台湾系アメリカ人の著者は、ハーバード大学卒業後、同ロースクールに進学するまでの2年間、(アメリカで最も南部的な地域と言われる)ミシシッピ・デルタの教育困難校で教鞭を執る。パトリックはその時の教え子の中でも際だって成長を遂げた生徒だったが、著者が学校を去った後、ドロップアウトし、人を刺して死なせてしまう。著者は、いわば自分への宿題をやり遂げるために、就職を7か月先送りにして、南部に戻り、拘置所にいるパトリックと本を読みはじめる…。
読書の物語であり、学ぶことの物語であり、自らのアイデンティティへの自問の物語でもあり、米深南部の黒人の物語でもある。
本が人を育てることには私も確信を持っているけれど、それでも本書に描かれるパトリックの成長の速さは驚異的だ。逆に言えば、そのように優れた資質をもつ生徒ですら、貧困と差別は押し潰し、覆い隠してしまうということなのだろう。
情熱や愛情に裏付けられた著者の行動も驚くべきものだが、それでも(いや、それゆえにか)パトリックのように深く関われたのは彼1人だったのだなと思う。他にも「クラック漬けのホームレス」になった元生徒のように、彼女の支援があれば、もしかしたら違う人生を歩めたかもしれない人はいたのに。1人の人間が「変える」ことのできる人数には限りがある(MLKやフレデリック=ダグラスのような偉人を除けば)。
だからこそ、個人の努力や支援とは比べものにならないくらい強く、多くの人びとの人生/生活を規定してしまう、不平等で正義を欠く社会構造や不正義に、著者の怒りは向かうのだろう。
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パトリックと本を読む:絶望から立ち上がるための読書会 単行本(ソフトカバー) – 2020/5/8
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人生と社会のどん底から抜け出すための読書会
罪を犯したかつての教え子を救うために何ができるか。読書の喜びを通して、貧困からくる悪循環にあえぐ青年の心に寄り添った法律家の記録。
ハーバード大学を卒業した著者は、ロースクールへ進む前に、アメリカ南部の最貧地域の町で2年間、ボランティアの教師となることを決める。だが、劣悪な環境で育った黒人の生徒たちに読書を通じて学ぶ楽しさを教え、誇りを持たせたいという著者の理想は、最初からつまずく。読書以前に、生徒たちの読み書き能力は年齢よりはるかに劣っていたのだ。自治体に予算がなく人々に職のない小さな町で、生徒は将来を思い描けず、学校は生徒を罰することしか考えていない。それでも著者の奮闘の甲斐あって生徒たちは本に親しみはじめるが、当局の方針によって学校が廃校になってしまう。
ロースクールへ進んだ著者はある日、もっとも才能のあった教え子、パトリックが人を殺したという知らせを受ける。数年ぶりの彼は読み書きもおぼつかず、自分が犯した過ちに比べて重すぎる罪に問われていることが理解できていなかった。かつての聡明さを失った姿に衝撃を受けた著者は、拘置所を訪ねてともに本を読むことで、貧困からくる悪循環にあえぐ青年の心に寄り添おうとする。同時にそれは、ひとりの教師・法学生の自己発見と他者理解をめぐる、感動的な記録ともなった。
[目次]
序章
第一部
第1章 ア・レーズン・イン・ザ・サン
第2章 自由に書いてみる
第3章 次は火だ
第二部
第4章 イワン・イリイチの死
第三部
第5章 罪と罰
第6章 ライオンと魔女と衣装だんす
第7章 天の衣を求める
第8章 フレデリック・ダグラス自叙伝
第9章 有罪の答弁
第10章 晩春のポーラに
第四部
第11章 イースターの朝
参考文献
謝辞
訳者あとがき
罪を犯したかつての教え子を救うために何ができるか。読書の喜びを通して、貧困からくる悪循環にあえぐ青年の心に寄り添った法律家の記録。
ハーバード大学を卒業した著者は、ロースクールへ進む前に、アメリカ南部の最貧地域の町で2年間、ボランティアの教師となることを決める。だが、劣悪な環境で育った黒人の生徒たちに読書を通じて学ぶ楽しさを教え、誇りを持たせたいという著者の理想は、最初からつまずく。読書以前に、生徒たちの読み書き能力は年齢よりはるかに劣っていたのだ。自治体に予算がなく人々に職のない小さな町で、生徒は将来を思い描けず、学校は生徒を罰することしか考えていない。それでも著者の奮闘の甲斐あって生徒たちは本に親しみはじめるが、当局の方針によって学校が廃校になってしまう。
