本書は訳者が示唆しているように、焦点は負債論であり、同時に貨幣論でもありました。
コミュニズム、交換、ヒエラルキーなども、本書において中枢的な役割を担っています。
負債が人類にとってどのような存在なのか?
著者が紐解いた貨幣と暴力の5000年。
何故人々の一部は、貨幣に嫌悪感を抱いているのか?
その貨幣とはどんな存在で、どのような経緯で発展してきたのか?
現在にも繋がる、負債と貨幣のあり方を提言してくれています。
以下本書にて
原初的負債
・貨幣とは交換を促進させるために選ばれた一つの商品で、自分以外の商品の価値を測定するために使用される。
・貨幣は尺度にすぎない、何を測定するのか?それは負債である。
・硬貨に金や銀が使用されていても、それらが金銀地金の価値で流通することはない。つまるところ1枚の金貨それ自体で役に立つことはない。人が受け入れているのは、他の人もそうするだろうと想定しているから。
・通貨単位の価値とは、ある対象物の価値の尺度ではなく、人が別の人間に寄せる信頼の尺度。
・負債は貨幣や市場に先立って存在しており、貨幣と市場自体はそれをバラバラに切り刻む手段。
・人間の存在自体が一つの負債。
古代の軍隊の周囲において
・王は兵士に硬貨を渡し、商人は兵士に欲しいものを供給する。市場は副産物であり、平民は一部を王に税として返金。
・市場の創出は兵士を養うのに便利であり、あらゆる面で有益である。
・これを植民地世界に当てはめると、貨幣を刷り住民にそのカネの一部の返金を要求する。征服者が立ち去った後も、継続する消費需要の基盤を整え、本国に植民地を永遠につないでおく。
経済的関係が基盤をおくことのできる『三つの主要なモラル』
コミュニズム
・コミュニズムは、今現在のうちに存在している何かであり、あらゆる人間社会に存在するもの。
・コミュニズムこそが、あらゆる人間の社交性の基盤。
・『各人はその能力に応じて、各人はその必要に応じて』の原理が適応されてしかるべき社交性の原材料。
・すなわち社会的平和の究極的実体である。私たちの根本的相互依存の承認であると考えることができる。
交換
・交換とは等価性にまつわる全てである。
・双方が与えた分だけ受け取る、やり取りのプロセス。
・物質的な財の交換の場合は、そこには競争の要素があり、どちらも収支決算、損得計算を行っている。
・常に関係全体が解消され、双方がいつでも関係に終止符を打つことができる。
・商業的交換の特徴は『非人格性』
・経済理論において、あらゆる人間の相互作用は究極的には商取引であり、『人は最小の努力で、最大の利益を手に入れようとする利己的個人であると想定される』
ヒエラルキー
・真の慈善は受取人に負債を負わせようなどとはしない。
・一方的な寛大な振る舞いは、その後も期待できるものとして扱われる。
・ある行為が反復されると習慣となり、その結果行偽者の本質的性格を決定する。
戦争
・戦争とは、暴力の全般化した世界であり、人間経済は非人間化と破壊の支配する巨大な装置と転化した。
・奴隷となることは、全身内や知り合い、共同体から引き離され、全尊厳を失うこと。
名誉と不名誉
・社会的通貨は、人間の間の関係を測定、査定、維持するために使用されるもの。
・名誉の概念はある種の遺物、あるいは象形文字ともみなすことができる。
・暴力によって生きる男は、ほとんど不可避に名誉に取り憑かれる。
・『暴力の行使が正当化されるのは、名誉を傷つけられる時である』
・名誉の定義は他者からどう見られているかに存在するということ。
メソポタミア(家父長制の起源)
・紀元前3000〜2500年、シュメール語の最初期の文章には、数多くの女性統治者たちの名前の記録があり。
・女性たちが『医師、商人、公務員』といった地位を占めていたが、数千年の間に女性の地位が崩壊していった。
