現代版『出来事の理論』とも言うべき本書です。
本書は、疾病や社会的行動から政治や経済に至るあらゆるものの分析に役立っています。
現代という感染時代は、疾病や社会的行動から政治や経済に至るあらゆる「出来事」が
感染爆発を起こす可能性があります。
「この『感染時代』に生きるすべての人々のための《知的なワクチン》」(カバーそで)
「感染時代」の《知的なワクチン》だなんて! うまい宣伝文句、キャッチコピーです。
本書の書名は、『感染の法則』
感染に「法則」なんて、あるのでしょうか?
感染症は、突然に出現し、わけも分からないうちに収束するようにも見えます。
「数理モデルを用いることで『どのように物事が広がり、収束するのか』を明らかにする本書」(カバーそで)は、感染症の拡大と収束を「物事」の一つと考えています。
著者は、社会のすべての「物事」に共通する現象(出来事)を捉えているのです。
感染の法則には、「数理モデル」まである! 驚きました。
原題は、「THE RULES OF CONTAGION」
感染の法則(ルール)は、一つではない、複数あります。
「数理モデル」も複数あります。
「CONTAGION」は、感染と訳すほかに、コンタクト(接触)による伝染とも訳せます。
2011年の映画『コンテイジョン』は、
2020年の新型コロナウイルスの感染爆発を予言していたようにも思えます。
本書の副題は、「ウイルス伝染から金融危機、ネットミームの拡散まで」。
「伝染」と拡散という日本語でうまく訳していると思います。
こんなにも広い範囲の伝染(拡散)という現象に適用できる「法則」なんて、
存在するのでしょうか?
大小さまざまな感染があり、縦横にバラバラになって、
何通りもあるルートを通った不完全な形の接触による伝染もあり、
無数の混沌状態のように思えます。
それらに共通の法則(パターン)があるなんて、予想もつきません。
本書のカバーのイラストは、そんな混沌とした状況をうまく表現していると思います。
原書の副題は、「Why Things Spread – and Why They Stop」
<なぜ、物事は拡散するのか、そしてなぜ、収束するのか、その理由>(読者私訳)
「どのように物事が広がり、収束するのか」(カバーそで)
「何がものごとを拡散させるのか、なぜ感染爆発はそのような姿をとるのか」(15頁)
を明らかにすることが、本書の狙いです。
「伝染の原動力が本当は何なのかを突きとめる必要がある」(20頁)
伝染の原動力?
本書の目次を見ると、
新型コロナウイルスだけでなく、コンピュータウイルスについても論じています。
考察の範囲も、病気の感染だけでなく、
金融、概念や信念、アイディア、暴力、オンラインでの感染まで、
広範囲に及びます。
本書の考察の対象となった具体的事例を列挙します。
これらの事例は、巻末の「索引」を使って簡単に拾い読みできます。
・感染性疾病(病気):
COVID-19(新型コロナウイルス)、新型のインフルエンザ、「ブタインフルエンザ」、エボラ出血熱、ギランバレー症候群(GBS)、デング熱、ジカ熱、マラリア、天然痘、ペスト、エイズ(HIV)、狂犬病、SARS(サーズ)、麻疹、チフス、性感染症、淋病、コレラ、ジフテリア、鳥インフルエンザ、はしか、結核、「スーパー淋病」、類鼻疽
・金融危機の伝播:
チューリップ・バブル、ドットコム・バブル、ビットコイン・バブル、リーマン・ブラザーズの破綻、2008年の金融危機
・伝染性概念や信念: ブーム、流行
・伝染性アイディア: 模倣
・暴力の伝播: 暴力連鎖
・オンラインでの感染・拡散:
「ワナクライ」コンピュータウイルス、オンラインミーム、ヒッグス粒子の噂の拡散、投稿や画像などのインターネット・ミームの拡散、「ミライ」というボットネット、オンラインワーム、「モリスワーム」、「スラマー」、「Beebone(ビーボーン)」ボットネット
「感染はしばしば社会的なプロセスなのだ」(125頁)
「社会的な伝染」(377頁)
感染は、時間をかけてゆっくり広がることもあれば、瞬間的に短い時間で「感染爆発」を起こすこともあります。
感染の考察は、歴史的に深く掘り下げられ、感染現象(出来事)について時間をさかのぼって追跡されます。
「ロナルド・ロスが1916年に望んだように、現代版『出来事の理論』がいま、疾病や社会的行動から政治や経済に至るあらゆるものの分析に役立っている」(384頁)
本書の最後は、新たな感染に対応するためのアドバイス。
