「食べたくても食べられない人がいるのだから、残さず食べなさい」
「あなたが無為に過ごした今日は、誰かが生きたかった明日」
という説教を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
素直にその通りだからもっとがんばろうと思えるならよし
でも、ときに反論を唱えたくなるのはなぜだろう…
本書では、物質的・経済的な貧困に加えて、
社会的つながりの貧困もスコープに入れて論じています。
タイトルの「日本は本当に恵まれているのか」に対する答えは
単純なイエス・ノーでは示されません。
それは貧困を「絶対貧困」と「相対貧困」に分けて比較しているからです。
本書における絶対貧困は、世界銀行が国際貧困ライン以下の生活と同義です。
すなわち「1日1.90ドル(本書が執筆された時点では1.25ドル)以下の生活」。
この水準をもって日本を見ると、
物価の高さとそれに応じた給与水準をもつため貧困は発生しません。
では、派遣社員やシングルマザー、低学歴やフリーターといった言葉に
経済的にポジティブな印象が持たれにくいのはなぜでしょうか。
このときに必要な概念が「相対的貧困」です。
ざっくりいうと、その社会における平均所得の半分での生活、と説明できます。
日本では相対的貧困状態にある人のために
社会保障が整っているではないかと思われるかもしれません。
確かにその通りです。
北欧と比較すれば改善の余地があまりある日本の社会保障制度ですが、
途上国と呼ばれる国家と比べれば至れり尽くせりです。
それでも、著者は現代日本的な貧困、
つまり社会的なつながりの貧困を解決できるものではないと述べています。
アパートの隣にだれが住んでいるのか知らない。
キャリアのレールから外れたら将来における挽回は望めない。
頼るべきコミュニティーがない。
それが、現代日本的貧困だと理解しました。
「あたしはもう14歳なのに寝る場所は10人の家族親戚と同じ。近所の人たちも頻繁に来るからプライバシーがないのよ。でも酔っ払った親を止めてくれるのは助かってる。」
「あたしは静かな部屋に片親と二人暮らし。1人で漫画を読む時間が好き。でも親に暴力をふるわれたり怖いことを言われたときにも1人で我慢するのよ。」
「老後の世話をしてもらったり、家計の足しになるように子どもはたくさん生むわ。学校は必要最低限でいいでしょ。本人も早く働きたがってるわ。」
「老後の資金をためなくちゃいけないから、子どもはとても生めないわ。生んだら、高校までは出さなきゃ本人が困るでしょ。自分ひとりがやっとよ。」
「僕たちの食事は1日1回。近所のお母さんやお姉さんたちが市場で買ってきた食材で作ってくれるんだ。野菜ばっかりだけど、文句は言えないね。大人は大丈夫でけど、小さい弟たちはお腹を壊すことがあるよ」
「僕たちの食事お母さんがパスタを茹でたりチャーハンを作ったり、ときどきマックを買ってきてくれたりするんだ。フルーツやサラダは給食くらいかな。学校のない日はの食事は1日2回なのに、3回食べているクラスの友達より太ってるんだよね」
どっちが幸せなのでしょうか。
どちらでもありません。
貧困を研究するのは、貧困の原因と現状を正しく知るのは、
他人と比べて自身の現状に対して慰めを得るためではありません。
怖がって避けるためでも同情するためでもない。
克服して過去のものにするため。
克服して次の段階に社会が進むためです。
本書では解決策は何も提示されませんでした。それでもいいです。
リアルをデータの裏づけをもって伝える資料として、
次の一歩につながる一冊です。

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世界「比較貧困学」入門 日本はほんとうに恵まれているのか (PHP新書) 新書 – 2014/4/15
石井 光太
(著)
スラムに住む子どもたちが笑顔で生き、かたや充実した社会保障に守られながら希望をもてない人たちがいる――。
「日本は世界第三の貧困大国」とされている。一時は「派遣村」に代表される貧困問題がニュースとなり、生活保護をめぐる議論が断続的に世間をにぎわしている。たしかに私たちの将来の見通しはなかなか立たない。だが、物質的に恵まれている日本で「貧しさ」を実感している人は、はたしてどれだけいるだろうか?
