残酷な殺人事件の加害者らが、親から凄惨な虐待を日常的に受けたり、劣悪な環境で育ったため、他人の痛みを考えられない人間になってしまったという例は多い。虐待と少年犯罪の因果関係は、統計の上からも明らかである。
彼らの心の闇に光を当て、問題の根源に何があるかを見つめ、社会としてどう向き合うかを考えるべきではないか。著者の石井光太氏は、川崎中一男子生徒殺害事件を書いたことで、その思いが一層膨らんでいき、日本全国の少年院を巡って、加害少年や、矯正教育に関わる人々に話を聞いていった。
食事もろくに与えられず、入浴も着替えもないので、学校では「臭い」「汚い」といじめに遭う。日常的に親から暴力を受け、家は恐怖の場であり、小学生のうちは必死になって耐えるが、思春期になると心が折れたように家の外に飛び出して同じような境遇の不良グループと付き合い始める。不良グループの中で居場所を得るには、万引きや売春といった彼らの行動原理に染まらなければならない。そんな風に非行を繰り返していくうちに、倫理観を失い、他人だけでなく、自らのことまで傷つけるようになる。
虐待を受けた子供たちがみんな犯罪に手を染めるわけではないが、知的障害や発達の障害があって耐久性が弱かったりすると、虐待による悪影響が他の子供以上に大きく出てしまう。軽度の知的障害やASD(自閉症スペクトラム障害、アスペルガー症候群)、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、虐待、いじめ、社会的孤立といったものが複雑に絡み合って、事件を起こしたケースもある。
劣悪な環境で育った少年少女に多いのが、自己否定感である。生きていても仕方がない、自分なんてどうでもいいという気持ちが心の大半を占めてしまうのである。
少年院での矯正プログラムでは、「自己肯定感」を育てていくことがすべての基礎として行われている。「物心つく前から虐待を受けていると、自分なんて生きていたって仕方ないと自暴自棄になっている。他人の気持ちなんて想像もせずに暴力を振るう。そんな少年たちに対して教科や寮生活の中でたくさんの成功体験をさせ、自分自身を肯定できるようにしていくのです」と施設の教官は語る。ちょっとした努力を見つけて褒めてあげたり、ボランティア活動を通して感謝される喜びを教えたり、スポーツやアートで達成感を味わわせたりしながら、心の中で育んでいく。
ある少年は、少年院で出会った陶芸で才能を発揮し、人生が開けた。劣悪な環境で育った子供たちは愛情や成功体験の「飢餓状態」にあり、逆に言えば、ちょっとした経験によって一気に道が開けることもあるのだ。
第5章では、少年によって我が子を殺された多くの親たちの慟哭が語られている。
少年たちの大半は罪の意識を持たない(持てない)まま事件を起こしている。「ムカついたから」といって友達を暴行死させたり、ストレス発散のために性犯罪を起こしたりする。少年院の役割は、こうした少年たちに罪の重さを認識させ、更生させることだが、その期待に応えられる少年は決して多くない。
「少年院を出てからも暴走族に入り、再犯をして、損害賠償を払わない。いつしか自分の中で彼らの更生を諦めるようになった」と、息子を少年らに暴行死させられた母親は言う。
父親から暴力を受け続け、父親を憎悪し、父親を困らせるため「誰でもよかった」と見知らぬ人を殺した軽度の知的障害のある少年がいる。少年は裁判の最中にも暴れ続け、被害者の親は、「残念ながら、ああいう子は更生できないと思います。少年院や少年刑務所の指導は、通り一遍のもので、用意されているプログラムを機械的に当てはめていくだけです。もちろん、すべての少年に対して指導が無意味だって言うつもりはありませんよ。でも、うちの事件の加害少年のような者には、そうでない指導が必要だということなのです。判決にせよ、矯正教育にせよ、ひな型に当てはめているだけだなって感じます。本来は、判決にしても、矯正教育にしても、その子の内面まできちんと考えて適切な決定を下さなければなりません。そういうところが抜けているから、少年事件の再犯はなくならず、その結果として苦しむのは遺族や新たな被害者なんです」と述べている。
高校生の娘を元同級生に殺された父親は、弁護士が加害少年の精神鑑定の結果を提出して、重い刑罰を下すべきではないと主張したことに対し、「加害少年の妄想や言っていることが尋常じゃないのは分かります。不幸な家庭環境が原因だっていうのも一理あるでしょう。でも、彼は計画性をもって殺人事件を起こしているのです。弁護士は加害少年を守るために『病気』という言葉をいいように利用しているとしか思えません」と言う。