・戦争と国家と市場は、歴史的に見ると全て互いに育み合う傾向にある。
・征服は徴税につながり、徴税は市場を創設する手段となる。更に市場は兵士と行政官にとって好都合である。
古代ギリシア
・有力な男たちは名誉を追求しながら人生を送り、名誉は追随者(followers)と財宝という形態をとっていた。
・貨幣は欲望の民主化を持ち込んだと言えるかもしれない。
・貨幣を欲する限り、皆同じふしだらな物体を追い求める。
古代ローマ(所有と自由)
・ドイツの法学者 ルドルフ・フォン・イェーリングは、ローマ帝国は三度世界を征服したと述べた。一度は軍隊、2度目は宗教、3度目は法律である。
・絶対的な私の権利とは、他の誰かがそれを使用することを妨げる私の権利のみである。
・私的所有とは所有者がその所有者でもって、欲することはなんでもできる絶対的権能。
・元来人間はあらゆる事物が共同で所有されている状態で生きていたが、戦争が最初に世界を分断した。征服、奴隷、協定、国境といった、問題を規制する人類の共通規定が戦争から生まれた。
・自由とは端的に権能のこと。
メソポタミア前3500〜前800
・神殿と宮殿の複合体にて貨幣は計算の尺度として利用されていた。
・神殿や宮殿はなぜ、単純に上がった利益の配分を要求しないのか?それは、遠方から戻った商人は正直に言わない。それならばと固定された利子率で返済額が前もって固定された。
枢軸時代 前800〜後600年
・同時代に生きた人物に、ピタゴラス、ブッダ、孔子がおり、大いなる問いに振り向いた時代となった。
・歴史上初めて、人間が理性的な探求の原理を大いなる問いに振り向けた時代。
・枢軸時代は世界の主要な哲学的潮流全てのみならず、仏教、ヒンドゥー教、儒教、キリスト教などの誕生を目の当たりにした時代。
国家の独占
・民間人が鋳貨を発明し、国家がすぐにそれを独占する。
・大量の金銀銅が脱宝物化する
・神殿、富裕層から取り出され、一般人の手に渡り、日常の取引で使用され始める。ほとんどは盗まれたものであり、この時代は戦争が一般化した世界で、戦争の性質上貴重品は掠奪される。
近西:イスラーム
中世世界経済の中枢
・世界経済の中枢神経と金融革新の源泉は西洋にあった。
・古い枢軸帝国に似たイスラーム諸帝国の運営。職業的軍隊を創設し、侵略戦争を起こし、奴隷を捕獲する。戦利品を鋳つぶし、兵士や公務員に硬貨として配給する。その硬貨を税で返すように求める。
・行政官と商人の同盟で常に支配していた。
・自分たち以外の住民を負債懲役人の状態か、いつ転落するかもしれない状態にとどめておいた。
極西:キリスト教世界
・貨幣は社会的慣習制度であること、基本的に人間がそう決めたものが貨幣である。
・徴利に関する最も有名な古代の説教、『徴利とは、暴力的な強盗の一形態。あるいは殺人の一形態とすら、みなさねばならない』
・利子をとることで、人は剣によらずに戦っているのだとするなら、利子をとることは、殺すことも罪にはならないような者たちに対してのみ正当である
・利子=怠惰の罪、商人の利益は自らの労働への支払いとしてのみ、正当化されうる。貸手が何もせずに、獲得する利子は論外とされた。
イスラーム教の近世の商人資本主義
・ペルシアや、アラブの思想家たちは、市場は相互扶助の拡張と考えた。対してヨーロッパは、『商業は徴利の延長ではないか?』負債とは取引上の双方を巻き込む罪業。
大資本主義帝国の時代 1450〜1971年
・大航海時代とともに始まる新時代。
・近代科学、資本主義、人文主義、国民国家などの擡頭。
・1400年代はヨーロッパ史における特異な時代で、大都市はペストの襲来により打撃を受け、商業経済は衰え、都市全体が破産、騎士階級は残りの富をめぐり争う。
結局資本主義とはなんなのか?
