絶え間ないスリルに次ぐスリル、ページタかーナーを求める人には超お勧め。
抑制の効いた表現ながら時代の空気を存分に伝えてくれる抒情的な地の文
リアルな人物造形による丁寧な台詞
文学としても一級品ではないでしょうか。

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11月に去りし者 (ハーパーBOOKS) 文庫 – 2019/9/17
『このミステリーがすごい! 2020年版』(宝島社)【海外編】第6位獲得!
1963年、世紀の暗殺事件の秘密に近づきすぎた悪党(ギャング)がいた――
ハメット賞受賞作。
1963年11月、ニューオーリンズ。暗黒街で生きる男ギドリーは、ケネディ大統領暗殺の報に嫌な予感を覚える。数日前に依頼された仕事はこの暗殺絡みに違いない。ならば次に死ぬのは自分だ、と。仇敵を頼って西へ向かう道中、夫から逃れてきた訳ありの母娘と出会ったギドリーは家族連れを装いともに旅するようになる。だが組織が放った殺し屋はすぐそこに迫っていた――MWA賞受賞作家の話題作。
1963年、世紀の暗殺事件の秘密に近づきすぎた悪党(ギャング)がいた――
ハメット賞受賞作。
1963年11月、ニューオーリンズ。暗黒街で生きる男ギドリーは、ケネディ大統領暗殺の報に嫌な予感を覚える。数日前に依頼された仕事はこの暗殺絡みに違いない。ならば次に死ぬのは自分だ、と。仇敵を頼って西へ向かう道中、夫から逃れてきた訳ありの母娘と出会ったギドリーは家族連れを装いともに旅するようになる。だが組織が放った殺し屋はすぐそこに迫っていた――MWA賞受賞作家の話題作。
- 本の長さ456ページ
- 言語日本語
- 出版社ハーパーコリンズ・ ジャパン
- 発売日2019/9/17
- 寸法10.8 x 1.8 x 14.8 cm
- ISBN-104596541221
- ISBN-13978-4596541222
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出版社より


登録情報
- 出版社 : ハーパーコリンズ・ ジャパン (2019/9/17)
- 発売日 : 2019/9/17
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 456ページ
- ISBN-10 : 4596541221
- ISBN-13 : 978-4596541222
- 寸法 : 10.8 x 1.8 x 14.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 72,124位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 399位ミステリー・サスペンス・ハードボイルド (本)
- - 17,313位文庫
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2019年9月18日に日本でレビュー済み
1963/11/22、ジョン・F・ケネディが暗殺され、以降様々な「陰謀説」が流布され今日に至っています。スリラーでは、「第三の銃弾」(スティーブン・ハンター)、我が国では浦沢直樹の「BILLY BAT」がその反映では新しいところだと思います。一向に癒されることがない米国のトラウマ。
「11月に去りし者 "November Road"」(ルー・バーニー ハーパーBOOKS)を読む。残念ながら、作者の「ガットショット・ストレート」は未読です。
ニューオーリンズの「組織」の顔役、ギドリーは、ケネディ大統領暗殺後、数日前に請け負った仕事がそれに関連しているとの嫌な予感を覚え、西へと逃亡を図ります。一方、オクラホマでは、アル中の夫に嫌気がさしたシャーロットが離婚を決意、二人の娘と一匹の犬を連れて、ロスアンジェルス、「ここではないどこか」へ向けて旅立ちます。もう一方、「組織」からはギドリーを暗殺すべく「殺し屋」バローネが執拗に追跡を開始します。ノワールでありながら、三者三葉の"November Road"、それぞれのロード・ノヴェルとして読むこともできます。そして、ギドリーとシャーロットの<人生>が交錯することによって、その様相が見事に反転します。
オズワルド、ジャック・ルビーという名が新聞を通して行き交い、日曜は教会に行って愛する人と共に過ごす米国があって、幾度か「ラウンド・ミッドナイト」が流れ、シャーロットは「なりたい人間になりたい」と宣言し、聖書が引用され、ダラスで起きたことが国中の人々に動揺を与えたことが深く、深く読み取れますね。