更に十年後、医療刑務所を出所した加害少年は、再び犯罪を起こしたのである。「現在の裁判所の仕事は、犯罪者を刑務所に何年入れるかを決めることですが、将来刑務所から出所させるという前提があるのなら、何としてでも再犯をしないような人間にすべきです。それができないのに、判決通りの年月が経ったというだけで出所させれば、また何の罪もない人たちが犠牲になるんです。国には国民の安全を守る義務がある。そのために矯正教育をきちんとしてほしいし、もし更生しないなら別の方法で被害が拡大しないようにしてほしい」。
最後の第6章で、非常に高い確率で少年を更生させている福岡県の田川の更生保護施設を取り上げている。
理事長は元暴走族の男性で、「うちに来るのは、全国の施設で受け入れてもらえなかったような子ばかりです。でも、ここへ来てもらえば大半の子を更生させる自信はありますし、現実にそうやってきました」と言っている。
彼も荒んだ家庭の出身で、小学校の高学年から不良生活で、18歳の時、逮捕されて少年院に送られた。20歳で結婚して娘が生まれたことで、足を洗う決意をした。そして、仲間や後輩たちのもとを回り、「一緒に真面目に生きよう」と説得して回った。元犯罪者が真っ当な仕事について堅実に生きていくのは簡単なことではない。だからバラバラで行動するのではなく、みんなで支え合ったらどうかと考えたのである。
ゴミ拾いのボランティア活動を続け、それが新聞で取り上げられたことから、「うちの息子を更生させてほしい」と頼まれるようになった。暴走族時代の経験から、彼らにどう接して何をさせればいいのか直感的に分かるので、更生は上手くいった。少年たちにとって彼は自分を分かってくれる「兄」のような存在であり、尊敬を持ってついていこうとする。元当事者が支援をする側に回った時の利点は、当事者の気持ちが分かることだ。暴走族の総長時代に社会からこぼれ落ちた不良たちを組織として統合した経験から、ノウハウが自然と身についていたのだろう。
「少年の非行防止は社会全体の課題です。少年の時点で非行を止めておかなければ、彼らは大人になってより大きな犯罪に走ります。下着泥棒がレイプになり、シンナー遊びが覚せい剤になり、暴力が殺人になる。少年を更生させるのは、日本の治安を守ることにつながるんです」「ここ田川は不景気で治安も悪い。だからこそ、国も県も自治体も、少年の更生保護に注目してくれてますし、法務省や大学の偉い人たちが視察にやってきてくれます。出所者を雇用する企業である『協力雇用主』の数は、福岡県が日本最多です。こうしたことから、田川は更生保護において日本の最先端をいってると言われています。ここで成功を収めれば、必ず10年後には日本のスタンダードになる」。
田川から福岡へ、そして全国へ、更生保護の波を広げていく。彼の見つめる目の先には、その光景が見えているのだろう。日本が進むべき未来の一つの形をはっきりと示しているような気がした、と石井光太氏は書いている。
いつもながら、石井光太氏の取材力、文章力には感心する。「一朝一夕にして社会を変えることはできないが、個々が意識を変えていくだけで、絶望の底にいる少年が助かることはたくさんあるのだ」と「あとがき」で述べている。
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虐待された少年はなぜ、事件を起こしたのか (平凡社新書 911) 新書 – 2019/5/17
石井 光太
(著)
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統計でも裏付けられる、虐待と少年犯罪の因果関係。
虐待を受けた少年はなぜ、自らが犯した罪と向き合おうとしないのか。
なぜ自分の命さえ大切にできないのか。
彼らの心の中でいったい何が起きているのか。
はたして社会に彼らの生きる場所はあるのか。
被虐待、性非行、ドラッグ依存、発達障害との関係……。
少年犯罪の病理と矯正教育の最前線を追う。
虐待を受けた少年はなぜ、自らが犯した罪と向き合おうとしないのか。
なぜ自分の命さえ大切にできないのか。
彼らの心の中でいったい何が起きているのか。
はたして社会に彼らの生きる場所はあるのか。
被虐待、性非行、ドラッグ依存、発達障害との関係……。
少年犯罪の病理と矯正教育の最前線を追う。
- 本の長さ389ページ
- 言語日本語
- 出版社平凡社