・社会主義者の理解による資本主義。
・資本主義という語を発明したのは社会主義者で、彼らの理解によると、『資本主義とは資本を所有する者たちが、所有しない者たちの労働を支配するシステム』とある。
1700年頃
・近代資本主義の黎明期にあらわれる信用と負債の巨大な金融装置。
・金融装置は、実践的効果として労働力を汲み出し、有形財を際限なく拡大していった。
・オランダとイギリスにおける最初の株式市場は、軍事と貿易双方の投機的事業であった。
・東インド会社、西インド会社の株式取引を基盤としている。
『負債懲役』制度
・被雇用者は雇用者の店で、必需品購入を強制され負債を背負う。
・法規上、負債を払うまで職を離れられない。そして負債懲役労働者は、事実上の奴隷である。
・しかし事実として生産性、衛生、教育の進歩、科学的認識などの日常的必要への応用があり、産業革命以降、数十億人の人々の生を仕事場の外で向上させたことは確かである。
おそらく世界こそが、あなたから生を借りている
・銀行とは怠惰な金持ちから資金を集める方法であり、怠惰な金持ちは想像力が乏しい。
・新しい富を生産するエネルギーと意欲を持った勤勉な貧者に委ねる。
・債権者と債務者の階級的構成は、中世は債権者は富者、債務者は貧者。だが現在は逆で、公債、無担保債券、抵当銀行、貯蓄銀行、生命保険各種、社会保障の給付金などでありふれている。よりつつましい所得の大衆の方が、むしろ債権者。
著者の問いとして
・今や真の問いは、どうやって事態の進行に歯止めをかけ、人々がより働かず、よりよく生きる社会に向かうか。
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負債論 貨幣と暴力の5000年 単行本 – 2016/11/22
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購入オプションとあわせ買い
『負債論』は21世紀の『資本論』か?
重厚な書として異例の旋風を巻き起こした世界的ベストセラーがついに登場。
現代人の首をしめあげる負債の秘密を、貨幣と暴力の5000年史の壮大な展望のもとに解き明かす。資本主義と文明総体の危機を測定し、いまだ書かれざる未来の諸可能性に賭ける、21世紀の幕開けを告知する革命的書物。
人類にとって貨幣は、交換という利便性の反面、バブルなどの破局に向かう幻想の源泉でもある。人類史的な視座から、このような貨幣の本質からリーマン・ショックやギリシア・デフォルト問題などの国際的金融的危機を解明する壮大な構想を展開する。産業資本が衰退し、金融資本が質的、かつ量的に拡大する今日、現代資本主義を理解する上で必読の文献である。
重厚な書として異例の旋風を巻き起こした世界的ベストセラーがついに登場。
現代人の首をしめあげる負債の秘密を、貨幣と暴力の5000年史の壮大な展望のもとに解き明かす。資本主義と文明総体の危機を測定し、いまだ書かれざる未来の諸可能性に賭ける、21世紀の幕開けを告知する革命的書物。
人類にとって貨幣は、交換という利便性の反面、バブルなどの破局に向かう幻想の源泉でもある。人類史的な視座から、このような貨幣の本質からリーマン・ショックやギリシア・デフォルト問題などの国際的金融的危機を解明する壮大な構想を展開する。産業資本が衰退し、金融資本が質的、かつ量的に拡大する今日、現代資本主義を理解する上で必読の文献である。
- 本の長さ848ページ
- 言語日本語
- 出版社以文社
- 発売日2016/11/22
- ISBN-10475310334X
- ISBN-13978-4753103348
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商品の説明
出版社からのコメント
●トマ・ピケティ(経済学者)
『負債論』、愛しています(I Love Debt)。
●レベッカ・ソルニット(『災害ユートピア』著者)
グレーバーは、すばらしく深遠なまでに独創的な思想家である。
●『フィナンシャル・タイムズ』紙
新鮮・魅力的・挑発的、そしてとんでもないタイミングのよさ。
