カフカの長編は「失踪者」「審判」「城」といずれも未完のまま、カフカの死後に出版されましたが「城」に関してはこの未完という形が完成型なのではないかと思います。
どこまで行ってもたどり着くことはできない。
村に及ぼす「城の力」について、オルガが語る場面が象徴的です。
オルガの妹アマーリアが、彼女の美しさに心惹かれた城の役人からの呼び出しを拒否したことから始まったオルガ一家の不幸。
城から告発があったわけでなく、何ら許してもらうこともないにもかかわらず、村は自分たち家族を許さないと受け取り、それがためによけいに村から拒否される。意味もなく人々は不安がり、誰もがそうするしかなかったと受け入れている。
一見意味もなく吹きつのっているようで、遠くの見知らぬところから送られてくる。
そんな風のようにすべてに「城の力」が働いているというオルガ。
いったん方向が間違うと、組織は間違った道を突き進み、そちらに行ったまま時がたっていく。
柔軟な対応ができない組織の象徴が「城」なのか。
外部から村にやってきたKは、冗談とも役所の気まぐれともつかないことに、どうして従わねばならないのかとの態度で、村人からすれば異端児である。
しかしながら、測量士と名乗っているK自身、本当に測量士なのかどうかも実は明らかではないことから、物語の行く先は混迷を極める。
「城」は「失踪者」や「審判」と比べ、まさに一筋縄ではいかない物語である。
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城 (白水Uブックス 155 カフカ・コレクション) 新書 – 2006/6/1
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- 本の長さ460ページ
- 言語日本語
- 出版社白水社
- 発売日2006/6/1
- ISBN-104560071551
- ISBN-13978-4560071557
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出版社からのコメント
~ ある冬の夜ふけ、Kが村にやってくる。この村は城に属する村だった。測量士として城から雇われたはずのKは、しかしながらいつまでたっても村に留め置かれ、城からの呼び出しはなかった。
城はかなたにくっきりと見えていた。しかし、近づいても近づいても城にはたどりつくことはできない。この城はいったい何なのか。城という謎の存在を前にして、Kの~~疑問は深まる。
そして、雪にとざされたこの村を支配する城と向き合って、一見喜劇的とも言えるKの奇妙な日常がはじまる。
『失踪者』『審判』につづく「孤独の三部作」の掉尾を飾る作品。カフカ畢生の大作。~
城はかなたにくっきりと見えていた。しかし、近づいても近づいても城にはたどりつくことはできない。この城はいったい何なのか。城という謎の存在を前にして、Kの~~疑問は深まる。
そして、雪にとざされたこの村を支配する城と向き合って、一見喜劇的とも言えるKの奇妙な日常がはじまる。
『失踪者』『審判』につづく「孤独の三部作」の掉尾を飾る作品。カフカ畢生の大作。~
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2014年12月7日に日本でレビュー済み
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2015年10月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
登場人物がそれぞれの立場からよくしゃべる。対話形式を借りて、まるで語り手になったように、何かに付け理由を探し、ときに話が長くなると自問自答しながら、あるいは自己を開示する喜びを見出すように、話し、語り、説明し、そしてそれが精神的な戦いや、共感の達成ともなる。また、ひとつの出来事や人物評に対して、ちがう登場人物に語られることによって多様な見方や価値観を提示して物事の不確定さをあらわにするという効果もあるようだ。つまり、このおしゃべりこそ、小説『城』を特徴づけるカフカの意識的な手法なのだろう。
