「アウシュビッツは終わらない」の著者=プリーモ・レービによる自伝的短編集。
レービが経験した壮絶な人生を垣間見せてくれ秀作。
レービはアウシュビッツで化学の専門家としてからくも生き延びた。
レービの生還は全くの僥倖であり、運命の気まぐれで生き延びたともいえよう。
本書はそのレービの生涯の断片を書き綴った作品集。
レービの抑えた筆致がかえって彼が経験した悪魔=強制収容所での苛酷な生き様を
示してくれる。
レービの他の著作と同様に彼は怒りを露にしたり、糾弾することを極力控えている。
レービの素晴らしさは激しい感情をなるだけ抑えつつ、科学者らしく冷静に過去の経験を
語ることにある。そのゆえなお一層、レービの心の痛みや「選別」=(なぜ、私レービが
生き延びることができたのか? 無辜のユダヤ人の中でなぜ私が生き残れたのか?)を
彼が終生問い続けた理由が垣間見える。
化学者らしく、表題は「アルゴン」から「炭素」までの21編。
ナチズムが吹き荒れた時期にどうにか職にありつけたことや、絶滅収容所でいかに生きたのか、
学生時代の思い出。
それらが煌くような輝きを放っている。
「亜鉛」では…
一つは鎖帷子のように悪から身を守ってくれる純粋性の賛美。もう一つは変化への、
つまり生命へのきっかけとなる不純性の賛美だった。
…車輪が回り、生命が増殖するためには、不純物が、不純なものの中の不純物が必要である。
周知のように、それは耕地にも、もし肥沃だってほしいなら、必要なのだ。
不一致が、相違が、塩やからしの粒が必要なのだ。ファシズムはそれを必要とせずに、禁じている。
だからおまえはファシストではなおのだ。ファシズムがみなが同じであるように望んでいるが、
お前は同じではない。だが汚点の無い美徳など存在しないし、もし存在するなら、忌むべきなのだ。
深く心に残る言葉であった。
レービは哲学を専攻したわけでもないが、その視線は鋭く、事物の背後にあるものを見通す能力を
持っている。
この一文だけでも読んでよかったと思う。
本書ではさらにレービの小説も収録されている。
短編ではあるが、底流にはレービの生涯が色濃く影響している。
「鉛」・「水銀」・「チタン」等の短編。
これらの小説については表現が難しい。
私にはガルシア・マルケスやボルヘスを想起させるような小説と思えた。
乾いた文体・ありそうも無い設定なのにあまりにもリアリティがある。
化学者としての資質も色濃く小説に反映している。
レービの化学者としての資質をいかんなく発揮した短編。
こ小説だけでも一読の価値はある。
レービの最晩年を思い起こしつ、ゆっくりと味わって下さい。
読んでいる途中にふと涙がにじんだ。
どの部分で私の心に突き刺さったのか?今でも不明。
数年の間をおいてまた読もうと思う。

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周期律: 元素追想 (プラネタリー・クラシクス) 単行本 – 1992/9/1
- 本の長さ363ページ
- 言語日本語
- 出版社工作舎
- 発売日1992/9/1
- ISBN-104875022042
- ISBN-13978-4875022046
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登録情報
- 出版社 : 工作舎 (1992/9/1)
- 発売日 : 1992/9/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 363ページ
- ISBN-10 : 4875022042
- ISBN-13 : 978-4875022046
- Amazon 売れ筋ランキング: - 272,457位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 43位イタリア文学研究
- - 79位イタリア文学 (本)
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