- 発売日2019/5/17
- 寸法10.8 x 1.7 x 17.3 cm
- ISBN-104582859119
- ISBN-13978-4582859119
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商品の説明
著者について
1977年東京生まれ。作家。国内外の貧困、災害、事件などをテーマに取材・執筆活動をおこなう。著書に『物乞う仏陀』(文春文庫)、『神の棄てた裸体 イスラームの夜を歩く』『遺体 震災、津波の果てに』『「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち』『浮浪児1945- 戦争が生んだ子供たち』(以上、新潮文庫)、『原爆 広島を復興させた人びと』(集英社)、『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)、『漂流児童 福祉施設の最前線をゆく』(潮出版社)など多数。
登録情報
- 出版社 : 平凡社 (2019/5/17)
- 発売日 : 2019/5/17
- 言語 : 日本語
- 新書 : 389ページ
- ISBN-10 : 4582859119
- ISBN-13 : 978-4582859119
- 寸法 : 10.8 x 1.7 x 17.3 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 240,941位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 214位平凡社新書
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2021年5月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この手の本は数冊読んでいますが、少年院に勤務する精神科医のものが多かったです。そういう意味では客観的な立場なのかもしれません。ダルクや更生施設まで取り上げているので、その部分は興味深かったです。ただ、執筆時にできてから10年もたっていない田川ふれ愛義塾を成功例として取り上げてもよかったのかな、という気はしました。
被害者遺族の声が取り上げられているのはこの手の新書では珍しいと思いますが、少年の更生と被害者遺族への支援が車の両輪ではないかと思っているのでいい試みだと思いますが、支援策などもう一歩踏み込んでほしかったです。ただ、この章があるからか、重かったです。
被害者遺族の声が取り上げられているのはこの手の新書では珍しいと思いますが、少年の更生と被害者遺族への支援が車の両輪ではないかと思っているのでいい試みだと思いますが、支援策などもう一歩踏み込んでほしかったです。ただ、この章があるからか、重かったです。
2019年10月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
虐待による負のスパイラルを色々な観点から捉えた本。ボリュームありますが、直ぐに読み終えました。
2020年3月17日に日本でレビュー済み
子は親を選べないと言うのは本当ですね。
こんなに酷い虐待が行われていても表面化しないとは驚愕です。
今こうしている間にもいるのかもしれません。
少年犯罪の被害者家族の話もとても興味深かったです。
その中でも遺族の方が周囲の人に「まだ事件について語っている」と言われるということがあるということ。
信じられなかったですね。
自分の身の回りのごく近しい人が被害者でもあり加害者でもある。
加害者は少年だから普通にまた生活しに戻ってきている。反省も罰もないに等しい状態で。
それを当たり前に受け入れてる地域の人々というのはいつ自分が被害者や加害者になるのかと考えすらしないのだろう。
子供を取り巻く環境は家庭内だけではなく
身近な地域も関係してくるのだと思う。
色んな意味で考えさせられました。
あらゆる角度から見ることができました。
欲を言えば続編を読みたいくらいです。
丁寧な取材でなおかつ読みやすかったです。
こんなに酷い虐待が行われていても表面化しないとは驚愕です。
今こうしている間にもいるのかもしれません。
少年犯罪の被害者家族の話もとても興味深かったです。
その中でも遺族の方が周囲の人に「まだ事件について語っている」と言われるということがあるということ。
信じられなかったですね。
自分の身の回りのごく近しい人が被害者でもあり加害者でもある。
