コロナ禍で世界最大死者数を出しているアメリカの医療現場の実情を知るため、現場で活躍する日系医師が書いたこの本を買った。著者は大阪生まれの42歳、内科と救急医学科の専門医資格を持ち、ボストンにあるハーバード大学医学部の助教授。大学系列病院の救急部（ER）に月８回指導医としてシフト勤務している現役臨床医でもある。書名からアメリカコロナ禍医療現場のルポルタージュと思ったがその部分は思いのほか少なく、他に 日本とアメリカの医療環境の違い、そして自伝（自慢話）が語られていた。
医療現場のルポでは、先ず著者が勤務する病院での話。3月上旬、著者が勤務する床数793を持つ大病院が「コロナ専用病院になります」と宣言し、入院患者の退院を要請しほぼ全患者を退院させたという。アメリカには「ERはいつ何時でも救急車の受け入れを拒否してはならない」旨の法律があるらしい。これは救える命も救えない「患者のたらいまわし」を克服するために制定されたという。感染ピーク時には救急車５台が同時に到着したこともあったという。
コロナ禍のERでは、感染予防のため、医師は一人の患者処置が終わるたび、というより処置室を移動するたびに新品の防御服に着替える。１日８時間のシフト中に平均25～30回は着替えているという。看護師の脱着回数はもっと多い。着るにも脱ぐにも７～８分は要するから、勤務時間の約１/3が着替えに費される計算になる。その上、念のため防護服脱着時には他のドクターのチェックも受けなければならない。こんなに注意深く感染予防を行っても医師が感染することもあるようだ。著者の同僚の知り合いのNYのERの女性医師は、溢れかえる患者の治療に追われ、1日18時間勤務による過労の末に感染し、最後には重度のうつと診断され退院後に自殺したという。
コロナ患者の血中酸素飽和度が90％以下になると、必要な酸素を直接肺に送るため全身麻酔をして気管挿管を行う必要がある。この施術の成功率は全米で97％、つまり最善を尽くしても３％は失敗するという。著者もこの施術を行っているが、ヒヤリとすることは何度もあったという。さらにコロナ患者の場合は、NYの例では挿管が成功しても回復できるのはその20％だったという。ニュースでよく耳にした人工呼吸器の装着について、こんな厳しいリスクがあることを初めて知った。
ドライなアメリカ人が、人間味を示した話題も紹介されている。コロナ禍では患者以外の病院への立ち入りは全面禁止であり、患者が臨終に最愛の家族にも会えない状況を不憫に思い、ICUのスタッフは患者をiPadでビデオ撮影し、リアルタイム或いは死後に家族に送ることを提案した。病院も素早くこの提案を許可した。以後こうした事例は増えていったという。「死は誰のものか。死ぬ当人だけのものではない。家族をはじめ、その人に関りあった人、すべてのものだと確信する」と書かれているが、人間味のある深い言葉である。
これと全く逆な内容も書かれている。アメリカは個人の意思を最優先する社会である。例えば、延命治療をして欲しくないと意志表明していた患者に、誤って気管挿管を施術してしまった場合は、管を抜くと死んでしまうことが判っていても抜くのが医師の義務のようだ。日本とは違い、アメリカは個人主義が徹底している。
日本とアメリカの医療環境の違い等については、他の情報源からも入手できる。
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