話し手の長い話に巻き込まれると、読者であるわたしは、独特な言い回しや省略した言葉の意図を、読んでいてすぐに理解できなかったりする場合がある。しかしそれは現実のわれわれの会話のなかでも起こることであり、先を読み進みながら、ときに引き返しながら話の意図をつかまなければいけない。したがって、ある程度の忍耐や寛容さを読者は要求されると思う。文庫本で読んでいたら最後まで読まずに放棄していたかもしれない(とくにオルガ一家の不幸をたどる長い話の途中で)。きれいな単行本だったので最後まで読めたと言ってよい。最後といっても、未完なので読後は物足りなさも残る。仕事の途中で読んだりしていたので、また後でじっくり読み返すこともあるだろう。カフカは興味深い作家なので、同じ全集で次は『失踪者』を読んでみよう。
話し手の長い話に巻き込まれると、読者であるわたしは、独特な言い回しや省略した言葉の意図を、読んでいてすぐに理解できなかったりする場合がある。しかしそれは現実のわれわれの会話のなかでも起こることであり、先を読み進みながら、ときに引き返しながら話の意図をつかまなければいけない。したがって、ある程度の忍耐や寛容さを読者は要求されると思う。文庫本で読んでいたら最後まで読まずに放棄していたかもしれない(とくにオルガ一家の不幸をたどる長い話の途中で)。きれいな単行本だったので最後まで読めたと言ってよい。最後といっても、未完なので読後は物足りなさも残る。仕事の途中で読んだりしていたので、また後でじっくり読み返すこともあるだろう。カフカは興味深い作家なので、同じ全集で次は『失踪者』を読んでみよう。
2014年10月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
城の未完成性にはもっと面白い。
_1_到着、もすでに
池内紀は部分の斜線も買い替えさせた。もちろん
16_残されたKは、、
21_とうとう起きてしまった、、
22_なにげなく辺りを、、
23_このときようやく、、
24_もしエアランガーが、、
25_目を覚ましたとき、、
_1_到着、もすでに
池内紀は部分の斜線も買い替えさせた。もちろん
16_残されたKは、、
21_とうとう起きてしまった、、
22_なにげなく辺りを、、
23_このときようやく、、
24_もしエアランガーが、、
25_目を覚ましたとき、、
2019年3月28日に日本でレビュー済み
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カフカは短編も面白いが、やはり『城』が最高傑作だろう。6冊のノートが残された未完の作品で、新編集の全集にもとづく本訳は、従来の原田義人訳とは、章の区切りや、最後の終わり方などが違う。そして何と言っても、池内紀訳は、日本語のキレがとてもいい。カフカの小説は、その内容のユニークさが強調されることが多い。それはそうなのだが、しかしカフカの魅力は、その際立った文章表現の卓越性にあることもたしかである。たとえば、フロベールは、「文体の力だけから作品を生み出す」作家と言われる。フロベールはある書簡でこう語っていた、「私が美しいと感じるもの、私が作り上げたいと思っているのは、なにについて書かれたわけでもない本、外部との繋がりを持たず、地球がなににも支えられずに宙に浮いているように、内部にみなぎる文体の力のみによって支えられているような本です」。カフカにもまたこのような側面がある。『城』には、これ以上の言語表現はありえないだろうと思わせる箇所がいくつもある。たとえば、主人公のKが、フリーダに一目惚れしてしまうシーンの記述はこうである。「フリーダという若い娘がビールを注いでいた。見ばえのしない、小柄な、ブロンドの髪で、さびしげな表情を浮かべ、頬がこけていた。だが、眼差しがちがっていた。並外れて優れたところのある眼差しだった。その目に見つめられたとき、Kはすぐさま、自分がかかわっている問題が解決されたような気がした。そもそもそんな問題があるとは夢にも思わなかったが、それがたしかにあることを、娘の目が教えていた」(p63f)。かくも魅力的な目がこの世に存在しうること、それを我々は、カフカのこの記述によって初めて教えられる。言葉はまさに、存在を立ち現わせる奇跡である。
2022年10月15日に日本でレビュー済み
途中でぶん投げたくなるのを何度もこらえこらえ、読破に4か月以上かかりました。難しくても面白い作品は読めるのですが、こちらは…読書がもともと苦手なのでつらかったです。
