アメリカ人社会学者メアリー・ブリントンによる日本のロスジェネ分析本となります。「ロストジェネレーション」とは1990年代前半(バブル崩壊)から2000年代前半までの就職氷河期時代に学校を卒業し、社会人(あるいは会社人)になるにあたって並々ならぬ苦闘をした世代ですが、本書ではこれらの世代にとって失われたものとは、「場」およびそれをつなぐ「つながり」であると分析しています。
具体的にはどういうことか。ロスジェネ以前の高度経済成長期の日本では、高校という場から会社という場へのリンクは極めて強く自動的とも言えました。つまり、高校と企業の採用担当の関係が密接で、高校生は自分で深く考えることなく先生の言うとおりにしていればそれなりの企業に就職できたわけです。これは世界的に見てもむしろ例外で恵まれすぎていた状況であったわけです。しかしバブルが崩壊し求人数が激減、さらに日本経済がサービス化するにつれて、アルバイト的な求人が増えたということで、高校と企業の関係が希薄化します。言い換えれば、ロスジェネにとって失われたものとは、所属することで安心感を得られる確固たる「場」であり、原題にもあるようにロスト・イン・トランジション(場から場への移行ができず道に迷っている人々)が引き起こされたというわけです。これをシモーヌ・ヴェイユ流にいうなら、ロスジェネとは「根こぎ」の状態になった人々だとも言えるでしょう。そしてそれを少しでも癒しているものとしては、本書にも述べられているように家族や友人、あるいは最近ですとソーシャル・メディアのようなデジタルの場なのかもしれません(注:もちろんSNSはむしろ誹謗中傷に晒されるという真逆の場にもなりかねませんが)。
本書では大規模なサーベイデータやインタビュー調査などをもとに、特に学力レベルが低い普通高校の卒業生にその傾向(ロスト・イン・トランジション)が強いことを定量的に示しています。さらに、アメリカの学生の例を参考として挙げながら、特定の場や人々に対する強いつながり(ストロング・タイズ)だけでなく、これからの日本人は弱いつながり(ウィーク・タイズ)を構築することでこの難局を乗り切れるはずだというような提言も書かれており、学者が書くいわゆる冷徹な論文ではなく、端々から著者の日本愛も感じられる良書でした。
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失われた場を探して──ロストジェネレーションの社会学 単行本 – 2008/11/28
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日本の若者に、いま何が起こっているのか? 学校やハローワークなどの協力 を得て収集されたデータの緻密な分析と、学校現場やロスジェネの若者への丹 念なインタビューから、
学校や職場における「場」の喪失が日本社会に与えた 驚くべき事実に迫るロストジェネレーション論の決定版。
ニート、フリーター、ひきこもり ―─ 日本人の「まじめさ」を支えてきた〝場〟の崩壊を乗り越えて、若者たちはどう生きるべきか。
ブリントン教授は緻密な調査研究の成果と豊富な実地体験をもとに、私たち日本人が常識とする若者像を見事に打ち砕いてくれる──山岸俊男
日本の若者たちに何が起きているのか。ロストジェネレーションを生み出した原因はどこにあったのか。
長年日本社会を研究してきたアメリカ人社会学者が、日本人には気づきにくい問題点を鋭くえぐる現代日本のゆがみを見事に描き出した好著です。──苅谷剛彦
実証研究やインタビューの内容、さらには日米比較による論考などの明快さにおいて、本書に勝るものは、そう見あたらない。
本書『失われた場を探して』は、日本の若者研究、そして労働研究に関心を持つ人々にとって必読の、古典となることが確実な名著である。──玄田有史
学校や職場における「場」の喪失が日本社会に与えた 驚くべき事実に迫るロストジェネレーション論の決定版。
ニート、フリーター、ひきこもり ―─ 日本人の「まじめさ」を支えてきた〝場〟の崩壊を乗り越えて、若者たちはどう生きるべきか。
ブリントン教授は緻密な調査研究の成果と豊富な実地体験をもとに、私たち日本人が常識とする若者像を見事に打ち砕いてくれる──山岸俊男
日本の若者たちに何が起きているのか。ロストジェネレーションを生み出した原因はどこにあったのか。
長年日本社会を研究してきたアメリカ人社会学者が、日本人には気づきにくい問題点を鋭くえぐる現代日本のゆがみを見事に描き出した好著です。──苅谷剛彦
実証研究やインタビューの内容、さらには日米比較による論考などの明快さにおいて、本書に勝るものは、そう見あたらない。