「感染爆発の分析において最も重要な瞬間は、自分たちの正しさが証明されるときではない。間違っていたと悟るときだ。それは、何かがしっくりとしないとき、あるパターンが僕たちの目を捉え、当たり前と思っていた規則を例外が壊すときだ」(384頁)
「そのとき後ろを振り返れば、過去の感染爆発が実際にはどのように起こったのかかが解明できる。そして前に目を転じれば、将来どのように起こるかを変えることができるだろう」(385頁)
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感染の法則:ウイルス伝染から金融危機、ネットミームの拡散まで 単行本(ソフトカバー) – 2021/3/2
アダム・クチャルスキー
(著),
日向 やよい
(翻訳)
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なぜ金融危機と感染症の伝播は似ているのか br>私たちの日常を陰から支配する驚くべき「感染のルール」の数々を、
数理モデルが明らかにする、これ以上ないほどタイムリーな1冊!
コロナウイルスのような感染症の脅威は言うまでもなく
、金融危機の連鎖から、ネットミームの拡散、犯罪や自殺の伝染まで、
私たちはあらゆる「感染」に囲まれた時代を生きています。
本書は、数理モデルを用いることで「どのように物事が広がり、収束するのか」を
わかりやすく解明します。
この「感染時代」に生きるすべての人々におくる「知のワクチン」。
<目次より><; br>序章
第1章 感染の理論
第2章 金融危機と感染症
第3章 アイディアの感染
第4章 暴力の感染
第5章 オンラインでの感染
第6章 コンピュータウイルスの感染
第7章 感染爆発を追跡する
第8章 感染の法則を生かすために
数理モデルが明らかにする、これ以上ないほどタイムリーな1冊!
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第1章 感染の理論
第2章 金融危機と感染症
第3章 アイディアの感染
第4章 暴力の感染
第5章 オンラインでの感染
第6章 コンピュータウイルスの感染
第7章 感染爆発を追跡する
第8章 感染の法則を生かすために
- 本の長さ448ページ
- 言語日本語
- 出版社草思社
- 発売日2021/3/2
- 寸法13.3 x 3 x 18.8 cm
- ISBN-104794225040
- ISBN-13978-4794225047
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商品の説明
著者について
アダム・クチャルスキー(Adam Kucharski)
1986年生まれ、ロンドン在住。ケンブリッジ大学で数学の博士号を取得。ロンドン大学衛生熱帯医学大学院で数学モデリングを教えながら統計学や社会行動の論文を発表する。著書に『文庫 ギャンブルで勝ち続ける科学者たち: 完全無欠の賭け』がある。
1986年生まれ、ロンドン在住。ケンブリッジ大学で数学の博士号を取得。ロンドン大学衛生熱帯医学大学院で数学モデリングを教えながら統計学や社会行動の論文を発表する。著書に『文庫 ギャンブルで勝ち続ける科学者たち: 完全無欠の賭け』がある。
登録情報
- 出版社 : 草思社 (2021/3/2)
- 発売日 : 2021/3/2
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 448ページ
- ISBN-10 : 4794225040
- ISBN-13 : 978-4794225047
- 寸法 : 13.3 x 3 x 18.8 cm
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著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2021年3月25日に日本でレビュー済み
2022年3月23日に日本でレビュー済み
原著の最初の出版はイギリスで2020年2月13日のことであるが、その時、新型コロナウィルスが始まった。本書の翻訳はその後に版が改められた2021年のものである。従って本書は新型コロナについて書き加えられているものの、新型コロナのパンデミックがあったから構想されたものではない。感染症と同じく、社会的出来事も感染し、広がるのだというアイデアをまとめたものである。そういう意味では先見の明があったと言える。それぞれのエピソードは大変興味深く、また専門知識がなくても読み進めることができる。