性格があまり良いとは思えない主人公Kと、負けずに性格の良くないフリーダの恋物語といったところでしょうか?バルナバス家の若い娘が、言い寄ってきた役人を袖にしたくらいの事を、村じゅうに触れ回って孤立させようなんてどれだけ性格が悪いんでしょう?話の中では仕事のできる、Kにかいがいしくふるまういい女風に描かれていますが、本当に嫌な女です。ぺーピーの方がよほどいいです。
変身はおもしろかったのに同じ作家でこんなにちがうのですね。この話に面白さを見いだせる感受性のある人達には脱帽です。
性格があまり良いとは思えない主人公Kと、負けずに性格の良くないフリーダの恋物語といったところでしょうか?バルナバス家の若い娘が、言い寄ってきた役人を袖にしたくらいの事を、村じゅうに触れ回って孤立させようなんてどれだけ性格が悪いんでしょう?話の中では仕事のできる、Kにかいがいしくふるまういい女風に描かれていますが、本当に嫌な女です。ぺーピーの方がよほどいいです。
変身はおもしろかったのに同じ作家でこんなにちがうのですね。この話に面白さを見いだせる感受性のある人達には脱帽です。
2021年9月23日に日本でレビュー済み
いつ、どのような経験の中でその小説に自分が接したかにより、その小説がグサッと胸につき刺さるように自分の人生に影響を与えることがあります。自己の経験と小説の物語とが溶け合い、あたかも一つになり何が現実だか真実だかわかなくなるという「危ない」経験です。真実は何も現実の中にあるとは限らない。私にとってそれは、20歳を過ぎてすぐ、海外の仕事に出た中近東のイラクでの体験であり、その時、感動して夢中で読んだ小説はカフカの「城」なのでした。
当時、1980年代半ばのイラクと言えばあのサダムフセインのバース党独裁政権の全盛期で、治安はかえって安定してました。私の方は20を越したばかりの青二才で、世間をまだ何も知りません。ただただ新しい環境に自分を置いて、その日本とは全く異なるアラブ・イスラム文化を理解し、イラクに真の友だちを
つくろうという純粋な気持ちを持って、中近東イラクの仕事に挑んだのでした。もちろん第一の目的は
お金を貯めることでした。
千夜一夜物語、シンドバッドの冒険で知られる幻想的で魅惑的なバクダット。しかし、独裁ファシズムの現実の世界のバクダッドの街には私服警察が多くいるので気をつけろと先輩にしょっぱなから言われます。イラク企業だけでなく、ちょとした外国企業の従業員の中にもだれかが秘密警察で日系企業も然りでした。街を歩いていても秘密警察があちこちにいると言われます。我がプロジェクト事務所でも時々運転手が突然消えます。しばらくすると大きなあざをつくって帰ってくるのでした。夜の酒場で酔っ払った
勢いでサダムフセインの陰口でも叩いたのか、理由があって秘密警察に捕まり牢屋に入れられ、拷問を
受けていたのでした。ですからイラク人の従業員と申しても、表面上のことはともかくなかなか腹を割ってのはなしなどできないのでした。日々ともに仕事をする仲であっても、めったなことはお互いにしゃべれない。どこか打ち解けない関係が延々と続くのです。良心的なクラークのおじさんなどは、その制約の中で自分の誠意を賢明に表そうとしてました。それが痛いほど理解できた私はなんとも「せつない」気持ちにさせられました。これが独裁国の社会なのだとつくづく思いました。
そんな時に前任者の一人が残していった文庫本の中にカフカの「城」があったのでした。相手について
まったく知らない警戒し合っている者同士の間でのどうしようもなくうまくいかなないコミュニケーション、その中で広がる不安や疑惑、虚言と駆け引き、警戒と恐怖といったものを我がこととして切実に
感じ、20を過ぎたばかりの私は、このカフカの「城」を貪るように読みました。どこまでいっても先が
見えない物語を追っていくと、そこにこそ真実があるのだと納得しました。そして、イラク人の真の友人を何年たってもつくれない現実の私のイラクでの生活のさまにそれは直結しました。あきらめの悪い私は、誰も残りたがらない中近東の海外プロジェクトに、真の人間関係を築こうと、最後の最後まで立ち会いました。Final Acceptance Certificateというブロジェクト最終承認書の取得やRetentionという、日本円で億単位の契約金の最終5%の取得の仕事に従事しました。Retentionというこの最終まで保留にされた額の受領には社会保険局や税務所他様々な役所から、私が携わったプロジェクトが関係した未処理の案件がもうないという証明書をもらわねばならず、一つのステップ処理のためにある役所を訪ねると、別の