ロースクールへ進んだ著者はある日、もっとも才能のあった教え子、パトリックが人を殺したという知らせを受ける。数年ぶりの彼は読み書きもおぼつかず、自分が犯した過ちに比べて重すぎる罪に問われていることが理解できていなかった。かつての聡明さを失った姿に衝撃を受けた著者は、拘置所を訪ねてともに本を読むことで、貧困からくる悪循環にあえぐ青年の心に寄り添おうとする。同時にそれは、ひとりの教師・法学生の自己発見と他者理解をめぐる、感動的な記録ともなった。
[目次]
序章
第一部
第1章 ア・レーズン・イン・ザ・サン
第2章 自由に書いてみる
第3章 次は火だ
第二部
第4章 イワン・イリイチの死
第三部
第5章 罪と罰
第6章 ライオンと魔女と衣装だんす
第7章 天の衣を求める
第8章 フレデリック・ダグラス自叙伝
第9章 有罪の答弁
第10章 晩春のポーラに
第四部
第11章 イースターの朝
参考文献
謝辞
訳者あとがき
- 本の長さ393ページ
- 言語日本語
- 出版社白水社
- 発売日2020/5/8
- 寸法13.1 x 2.9 x 18.9 cm
- ISBN-104560097313
- ISBN-13978-4560097311
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商品の説明
著者について
ミシガン州生まれの台湾系アメリカ人。ハーバード大学卒業後、アーカンソー・デルタのオルタナティブ・スクールで二年間、英語を教える。ポール・アンド・デイジー・ソロス研究奨励金授与財団フェローとしてハーバード・ロースクールに進学、カリフォルニア州オークランドのNPOで移民のために法的支援の仕事につく。第九巡回区連邦控訴裁判所での法修習生の経験をへて、現在はアメリカン・ユニヴァーシティ・オブ・パリスで人種・移民問題や法律を教えている。本書が初の著作。
登録情報
- 出版社 : 白水社 (2020/5/8)
- 発売日 : 2020/5/8
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 393ページ
- ISBN-10 : 4560097313
- ISBN-13 : 978-4560097311
- 寸法 : 13.1 x 2.9 x 18.9 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 326,442位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 28,901位文芸作品
- - 51,376位ノンフィクション (本)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2020年6月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2020年7月4日に日本でレビュー済み
まず本の厚さに圧倒された。でも読み始めたらぐいぐいと引き込まれていって最後の方ではもっと続けばいいのにと思っていた。
まったく知らなかったアメリカの奴隷制度の歴史、日系アメリカ人の話、思いがけず出てきた俳句、外国の詩…情報量が多くて読み終えた今もまだボウっとしている。
パトリックが読書によって成長していく様子も感動的だが、著者が小さなことも見落とさず自分もまた違った角度からさまざまなことに気づいていき、読者の私たちにもストレートに問題定義してくれるところがいいなと思った。
パトリックの状況は過酷だが、二人が段階をおって読書による学びと対話を深めていく場面はとても新鮮で、こちらまでワクワクした。
画一的な学校の授業ではなくマンツーマンでレクチャーを受ける効果について考えさせられた。出会いということについても。
実際に貧困地区のデルタへ行き教職についたことはもちろんだが、きれいごとだけではなく現実をしっかり見つめてここまで書く作業は著者にとってもたいへんだったのではと思う。
真摯で行動力があり、なおかつあたたかい著者の人柄はあとがきにある交遊関係の記述からもよくわかる。