●『ニューヨーク・タイムズ』紙
われわれの経済の荒廃、モラルの荒廃の状態についての長大なフィールド報告。人類学の最良の伝統のなかで、債務上限、サブプライムモーゲージ、クレジット・デフォルト・スワップを、あたかも自己破壊的部族のエキゾチックな慣行のように扱っている。
この度小社では、『負債論』を刊行しました。今まで著者のデヴィッド・グレーバーはグローバル・ジャスティス運動の活動家という印象が強かったのですが、かたや主にマルセル・モースの研究に強く傾倒した文化人類学の専門家であります。負債という言葉はとかく債務をすぐ連想しますが、今日では具体的には学費ローンや住宅ローンに限らず、国債でもあります。本書では負債を金融的側面と同時に、「負債は返済しなければならない」という強い道徳観念の問題として人類史的な視点から考察した壮大な構想を提示しています。そして、その負債関係が、リーマン・ショック時の巨大銀行資本のデフォルトという事態を招いたことは資本主義の先行きを考えるうえで、多大な問題を提起した書です。
『負債論』、愛しています(I Love Debt)。
●レベッカ・ソルニット(『災害ユートピア』著者)
グレーバーは、すばらしく深遠なまでに独創的な思想家である。
●『フィナンシャル・タイムズ』紙
新鮮・魅力的・挑発的、そしてとんでもないタイミングのよさ。
●『ニューヨーク・タイムズ』紙
われわれの経済の荒廃、モラルの荒廃の状態についての長大なフィールド報告。人類学の最良の伝統のなかで、債務上限、サブプライムモーゲージ、クレジット・デフォルト・スワップを、あたかも自己破壊的部族のエキゾチックな慣行のように扱っている。
この度小社では、『負債論』を刊行しました。今まで著者のデヴィッド・グレーバーはグローバル・ジャスティス運動の活動家という印象が強かったのですが、かたや主にマルセル・モースの研究に強く傾倒した文化人類学の専門家であります。負債という言葉はとかく債務をすぐ連想しますが、今日では具体的には学費ローンや住宅ローンに限らず、国債でもあります。本書では負債を金融的側面と同時に、「負債は返済しなければならない」という強い道徳観念の問題として人類史的な視点から考察した壮大な構想を提示しています。そして、その負債関係が、リーマン・ショック時の巨大銀行資本のデフォルトという事態を招いたことは資本主義の先行きを考えるうえで、多大な問題を提起した書です。
著者について
デヴィッド・グレーバー(David Graeber)
1961年ニューヨーク生まれ。文化人類学者・アクティヴィスト。ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス大学人類学教授。
訳書:『アナーキスト人類学のための断章』(以文社、2006年)『資本主義後の世界のために』(以文社、2009年)
1961年ニューヨーク生まれ。文化人類学者・アクティヴィスト。ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス大学人類学教授。
訳書:『アナーキスト人類学のための断章』(以文社、2006年)『資本主義後の世界のために』(以文社、2009年)
登録情報
- 出版社 : 以文社 (2016/11/22)
- 発売日 : 2016/11/22
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 848ページ
- ISBN-10 : 475310334X
- ISBN-13 : 978-4753103348
- Amazon 売れ筋ランキング: - 27,671位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 45位近代西洋哲学
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2022年3月6日に日本でレビュー済み
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2020年12月9日に日本でレビュー済み