エピローグはとても爽やかで愛おしい。11月にジョン・F・ケネディが残した者たち。
<訳者あとがき>による「ノワールでありながら、恋愛小説だ」と看破したミーガン・アボット(「暗黒街の女」)のキャッチに頷きながら、もしこの小説世界が確実に信じられるとするならば、こんな一言に感情移入してしまったからなのでしょう。
「昔、おれも恋をした。・・・・・・愛は続かないが、なかったことにはならない」(p.389)
"Let our love be safe and sound
When old midnight comes around"
「私たちの愛を安全で確かなものにしましょうよ。
そう、また真夜中が忍び寄ってくる頃に」
「11月に去りし者 "November Road"」(ルー・バーニー ハーパーBOOKS)を読む。残念ながら、作者の「ガットショット・ストレート」は未読です。
ニューオーリンズの「組織」の顔役、ギドリーは、ケネディ大統領暗殺後、数日前に請け負った仕事がそれに関連しているとの嫌な予感を覚え、西へと逃亡を図ります。一方、オクラホマでは、アル中の夫に嫌気がさしたシャーロットが離婚を決意、二人の娘と一匹の犬を連れて、ロスアンジェルス、「ここではないどこか」へ向けて旅立ちます。もう一方、「組織」からはギドリーを暗殺すべく「殺し屋」バローネが執拗に追跡を開始します。ノワールでありながら、三者三葉の"November Road"、それぞれのロード・ノヴェルとして読むこともできます。そして、ギドリーとシャーロットの<人生>が交錯することによって、その様相が見事に反転します。
オズワルド、ジャック・ルビーという名が新聞を通して行き交い、日曜は教会に行って愛する人と共に過ごす米国があって、幾度か「ラウンド・ミッドナイト」が流れ、シャーロットは「なりたい人間になりたい」と宣言し、聖書が引用され、ダラスで起きたことが国中の人々に動揺を与えたことが深く、深く読み取れますね。
エピローグはとても爽やかで愛おしい。11月にジョン・F・ケネディが残した者たち。
<訳者あとがき>による「ノワールでありながら、恋愛小説だ」と看破したミーガン・アボット(「暗黒街の女」)のキャッチに頷きながら、もしこの小説世界が確実に信じられるとするならば、こんな一言に感情移入してしまったからなのでしょう。
「昔、おれも恋をした。・・・・・・愛は続かないが、なかったことにはならない」(p.389)
"Let our love be safe and sound
When old midnight comes around"
「私たちの愛を安全で確かなものにしましょうよ。
そう、また真夜中が忍び寄ってくる頃に」
2019年10月13日に日本でレビュー済み
「あらすじ」に書かれていることから想像できる以上の展開はありません。
ケネディ大統領暗殺の真犯人捜しの要素もありません。
主人公とヒロインの恋愛を軸に、追う者と追われる者のサスペンスを織りまぜ、大きく方向転換するそれぞれの人生を描いたロードノヴェルです。
古い時代の男は去り女は新しい時代を生きるというテーマや、最後に登場する女性の設定など、作品には、良くも悪くも今という時代が反映されています。
マフィアの幹部としてイケイケな人生を謳歌していたが、一転して理不尽な理由でボスに命を狙われ逃亡者となる、主人公ギドリー。
ヒロイン、シャーロットと出会ってからは、どこに隠していたのかという男の純情が大爆発。
追い詰められた者の苦しい心情や切ないラストなどの要因もあり、彼への感情移入は容易です。
対するシャーロットですが、こちらにはあまり共感できませんでした。
自堕落な夫を持った不運には同情できるけれど、何の伏線も通告もなく、突然幼いふたりの娘を連れて家を飛び出してしまうのは、結構アンフェア。
一応、仕事についてはいるし暴力を振るうこともない、ひとり取り残された夫が何とも気の毒。
彼女の最後の選択も、責められはしないものの、男性目線で見るとかなりドライで現実主義的かつ自己中心的。
結局、どちらの場合にしてもシャーロットは、相手を傷つけることで自分が傷つかないようにしているんですよね。
大統領を暗殺し他にも死体の山を大量に積み上げ、ギドリーを亡き者にしようとするボス、カルロスが、実在した人物なので仕方がないとはいえ、何ら報いを受けることなく終幕を迎えてしまうのも残念。