ご両親の描写にも親子の葛藤はあるものの優しさが感じられ、重いストーリーの中でお二人が登場するとほっとした。
著者の誕生日にイチゴのショートケーキを作ってくれるお兄さんもキュートでうらやましい。
近いうちにもう一度読み直したい、イェーツの詩も読んでみたいと思った。
まったく知らなかったアメリカの奴隷制度の歴史、日系アメリカ人の話、思いがけず出てきた俳句、外国の詩…情報量が多くて読み終えた今もまだボウっとしている。
パトリックが読書によって成長していく様子も感動的だが、著者が小さなことも見落とさず自分もまた違った角度からさまざまなことに気づいていき、読者の私たちにもストレートに問題定義してくれるところがいいなと思った。
パトリックの状況は過酷だが、二人が段階をおって読書による学びと対話を深めていく場面はとても新鮮で、こちらまでワクワクした。
画一的な学校の授業ではなくマンツーマンでレクチャーを受ける効果について考えさせられた。出会いということについても。
実際に貧困地区のデルタへ行き教職についたことはもちろんだが、きれいごとだけではなく現実をしっかり見つめてここまで書く作業は著者にとってもたいへんだったのではと思う。
真摯で行動力があり、なおかつあたたかい著者の人柄はあとがきにある交遊関係の記述からもよくわかる。
ご両親の描写にも親子の葛藤はあるものの優しさが感じられ、重いストーリーの中でお二人が登場するとほっとした。
著者の誕生日にイチゴのショートケーキを作ってくれるお兄さんもキュートでうらやましい。
近いうちにもう一度読み直したい、イェーツの詩も読んでみたいと思った。
2021年2月3日に日本でレビュー済み
台湾系アメリカ人女性である著者と、かつての教え子である黒人青年と、の人としての尊厳を取り戻すための二人きりの読書会を記録したノンフィクション。
この本の著書は、台湾系移民二世のアメリカ人女性だ。多くのアジア系移民の子がそうであるように教育熱心や両親に育てられ、ハーバードを出て弁護士となったエリートだ。
その一方で、著者は読者の喜びを知る読書家であり、キング牧師やマルコムX、ボールドウィンなどの黒人解放運動のヒーローに心酔する活動的なリベラルである。
著者は、22歳のときに最貧地域の学校に講師を派遣するプログラムに参加し、アメリカ南部の極貧の地、ミシシッピ・デルタのヘレナへ訪れる。
デルタは初期のブラック・パワー・ムーブメントの本拠地であったが、今ではすっかりその火は消えた地だ。
そこで著者は、問題のある生徒が最終的に放り込まれる学校に赴任する。ここをドロップアウトしたらもう行き場はなく、その後は犯罪に手を染める可能性が高くなる。そんな学校だ。
そこで著者は奮闘しながらも、これまで本など読まなかった生徒たちに読書に興味を持たせることに成功する。これには詩などの短い文から始めるのが有効だった。
なかでもパトリックという男子生徒には、目をみはる文章の才能があった。パトリックは、サボりがちだが思慮深い性格で、自分からケンカをふっかけるようなことはしない生徒だった。出会ったときは15歳で、ヘレナのなかでも特に治安の悪いゲットー中のゲットーに住んでいた。著者はパトリックを気にかけ、パトリックも著者に心を許していた。
やがてその学校の廃校が決まり、著者もロースクールに進学するためにヘレナを離れることになる。
そして、弁護士となり就職が決まりかけた著者に信じがたい知らせが届く。
あのパトリックが人を殺して拘置所にいるというのだ。
その後、著者はパトリックに面会する。
20歳となったパトリックは、読み書きもろくに出来ない状態になっていた。
著者は、かつての輝きを失ってしまったパトリックに衝撃を受ける。
そして、パトリックの裁判まで半年ほどヘレナに滞在することを決意する。
そこから二人きりの読書会が始まる。
著者は、素直だが基本的にだらしないところもあるパトリックに何度か失望しかけるが、根気強く「宿題」を出す。
パトリックは、次第に読書の喜びを取り戻し、最終的には、ボールドウィンの評伝を読破したり、自分の思いを文章で表現できるまでに成長する。
