表題作「アフター・レイン」について書こう。
変なたとえを書こう。私はひどく、目が悪い。眼鏡を取り、ものを見る。ぼやける。あくびをする。目に涙がたまる。それまでぼやけていたものたちが、はっきりと、美しく見える。ほんの、一瞬である。
このたとえとは、ずれてしまうけれど、この作品の魅力は、この現象と少し似ている。
雨が降る。外だけではない。自分の心の中に。人生という道の途上に。やがて、雨あがる。束の間、晴天がのぞく。このときなのだ。世界が、美しく輝くのは。それまで見えなかったものたちが、飛び出してくる。
作品中では、キリスト教の影響を強く受けている。雨はもとをただせば、水だ。水は川になる。その昔は、川の水を用いて、洗礼を授けたそうだ。脱線するが、キリスト教における、永遠の命をもたらす水とは、涙ではないだろうか。涙は、人をリセットする。その涙もまた、水だ。つまり、洗礼に用いる水とは、涙のメタファーではないのか。
雨の洗礼を浴びたヒロインは、人生における新たな道を踏み出すだろう。
ほかの作品についても、少しふれておこう。
「ギルバートの母」。行動障害を抱えた青年とその母との物語。他人事としては読めなかった。
「失われた地」。自分が体験した非現実的な、しかし、確実な現実、その話を誰にも信じてもらえなかった少年と、その家族の物語。科学をはみ出していくもの、論理をはみ出していくものは、やはり、あるのだ。そうして、そういうものを受け入れられるかどうか、それが、人としての大きさを示すのではないだろうか。そんなことを考えた。
「一日」。夢と現実。境界線は、どこにあるのか? 夢と現実とは、陸続きだ。トレヴァー氏に、そう言われているような感覚を覚えた作品だ。
附記。ドストエフスキー「虐げられた人々」もまた、雨が印象的に登場する素敵な作品である。
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アフター・レイン 単行本 – 2009/1/23
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アイルランドが生んだ現代最高の短編作家と評価される
トレヴァー円熟期の作品。
多弁を避け、行間ににじませる余韻によって
余すところなく登場人物の意識の動きを描き切る
作者独特の心理描写の手法で紡ぎだされた珠玉の12編。
トレヴァー円熟期の作品。
多弁を避け、行間ににじませる余韻によって
余すところなく登場人物の意識の動きを描き切る
作者独特の心理描写の手法で紡ぎだされた珠玉の12編。
- 本の長さ334ページ
- 言語日本語
- 出版社彩流社
- 発売日2009/1/23
- 寸法19.5 x 13.5 x 2.5 cm
- ISBN-104779114098
- ISBN-13978-4779114090
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商品の説明
著者について
Willam Trevor Cox 1928-2016.
1928年、アイルランド・コーク州生まれ。
本書はペンギン社版
トレヴァー短編集『After Rain』(1996)の全訳。
邦訳書に、
『同窓』
(オリオン社、鈴木英也訳、1981年)、
『リッツホテルの天使達』
(ほおずき書籍、後恵子訳、1983年)、
『20世紀イギリス短篇選 下 岩波文庫』
(「欠損家庭」(ウィリアム・トレヴァー)所収、
小野寺健編訳、岩波書店、1987年)、
『フールズ・オブ・フォーチュン』
(論創社、岩見寿子訳、1992年)、
『むずかしい愛 現代英米愛の小説集』
(「ピアノ調律師の妻たち」(ウイリアム・トレヴァー)所収、
朝日新聞社、柴田元幸・畔柳和代 訳、1999年)
『フェリシアの旅 角川文庫』
(アトム・エゴヤン監督映画化原作、角川書店、皆川孝子訳、2000年)、
「ギルバートの母」
「失われた地」
「ダミアンとの結婚」
翻訳担当
「ティモシーの誕生日」
「小遣い稼ぎ」
「アフター・レイン」
翻訳担当
「ある友情」
「一日」
翻訳担当
「ピアノ調律師の妻たち」
「子どもの遊び」
「未亡人姉妹」
「馬鈴薯仲買人」
翻訳担当
1928年、アイルランド・コーク州生まれ。
本書はペンギン社版
トレヴァー短編集『After Rain』(1996)の全訳。
邦訳書に、
『同窓』
(オリオン社、鈴木英也訳、1981年)、
『リッツホテルの天使達』
(ほおずき書籍、後恵子訳、1983年)、
『20世紀イギリス短篇選 下 岩波文庫』
(「欠損家庭」(ウィリアム・トレヴァー)所収、
小野寺健編訳、岩波書店、1987年)、
『フールズ・オブ・フォーチュン』
(論創社、岩見寿子訳、1992年)、
『むずかしい愛 現代英米愛の小説集』
(「ピアノ調律師の妻たち」(ウイリアム・トレヴァー)所収、
朝日新聞社、柴田元幸・畔柳和代 訳、1999年)
『フェリシアの旅 角川文庫』
(アトム・エゴヤン監督映画化原作、角川書店、皆川孝子訳、2000年)、
「ギルバートの母」
「失われた地」
「ダミアンとの結婚」
翻訳担当
「ティモシーの誕生日」
「小遣い稼ぎ」
「アフター・レイン」
翻訳担当
「ある友情」
「一日」
翻訳担当
「ピアノ調律師の妻たち」
「子どもの遊び」
「未亡人姉妹」