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分厚い本ですが全部読みました。貨幣は経済学者が主張するような、物々交換に替わる商品として発明されたものでは無い。貨幣は国家が発行する負債証書である、というのが文化人類学による研究成果である。現代貨幣理論(MMT)を裏付ける内容になっています。
2016年12月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
序章では、著者の反資本主義の活動家としての発言が目を引く。グローバルな破産国家管財人としてのIMFに反対して、債権放棄を促し、さらにはIMFの解体を公言する。そこから、負債の本質に迫ろうと言うのだが、著者によれば負債とは貨幣のある面での本質なので、論は貨幣の起源へと遡行して行く。
アダム・スミス流の、仮想的な未開社会での物々交換の不便性から貨幣が発達してきたという考えは大間違いだと著者は言う。著者の人類学者としての知識によれば、貨幣がなくて不便をかこつ未開社会など世界のどこにも存在しない。未開社会では、人物Aが財Aを欲しいが手元には財Bしかなく人物Bが財Aを持っているが財Bは欲しくないとき、何が起こるか?人物Bは人物Aに財Aを渡し、人物Aが人物Bの欲しいものを獲得できる時まで待つだけなのだ。つまりこれは、一種の信用売りで、そのような記憶が木切れか何かに記録されればそれは借用証書となり、それが貨幣として共同体内で流通し始める。だから負債が貨幣の起源なのだ。さらに言えば、貨幣による交換は共同体が接触したときのみ行われるのではなく、共同体内部でも行われた。共同体が接触した時に行われる交換は商業的なものというよりも祝祭的なイベントになるのが人類学による観察だ。さらに交換や信用にもとずく社会形成について理論的な分析がされ、それを基盤に著者は貨幣を軸にして人類史5000年を振り返る。
顔見知りどうしの温かな匂いに包まれた交換は多くが、商業経済ではなく著者が言う所の人間経済で行われていた。人間経済とは人間こそが最も価値を持つ経済であり、それは殺人に対する購いや花嫁の受け入れに伴うお礼等のやり取りだった。このような際に貨幣が支払われる事はあったが、それは人間の価値に遠く及ばない事を双方が確認するものだった。つまり社会的人間関係を確認するための社会的通貨として使われた。しかし、この関係が属人的な性質を奪われ計量可能性の枠組みに移行するとそこから必然的に奴隷制や売春が発生する。この過程で多くの暴力が介在した事は疑いないだろう。紀元前800年までの大帝国ではすでにこのような事態が進行し、債務地獄に陥って債務奴隷になったり家族を売り飛ばさざるをえない境遇に陥ってしまった民衆を徳政令で救う事が王の課題となった。
次の、著者の言う枢軸時代(前800年から紀元後600年まで)には、鋳造貨幣が誕生し、軍事=鋳造貨幣=奴隷制複合体とでも言うべきシステムが誕生した。ギリシアやローマ帝国がそうだ。征服のため移動する軍隊の兵士と現地民の間の交換は、二度と合わない者どうしの交換だからこそ、貨幣での決済がふさわしい。そこで兵士の給料のために鋳造貨幣が支払われた。貨幣で決済してしまうと、そこで貸し借りの紐帯が切断されるので、共同体内部ではむしろ避けられる事だった。金で解決するなんてなんと水臭い、という事だ。このようにして貨幣経済が広まったのだが、帝国の崩壊とともに再び鋳造貨幣は消え去り信用経済へと戻ったのが中世だ(1450年まで)。