感染として取り上げられているエピソードは、感染症は当然として、金融危機、アイデア、暴力、オンライン上のデマなど、コンピュータウィルスである。
1.金融危機
金融危機を感染モデルで説明し、2013年のノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラーの名がないのが残念である。これは経済学としては画期的な新理論の登場である。その経済ナラティブ(物語)が、病気と同じ流行モデルで伝播すると説明されている。(ロバート・シラー(2019)『ナラティブ経済学: 経済予測の全く新しい考え方』山形浩生(2021) 東洋経済新報社)
心理療法にナラティブ・セラピーという方法があるのだが、これはクライエント個人のレベルにある好ましくないナラティブ(自己認識)を、好ましいものに変えようとするものである。しかし、シラーのナラティブ経済学は集団行動を促すものとしてナラティブを捉えている。ナラティブは本書で言えばアイデアと言ってよいだろう。それは病原菌のように感染し、経済を動かしているのである。
2.感染と模倣
感染ではなく、模倣で経済を説明しようとした社会学者がいた。フランスのガブリエル・タルド(1843-1904)である。最近、彼の経済心理学を解説する本が翻訳された(ラトゥール&レピネ(2008)『情念の経済学:タルド経済心理学入門』中倉智徳(2021)人文書院)。
タルド経済心理学は、隠れた構造を探したり、市場のメカニズムで説明しようとしたりはしない。あくまでも経済は人間の行いなのである。経済は人為的な手段によってしか、切り開くことはできないと考える。シラーはこのタルドに近いように思える。
ただし、シラーは感染だが、タルドは模倣によって説明しようとする。感染とは、伝わるもの自体の力において対象に伝わることである。一方模倣は、伝わるもの自体は伝わる力を持たないが、受け取る側が勝手に伝わるものを受け入れるのである。アラリア原虫を模倣するとは言わないように、感染と模倣は本来異なるのだが、その伝わり方が似ている、ないし同じなのだ。
シラーは感染を使っているが、ナラティブ自体は伝わる力を兼ね備えてはいない。人間が勝手にナラティブの情報(アイデア)を受け入れる、つまり模倣し信じるのである。経済活動で言えば、その商品を真似して作るのであり、その商品を真似して買うのである。
さらにタルドは発明によって、進化論の適者生存の考え方を修正する。徒競走で勝ち残るというようなイメージではなく、発明(イノベーション)によって、それが模倣され伝播し反復されると、すでに普及しているものとの対立が生まれる。そしてこれらが互いにうまくいくように調節しあうのが観察される。それは進化論的には社会の適応が成立したことになる。シラーのナラティブは、この発明に近いとも言える。
本書の感染の例は、マラリア原虫などの病原体やコンピュータウィルス以外は、シラーのナラティブも含めて、模倣を使う方が適切なように思える。
3.SIRモデル
感染症の数理モデルが、ウィリアム・ケルマック(カーマック)とアンダーソン・マケンドリックによって作られた。その名は、感受性保持者(Susceptible)→感染者(Infectious)→回復者(Recovered)の頭文字をとってSIRモデルと名付けられた(p.44)。このモデルでは感染者数の時間を追った推移が注目される。新たに感染する人よりも回復する人のほうが多くなるため、流行は下火になり始めると説明される。
このモデルは模倣にも適用できるだろう。感受性保持者→新たな模倣者→模倣したものの保持者と言い換えてもグラフは同じになる。ただし一過性の流行などには当てはまらない。なぜなら流行は流れ去って行くので、免疫保持者と同じような保持する者がいないからだ。
重要なのは、模倣したものを保持する人々である。例えば社会制度や新しい考え方(イノベーション)などの場合は、模倣が経済や政治を動かしていると言っていいのではないか。社会制度が感染するとは言わない。感染はどこかしら好ましくないものの広がりに使われている。
本書にはロバート・シラーやガブリエル・タルドの名はないが、著者と彼らのアイデアは似ていると思い付いたので、読書記録として書き留めておくことにした。
感染として取り上げられているエピソードは、感染症は当然として、金融危機、アイデア、暴力、オンライン上のデマなど、コンピュータウィルスである。