『絶対貧困』『遺体』などのベストセラーで知られるノンフィクション作家・石井光太は、これまで世界の最底辺を取材しつづけてきた。その経験をもとに、途上国の貧困を「絶対貧困」、先進国の貧困を「相対貧困」と定義し、あやふやな「貧困」の本質に迫ったのが本書である。
住居、労働、結婚、食事といった生活の隅々で、両者の実態を比較する。
第1章 住居――コミュニティー化するスラム、孤立化する生活保護世帯
第2章 路上生活――家族と暮らす路上生活者、切り離されるホームレス
第3章 教育――話し合う術をもたない社会、貧しさを自覚させられる社会
第4章 労働――危険だが希望のある生活、保障はあるが希望のない生活
第5章 結婚――子どもによって救われるか、破滅するか
第6章 犯罪――生きるための必要悪か、刑務所で人間らしく暮らすか
第7章 食事――階層化された食物、アルコールへの依存
第8章 病と死――コミュニティーによる弔い、行政による埋葬
世界とくらべて、日本の貧困にはどのような特徴があるのか。
たしかに日本では、貧困が社会のなかに溶け込んでいるため個々の事例としてしかとらえられず、大きな渦となって見えにくい。だが、それは裏を返せば、私たちのすぐ隣に貧困が潜み、だれもがそのふちに片足をかけていることを意味している。対岸の火事ではないはずだ。
そしてこのことは、社会学のような学問や理論では決して見えてこない。現場を隈なく歩きつづけ、世界と比較するからこそ知りえる光景が、目の前に広がっていた。
日本全体で約2,000万人、6人に1人が相対貧困であるという現実が厳然とある。
働けど働けど、なぜか幸せを実感できない私たち日本人。その答えを本書で解き明かそう。
「日本は世界第三の貧困大国」とされている。一時は「派遣村」に代表される貧困問題がニュースとなり、生活保護をめぐる議論が断続的に世間をにぎわしている。たしかに私たちの将来の見通しはなかなか立たない。だが、物質的に恵まれている日本で「貧しさ」を実感している人は、はたしてどれだけいるだろうか?
『絶対貧困』『遺体』などのベストセラーで知られるノンフィクション作家・石井光太は、これまで世界の最底辺を取材しつづけてきた。その経験をもとに、途上国の貧困を「絶対貧困」、先進国の貧困を「相対貧困」と定義し、あやふやな「貧困」の本質に迫ったのが本書である。
住居、労働、結婚、食事といった生活の隅々で、両者の実態を比較する。
第1章 住居――コミュニティー化するスラム、孤立化する生活保護世帯
第2章 路上生活――家族と暮らす路上生活者、切り離されるホームレス
第3章 教育――話し合う術をもたない社会、貧しさを自覚させられる社会
第4章 労働――危険だが希望のある生活、保障はあるが希望のない生活
第5章 結婚――子どもによって救われるか、破滅するか
第6章 犯罪――生きるための必要悪か、刑務所で人間らしく暮らすか
第7章 食事――階層化された食物、アルコールへの依存
第8章 病と死――コミュニティーによる弔い、行政による埋葬
世界とくらべて、日本の貧困にはどのような特徴があるのか。
たしかに日本では、貧困が社会のなかに溶け込んでいるため個々の事例としてしかとらえられず、大きな渦となって見えにくい。だが、それは裏を返せば、私たちのすぐ隣に貧困が潜み、だれもがそのふちに片足をかけていることを意味している。対岸の火事ではないはずだ。
そしてこのことは、社会学のような学問や理論では決して見えてこない。現場を隈なく歩きつづけ、世界と比較するからこそ知りえる光景が、目の前に広がっていた。
日本全体で約2,000万人、6人に1人が相対貧困であるという現実が厳然とある。
働けど働けど、なぜか幸せを実感できない私たち日本人。その答えを本書で解き明かそう。
- 本の長さ267ページ
- 言語日本語
- 出版社PHP研究所
- 発売日2014/4/15
- ISBN-104569816207
- ISBN-13978-4569816203
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商品の説明
著者について
作家
登録情報
- 出版社 : PHP研究所 (2014/4/15)
- 発売日 : 2014/4/15
- 言語 : 日本語
- 新書 : 267ページ
- ISBN-10 : 4569816207