大航海時代が開幕し、遅れた西ヨーロッパに新大陸からの搾取された富が流れ込み、資本主義が成長する。新大陸に行ったコンキスタドールの暴虐ぶりは周知の事だが、その心理状態についての著者の分析は鋭い。例えばコルテスは自身が重債務者であり、彼の兵士もまたコルテスにより法外な必要経費を取られ、もうけるはずが逆に債務者となった。この債務がヒリヒリとした焦燥感をもたらし、新大陸のインディオを同じ人間としてみる心の余裕を奪い、普通の人間なら見るに耐えない状況を作り出したのだと言う。征服後にコルテスは債務により無一文になった。ここで著者は短いが注目すべき発言をする。資本主義の時代は、民主主義、科学、福祉が進展し明らかにそれまでより生活は向上したが、それは資本主義でなくても実現できたのではないかと言う。これは論証はされず信念の開陳に聞こえる。さらに資本主義の発展は詳述されず、すぐ次の現代の金融資本主義に時代へと移行してしまう。そこでは、著者の活動家としての主張が展開される、内容は冒頭のIMFに関する話しと同様だ。例えば、負債は契約で発生するから平等な個人の間で成立するが、実は現代の雇用においても、それは対等ではない個人と法人の間に成立し、勤務時間の間だけ自分を債務奴隷として差し出しているのだというのは、すでにカール・マルクスにより指摘されている事で特に斬新な考えとは言えない。
貨幣を軸に人類5000年史を祖述する膨大な著述でありながら、文体は平易でエピソード的な話題も多く盛り込まれ、本文600ページを読むのに苦痛は感じない。しかし、個人で得られる知識には限界がある。例えば中国とその従属国の話題では、日本も歴史上ずっと変わらず中国の朝貢国であるかの様にさらっと書かれると、アレ変だなと感じる。同様に他の地域や時代に関する著述でも同じような過度の単純化があるのではと疑ってしまう。全体としてみると最初と最後におかれた短いアジテーション部分に挟まれて、貨幣に関する非常に興味深い起源論と発展史が書かれていると言う印象だ。最後に著者は、勤勉な貧者だけでなく勤勉でない(他の人生の楽しみー友人や家族との語らいーに時間を費やす)貧者の立場にも立つ事を宣言する。
アダム・スミス流の、仮想的な未開社会での物々交換の不便性から貨幣が発達してきたという考えは大間違いだと著者は言う。著者の人類学者としての知識によれば、貨幣がなくて不便をかこつ未開社会など世界のどこにも存在しない。未開社会では、人物Aが財Aを欲しいが手元には財Bしかなく人物Bが財Aを持っているが財Bは欲しくないとき、何が起こるか?人物Bは人物Aに財Aを渡し、人物Aが人物Bの欲しいものを獲得できる時まで待つだけなのだ。つまりこれは、一種の信用売りで、そのような記憶が木切れか何かに記録されればそれは借用証書となり、それが貨幣として共同体内で流通し始める。だから負債が貨幣の起源なのだ。さらに言えば、貨幣による交換は共同体が接触したときのみ行われるのではなく、共同体内部でも行われた。共同体が接触した時に行われる交換は商業的なものというよりも祝祭的なイベントになるのが人類学による観察だ。さらに交換や信用にもとずく社会形成について理論的な分析がされ、それを基盤に著者は貨幣を軸にして人類史5000年を振り返る。
顔見知りどうしの温かな匂いに包まれた交換は多くが、商業経済ではなく著者が言う所の人間経済で行われていた。人間経済とは人間こそが最も価値を持つ経済であり、それは殺人に対する購いや花嫁の受け入れに伴うお礼等のやり取りだった。このような際に貨幣が支払われる事はあったが、それは人間の価値に遠く及ばない事を双方が確認するものだった。つまり社会的人間関係を確認するための社会的通貨として使われた。しかし、この関係が属人的な性質を奪われ計量可能性の枠組みに移行するとそこから必然的に奴隷制や売春が発生する。この過程で多くの暴力が介在した事は疑いないだろう。紀元前800年までの大帝国ではすでにこのような事態が進行し、債務地獄に陥って債務奴隷になったり家族を売り飛ばさざるをえない境遇に陥ってしまった民衆を徳政令で救う事が王の課題となった。
次の、著者の言う枢軸時代(前800年から紀元後600年まで)には、鋳造貨幣が誕生し、軍事=鋳造貨幣=奴隷制複合体とでも言うべきシステムが誕生した。ギリシアやローマ帝国がそうだ。征服のため移動する軍隊の兵士と現地民の間の交換は、二度と合わない者どうしの交換だからこそ、貨幣での決済がふさわしい。そこで兵士の給料のために鋳造貨幣が支払われた。貨幣で決済してしまうと、そこで貸し借りの紐帯が切断されるので、共同体内部ではむしろ避けられる事だった。金で解決するなんてなんと水臭い、という事だ。このようにして貨幣経済が広まったのだが、帝国の崩壊とともに再び鋳造貨幣は消え去り信用経済へと戻ったのが中世だ(1450年まで)。