加害者は少年だから普通にまた生活しに戻ってきている。反省も罰もないに等しい状態で。
それを当たり前に受け入れてる地域の人々というのはいつ自分が被害者や加害者になるのかと考えすらしないのだろう。
子供を取り巻く環境は家庭内だけではなく
身近な地域も関係してくるのだと思う。
色んな意味で考えさせられました。
あらゆる角度から見ることができました。
欲を言えば続編を読みたいくらいです。
丁寧な取材でなおかつ読みやすかったです。
2019年9月9日に日本でレビュー済み
痛ましい犯罪が書き連ねてありました。実に生々しく、少年の犯罪の元凶として親からの虐待の多さに愕然としています。
非行少年たちのある施設での実態として「実父母がそろっているのが17名のうち2名しかおらず、全体の7~8割が虐待を受け、大半の者が小学生の時から非行に走っているのだ。少年たちが幼い時期に心に傷を負い、それが非行へとつながっていることがわかるだろう。(64p)」と明確に指摘していました。
筆者は数多くの少年(当然少女も含む)へインタビューをして非行や犯罪の過程について鋭く迫っていました。「幼い頃の虐待体験によって他人の気持ちを想像することができない人間に育ってしまった」と犯罪に精通する精神医学や心理学の専門家は考えるようです(11p)。
今も多くの犯罪が報道されますが、その原因を追究するとかなりの確率でここに行き当たるのでしょう。
23p以降の女子少年院の実態として「筑紫少女苑」を訪れ、首席専門官に詳しく聞いて、少年院や非行の実態についてデータを交えて書かれていました。少年院で定数割れをしているのを初めて知りました。暴走族の衰退なども挙げられていましたが、様々な要因はあるにせよ、少子化の波はここにも押し寄せているようです。
第4章の「ドラッグという底なし沼」も怖いですね。社会の負の縮図のようでした。それぞれの少年たちの聞き書きの中では、薬物の依存にも触れられていますし、シンナー遊びにも言及していました。
第5章の「被害者遺族の慟哭」は切実ですし、言葉に表せないような遣る瀬無さを感じました。少年法に守られた少年たちと、被害を受けた人との落差に愕然とします。
1997年、神戸の少年A(当時14歳)のエピソードにも触れられています(245p)。『絶歌』出版の酷さは、矯正教育の限界を示すものでした。個々の犯罪に言及すると木を見て森を見ないようになりますが、少年法によって立ちふさがる刑罰の限界が見え隠れします。被害者の家族の気持ちを思うと「罪を憎んで人を憎まず」というは至難の業ですね。
非行少年たちのある施設での実態として「実父母がそろっているのが17名のうち2名しかおらず、全体の7~8割が虐待を受け、大半の者が小学生の時から非行に走っているのだ。少年たちが幼い時期に心に傷を負い、それが非行へとつながっていることがわかるだろう。(64p)」と明確に指摘していました。
筆者は数多くの少年(当然少女も含む)へインタビューをして非行や犯罪の過程について鋭く迫っていました。「幼い頃の虐待体験によって他人の気持ちを想像することができない人間に育ってしまった」と犯罪に精通する精神医学や心理学の専門家は考えるようです(11p)。
今も多くの犯罪が報道されますが、その原因を追究するとかなりの確率でここに行き当たるのでしょう。
23p以降の女子少年院の実態として「筑紫少女苑」を訪れ、首席専門官に詳しく聞いて、少年院や非行の実態についてデータを交えて書かれていました。少年院で定数割れをしているのを初めて知りました。暴走族の衰退なども挙げられていましたが、様々な要因はあるにせよ、少子化の波はここにも押し寄せているようです。
第4章の「ドラッグという底なし沼」も怖いですね。社会の負の縮図のようでした。それぞれの少年たちの聞き書きの中では、薬物の依存にも触れられていますし、シンナー遊びにも言及していました。
第5章の「被害者遺族の慟哭」は切実ですし、言葉に表せないような遣る瀬無さを感じました。少年法に守られた少年たちと、被害を受けた人との落差に愕然とします。
1997年、神戸の少年A(当時14歳)のエピソードにも触れられています(245p)。『絶歌』出版の酷さは、矯正教育の限界を示すものでした。個々の犯罪に言及すると木を見て森を見ないようになりますが、少年法によって立ちふさがる刑罰の限界が見え隠れします。被害者の家族の気持ちを思うと「罪を憎んで人を憎まず」というは至難の業ですね。
2021年5月5日に日本でレビュー済み