- ISBN-13 : 978-4569816203
- Amazon 売れ筋ランキング: - 584,217位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2014年5月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書は「貧困」にスポットを当てたレポートです。
貧困を「絶対的貧困」と「相対的貧困」に分け、それぞれをテーマに沿ってその貧困度の中身をレポートしていきます。
ここでの貧困の比較はあくまで南アジアやアフリカなどの発展途上国と我が国「日本」であり そのほかの国は比較の中にほとんど入ってきません。したがい米国における貧困を取り扱った堤未果さんのルポなどとはかなり異なったものであり、淡々としたレポートが筆者の経験、発表された統計から明らかにされていきます。
上記の「貧困」区分の中での結論として一言でいうならば、コミュニティーとしての「貧困」、制度としての「貧困」の対比。 さらにそういったものに絡んでいく心の「貧困」が国の発展度によって異なるのだということでしょう。 とりもなおさずそれは「幸福度」にもつながるものかもしれません。
貧困を防ぐセーフティーネットとしての様々な制度があるにもかかわらず存在し、なおかつコミュニティーからも取り残される日本の「貧困」。 セーフティーネットがなくとも互助会としての機能を持つコミュニティーのある発展途上国の「貧困」。 危険であり、望ましいことではないのはどちらも同じですが、どちらが一体人間的なのでしょう。考え込まされます。
それなりの面白さで読むことができますが、読後の印象としては「まるで、大学生の卒論だなぁ」というもので、物足りなさを感じたのも事実です。
貧困を「絶対的貧困」と「相対的貧困」に分け、それぞれをテーマに沿ってその貧困度の中身をレポートしていきます。
ここでの貧困の比較はあくまで南アジアやアフリカなどの発展途上国と我が国「日本」であり そのほかの国は比較の中にほとんど入ってきません。したがい米国における貧困を取り扱った堤未果さんのルポなどとはかなり異なったものであり、淡々としたレポートが筆者の経験、発表された統計から明らかにされていきます。
上記の「貧困」区分の中での結論として一言でいうならば、コミュニティーとしての「貧困」、制度としての「貧困」の対比。 さらにそういったものに絡んでいく心の「貧困」が国の発展度によって異なるのだということでしょう。 とりもなおさずそれは「幸福度」にもつながるものかもしれません。
貧困を防ぐセーフティーネットとしての様々な制度があるにもかかわらず存在し、なおかつコミュニティーからも取り残される日本の「貧困」。 セーフティーネットがなくとも互助会としての機能を持つコミュニティーのある発展途上国の「貧困」。 危険であり、望ましいことではないのはどちらも同じですが、どちらが一体人間的なのでしょう。考え込まされます。
それなりの面白さで読むことができますが、読後の印象としては「まるで、大学生の卒論だなぁ」というもので、物足りなさを感じたのも事実です。
2014年10月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
比較の視点が明快でよい学びの機会を頂いた。世界社会論への礎となりうる作品です。
2014年7月31日に日本でレビュー済み
「可視化しにくい貧困」というものがあり、日本ではそれが問題になっていることを示す1冊。
「今にも餓死しそうなやせ細ったアフリカの子ども」の貧困は容易に想像できるが、「都営アパートで親子3人の餓死死体が発見される」日本の貧困は、当事者以外には理解が難しい。
筆者はこれまでの取材経験を元に、主として途上国のわかりやすい貧困を「絶対的貧困」、日本をはじめとする先進国の見えにくい貧困を「相対的貧困」として、両者を並列する形で解説していく。
特に日本の貧困については各種のデータを参照しており、「可視化」の意欲を感じる。
人間というのはコミュニティを必要とする生物なので、物理的には相当困難な状態にあっても、コミュニティ全体がそのような状態であれば、相当程度は耐えられる。
しかし、コミュニティから切り離されると、あっという間にどん底に落ち、生命の危険にもさらされるということが、本書に如実に示されている。
