世保の女児同級生殺傷事件を取り上げている。そして彼女たちが事件に関わったのは僕と同じ年齢の時だ。だからこそ慎重に読まなければならなかった。当時の僕達の関係を支配する構造がここまで見破られるとは思ってもいなかった。クラスメイトとの「優しい関係」、触れてはいけない「ダイヤモンドの原石のように秘められた個性」、教室空間の外部社会における「他者の不在」。ほぼ全てが当時の感触と一致していたと言っていい。とても貴重な論考だと思う(とてもレビューになってない言葉の切り出し方だと思う)。
     ただ、僕は今とてつもなく虚しい。殺人現場で探偵の推理に立ち会い犯人と犯行手段、動機など全てが明らかにされた。しかし、その状況を前に立ちすくむしかないような思いだ。なぜなら、これは「事後」「経過中」の事件だからだ。あれから7年も経っても僕が学校に関心を寄せる事といえば、僕が去った教室空間は当時と同じように在り続けるのだろうかということだ。事後分析は事が宿命的に起こり続けるのとは無関係にいくらでもできるということだ。一体誰がこのシステムを外部からくい止められるというのだろう。
     
     これではレビューにならないのでまとめに入ると、最近の子どもの友達関係が昔と比較してどのように変化しているのか。子どもの自己は「個性」とどのように関係しながら成立しているのか。近頃の子どもが何を考えているのか分からない!そういう人にはおすすめだと思います。もちろん、7年前と今では携帯通信端末の所持率や家庭へのPC普及率が段違いなので、何も変化が無いとは言い切れませんが… 少なくとも、7年前の僕が感じていた「空気」がよく分析されているなと関心したので、星5つ。

    (蛇足)本書の締括で筆者はこう述べる。「この小冊子が、その論争の大海へと船を漕ぎだすための、ほんのささやかな津の一つにでもなることができれば、著者としてこれに優る喜びはありません。」 津どころか大波ですが!?

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著者プロフィール

筑波大学人文社会系教授/社会学

「2018年 『談 no.112 感情強要社会』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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