少年犯罪の多くは親の問題に由来するのではという問題提起を数々の具体例とともに考察した本書の意義は非常に大きく、犯罪関連本のなかでもかなり優れていると感じました。是非広く読まれなければなりません。
一方で、一点だけ本書で取り上げられた事件で事実を修正したいものがありますので記させていただきます。
p.176からの西尾市ストーカー殺人事件です。
冒頭で登校途中の女子高生が加害少年に惨殺されてしまう状況が描写されていますが、本書では被害者が左胸に続き背中を刺されたあと、もはやその場を動くことができずに倒れ込んだと描写されてますが事実と異なります。
殺害された少女は左胸と背中を刺されたあと逃げようと試みました。一緒に登校していた女子生徒に手を引かれて何メートルか進んだところで力尽きて倒れました。著者が引用した藤井誠二氏の著書では4~5メートル足らずと書かれていますが、実際は10メートルほどです。いずれにせよ僅かな距離ではありますが、現場写真の血の海からは身体の血が全部流れ出たのではないかとまで疑いたくなるほどの傷を負いながら、最後まで生きようとした彼女を想って訂正しておきます。
なお、本書では殺害された少女の父親にも取材していますが、事件当日にこの父親は娘が刺されたとの一報を受けて救急搬送前、血の海の中に倒れる娘の変わり果てた姿を目の当たりにしています。この事件の悲惨さを伝えるうえで欠かせない要素だと思いますので書いておきます。
以上の訂正は本書の本筋に影響がある部分ではないので、星の数は変わりません。
一方で、一点だけ本書で取り上げられた事件で事実を修正したいものがありますので記させていただきます。
p.176からの西尾市ストーカー殺人事件です。
冒頭で登校途中の女子高生が加害少年に惨殺されてしまう状況が描写されていますが、本書では被害者が左胸に続き背中を刺されたあと、もはやその場を動くことができずに倒れ込んだと描写されてますが事実と異なります。
殺害された少女は左胸と背中を刺されたあと逃げようと試みました。一緒に登校していた女子生徒に手を引かれて何メートルか進んだところで力尽きて倒れました。著者が引用した藤井誠二氏の著書では4~5メートル足らずと書かれていますが、実際は10メートルほどです。いずれにせよ僅かな距離ではありますが、現場写真の血の海からは身体の血が全部流れ出たのではないかとまで疑いたくなるほどの傷を負いながら、最後まで生きようとした彼女を想って訂正しておきます。
なお、本書では殺害された少女の父親にも取材していますが、事件当日にこの父親は娘が刺されたとの一報を受けて救急搬送前、血の海の中に倒れる娘の変わり果てた姿を目の当たりにしています。この事件の悲惨さを伝えるうえで欠かせない要素だと思いますので書いておきます。
以上の訂正は本書の本筋に影響がある部分ではないので、星の数は変わりません。
2019年7月24日に日本でレビュー済み
少年犯罪の加害者、被害者、矯正施設で働く教官に幅広く取材し、現状を報告。
犯罪に至るまでの原因は先天的な障害や家庭の環境が合わさった複雑なもの。少年が更生できるかどうかを左右するのは、親の愛情を受けて育っているかどうか。施設では自分を大切にすることをまず考えさせ、そのうえで事件に向き合わせる地道な取り組みを繰り返すも、出所して再犯に至る少年が多い矯正教育の限界を報告します。
終章では、かつて非行少年だった当事者が更生施設を立ち上げて少年を支援する試みを紹介。
複数の切り口から書かれているためか読後感は複雑ですが、想像を絶した現場があり、あるべき姿に向けて努力している人がいることを留め置くべきなのではないかと思います。
犯罪に至るまでの原因は先天的な障害や家庭の環境が合わさった複雑なもの。少年が更生できるかどうかを左右するのは、親の愛情を受けて育っているかどうか。施設では自分を大切にすることをまず考えさせ、そのうえで事件に向き合わせる地道な取り組みを繰り返すも、出所して再犯に至る少年が多い矯正教育の限界を報告します。
終章では、かつて非行少年だった当事者が更生施設を立ち上げて少年を支援する試みを紹介。
複数の切り口から書かれているためか読後感は複雑ですが、想像を絶した現場があり、あるべき姿に向けて努力している人がいることを留め置くべきなのではないかと思います。
2022年2月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
著者の本の中で一番つまらなかった。数ページ読んでヤ・メ・タ!!