僕自身は押井氏の作品の大ファン、いわゆる信者と呼ばれる類の人間なのですが、
同時にゾンビ作品をこよなく愛する人間であり、小説を愛好する人間でもありますので、
「ゾンビ作品」という部分で客観的にレビューしていこうと思います。
これから読んでみようか迷っている方に少しでも参考になれば幸いです。
今回、「ゾンビ」という押井守にしては珍しい(本人はスプラッターやホラーは嫌いと公言している)ジャンルを扱っているのですが、
嫌いと言ってるホラーやスプラッターをいかに小説のかと思いきや、
「何をするわけでなく、ただ徘徊するだけ」という文字通り、「歩く死体」としてゾンビを描いています。
作品はその「歩く死体」=「死を生きる存在」即ち「死者」として、尊厳を持って彼らを日夜、狙撃銃によって葬る男の独白によって構成されています。
ある日突然、死が否定された世界……というのはゾンビ物のお約束ですが、普通のゾンビものと違うのは所謂、「ゾンビ汚染(ハザード)」によって文明が荒廃した世界でなく、
歩く死者たち(即ち「死」)と向き合わなければならくなったがゆえに、結果的に起きた「モラル汚染(ハザード)」によって人類が自壊してしまったという部分でしょう。
なので、この作品の主人公はサバイバルをするわけでもなく、ただ世界に一人取り残され、毎日決められたノルマに従って死者を狙撃して殺して回るだけ……
つまり、血脇肉踊るサバイバルストーリーを期待すると、まっ先に肩透かしを食らうことは間違い無いでしょう。
作中で語られる内容は、専ら「死」に関係するもの、つまり「死生観」であり、人類が死にどのように向き合ったが大半を占めています。
そして死に一番近い存在といえば戦場の兵士であり、彼らが如何にして「人を殺す」という部分克服していったかという歴史が延々と語られていきます。
なので作品の3分の2が薀蓄であり引用です。
これに加えて狙撃の薀蓄も延々と語られていくので、正直、途中ゾンビものでなく狙撃ものではないかとさえ思いました。
押井氏の作品は、今までもこうした薀蓄と引用によるものが多かったのですが、
大半は劇中の会話の中で語られる……つまり物語の進行と同時に語られるパターンが多いが故に情報量が多くとも決して退屈せずに面白く読めたわけですが、
今回は主人公の独白によって進められているので、如何せんこの辺は押井氏の小説や薀蓄が多い作品を読み慣れてない方からすると、飽きて疲れてしまうかもしれません。
この部分は客観的に見てマイナスといわざるを得ない……
と言いたいところなのですが、この膨大に語られる薀蓄が最後に繰り広げられる展開における主人公の行動の理由に大きく繋がっていくので、実は決して無駄な部分というわけではありません。
全体を通して言えることは、「人間は如何に死を遠ざけてきてしまったか」という事に尽きます。
これはそっくり、ロメロの「ゾンビ」以降、無数に作られ続けたゾンビ作品に対する押井氏のひとつの回答とも言えるかもしれません。
ジョージ・A・ロメロの作り出した「ゾンビ」は無数のフォロワーを生むことになりましたが、残念ながら彼が描いたゾンビに対する見方までは誰も模倣することはありませんでした。
ロメロのゾンビ四部作が、他の無数のゾンビ作品と大きく異なるのは、ロメロのゾンビは「モンスター」でなく実は「人間にとっての他者である」ということに他なりません。
つまり、「生者」に対する「死者」という構図こそ、ロメロのゾンビの本質と言ってもいい。
多くのゾンビ作品が生まれた理由は、ゾンビが「元が人であった存在」でなく「モンスターになった死体」という設定に皆飛びついたに過ぎません。
故に、ゾンビは障害であり、排除すべき存在として今まで描かれてきました。
しかし、ロメロの作品では実はそのことを決定的に否定しています。
ゾンビ……「動く死体」は果たして怪物なのか?