「馬鈴薯仲買人」
翻訳担当
登録情報
- 出版社 : 彩流社 (2009/1/23)
- 発売日 : 2009/1/23
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 334ページ
- ISBN-10 : 4779114098
- ISBN-13 : 978-4779114090
- 寸法 : 19.5 x 13.5 x 2.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 824,066位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 266位その他の外国文学作品
- - 8,414位英米文学研究
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
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2020年5月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
翻訳者たちのことはよく知らないが、あまり優れた人物ではないのだろう。日本語が下手で読みにくい。
個人的意見として特に下手だと思われたのは、『ある友情』と『一日』を翻訳している佐治小枝子である。言葉のチョイスが絶望的で作品の魅力が半減している。
個人的意見として特に下手だと思われたのは、『ある友情』と『一日』を翻訳している佐治小枝子である。言葉のチョイスが絶望的で作品の魅力が半減している。
2009年2月28日に日本でレビュー済み
「彼の小説の特徴は、無駄のない的確でみずみずしい描写と、
設定された人物像の揺らぎない精密さ、
ナイフのように鋭くはあるけれど同時に不思議な優しさを含んだ小説的視線にある。」
(村上春樹 編訳『バースデイ・ストーリーズ』より)
アイルランドに特有の、陰鬱で雨の多い気候を舞台にした作品をたくさん発表しているトレヴァーは、長篇も書いている作家ですが、特に短篇小説に対する評価が絶大な作家のようです。日本でも、『聖母の贈り物』と『密会』というふたつの短篇集が翻訳されていますが、そのなかのどの一篇をとっても、うえの村上氏が指摘したトレヴァーの特徴を読み取れると思います。
すでに八十歳を過ぎた高齢の作家ですし、いままでに発表した本も膨大な数にのぼりますが、充分に距離をとった人物の描きかた、最小限の言葉や動作で心理を表現する技巧、よく練られた構成の見事さ、これらがどの作品にもひとしなみに見て取れる安定性がこの作家には備わっています。
冒頭に配された「ピアノ調律師の妻たち」でも、主人公の男の前妻、後妻の書き分けや、妻が新しくなることで盲目の主人公の生活がじわじわと、しかし決定的に変化していくさまは、哀しくもありコミカルでもあります。
ひとり息子に手痛い仕打ちを受けた仲の良い老夫婦が、雨上がりの庭に出て、その事実と痛みを静かに受け入れる描写が美しい「ティモシーの誕生日」。
表題作「アフター・レイン」の最後、失恋した主人公の女性に、これもある決定的な変化が訪れます。はっきりと明言されているわけではないので丁寧に読まないと分かりづらいのですが、その〈変化〉を包みこみ祝福するような雨上がりの静けさがなんとも心地よい作品です。
派手で作為的なフィクションに興味はないが、小説を読む愉しみには浸ってみたい、という人に特にお勧めします。
Amazonで購入
「彼の小説の特徴は、無駄のない的確でみずみずしい描写と、
設定された人物像の揺らぎない精密さ、
ナイフのように鋭くはあるけれど同時に不思議な優しさを含んだ小説的視線にある。」
(村上春樹 編訳『バースデイ・ストーリーズ』より)
アイルランドに特有の、陰鬱で雨の多い気候を舞台にした作品をたくさん発表しているトレヴァーは、長篇も書いている作家ですが、特に短篇小説に対する評価が絶大な作家のようです。日本でも、『聖母の贈り物』と『密会』というふたつの短篇集が翻訳されていますが、そのなかのどの一篇をとっても、うえの村上氏が指摘したトレヴァーの特徴を読み取れると思います。
すでに八十歳を過ぎた高齢の作家ですし、いままでに発表した本も膨大な数にのぼりますが、充分に距離をとった人物の描きかた、最小限の言葉や動作で心理を表現する技巧、よく練られた構成の見事さ、これらがどの作品にもひとしなみに見て取れる安定性がこの作家には備わっています。
冒頭に配された「ピアノ調律師の妻たち」でも、主人公の男の前妻、後妻の書き分けや、妻が新しくなることで盲目の主人公の生活がじわじわと、しかし決定的に変化していくさまは、哀しくもありコミカルでもあります。
ひとり息子に手痛い仕打ちを受けた仲の良い老夫婦が、雨上がりの庭に出て、その事実と痛みを静かに受け入れる描写が美しい「ティモシーの誕生日」。
表題作「アフター・レイン」の最後、失恋した主人公の女性に、これもある決定的な変化が訪れます。はっきりと明言されているわけではないので丁寧に読まないと分かりづらいのですが、その〈変化〉を包みこみ祝福するような雨上がりの静けさがなんとも心地よい作品です。
派手で作為的なフィクションに興味はないが、小説を読む愉しみには浸ってみたい、という人に特にお勧めします。