結局、軽めの刑期であるもののパトリックの有罪は確定する。前科がついたため出所後も苦労することになるだろう。パトリックは結局、取り返しのつかない過ちに囚われ続けるのかも知れない。貧困から抜け出すのはかなり難しいと思われ、生活に追われてまた読書から離れるかも知れない。
でも、この本を読んだ読書家は、この読書会が無意味だったとは決して思わないだろう。
読書を通して、自分の意識を抜け出し今この場所から離れた静かな場所で内省することの価値や、いつでもその静かな場所に帰れるのを知っていることの価値は何にも替え難い。それを読書の喜びを知る者は理解できるからだ。
そんな読書の喜びに溢れた本だったと思う。
更生の手段として読書を用いた本は、例えば『プリズン・ブック・クラブ』など他にもある。今ではほとんどの学校で行われている「朝読」も元々は荒れに荒れた女子校で、生徒を落ち着かせることを目的に始まった。
この本は、読書による更生の物語に加え、アメリカのマイノリティの問題に向き合う物語でもある。デルタの惨状は、日本人が普通にイメージできる南北格差問題の範疇を超えている。また、あまり語られることのないアジア系移民の悩みを知ることができる本でもあった。
この本の著書は、台湾系移民二世のアメリカ人女性だ。多くのアジア系移民の子がそうであるように教育熱心や両親に育てられ、ハーバードを出て弁護士となったエリートだ。
その一方で、著者は読者の喜びを知る読書家であり、キング牧師やマルコムX、ボールドウィンなどの黒人解放運動のヒーローに心酔する活動的なリベラルである。
著者は、22歳のときに最貧地域の学校に講師を派遣するプログラムに参加し、アメリカ南部の極貧の地、ミシシッピ・デルタのヘレナへ訪れる。
デルタは初期のブラック・パワー・ムーブメントの本拠地であったが、今ではすっかりその火は消えた地だ。
そこで著者は、問題のある生徒が最終的に放り込まれる学校に赴任する。ここをドロップアウトしたらもう行き場はなく、その後は犯罪に手を染める可能性が高くなる。そんな学校だ。
そこで著者は奮闘しながらも、これまで本など読まなかった生徒たちに読書に興味を持たせることに成功する。これには詩などの短い文から始めるのが有効だった。
なかでもパトリックという男子生徒には、目をみはる文章の才能があった。パトリックは、サボりがちだが思慮深い性格で、自分からケンカをふっかけるようなことはしない生徒だった。出会ったときは15歳で、ヘレナのなかでも特に治安の悪いゲットー中のゲットーに住んでいた。著者はパトリックを気にかけ、パトリックも著者に心を許していた。
やがてその学校の廃校が決まり、著者もロースクールに進学するためにヘレナを離れることになる。
そして、弁護士となり就職が決まりかけた著者に信じがたい知らせが届く。
あのパトリックが人を殺して拘置所にいるというのだ。
その後、著者はパトリックに面会する。
20歳となったパトリックは、読み書きもろくに出来ない状態になっていた。
著者は、かつての輝きを失ってしまったパトリックに衝撃を受ける。
そして、パトリックの裁判まで半年ほどヘレナに滞在することを決意する。
そこから二人きりの読書会が始まる。
著者は、素直だが基本的にだらしないところもあるパトリックに何度か失望しかけるが、根気強く「宿題」を出す。
パトリックは、次第に読書の喜びを取り戻し、最終的には、ボールドウィンの評伝を読破したり、自分の思いを文章で表現できるまでに成長する。
結局、軽めの刑期であるもののパトリックの有罪は確定する。前科がついたため出所後も苦労することになるだろう。パトリックは結局、取り返しのつかない過ちに囚われ続けるのかも知れない。貧困から抜け出すのはかなり難しいと思われ、生活に追われてまた読書から離れるかも知れない。
でも、この本を読んだ読書家は、この読書会が無意味だったとは決して思わないだろう。
読書を通して、自分の意識を抜け出し今この場所から離れた静かな場所で内省することの価値や、いつでもその静かな場所に帰れるのを知っていることの価値は何にも替え難い。それを読書の喜びを知る者は理解できるからだ。
そんな読書の喜びに溢れた本だったと思う。
更生の手段として読書を用いた本は、例えば『プリズン・ブック・クラブ』など他にもある。今ではほとんどの学校で行われている「朝読」も元々は荒れに荒れた女子校で、生徒を落ち着かせることを目的に始まった。