これがロメロのゾンビ四部作の結論と言ってもいい。
ゾンビ作品が大量にあふれる昨今、しかし、どれもがロメロのフォロワーの領域から出ることが出来ず、すでに頭打ちの感は否めません。
そのどれもが「生者のサバイバル」に終始しているからなのですが、押井氏はその部分を全面否定するところから始まっています。、
「生」でなく「死」から人間の有り様を語ることで、多くのゾンビ作品が最後まで模倣できなかったロメロのゾンビの本質を押井氏は見事に捉えた様に思います。
今までのゾンビ作品からすると、少し異質な内容であり決してエンターティメントな作品ではありませんが……
ゾンビに対する新しい「価値観」を定義して見せることで、頭打ちになっている現在のゾンビというジャンルのひとつの打開案がこの作品には描かれてると僕は思っています。
薀蓄の多さ、盛り上がりの無さに☆ー1
出来れば押井氏のファン以外にこそ読んで欲しいと、切に願っております。
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ゾンビ日記 (ハルキ文庫 お 18-1) 文庫 – 2015/7/11
押井 守
(著)
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- 本の長さ219ページ
- 言語日本語
- 出版社角川春樹事務所
- 発売日2015/7/11
- ISBN-104758439192
- ISBN-13978-4758439190
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登録情報
- 出版社 : 角川春樹事務所 (2015/7/11)
- 発売日 : 2015/7/11
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 219ページ
- ISBN-10 : 4758439192
- ISBN-13 : 978-4758439190
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上位レビュー、対象国: 日本
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2012年6月13日に日本でレビュー済み
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2014年10月30日に日本でレビュー済み
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日本においてあまり知られていない狙撃手とはどの様な人間なのかを書いた本であり、人間が人間を殺す時の心理、そこまで至る心の動きを描いた本。
当たり前と言えば当たり前なのだが、戦場において敵対し合っていても、人間と言うものは極力殺人行為を避けるものであり、そのために威嚇射撃と言う行為を用いて無駄玉を使って避けるものと言うのが改めて知る事が出来て面白かった。
深読みし過ぎなのかもしれないが自国民だったかな?を殺すのに微塵ものためらいを見せない人間は、先天的な殺人者?人格破綻者で異常人格者と言う個所は、どこぞの国民に対する辛辣の嫌味の様に受け取れてニヤリとしてしまった。
本書においては取っ付き易い様に聞きなれたゾンビと言う、今までの映画とは違う無害なゾンビを登場人物を登場させターゲットとしているが、人間であれ動物であれ命を奪う行為を生業としている人は、主人公と同じく内面的にも外面的にも厳しく律する生活に陥って行くものなのだろうなと言うのが現実味があって面白かった。
当たり前と言えば当たり前なのだが、戦場において敵対し合っていても、人間と言うものは極力殺人行為を避けるものであり、そのために威嚇射撃と言う行為を用いて無駄玉を使って避けるものと言うのが改めて知る事が出来て面白かった。
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本書においては取っ付き易い様に聞きなれたゾンビと言う、今までの映画とは違う無害なゾンビを登場人物を登場させターゲットとしているが、人間であれ動物であれ命を奪う行為を生業としている人は、主人公と同じく内面的にも外面的にも厳しく律する生活に陥って行くものなのだろうなと言うのが現実味があって面白かった。
2015年5月20日に日本でレビュー済み
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狙撃とはなにか、生きるとは何か、死ぬとは何かに思いを馳せながら、ゾンビを撃ち続ける主人公。
本筋はシンプルながら、ラストでストンと意外性を持ってくる展開で、わかりやすい。
だが、物語の大半を占めるのは、”狙撃”に対して主人公がいかに向き合っているかという内省的な物語である。
興味深いが、もう少し短くまとめられなかったのかという気持ちがしないでもない。
特に、銃でばんばん撃ちあうような映画が持て囃される昨今、
第二次世界大戦中、九割の人間が銃を撃つことすらできなかったという話は新鮮に映るかもしれない。
ただ、デーブ・グロスマンの著書を読んだほうがよっぽど詳しく書いてあるので、そちらの方を読むべきな気もする。
本筋はシンプルながら、ラストでストンと意外性を持ってくる展開で、わかりやすい。
だが、物語の大半を占めるのは、”狙撃”に対して主人公がいかに向き合っているかという内省的な物語である。
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特に、銃でばんばん撃ちあうような映画が持て囃される昨今、
第二次世界大戦中、九割の人間が銃を撃つことすらできなかったという話は新鮮に映るかもしれない。
ただ、デーブ・グロスマンの著書を読んだほうがよっぽど詳しく書いてあるので、そちらの方を読むべきな気もする。