最後にもうひとつ。
この邦題はあまり良くないと思います。
ケネディ大統領暗殺の真犯人捜しの要素もありません。
主人公とヒロインの恋愛を軸に、追う者と追われる者のサスペンスを織りまぜ、大きく方向転換するそれぞれの人生を描いたロードノヴェルです。
古い時代の男は去り女は新しい時代を生きるというテーマや、最後に登場する女性の設定など、作品には、良くも悪くも今という時代が反映されています。
マフィアの幹部としてイケイケな人生を謳歌していたが、一転して理不尽な理由でボスに命を狙われ逃亡者となる、主人公ギドリー。
ヒロイン、シャーロットと出会ってからは、どこに隠していたのかという男の純情が大爆発。
追い詰められた者の苦しい心情や切ないラストなどの要因もあり、彼への感情移入は容易です。
対するシャーロットですが、こちらにはあまり共感できませんでした。
自堕落な夫を持った不運には同情できるけれど、何の伏線も通告もなく、突然幼いふたりの娘を連れて家を飛び出してしまうのは、結構アンフェア。
一応、仕事についてはいるし暴力を振るうこともない、ひとり取り残された夫が何とも気の毒。
彼女の最後の選択も、責められはしないものの、男性目線で見るとかなりドライで現実主義的かつ自己中心的。
結局、どちらの場合にしてもシャーロットは、相手を傷つけることで自分が傷つかないようにしているんですよね。
大統領を暗殺し他にも死体の山を大量に積み上げ、ギドリーを亡き者にしようとするボス、カルロスが、実在した人物なので仕方がないとはいえ、何ら報いを受けることなく終幕を迎えてしまうのも残念。
最後にもうひとつ。
この邦題はあまり良くないと思います。
2020年9月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
R66を舞台にしたロードムービーのような物語。逃避行の中の出会いが、ギドリーとシャーロットの心の奥底にあった強さ、優しさ、そして弱さを引き出していく。JFK暗殺事件の闇に迫るストーリーを期待した読者には肩透かしなところはあるが、ギドリーを追う殺し屋バローネをはじめとする魅力的な登場人物たちとアメリカの物語であることを強く感じさせる舞台設定で最後まで楽しめた。エピローグが秀逸。
2021年9月27日に日本でレビュー済み
1963年11月に勃発したケネディ大統領殺害事件。その証拠隠滅のために関係者を全て消す――実にリアルだ。
その渦に巻き込まれたマフィアの若き幹部ギドリー。序盤の恩人を売るところはひどいと思ったが、それがこの世界では生き延びるための現実。…その後は実に魅力的な人物像に描かれている。
ギドリーが逃走中に出会う、娘二人を連れて家出したシャーロット。女性目線から見て、彼女がどうしようもない夫とこれ以上暮らせないと判断したことには共感できる。いきなり行動を起こしたことにも。それまでは内向的な性格だったためでもあるが、話し合いをしようと試みたことはあったと描かれている。
だが、特に際立った魅力があるとは思えない。では何故ギドリーがここまで惹かれたのか?
おそらく、彼は暴力的な親に育てられ成人になってからも孤独だったので、彼女に備わっている温かい家庭のイメージへの憧れがあったためと考える。もちろん美人なので女性としての魅力もあるだろうけど。
惹かれながらもたびたび、ギドリーはシャーロットたちが自分にとって「非現実的」であると感じており、それが何とももの悲しい。
殺人者バローネに関しても、容赦しない極悪性の反面、黒人差別をしないなどの人間性も描いている。
男は夢を見、女は現実的(もちろん全ての人に当てはまるわけではないが)。この点もリアルだ。
時代はヴェトナム戦争のさなかだが、女・子供を連れてヴェトナムへ行くなんてあり得るのか?八方ふさがりの中、結末はどうなるのか? ……最後まで気になる展開だった。
その渦に巻き込まれたマフィアの若き幹部ギドリー。序盤の恩人を売るところはひどいと思ったが、それがこの世界では生き延びるための現実。…その後は実に魅力的な人物像に描かれている。
ギドリーが逃走中に出会う、娘二人を連れて家出したシャーロット。女性目線から見て、彼女がどうしようもない夫とこれ以上暮らせないと判断したことには共感できる。いきなり行動を起こしたことにも。それまでは内向的な性格だったためでもあるが、話し合いをしようと試みたことはあったと描かれている。
だが、特に際立った魅力があるとは思えない。では何故ギドリーがここまで惹かれたのか?