「絶対的」「相対的」ともに社会による支援が必要であるが、その方策についてももう少し具体的に触れて欲しかった。
「今にも餓死しそうなやせ細ったアフリカの子ども」の貧困は容易に想像できるが、「都営アパートで親子3人の餓死死体が発見される」日本の貧困は、当事者以外には理解が難しい。
筆者はこれまでの取材経験を元に、主として途上国のわかりやすい貧困を「絶対的貧困」、日本をはじめとする先進国の見えにくい貧困を「相対的貧困」として、両者を並列する形で解説していく。
特に日本の貧困については各種のデータを参照しており、「可視化」の意欲を感じる。
人間というのはコミュニティを必要とする生物なので、物理的には相当困難な状態にあっても、コミュニティ全体がそのような状態であれば、相当程度は耐えられる。
しかし、コミュニティから切り離されると、あっという間にどん底に落ち、生命の危険にもさらされるということが、本書に如実に示されている。
「絶対的」「相対的」ともに社会による支援が必要であるが、その方策についてももう少し具体的に触れて欲しかった。
2014年5月26日に日本でレビュー済み
日本の貧困と世界の貧困を比べることによって、具体的に何がどう違うのかを明らかにした良書だと思いました。
わたしたちは貧困といっても、ぐたいてきに日本の貧困が途上国の貧困と比べてどのようなものなのかということがわかりません。
「発展途上国にくらべれば、日本なんてマシじゃん」と思ってしまいがちです。しかし、実際のところ、世界の中で日本の貧困がどのような位置づけで、どのような特徴を持っているのかが非常にあいまいなんです。
著者が目指したのは、まさにそのぶぶんをはっきりとさせることです。
「住居」「「路上生活」「教育」「労働」「結婚」「犯罪」「食事」「病と死」という多くの視点から比較検討しているぶん、少々言葉足らずになってしまっているところもありますが、わたしには逆にその幅の広い視点と列挙される具体例こそが著者ならではのものだと思っていますし、世界の貧困の中で日本の貧困とは何なのかということを知る「入門書」としては最適だと思います。
余談ですが「比較貧困学」というのは著者がつくった造語だそうです。著者が新しい視点を生みだそうとしている気概が感じられます。世界や日本の貧困問題に関心のある若い方々にぜひ読んで頂きたい本で、テキストとしても有意義でしょう。
わたしたちは貧困といっても、ぐたいてきに日本の貧困が途上国の貧困と比べてどのようなものなのかということがわかりません。
「発展途上国にくらべれば、日本なんてマシじゃん」と思ってしまいがちです。しかし、実際のところ、世界の中で日本の貧困がどのような位置づけで、どのような特徴を持っているのかが非常にあいまいなんです。
著者が目指したのは、まさにそのぶぶんをはっきりとさせることです。
「住居」「「路上生活」「教育」「労働」「結婚」「犯罪」「食事」「病と死」という多くの視点から比較検討しているぶん、少々言葉足らずになってしまっているところもありますが、わたしには逆にその幅の広い視点と列挙される具体例こそが著者ならではのものだと思っていますし、世界の貧困の中で日本の貧困とは何なのかということを知る「入門書」としては最適だと思います。
余談ですが「比較貧困学」というのは著者がつくった造語だそうです。著者が新しい視点を生みだそうとしている気概が感じられます。世界や日本の貧困問題に関心のある若い方々にぜひ読んで頂きたい本で、テキストとしても有意義でしょう。
2015年1月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
一日1.25ドル以下で暮らす人の多い国の貧困と先進国といわれる日本の貧困の違いがよくわかった。海外にある絶対貧困だけでなく、国内の貧困に関する問題点にも目を向けていかなければと思わされた、。
2020年5月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
先進国の貧困を「相対貧困」、途上国の貧困を「絶対貧困」とし、いろいろな角度からその違いを解説します。
たまに統計データが出てくるくらいで、難しい話は一切出てこないのでとっつきやすいです。
たまに統計データが出てくるくらいで、難しい話は一切出てこないのでとっつきやすいです。