この本は、読書による更生の物語に加え、アメリカのマイノリティの問題に向き合う物語でもある。デルタの惨状は、日本人が普通にイメージできる南北格差問題の範疇を超えている。また、あまり語られることのないアジア系移民の悩みを知ることができる本でもあった。
2020年5月25日に日本でレビュー済み
読書は何のためにするのか。読書は役に立つのか。こういった問いかけは少なくない。
本書は、著者が読書を通じて、多くの教え子たちに意欲を持たせたこと、その中で最も才能を示していたパトリックが、犯罪を犯したことで一度は失った聡明さを取り戻す過程を描いている。
著者は台湾系アメリカ人。両親の期待を背負いハーバード大学に進学したものの、ロースクールに進学するのを保留し、貧困地域であるヘレナの底辺校で2年間の教職に就く。
全体は3部に分かれており、第1部が底辺校での日々とそこを去るまで、第2部はロースクールで卒業が近づいたころにパトリックが殺人を犯したことを知り、再びヘレナに戻る決心をするまで、第3部はパトリックとの面会の日々、そのなかで本を通じての交流などである。
「訳者あとがき」に書かれているが、映画のようなシーンがいくつもあるし、全体としても映画やドラマのように感じられるが、著者の実体験だ。教え子たちのやる気を引き出したこと、読書を通じてパトリックを立ち直らせたこと、どちらも感動的である。なかでも、ロースクール卒業後、危機的状況にある多くの人びとのために働くことを決意したものの、それを先延ばしにして、パトリックのためにヘレナに戻ることを選択したのは、卒業までいると言ったのに両親の反発に負けてロースクールに進学してしまった後ろめたさがあったのかもしれないが、それでも胸を打つ。
パトリックのように才能ある人を蝕む貧困と無知による悪循環には怒りを覚えるが、それでも著者のような人がいることに救いを覚える。他人の人生を変えることは難しいし、できたとしても怖い部分もある。しかし、そこに勇気をもって踏み出した著者、それに応えたパトリックが見出したものは、とても尊いものではないだろう。
本書は、著者が読書を通じて、多くの教え子たちに意欲を持たせたこと、その中で最も才能を示していたパトリックが、犯罪を犯したことで一度は失った聡明さを取り戻す過程を描いている。
著者は台湾系アメリカ人。両親の期待を背負いハーバード大学に進学したものの、ロースクールに進学するのを保留し、貧困地域であるヘレナの底辺校で2年間の教職に就く。
全体は3部に分かれており、第1部が底辺校での日々とそこを去るまで、第2部はロースクールで卒業が近づいたころにパトリックが殺人を犯したことを知り、再びヘレナに戻る決心をするまで、第3部はパトリックとの面会の日々、そのなかで本を通じての交流などである。
「訳者あとがき」に書かれているが、映画のようなシーンがいくつもあるし、全体としても映画やドラマのように感じられるが、著者の実体験だ。教え子たちのやる気を引き出したこと、読書を通じてパトリックを立ち直らせたこと、どちらも感動的である。なかでも、ロースクール卒業後、危機的状況にある多くの人びとのために働くことを決意したものの、それを先延ばしにして、パトリックのためにヘレナに戻ることを選択したのは、卒業までいると言ったのに両親の反発に負けてロースクールに進学してしまった後ろめたさがあったのかもしれないが、それでも胸を打つ。
パトリックのように才能ある人を蝕む貧困と無知による悪循環には怒りを覚えるが、それでも著者のような人がいることに救いを覚える。他人の人生を変えることは難しいし、できたとしても怖い部分もある。しかし、そこに勇気をもって踏み出した著者、それに応えたパトリックが見出したものは、とても尊いものではないだろう。
2022年4月22日に日本でレビュー済み
アフリカ系アメリカ人や白人たちの渦巻くアメリカという国の悲劇とエネルギーの混沌。そのどちらからも外れた存在のアジア系アメリカ人である著者が心のなかの魂の声を頼りにひとりの人間としてともに紡ごうとする未来。〝読書〟はやがてお互いの生きる糧になり力と希望になるはずと、願いを込めずにはいられない。社会で与えられてしまった運命がどんなに重くて残酷でも、諦めないで、内なる叫びに耳を傾けて動いて生き続けよう。そう、しみじみ実感する本当の物語です。久しぶりにこのような本に出会えて、感謝。