おそらく、彼は暴力的な親に育てられ成人になってからも孤独だったので、彼女に備わっている温かい家庭のイメージへの憧れがあったためと考える。もちろん美人なので女性としての魅力もあるだろうけど。
惹かれながらもたびたび、ギドリーはシャーロットたちが自分にとって「非現実的」であると感じており、それが何とももの悲しい。
殺人者バローネに関しても、容赦しない極悪性の反面、黒人差別をしないなどの人間性も描いている。
男は夢を見、女は現実的(もちろん全ての人に当てはまるわけではないが)。この点もリアルだ。
時代はヴェトナム戦争のさなかだが、女・子供を連れてヴェトナムへ行くなんてあり得るのか?八方ふさがりの中、結末はどうなるのか? ……最後まで気になる展開だった。
2020年1月10日に日本でレビュー済み
ケネディの死が演出する逃亡と追跡の物語であり、
硝煙とアイスピックと血溜まりに彩られた奇跡のラブストーリーだ。
ノワールは過剰な緊張感と共に語られていくが、
ははあ、これ、よくある展開だね
と物語が装うテンプレート感に身を委ねる読者を襲うのは突然の裏切りだ。
仕込まれたフェイントはダークでショッキングな快感となる。
主要舞台はアメリカ大陸を横断するルート66。
出会わなくてもいい者たちが引き寄せられる逢魔が道。
追われる者、追う者それぞれに作者は異なるBGMを設定した。
ラウンドミッドナイト
ディラン「くよくよするなよ」
薬物中毒になる前のアート・ペッパーによるアルトソロ
1963年晩秋のアメリカの空の下を流れる、それぞれのBGMを聴きながら、
登場人物の誰もが11月を去ってゆく。
終盤は一気。
その読後後の素晴らしさといったら、もう、あなた。
そこで邦題をあらためて噛み締める。
硝煙とアイスピックと血溜まりに彩られた奇跡のラブストーリーだ。
ノワールは過剰な緊張感と共に語られていくが、
ははあ、これ、よくある展開だね
と物語が装うテンプレート感に身を委ねる読者を襲うのは突然の裏切りだ。
仕込まれたフェイントはダークでショッキングな快感となる。
主要舞台はアメリカ大陸を横断するルート66。
出会わなくてもいい者たちが引き寄せられる逢魔が道。
追われる者、追う者それぞれに作者は異なるBGMを設定した。
ラウンドミッドナイト
ディラン「くよくよするなよ」
薬物中毒になる前のアート・ペッパーによるアルトソロ
1963年晩秋のアメリカの空の下を流れる、それぞれのBGMを聴きながら、
登場人物の誰もが11月を去ってゆく。
終盤は一気。
その読後後の素晴らしさといったら、もう、あなた。
そこで邦題をあらためて噛み締める。
2019年12月14日に日本でレビュー済み
途轍もない実力を備えた作家に出会うと、ぼくはいつも少し興奮してしまう。それほどの掘り出し物の作家は、毎年のようにあちこちで見つかるわけではない。数年に一度、いや十年に一度くらい火傷しそうなくらいの印象と熱とを伴って唐突に眼の前に現れるのだ。
ぼくがこの作品を手に取ってすぐに感じたのが、そのような感覚であった。おお、来たぞ、来たぞというような震えが走る。翻訳小説であれ、この手の文章によるグルーブ感は感じられる。素晴らしい文章であり、言葉の流れであり、行間を流れる時がガラスの中を落ち行く砂音を確実に伝える。
題材はジョン・F・ケネディの暗殺事件。主人公ギドリーは、組織から依頼を受け、暗殺者が逃走用に使う車を用意してしまったことを知る。さらにその車の始末を命じられるが、関わった者たちが次々に不審死を遂げてゆく情報を掴んで身の危険を感じ、状況からの脱出を図る。
一方、写真館に勤めるシャーロットは、働かず浪費を繰り返す夫に愛想をつかし、ルート66を、西に向かって旅立つ。個性的な二人の娘を連れて、急激な心の変化で。考えるよりも先に行動を選択してしまった主婦の運命が本筋に交わってゆく。
さらにサイコとも言えるプロの殺し屋パローネは、黒人少年セオドアという運転手とのコンビで、ギドリーを追い始める。
以上、シンプルなトライアングル・ストーリーが、ルート66を疾走し始める。大好きなロード・ノヴェルが慌ただしくスタートする。三つ巴の運命は、大きな川の流れのように蛇行してうねる。それぞれの人間がとても深く描写されつつ、スリリングな緊張を保ってゆく。文章は、秀逸で、リズムが横溢している。煮詰まり行くストーリー。それぞれの出会いと、決着への興味にぐいぐいと引っ張られてしまう。