本書『失われた場を探して』は、日本の若者研究、そして労働研究に関心を持つ人々にとって必読の、古典となることが確実な名著である。──玄田有史
- ISBN-104757142064
- ISBN-13978-4757142060
- 出版社NTT出版
- 発売日2008/11/28
- 言語日本語
- 本の長さ260ページ
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商品の説明
著者について
【著者】
メアリー・C・ブリントン(Mary C. Brinton)
ハーバード大学ライシャワー日本研究所教授。専攻は社会学。主な研究テーマは、ジェンダーの不平等、労働市場、教育、日本社会など。日本研究歴は三〇年以上。一九九〇年代に日本に長期間滞在し、神奈川県の高校、職業安定所などで丹念な聞き取り調査を行い、日本の経済状況の変化が若者の雇用環境にもたらした影響を研究。
著書に Women and the Economic Miracle: Gender and Work in Postwar Japan(University of California Press, 1993), 共著に The Declining Significance of Gender? (Russell Sage Foundation, 2006)などがある。
【解説者】
玄田有史(げんだ・ゆうじ)
東京大学社会科学研究所教授。専攻は労働経済学。
著書に『仕事のなかの曖昧な不安』(中央公論新社、サントリー学芸賞)、『ジョブ・クリエイション』(日本経済新聞社、エコノミスト賞)、『ニート』(幻冬舎)、『14歳からの仕事道』(理論社)、『働く過剰』(NTT出版)ほか多数。
【訳者】
池村千秋(いけむら・ちあき)
翻訳家。訳書にD・ピンク『フリーエージェント社会の到来』(ダイヤモンド社)、G・P・ピサノ『サイエンス・ビジネスの挑戦』(日経BP社)、D・レナード『経験知を伝える技術』(ランダムハウス講談社)などがある。
メアリー・C・ブリントン(Mary C. Brinton)
ハーバード大学ライシャワー日本研究所教授。専攻は社会学。主な研究テーマは、ジェンダーの不平等、労働市場、教育、日本社会など。日本研究歴は三〇年以上。一九九〇年代に日本に長期間滞在し、神奈川県の高校、職業安定所などで丹念な聞き取り調査を行い、日本の経済状況の変化が若者の雇用環境にもたらした影響を研究。
著書に Women and the Economic Miracle: Gender and Work in Postwar Japan(University of California Press, 1993), 共著に The Declining Significance of Gender? (Russell Sage Foundation, 2006)などがある。
【解説者】
玄田有史(げんだ・ゆうじ)
東京大学社会科学研究所教授。専攻は労働経済学。
著書に『仕事のなかの曖昧な不安』(中央公論新社、サントリー学芸賞)、『ジョブ・クリエイション』(日本経済新聞社、エコノミスト賞)、『ニート』(幻冬舎)、『14歳からの仕事道』(理論社)、『働く過剰』(NTT出版)ほか多数。
【訳者】
池村千秋(いけむら・ちあき)
翻訳家。訳書にD・ピンク『フリーエージェント社会の到来』(ダイヤモンド社)、G・P・ピサノ『サイエンス・ビジネスの挑戦』(日経BP社)、D・レナード『経験知を伝える技術』(ランダムハウス講談社)などがある。
登録情報
- 出版社 : NTT出版 (2008/11/28)
- 発売日 : 2008/11/28
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 260ページ
- ISBN-10 : 4757142064
- ISBN-13 : 978-4757142060
- Amazon 売れ筋ランキング: - 295,870位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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2020年11月15日に日本でレビュー済み
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2018年5月8日に日本でレビュー済み
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日本社会は、就職に対して、ウィークタイズではなく、ストロングタイズによるものが多かった。つまり学校の先生や家族などの結び付きによるものである。
