懐かしい「翻案」のすべてを手にできる日がこようとは思ってもいなかった。完訳主義のために再刊されることのなかった「峯太郎ホームズ」が、著作権切れのおかげで、こうして手元にある。できれば冊数も元の20冊に分け、サイズももう少し小さめにしてもらえれば、読んでいるうちに手が疲れることも、真ん中あたりを読んでいるとき日本が割れてしまわないか心配することもないのだが。
贅沢は言うまい。私はホームズの作品のうち、いくつかをこの「峯太郎ホームズ」で初めて読み、阿部知二訳や久米元一訳のものとあまりにもキャラクターが違うのに驚いたのだが(学級文庫にはそんなに統一した蔵書があったわけでなく、どうしても児童向けの違うシリーズをバラで読むことになってしまう)、その文章の調子のよさ、親しみやすさで、峯太郎ホームズのファンになったのだった。
今でもわずかだが当時のものを手元に残しており、新潮文庫の延原版、創元推理文庫の阿部版などで全作を読破したのちも、「峯太郎ならどう訳していただろう」と思うことがしばしばあった。
今こうして第一巻を読み終え、「黄色い顔」での調子に乗ったホームズとハドソン夫人の井戸端会議のようなやり取りや、やけに伝法な口調のワトソンなど、心から楽しめた。
正典をきちっと読んだうえで、その書きっぷりを楽しむもよし、本書からホームズを読み始めるもよし(価格からいうと、まさか本書でホームズ入門をする人はいまいが)。
とにかく、この復刊だけで「ワトソン君、プラス5点!」と峯太郎ホームズのように言いたい。
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名探偵ホームズ全集 第一巻――深夜の謎 恐怖の谷 怪盗の宝 まだらの紐 スパイ王者 銀星号事件 謎屋敷の怪 単行本 – 2017/1/17
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昭和三十~五十年代、日本中の少年少女が探偵と冒険の世界に胸を躍らせて愛読した、図書館・図書室必備の、あの山中峯太郎版「名探偵ホームズ全集」、シリーズ二十冊を全三巻に集約して一挙大復刻!
小説家・山中峯太郎による、原作をより豊かにする創意や原作の疑問/矛盾点の解消のための加筆を明らかにする、詳細な註つき。ミステリマニア必読!
昭和三十~五十年代に小学生だった子どもたちは、学校の図書館で「少年探偵団」シリーズ、「怪盗ルパン全集」シリーズ、そして「名探偵ホームズ全集」シリーズを先を争うようにして借りだして、探偵と冒険の世界に胸を躍らせました。(…)しかしなぜかあれほど愛された、大食いで快活な「名探偵ホームズ」はいつのまにか姿を消して、気難しい痩せぎすの「シャーロック・ホームズ」に取って代わられてしまいました。
自由にホームズを楽しめる時代に、もう一度「名探偵ホームズ全集」を見直してみました。すると単に明朗快活なだけでなく、ホームズ研究家の目から見てもあっと驚くような指摘や新説がいくつも見つかりました。
昔を懐かしむもよし、峯太郎の鋭い考察に唸るもよし、「名探偵ホームズ全集」を現代ならではの楽しみ方で、どうぞ満喫してください。(平山雄一「前書き」より)
小説家・山中峯太郎による、原作をより豊かにする創意や原作の疑問/矛盾点の解消のための加筆を明らかにする、詳細な註つき。ミステリマニア必読!