1.金融危機
金融危機を感染モデルで説明し、2013年のノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラーの名がないのが残念である。これは経済学としては画期的な新理論の登場である。その経済ナラティブ(物語)が、病気と同じ流行モデルで伝播すると説明されている。(ロバート・シラー(2019)『ナラティブ経済学: 経済予測の全く新しい考え方』山形浩生(2021) 東洋経済新報社)
心理療法にナラティブ・セラピーという方法があるのだが、これはクライエント個人のレベルにある好ましくないナラティブ(自己認識)を、好ましいものに変えようとするものである。しかし、シラーのナラティブ経済学は集団行動を促すものとしてナラティブを捉えている。ナラティブは本書で言えばアイデアと言ってよいだろう。それは病原菌のように感染し、経済を動かしているのである。
2.感染と模倣
感染ではなく、模倣で経済を説明しようとした社会学者がいた。フランスのガブリエル・タルド(1843-1904)である。最近、彼の経済心理学を解説する本が翻訳された(ラトゥール&レピネ(2008)『情念の経済学:タルド経済心理学入門』中倉智徳(2021)人文書院)。
タルド経済心理学は、隠れた構造を探したり、市場のメカニズムで説明しようとしたりはしない。あくまでも経済は人間の行いなのである。経済は人為的な手段によってしか、切り開くことはできないと考える。シラーはこのタルドに近いように思える。
ただし、シラーは感染だが、タルドは模倣によって説明しようとする。感染とは、伝わるもの自体の力において対象に伝わることである。一方模倣は、伝わるもの自体は伝わる力を持たないが、受け取る側が勝手に伝わるものを受け入れるのである。アラリア原虫を模倣するとは言わないように、感染と模倣は本来異なるのだが、その伝わり方が似ている、ないし同じなのだ。
シラーは感染を使っているが、ナラティブ自体は伝わる力を兼ね備えてはいない。人間が勝手にナラティブの情報(アイデア)を受け入れる、つまり模倣し信じるのである。経済活動で言えば、その商品を真似して作るのであり、その商品を真似して買うのである。
さらにタルドは発明によって、進化論の適者生存の考え方を修正する。徒競走で勝ち残るというようなイメージではなく、発明(イノベーション)によって、それが模倣され伝播し反復されると、すでに普及しているものとの対立が生まれる。そしてこれらが互いにうまくいくように調節しあうのが観察される。それは進化論的には社会の適応が成立したことになる。シラーのナラティブは、この発明に近いとも言える。
本書の感染の例は、マラリア原虫などの病原体やコンピュータウィルス以外は、シラーのナラティブも含めて、模倣を使う方が適切なように思える。
3.SIRモデル
感染症の数理モデルが、ウィリアム・ケルマック(カーマック)とアンダーソン・マケンドリックによって作られた。その名は、感受性保持者(Susceptible)→感染者(Infectious)→回復者(Recovered)の頭文字をとってSIRモデルと名付けられた(p.44)。このモデルでは感染者数の時間を追った推移が注目される。新たに感染する人よりも回復する人のほうが多くなるため、流行は下火になり始めると説明される。
このモデルは模倣にも適用できるだろう。感受性保持者→新たな模倣者→模倣したものの保持者と言い換えてもグラフは同じになる。ただし一過性の流行などには当てはまらない。なぜなら流行は流れ去って行くので、免疫保持者と同じような保持する者がいないからだ。
重要なのは、模倣したものを保持する人々である。例えば社会制度や新しい考え方(イノベーション)などの場合は、模倣が経済や政治を動かしていると言っていいのではないか。社会制度が感染するとは言わない。感染はどこかしら好ましくないものの広がりに使われている。
本書にはロバート・シラーやガブリエル・タルドの名はないが、著者と彼らのアイデアは似ていると思い付いたので、読書記録として書き留めておくことにした。
2023年2月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
感染、宣伝、情報の伝播...現代社会の様々な拡散を数理モデルを用いて解説しているが、複雑な数式は出てこないので誰でも易しく読める。その上で漠然と捉えていた現象の解像度が上がるので非常におすすめ。発売直後に買って以来数回読み返している