その上で、このストロングタイズによる結びつきが強く、かつその機能不全を最も起こしているのが。偏差値の低い普通科高校である。これまで学校が担ってきた職業の斡旋機能が、不景気や工業設備の海外移転により不全になってきた。その結果、学校という場に対する忠誠心やコミットが失われ、学校自体の存在意義がなくなってきた。
彼らは正規社員として就職することができずフリーターになり、もしくはニートとなる。
景気が回復すれば若者の雇用が回復する訳ではない。企業側の雇用スタンスが変化しているためである。
さらに、親の教育レベルと子供の教育レベルの相関関係は強まっており、階層の固定化が進んでいる。
今後の対応としては、まず企業側の雇用スタンスの変化を求めること。
一方で、個人での対応としては、より開かれた社会資本関係を結ぶ、要はウィークタイズによる結びつきを強めていいくことが大切である。そのために必要な基本的なスキルとしては、対人関係能力と人的資本の強化である。
その上で、このストロングタイズによる結びつきが強く、かつその機能不全を最も起こしているのが。偏差値の低い普通科高校である。これまで学校が担ってきた職業の斡旋機能が、不景気や工業設備の海外移転により不全になってきた。その結果、学校という場に対する忠誠心やコミットが失われ、学校自体の存在意義がなくなってきた。
彼らは正規社員として就職することができずフリーターになり、もしくはニートとなる。
景気が回復すれば若者の雇用が回復する訳ではない。企業側の雇用スタンスが変化しているためである。
さらに、親の教育レベルと子供の教育レベルの相関関係は強まっており、階層の固定化が進んでいる。
今後の対応としては、まず企業側の雇用スタンスの変化を求めること。
一方で、個人での対応としては、より開かれた社会資本関係を結ぶ、要はウィークタイズによる結びつきを強めていいくことが大切である。そのために必要な基本的なスキルとしては、対人関係能力と人的資本の強化である。
2019年1月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
『希望格差社会』でいうと主に高校生などの若者の就職や労働に焦点を当てた労作で大変厳しい環境下「場」(ロストジェネレーション)に置かれていることや社会問題である若者問題全般(ニート、ひきこもり、フリーター、ワーキングプア…)を多くの辛い事実やメカニズムが機能不全に陥っていることを基に構造的に説明しています。処方箋として4つの提案をしていて現在進行中であると思いました。またそれぞれに自助努力や試行錯誤が求められており居場所作りのハードルは高いと思いました。
下世話ですが併せて息抜きにでも若者論の関連書籍として『「意識高い系」の研究』『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』『融解するオタク・サブカル・ヤンキー ファスト風土適応論』『居場所の社会学―生きづらさを超えて』『絶望の国の幸福な若者たち』等を通読すれば、周辺(特殊解?)についても理解が深まるものと思います。
また現実的な貧困と労働関連の補強、詳細研究として『高校生ワーキングプア:「見えない貧困」の真実』『ドキュメント高校中退―いま、貧困がうまれる場所』『弱者の居場所がない社会――貧困・格差と社会的包摂』『東大卒貧困ワーカー 』『非正規クライシス』等も必読だと思います。
下世話ですが併せて息抜きにでも若者論の関連書籍として『「意識高い系」の研究』『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』『融解するオタク・サブカル・ヤンキー ファスト風土適応論』『居場所の社会学―生きづらさを超えて』『絶望の国の幸福な若者たち』等を通読すれば、周辺(特殊解?)についても理解が深まるものと思います。
また現実的な貧困と労働関連の補強、詳細研究として『高校生ワーキングプア:「見えない貧困」の真実』『ドキュメント高校中退―いま、貧困がうまれる場所』『弱者の居場所がない社会――貧困・格差と社会的包摂』『東大卒貧困ワーカー 』『非正規クライシス』等も必読だと思います。
2009年3月22日に日本でレビュー済み
現代日本社会論の名著である。行政担当者や高校教員が読んで、本書レベル
の議論を基本認識にしてくれたら、09年の日本を包んでいる先の見えない
空気も少しは変わる可能性があるのにと痛切に思う。
1.高校卒のブルーワーカー層という着眼点
誰も大きな声では言わないが、日本の高校教育制度は学力によってはっきり
輪切りにされている(周知の事実である)。いわゆる学歴社会が問題にされ
ることは多々あっても、本書が主要な問題としている低偏差値校の就職問題