昭和三十~五十年代に小学生だった子どもたちは、学校の図書館で「少年探偵団」シリーズ、「怪盗ルパン全集」シリーズ、そして「名探偵ホームズ全集」シリーズを先を争うようにして借りだして、探偵と冒険の世界に胸を躍らせました。(…)しかしなぜかあれほど愛された、大食いで快活な「名探偵ホームズ」はいつのまにか姿を消して、気難しい痩せぎすの「シャーロック・ホームズ」に取って代わられてしまいました。
自由にホームズを楽しめる時代に、もう一度「名探偵ホームズ全集」を見直してみました。すると単に明朗快活なだけでなく、ホームズ研究家の目から見てもあっと驚くような指摘や新説がいくつも見つかりました。
昔を懐かしむもよし、峯太郎の鋭い考察に唸るもよし、「名探偵ホームズ全集」を現代ならではの楽しみ方で、どうぞ満喫してください。(平山雄一「前書き」より)
- 本の長さ720ページ
- 言語日本語
- 出版社作品社
- 発売日2017/1/17
- 寸法16.2 x 5.2 x 22 cm
- ISBN-104861826144
- ISBN-13978-4861826146
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商品の説明
著者について
アーサー・コナン・ドイル
本名:アーサー・イグナチウス・コナン・ドイル
Arthur Ignatius Conan Doyle
1859~1930。大英帝国スコットランド、エジンバラ市で生まれる。エジンバラ大学医学部卒業、医学博士。開業医の傍ら執筆活動を続け、『緋色の研究』(1888)、『四つの署名』(1890)など「シャーロック・ホームズ」シリーズを生み出して、専業作家となった。自らは歴史小説家を自認し、探偵小説が著作の中心だとは認めなかった。小説家としての活動だけでなく、ボーア戦争では南アフリカで医療ボランティアに参加(1900)、さらにイギリスの立場を弁護する書籍やパンフレットを発表し、ナイト位を受けた(1902)。エダルジ事件やオスカー・スレーター事件といった冤罪事件の解明、コンゴでの現地人への残虐な仕打ちの告発といった社会活動も積極的に行ない、国会議員にも立候補したが落選している。晩年は心霊学に没頭し、多くの著作を発表するとともに世界中を講演旅行してまわった。SF でも『失われた世界』(1912)など古典的名作を残し、『恐怖の谷』(1914)はハードボイルド小説の先駆けとも言われている。
山中峯太郎(やまなか・みねたろう)
1885~1966。大阪府に呉服商馬淵浅太郎の子として生まれ、陸軍軍医山中恒斎の養子となる。陸軍士官学校卒(第十九期)。陸軍大学校に入学するも、親交があった中国人留学生に辛亥革命に誘われて退校、第二革命に参加する。革命は失敗して帰国、依願免官となる。東京朝日新聞社記者に転身して孫文らを側面から支援するとともに、インドの独立運動家ラス・ビハリ・ボースの支援も行なった。その後執筆活動に専念して情話小説、宗教書、少年少女小説、軍事小説などを執筆し、「少年倶楽部」に発表した『敵中横断三百里』(1930)、『亜細亜の曙』(1931)で熱狂的な人気を得た。戦後は再び少年小説で活躍するとともに、回想録『実録・アジアの曙』(1962)で文藝春秋読者賞を受賞、テレビドラマ化された(大島渚監督)。
平山雄一(ひらやま・ゆういち)
1963年東京都生まれ。東京医科歯科大学大学院歯学研究科修了、歯学博士。日本推理作家協会、『新青年』研究会、日本シャーロック・ホームズ・クラブ、ベイカー・ストリート・イレギュラーズ会員。著書に『江戸川乱歩小説キーワード辞典』(東京書籍)など、訳書に、バロネス・オルツィ『隅の老人【完全版】』(作品社)、ジョン・P・マーカンド『サンキュー、ミスター・モト』、J・K・バングズ『ラッフルズ・ホームズの冒険』(以上論創社)、エリス・パーカー・バトラー『通信教育探偵ファイロ・ガッブ』、ロイ・ヴィカーズ『フィデリティ・ダヴの大仕事』、ロバート・バー『ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利』(以上国書刊行会)などがある。
本名:アーサー・イグナチウス・コナン・ドイル
Arthur Ignatius Conan Doyle