大航海時代が開幕し、遅れた西ヨーロッパに新大陸からの搾取された富が流れ込み、資本主義が成長する。新大陸に行ったコンキスタドールの暴虐ぶりは周知の事だが、その心理状態についての著者の分析は鋭い。例えばコルテスは自身が重債務者であり、彼の兵士もまたコルテスにより法外な必要経費を取られ、もうけるはずが逆に債務者となった。この債務がヒリヒリとした焦燥感をもたらし、新大陸のインディオを同じ人間としてみる心の余裕を奪い、普通の人間なら見るに耐えない状況を作り出したのだと言う。征服後にコルテスは債務により無一文になった。ここで著者は短いが注目すべき発言をする。資本主義の時代は、民主主義、科学、福祉が進展し明らかにそれまでより生活は向上したが、それは資本主義でなくても実現できたのではないかと言う。これは論証はされず信念の開陳に聞こえる。さらに資本主義の発展は詳述されず、すぐ次の現代の金融資本主義に時代へと移行してしまう。そこでは、著者の活動家としての主張が展開される、内容は冒頭のIMFに関する話しと同様だ。例えば、負債は契約で発生するから平等な個人の間で成立するが、実は現代の雇用においても、それは対等ではない個人と法人の間に成立し、勤務時間の間だけ自分を債務奴隷として差し出しているのだというのは、すでにカール・マルクスにより指摘されている事で特に斬新な考えとは言えない。
貨幣を軸に人類5000年史を祖述する膨大な著述でありながら、文体は平易でエピソード的な話題も多く盛り込まれ、本文600ページを読むのに苦痛は感じない。しかし、個人で得られる知識には限界がある。例えば中国とその従属国の話題では、日本も歴史上ずっと変わらず中国の朝貢国であるかの様にさらっと書かれると、アレ変だなと感じる。同様に他の地域や時代に関する著述でも同じような過度の単純化があるのではと疑ってしまう。全体としてみると最初と最後におかれた短いアジテーション部分に挟まれて、貨幣に関する非常に興味深い起源論と発展史が書かれていると言う印象だ。最後に著者は、勤勉な貧者だけでなく勤勉でない(他の人生の楽しみー友人や家族との語らいーに時間を費やす)貧者の立場にも立つ事を宣言する。
2019年11月7日に日本でレビュー済み
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翻訳書特有の寓話がたくさん出てきますが、それらを一つずつ読むと大変時間がかかってしまいますが、その寓話がとても面白く為になります。 古今東西の横断的知識との比較も面白いです。 哲学なども学べ、全部読みきれなくても目次で興味のあるところを読むだけでも非常に有益だと思います。
2019年3月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
届いたばかりで、他の経済学本や歴史本と併読していますが、とても面白い!表題「負債論」からは、経済学史や会計学史等と思っていましたが、著者は文化人類学者であり、その立場からや時代時代の「経済」「思想」を説明していると感じます。
読書途中なので詳述できないが、机上で精読・熟読しています。既述されている過去の学者の理論も勉強になり、何世紀にもわたって人類が行ってきた行動を、「負債論」というテーマに基づいて解説され、キリスト教やイスラム教などとも繋がりが私なりに理解されていきます。既読したサミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」がさらに深く理解されるような気がしています。
読書途中なので詳述できないが、机上で精読・熟読しています。既述されている過去の学者の理論も勉強になり、何世紀にもわたって人類が行ってきた行動を、「負債論」というテーマに基づいて解説され、キリスト教やイスラム教などとも繋がりが私なりに理解されていきます。既読したサミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」がさらに深く理解されるような気がしています。