をメインに据えて日本社会が論じられることはほとんどなかった。学力低下
問題も、むしろこちらを焦点をあてるべきであることがわかる。かつての日
本が誇っていた「秩序ある社会、多くの人々の気くばりの精神と控えめな態
度、あからさまな争いごとを好まない傾向」はそういうブルーワーカー層が
支えだったのだ。読者である私は、いわゆる進学校の教員なのですが、反省
とともに蒙を啓かれました。
2.日本社会を支えてきた「場」の論理
本書でいう「場」は、故阿部勤也いうところの「世間」と多くの場面で重な
ると思う。顔のつながった人間関係である「世間」が、よくも悪くも日本社
会をつくってきたのに、いまゼロ年代に進行しているドラスティックな変化
がその「世間」をさえ解体するものだとしたら…。
これは射程の長い、重大な問題提起だと思う。
3.学問の力量
日本社会という対象に惚れこみ(著者は、恋という言葉を使っている)、文
献を読み込み、フィールドワークを行い、基本データを統計処理して客観的
な数値にまとめ、そして検証可能な形で論文にまとめる。学問というのは、
斯くあるものだろう。しかし、それがここまで力を持つようになるのは、実
は稀である。学者の仕事って、大変なものなのだと感じ入りました。
多くを教えられた読書でした。
の議論を基本認識にしてくれたら、09年の日本を包んでいる先の見えない
空気も少しは変わる可能性があるのにと痛切に思う。
1.高校卒のブルーワーカー層という着眼点
誰も大きな声では言わないが、日本の高校教育制度は学力によってはっきり
輪切りにされている(周知の事実である)。いわゆる学歴社会が問題にされ
ることは多々あっても、本書が主要な問題としている低偏差値校の就職問題
をメインに据えて日本社会が論じられることはほとんどなかった。学力低下
問題も、むしろこちらを焦点をあてるべきであることがわかる。かつての日
本が誇っていた「秩序ある社会、多くの人々の気くばりの精神と控えめな態
度、あからさまな争いごとを好まない傾向」はそういうブルーワーカー層が
支えだったのだ。読者である私は、いわゆる進学校の教員なのですが、反省
とともに蒙を啓かれました。
2.日本社会を支えてきた「場」の論理
本書でいう「場」は、故阿部勤也いうところの「世間」と多くの場面で重な
ると思う。顔のつながった人間関係である「世間」が、よくも悪くも日本社
会をつくってきたのに、いまゼロ年代に進行しているドラスティックな変化
がその「世間」をさえ解体するものだとしたら…。
これは射程の長い、重大な問題提起だと思う。
3.学問の力量
日本社会という対象に惚れこみ(著者は、恋という言葉を使っている)、文
献を読み込み、フィールドワークを行い、基本データを統計処理して客観的
な数値にまとめ、そして検証可能な形で論文にまとめる。学問というのは、
斯くあるものだろう。しかし、それがここまで力を持つようになるのは、実
は稀である。学者の仕事って、大変なものなのだと感じ入りました。
多くを教えられた読書でした。
2010年11月16日に日本でレビュー済み
いわゆるロスジェネ世代の男子が置かれた厳しい状況を、日本社会の地殻変動に目を凝らし社会学的に分析した本である。ここにあるのは、ためにする議論や精神論ではなく、現状を正確に観察して正しい処方箋を書くための基本的な見取り図である。しかも無味乾燥な分析ではなく、長年にわたって日本社会をフィールドワークしてきた米国人社会学者による、日本社会への暖かいまなざしに満ちたものだ。
カイシャも学校も、日本人にとって帰属すべき「場」としては、もはや希薄な存在になりつつあるようだ。日本社会においては、人間関係を決めるのは個人がもつさまざまな属性といった「資格」ではなく、いかなる組織や集団に帰属しているかという「場」である。
ロスジェネ世代の男子、とくに普通科高校出身の男子には帰属すべき「場」は学校でもカイシャでもなく、宙ぶらりんのまま社会を浮遊しているのは、高校と企業をつないでいた「就職指導」という、強い制度的な仕組みが機能不全状態になってしまったことにある。1990年代の半ばに、日本で一年間のフィールドワークを行った著者はこの事実に気づき、ここから探求が始まった。
本書で明らかにされた事実は、私なりにまとめると以下のようになる。
●高校から職場へと連続していた「就職指導」が強力に機能していたのは、1960〜1980年代にかけての期間であり、世界的にみてだけでなく日本においても特殊な時期であったこと
●サービス経済化によって、中下位レベルの普通科高校卒の男子は、特定のスキルをもたないのでアルバイトなど非正規社員しか道がなく、「ワーキングプア」になる可能性が高い。女子と違って男子は、まだこういう状況を生き抜く術を身につけていない