1859~1930。大英帝国スコットランド、エジンバラ市で生まれる。エジンバラ大学医学部卒業、医学博士。開業医の傍ら執筆活動を続け、『緋色の研究』(1888)、『四つの署名』(1890)など「シャーロック・ホームズ」シリーズを生み出して、専業作家となった。自らは歴史小説家を自認し、探偵小説が著作の中心だとは認めなかった。小説家としての活動だけでなく、ボーア戦争では南アフリカで医療ボランティアに参加(1900)、さらにイギリスの立場を弁護する書籍やパンフレットを発表し、ナイト位を受けた(1902)。エダルジ事件やオスカー・スレーター事件といった冤罪事件の解明、コンゴでの現地人への残虐な仕打ちの告発といった社会活動も積極的に行ない、国会議員にも立候補したが落選している。晩年は心霊学に没頭し、多くの著作を発表するとともに世界中を講演旅行してまわった。SF でも『失われた世界』(1912)など古典的名作を残し、『恐怖の谷』(1914)はハードボイルド小説の先駆けとも言われている。
山中峯太郎(やまなか・みねたろう)
1885~1966。大阪府に呉服商馬淵浅太郎の子として生まれ、陸軍軍医山中恒斎の養子となる。陸軍士官学校卒(第十九期)。陸軍大学校に入学するも、親交があった中国人留学生に辛亥革命に誘われて退校、第二革命に参加する。革命は失敗して帰国、依願免官となる。東京朝日新聞社記者に転身して孫文らを側面から支援するとともに、インドの独立運動家ラス・ビハリ・ボースの支援も行なった。その後執筆活動に専念して情話小説、宗教書、少年少女小説、軍事小説などを執筆し、「少年倶楽部」に発表した『敵中横断三百里』(1930)、『亜細亜の曙』(1931)で熱狂的な人気を得た。戦後は再び少年小説で活躍するとともに、回想録『実録・アジアの曙』(1962)で文藝春秋読者賞を受賞、テレビドラマ化された(大島渚監督)。
平山雄一(ひらやま・ゆういち)
1963年東京都生まれ。東京医科歯科大学大学院歯学研究科修了、歯学博士。日本推理作家協会、『新青年』研究会、日本シャーロック・ホームズ・クラブ、ベイカー・ストリート・イレギュラーズ会員。著書に『江戸川乱歩小説キーワード辞典』(東京書籍)など、訳書に、バロネス・オルツィ『隅の老人【完全版】』(作品社)、ジョン・P・マーカンド『サンキュー、ミスター・モト』、J・K・バングズ『ラッフルズ・ホームズの冒険』(以上論創社)、エリス・パーカー・バトラー『通信教育探偵ファイロ・ガッブ』、ロイ・ヴィカーズ『フィデリティ・ダヴの大仕事』、ロバート・バー『ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利』(以上国書刊行会)などがある。
登録情報
- 出版社 : 作品社 (2017/1/17)
- 発売日 : 2017/1/17
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 720ページ
- ISBN-10 : 4861826144
- ISBN-13 : 978-4861826146
- 寸法 : 16.2 x 5.2 x 22 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 948,403位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 5,212位ミステリー・サスペンス・ハードボイルド (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2017年3月24日に日本でレビュー済み
子どもの頃、学校の図書館にあったのは記憶しているが読んだことはない峯太郎版ホームズ。色々と噂には聞いていたが、読んでみると、けっこう愉しめた。
ホームズが煙草をやたらと「フーッ、フッ」とか「フッフーフッ」と吹かしたり、人の3、4倍の料理を平らげる大食いだったりするあたりは有名だが、やはり笑える。
「ウフッ」とか「ホー」とか「タハッ」とかの古めかしい言い回しは、趣味じゃない人には安っぽいだけだろうが、読んでいてニヤニヤしてしまう。「探偵神経」(推理能力くらいの意)とか「ヘボ探」とかの、昭和前期な感じの言葉もいい。