2014年10月5日に日本でレビュー済み
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ゾンビ愛好家の読む作品ではありません。
自分(作者本人)、銃器、少女がお好きな方なのでしょうが、そこへゾンビを介在させる意図は全くもって伝わってきません。
作者のファンではないので、内容については、あまり大き声で言えないのですが、ストーリーやカタルシス、警句や格言等、特に何もありません。
叙情的に書きたいのか、叙事的に書きたいのか、小説的でありたいのか、そうでないのか、よく分かりません。
自分(作者本人)、銃器、少女がお好きな方なのでしょうが、そこへゾンビを介在させる意図は全くもって伝わってきません。
作者のファンではないので、内容については、あまり大き声で言えないのですが、ストーリーやカタルシス、警句や格言等、特に何もありません。
叙情的に書きたいのか、叙事的に書きたいのか、小説的でありたいのか、そうでないのか、よく分かりません。
2016年8月16日に日本でレビュー済み
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物語自体の起伏がかなり緩やかなので、漠然と読むと冗長に感じてしまう作品だと思います。
なぜなら、内容は「ただひたすらにゾンビを高所から狙撃し、主人公が自分語りをし、持論を展開するだけ」だからです。(勿論、強敵は出てきますよ。そこまで真っ平らな話ではありません。)
この作品を読むにあたって、「死生観」や「倫理観」といった、何かしらのテーマを読み取ることが大切だと感じました。
文章の美麗さ、作品の展開などを楽しむのではなく、「あぁ、成る程な」「こうも考えられるな」と色々思考を巡らせながら読むとなかなか興味深いです。そういった面ではエッセイとか、コラムに近いところがある作品なのではないでしょうか。
私は読んでて楽しかったですよ。
なぜなら、内容は「ただひたすらにゾンビを高所から狙撃し、主人公が自分語りをし、持論を展開するだけ」だからです。(勿論、強敵は出てきますよ。そこまで真っ平らな話ではありません。)
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2012年8月3日に日本でレビュー済み
実は文章としての押井作品に触れるのは初めてです。冒頭から惹きつけられました。元から所謂ゾンビ=動く死者、動き回る死体を題材にした映像作品が好きだったせいもあって手に取りました。ロメロ・ゾンビな世界観は期待していませんでしたが、主人公?の独り語りの合間に見える人間社会の崩壊、モラルハザードから推測して、主人公の未来には「絶望」しかあり得ないのか?と衝撃を受けました。死者が動き回るという従来の価値観が逆転した果てにはやはり文明の崩壊なんだと思うと、奇妙な納得感があります。機会があれば、是非映像化して欲しいものです。さて、徘徊する死者しかいない文明後の地球、我らのこの星に地球外生命体が来るようなことがあったとして、彼ら彼女らはなんと感じることでしょうか?
2012年6月10日に日本でレビュー済み
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いつも通りの展開で、番狂わせでがっかりした人にはほっとする作品かもしれませんね。
とはいえ押井作品としては馴染み深い「戦争と正義」「虚構と現実」といったテーマとは違い、
今回は「生と死」をテーマとして扱っているため、退屈はせずに読むことができました。
よって私は星4つを付けさせて頂きましたが、皆さんはどう感じられますでしょうか?
とはいえ押井作品としては馴染み深い「戦争と正義」「虚構と現実」といったテーマとは違い、
今回は「生と死」をテーマとして扱っているため、退屈はせずに読むことができました。
よって私は星4つを付けさせて頂きましたが、皆さんはどう感じられますでしょうか?
2013年4月21日に日本でレビュー済み
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はじめにこのレビューは私見であり、学のあるような方が書くわけではないですので言葉の足りなさや表現の誤りなどがあるかもしれないので悪しからず。
この物語は世界で俺以外の生きている人間がただ歩き回る死体になってしまったら?という視点で書かれています。
今全部を読み終えましたが、興奮などを求めるような人間は読まないでください。無駄です。すごいアクションなどひとつもありません。
この作品を読むには、今の世の中に疑問を持っていて厭世的な気分になる必要があります。引きこもり体質だった人間などがまさにピッタリ。
尚且つ、押井守って人間の考えが少し理解できる人間であれば面白いです。
主人公も銃も歩き回る死者もメタファーであり、それがあることによりどのような意味があるのか?
自分で今生きている現代を学んで自分で自分を考えて自己完結してください。
それができた時この作品は星が五つか四つになることでしょう。
この物語は世界で俺以外の生きている人間がただ歩き回る死体になってしまったら?という視点で書かれています。
今全部を読み終えましたが、興奮などを求めるような人間は読まないでください。無駄です。すごいアクションなどひとつもありません。
この作品を読むには、今の世の中に疑問を持っていて厭世的な気分になる必要があります。引きこもり体質だった人間などがまさにピッタリ。
尚且つ、押井守って人間の考えが少し理解できる人間であれば面白いです。
主人公も銃も歩き回る死者もメタファーであり、それがあることによりどのような意味があるのか?
自分で今生きている現代を学んで自分で自分を考えて自己完結してください。
それができた時この作品は星が五つか四つになることでしょう。