●帰属すべき「場」が意味をもっていた日本社会はかなりの程度まで崩壊、米国流の「資格」重視の社会に変化しつつある
●このためには、仕事を見つけるにはスキルをもつことが必要であり、さらにそこで意味をもつのは人間関係の「強いつながり」だけでなく、対人関係能力を磨いて人間関係の「弱いつながり」を活用することが必要だ
●高校までの教育で、「将来どこに行きたいか」という「場」ではなく、「将来なにをしたいか」という「資格」に重点を置いた職業前教育が必要
日本社会は、1990年代にわれわれの足元で大きく地殻変動しつつあったのだ。
この事実を直視しなくては、ロスジェネの若者たちの置かれている状況を理解できないだけでなく、格差を未来永劫に固定化させてしまうことになる。これは個人の問題ではなく、日本社会全体の地殻変動に起因する問題であり、日本社会に与える影響も無視できるものいではないのだ、と。
本書を読んでいて、1960年代に確立した「就職指導」システム確立以前はどうだったのかなど、本書では直接扱われていない論点についてもっと知りたいと思った。また、工業高校における技能訓練が、現在でも就職先の確保をもたらしているという著者の分析結果からは、ドイツ型の職業教育という解決方法もあるような気もする。米国型の世の中になりつつあるとはいっても、解決策が米国流でなければならないことはない。
本書は翻訳書の体裁はとっているが、日本語に堪能な著者が作成にかかわっているので、実質的には日本人向けに書き下ろされた日本語の本である。社会学の研究書スタイルではあるが、読みやすく理解しやすい内容になっている。
ロスジェネについて論じる際の必読書として、また日本社会論としてもすぐれた作品なので、ぜひ一読することを薦めたい。
カイシャも学校も、日本人にとって帰属すべき「場」としては、もはや希薄な存在になりつつあるようだ。日本社会においては、人間関係を決めるのは個人がもつさまざまな属性といった「資格」ではなく、いかなる組織や集団に帰属しているかという「場」である。
ロスジェネ世代の男子、とくに普通科高校出身の男子には帰属すべき「場」は学校でもカイシャでもなく、宙ぶらりんのまま社会を浮遊しているのは、高校と企業をつないでいた「就職指導」という、強い制度的な仕組みが機能不全状態になってしまったことにある。1990年代の半ばに、日本で一年間のフィールドワークを行った著者はこの事実に気づき、ここから探求が始まった。
本書で明らかにされた事実は、私なりにまとめると以下のようになる。
●高校から職場へと連続していた「就職指導」が強力に機能していたのは、1960〜1980年代にかけての期間であり、世界的にみてだけでなく日本においても特殊な時期であったこと
●サービス経済化によって、中下位レベルの普通科高校卒の男子は、特定のスキルをもたないのでアルバイトなど非正規社員しか道がなく、「ワーキングプア」になる可能性が高い。女子と違って男子は、まだこういう状況を生き抜く術を身につけていない
●帰属すべき「場」が意味をもっていた日本社会はかなりの程度まで崩壊、米国流の「資格」重視の社会に変化しつつある
●このためには、仕事を見つけるにはスキルをもつことが必要であり、さらにそこで意味をもつのは人間関係の「強いつながり」だけでなく、対人関係能力を磨いて人間関係の「弱いつながり」を活用することが必要だ
●高校までの教育で、「将来どこに行きたいか」という「場」ではなく、「将来なにをしたいか」という「資格」に重点を置いた職業前教育が必要
日本社会は、1990年代にわれわれの足元で大きく地殻変動しつつあったのだ。
この事実を直視しなくては、ロスジェネの若者たちの置かれている状況を理解できないだけでなく、格差を未来永劫に固定化させてしまうことになる。これは個人の問題ではなく、日本社会全体の地殻変動に起因する問題であり、日本社会に与える影響も無視できるものいではないのだ、と。
本書を読んでいて、1960年代に確立した「就職指導」システム確立以前はどうだったのかなど、本書では直接扱われていない論点についてもっと知りたいと思った。また、工業高校における技能訓練が、現在でも就職先の確保をもたらしているという著者の分析結果からは、ドイツ型の職業教育という解決方法もあるような気もする。米国型の世の中になりつつあるとはいっても、解決策が米国流でなければならないことはない。
本書は翻訳書の体裁はとっているが、日本語に堪能な著者が作成にかかわっているので、実質的には日本人向けに書き下ろされた日本語の本である。社会学の研究書スタイルではあるが、読みやすく理解しやすい内容になっている。
ロスジェネについて論じる際の必読書として、また日本社会論としてもすぐれた作品なので、ぜひ一読することを薦めたい。