ワトソンが語った話を妻メアリー(や椈屋敷の家庭教師ハンタ嬢)が筆記するという形式や、ハドソン夫人がホームズとワトソンの推理の輪に加わったりする(「黄色い顔」)のは、大戦後女性が強くなったということだろうか。美女がことごとく銀髪なのも、ちょっと面白い。
しかし、峯太郎としては安直なやっつけ仕事ではなく、細部の改変箇所は原典より合理的な場合もあることが平山註によって明らかにされていく。
例えば「青い紅玉(ルビー)」で、帽子を見て頭が大きいので知能が高いとホームズが推理する場面でワトソンが『頭デッカチだって、ばかなのがいるぜ』と突っ込んでいたりする。
これは分かりやすいから採り上げただけだが、ミステリ・マニアが本書を読めば、あちこちで感心させられるだろう(私は別にマニアじゃないが)。スパイ活動や軍事に詳しい峯太郎ならではの加筆もある。
ただ、翻案と言っても戦後のものだから、大筋は原典から離れることがないわけだが。
もちろん、峯太郎のポカもあるのだが、時代錯誤と批判される自動車の登場は、延原謙が誤訳したのが元になっていると知って驚いた(『恐怖の谷』註69)。
この「全集」は執筆の時系列で作品が並べられていて(原典の時系列とは、かなり異なるが)、最初の『深夜の謎』は『緋色の研究』、『怪盗の宝』が『四つの署名』。
『まだらの紐』は「六つのナポレオン」・「口のまがった男」・表題作。
『スパイ王者』は「黄色い顔」・「謎の自転車」(プライオリ学校)・表題作(海軍条約文書事件)。
『銀星号事件』は表題作(白銀号事件)・「怪女の鼻目がね」(金縁の鼻眼鏡)・「魔術師ホームズ」(第二の汚点)。
『謎屋敷の怪』は「青い紅玉」・「黒ジャック団」(ボスコム谷の惨劇)・表題作(椈屋敷)。
各話は脇キャラなどが有機的につながっているので、順番に読むのがよい。
700頁超の一冊なので、おいそれと読む気にはならないのが難だが。
ホームズが煙草をやたらと「フーッ、フッ」とか「フッフーフッ」と吹かしたり、人の3、4倍の料理を平らげる大食いだったりするあたりは有名だが、やはり笑える。
「ウフッ」とか「ホー」とか「タハッ」とかの古めかしい言い回しは、趣味じゃない人には安っぽいだけだろうが、読んでいてニヤニヤしてしまう。「探偵神経」(推理能力くらいの意)とか「ヘボ探」とかの、昭和前期な感じの言葉もいい。
ワトソンが語った話を妻メアリー(や椈屋敷の家庭教師ハンタ嬢)が筆記するという形式や、ハドソン夫人がホームズとワトソンの推理の輪に加わったりする(「黄色い顔」)のは、大戦後女性が強くなったということだろうか。美女がことごとく銀髪なのも、ちょっと面白い。
しかし、峯太郎としては安直なやっつけ仕事ではなく、細部の改変箇所は原典より合理的な場合もあることが平山註によって明らかにされていく。
例えば「青い紅玉(ルビー)」で、帽子を見て頭が大きいので知能が高いとホームズが推理する場面でワトソンが『頭デッカチだって、ばかなのがいるぜ』と突っ込んでいたりする。
これは分かりやすいから採り上げただけだが、ミステリ・マニアが本書を読めば、あちこちで感心させられるだろう(私は別にマニアじゃないが)。スパイ活動や軍事に詳しい峯太郎ならではの加筆もある。
ただ、翻案と言っても戦後のものだから、大筋は原典から離れることがないわけだが。
もちろん、峯太郎のポカもあるのだが、時代錯誤と批判される自動車の登場は、延原謙が誤訳したのが元になっていると知って驚いた(『恐怖の谷』註69)。
この「全集」は執筆の時系列で作品が並べられていて(原典の時系列とは、かなり異なるが)、最初の『深夜の謎』は『緋色の研究』、『怪盗の宝』が『四つの署名』。
『まだらの紐』は「六つのナポレオン」・「口のまがった男」・表題作。
『スパイ王者』は「黄色い顔」・「謎の自転車」(プライオリ学校)・表題作(海軍条約文書事件)。
『銀星号事件』は表題作(白銀号事件)・「怪女の鼻目がね」(金縁の鼻眼鏡)・「魔術師ホームズ」(第二の汚点)。
『謎屋敷の怪』は「青い紅玉」・「黒ジャック団」(ボスコム谷の惨劇)・表題作(椈屋敷)。
各話は脇キャラなどが有機的につながっているので、順番に読むのがよい。
700頁超の一冊なので、おいそれと読む気にはならないのが難だが。