案の定『このミス』6位の評価を得た作品。ぼくは自己3位とした。『ガットショット・ストレート』という評価の高いデビュー作以前は、『ニューヨーカー』で作品を採用され、文学作品やシナリオライティング、文芸創作の教師などの仕事に従事していたらしく、ミステリー・ジャンルで花開くまでの下地を作る助走路は十分に長かったようである。なるほどの筆力である。
ぼくはそもそもJFKを題材にしているというだけで興味を覚えてしまう。映画『ダラスの熱い日』のラストシーンを覚えておいでだろうか? 事件後に不審死を遂げた関係者や目撃者の実際の写真がずらっと拡大され、これだけの関係者が数年内に死亡を遂げる確率は数千分の一とか数万分の一(記憶曖昧、失礼!)であるといった字幕が流れ、事件後の証人不在工作の徹底度を伝えて終わる。その衝撃をこのストーリーの基盤に据えた、暗黒組織の存在が非常に怖く、現実と繋がっている感覚が否めない。
そんな歴史的な悲劇を潜り抜ける中で、冒険と恋愛と生命の逞しさとを登場のたびに表現してくれた一主婦シャーロットの存在に、ぼくとしては大きな喝采を送りたい。
ぼくがこの作品を手に取ってすぐに感じたのが、そのような感覚であった。おお、来たぞ、来たぞというような震えが走る。翻訳小説であれ、この手の文章によるグルーブ感は感じられる。素晴らしい文章であり、言葉の流れであり、行間を流れる時がガラスの中を落ち行く砂音を確実に伝える。
題材はジョン・F・ケネディの暗殺事件。主人公ギドリーは、組織から依頼を受け、暗殺者が逃走用に使う車を用意してしまったことを知る。さらにその車の始末を命じられるが、関わった者たちが次々に不審死を遂げてゆく情報を掴んで身の危険を感じ、状況からの脱出を図る。
一方、写真館に勤めるシャーロットは、働かず浪費を繰り返す夫に愛想をつかし、ルート66を、西に向かって旅立つ。個性的な二人の娘を連れて、急激な心の変化で。考えるよりも先に行動を選択してしまった主婦の運命が本筋に交わってゆく。
さらにサイコとも言えるプロの殺し屋パローネは、黒人少年セオドアという運転手とのコンビで、ギドリーを追い始める。
以上、シンプルなトライアングル・ストーリーが、ルート66を疾走し始める。大好きなロード・ノヴェルが慌ただしくスタートする。三つ巴の運命は、大きな川の流れのように蛇行してうねる。それぞれの人間がとても深く描写されつつ、スリリングな緊張を保ってゆく。文章は、秀逸で、リズムが横溢している。煮詰まり行くストーリー。それぞれの出会いと、決着への興味にぐいぐいと引っ張られてしまう。
案の定『このミス』6位の評価を得た作品。ぼくは自己3位とした。『ガットショット・ストレート』という評価の高いデビュー作以前は、『ニューヨーカー』で作品を採用され、文学作品やシナリオライティング、文芸創作の教師などの仕事に従事していたらしく、ミステリー・ジャンルで花開くまでの下地を作る助走路は十分に長かったようである。なるほどの筆力である。
ぼくはそもそもJFKを題材にしているというだけで興味を覚えてしまう。映画『ダラスの熱い日』のラストシーンを覚えておいでだろうか? 事件後に不審死を遂げた関係者や目撃者の実際の写真がずらっと拡大され、これだけの関係者が数年内に死亡を遂げる確率は数千分の一とか数万分の一(記憶曖昧、失礼!)であるといった字幕が流れ、事件後の証人不在工作の徹底度を伝えて終わる。その衝撃をこのストーリーの基盤に据えた、暗黒組織の存在が非常に怖く、現実と繋がっている感覚が否めない。
そんな歴史的な悲劇を潜り抜ける中で、冒険と恋愛と生命の逞しさとを登場のたびに表現してくれた一主婦シャーロットの存在に、ぼくとしては大きな喝采を送りたい。
2020年10月17日に日本でレビュー済み
ケネディ大統領が暗殺された背景にいた奴らが事件後にどのような顛末になったのかを作品に展開した。暗殺事件性の黒幕としてニューオーリンズの犯罪組織のボスであるカルロス・マルチェロは暗殺に絡んだ人物を消していく。ジャック・ルビーがオズワルドを警察署で射殺したのも作品ではマルチェロの指示とされる。ギドリーは現場の車を処分する役割であるが、証拠隠滅のため、殺し屋のバローネに狙われる。そこから逃避行が始まる。別の場所ではどうしようもない夫から逃げてきたシャーロットと二人の娘がロサンゼルスを目指している。ギドリーとシャーロットとの出会いが、二人の心情を変えていく。殺し屋から逃げるためには合理的な思考と裏をかく行動をする。殺し屋のバローネは獲物を仕留めるために犯す殺人は何とも思わない冷酷さ。ギドリーとバローネの騙しあいなど、犯罪現場の行動哲学が滲み出てて面白い。