2020年5月31日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
"『私が本を読むのが好きな理由、わかる?それはね、本がかっこつけてないから』生徒たちが耳を傾けている。これは効いている。『本を読むと、人の心の声が聞こえてきます』私は続ける。『とんでもないことをしたりする人でも、その人がどう感じているのかわかる。その人の心の中で起きていることが理解できるようになる』2020年発刊の本書は【読書を通じた対話や学び】が魅力的に描かれた一冊。
個人的には読書会の主宰もしていることから『絶望から立ち上がるための読書会』というサブタイトルにひかれて本書を手にとりました。(結果として複数で輪になって感想を述べあう。いわゆる【私がイメージした読書会】は本書にはでてきませんが)
さて、そんな本書は台湾系アメリカ人女性である著者がハーバード大学を卒業後、理想に燃えてミシシッピ川畔のさびれた町ヘレナ、貧困地域の黒人ばかりの底辺校で【読書を通して文学や歴史を教えよう】と奮闘、工夫を重ねて生徒たちと信頼関係を築くのに成功するも、著者がさらなるキャリアアップを求めてハーバード・ロースクールに行くために学校を離れた途端にバラバラになってしまい、中でも、もっともお気に入りで優秀な生徒であったパトリックは犯罪を起こして収監されてしまうわけですが。
最初に印象に残ったのは、いわゆる【社会問題や人権問題に意識の高いエリート】である著者のしかし飾らず、また挫折や失敗にめげずに生徒たちに教師の時はもちろん、元教師になっても【対等に向き合おうとする姿】でしょうか。そして向き合い【立場が違っても共有できるものとして】著者は常に『読書』を選択していくわけですが。その結果おきる教え子たちの劇的な変化の様子は映像的な美しさすらあって感動的です。
また、著者自身は移民二世としてアメリカ人として
の自覚をもっているものの、そんな事には関係なく無遠慮に自分に向けられるアジア人差別、またアメリカの歴史には白人と黒人の話ばかりで【アジア人が存在しない】とマイノリティさを感じたことから、かっての黒人人権運動の指導者達、キング牧師やマルコムXといった人物に心境を重ねていくのが、想像するしかできなくも新鮮に感じました。
読書を通した『何かしらの学び』に関わっている誰か。あるいはアメリカ人エリート学生のキャリア選択に対する考え方に興味ある方にもオススメ。
個人的には読書会の主宰もしていることから『絶望から立ち上がるための読書会』というサブタイトルにひかれて本書を手にとりました。(結果として複数で輪になって感想を述べあう。いわゆる【私がイメージした読書会】は本書にはでてきませんが)
さて、そんな本書は台湾系アメリカ人女性である著者がハーバード大学を卒業後、理想に燃えてミシシッピ川畔のさびれた町ヘレナ、貧困地域の黒人ばかりの底辺校で【読書を通して文学や歴史を教えよう】と奮闘、工夫を重ねて生徒たちと信頼関係を築くのに成功するも、著者がさらなるキャリアアップを求めてハーバード・ロースクールに行くために学校を離れた途端にバラバラになってしまい、中でも、もっともお気に入りで優秀な生徒であったパトリックは犯罪を起こして収監されてしまうわけですが。
最初に印象に残ったのは、いわゆる【社会問題や人権問題に意識の高いエリート】である著者のしかし飾らず、また挫折や失敗にめげずに生徒たちに教師の時はもちろん、元教師になっても【対等に向き合おうとする姿】でしょうか。そして向き合い【立場が違っても共有できるものとして】著者は常に『読書』を選択していくわけですが。その結果おきる教え子たちの劇的な変化の様子は映像的な美しさすらあって感動的です。
また、著者自身は移民二世としてアメリカ人として
の自覚をもっているものの、そんな事には関係なく無遠慮に自分に向けられるアジア人差別、またアメリカの歴史には白人と黒人の話ばかりで【アジア人が存在しない】とマイノリティさを感じたことから、かっての黒人人権運動の指導者達、キング牧師やマルコムXといった人物に心境を重ねていくのが、想像するしかできなくも新鮮に感じました。
読書を通した『何かしらの学び』に関わっている誰か。あるいはアメリカ人エリート学生のキャリア選択に対する考え方に興味ある方にもオススメ。