三つの要求をされ帰ってくるというようなことはザラで、そのために別の部署をいくつもたらいまわしにされるのでした。「城」のごとく露骨なお役所仕事です。仕事が一向に捗(はかど)らないフラストレーションの溜まった一日を終えた夜など私はもう精魂尽き果て、自分の神経がやられる寸前になりました。そんな時私はカフカの思いに深くまで入りこむがごとく「城」を貪り読み、そのことにより微(かす)かに癒され、神経がまいるのを免れたのでした。
またイラクには異端キリスト教のアッシリア人が少数います。イラクはもちろんイスラム教国ですが洗練されたイスラム世界の中心国ではないので、割と自由で酒も飲めます。シャヘラザードという千夜一夜物語のお姫様の名を取ったビールもあるくらいです。イラク女性はニカーブという黒い布で体全体を覆って目だけ見せてるなどということもごくまれです。ところが、歴史的にイスラムより虐げられてきた少数民族のアッシリア人社会は、もの凄く閉鎖的でした。常住のホテルの受付のアッシリアの女性と親しくなり、ある年クリスマス・パーティーに呼ばれたことがありました。このホテルの従業員もほとんどが
アッシリア人です。彼女は小柄ながら千夜一夜物語に登場するお姫様のように、愛らしく、美しく、そしてたれ目ぎみの、常に潤んだ流れるような瞳がとても魅力的な女性でした。クリスマス・パーティーの会場はホテルのレストランの貸切(かしきり)です。皆楽しそうでした。私もビールを少し飲んで皆の楽しんでいる様子を眺めていました。そして、アッシリアの伝統的なフォークダンスの段になったので、若い私は思い切ってきれいに着飾ったその彼女の前に行き、一緒にダンスを踊りましょうと丁寧にお願いしたのです。さあそれからがたいへんです。「若い日本人の酔っ払いがいる」という騒ぎになり、私は2-3人のホテルの男性従業員にがんじがらめにされて、レストランの外に無理やり追い出されました。私はまったく酔っぱらってなどいません。しきたりとしてだめであれば、そう言ってくれれば私も無理強いはしません。一方的に酔っ払い扱いされ自室に戻った私は、ベッドに臥せりながら、くやしくてたまりませんでした。そして、またカフカの「城」のフリーダとKとの会話のやり取りの部分を読むのでした。翌日、ホテルの従業員たちは、昨日のことはなかったように、笑顔で私にGood morningと白々しく挨拶するのでした。その後も、この彼女には無駄な努力とわかりながらも、日本に一時帰国するたびに、たくさんの土産を買ってきました。その品々を渡す時はホテル内ではできず、所定の場所で渡すのですが、厳しい顔つきの彼女の母が、かならずついてきたものです。
最近、長く再読してなかったカフカの「城」を久々に手に取りページをめくりました。20代前半からの
イラクでの様々なことが、「城」を読み進めれば進めるほど思い出され、なつかしさとほろにがさで胸がいっぱいになりました。やはり「せつなさ」が積もるばかりですが、決して感傷的なものではありません。カフカの小説は普遍的です。あたかもカフカは、起承転結では真実に至らないと訴えているようにさえ思えるのです。だから未完という作品の捉え方もどうかなと思います。この世界が大きく変わるという予感が高まり、次元さえ変わりかねぬ現代の世の中で、カフカの伝える、常識を突き破る普遍の真実が、改めて見直される時代がくるのではないかと密かに思っています。真実の普遍性とは、むしろ、「城」のような異常な状況の中でこそ浮き彫りになります。カフカは私が最も好きな小説家の一人です。
当時、1980年代半ばのイラクと言えばあのサダムフセインのバース党独裁政権の全盛期で、治安はかえって安定してました。私の方は20を越したばかりの青二才で、世間をまだ何も知りません。ただただ新しい環境に自分を置いて、その日本とは全く異なるアラブ・イスラム文化を理解し、イラクに真の友だちを
つくろうという純粋な気持ちを持って、中近東イラクの仕事に挑んだのでした。もちろん第一の目的は
お金を貯めることでした。
千夜一夜物語、シンドバッドの冒険で知られる幻想的で魅惑的なバクダット。しかし、独裁ファシズムの現実の世界のバクダッドの街には私服警察が多くいるので気をつけろと先輩にしょっぱなから言われます。イラク企業だけでなく、ちょとした外国企業の従業員の中にもだれかが秘密警察で日系企業も然りでした。街を歩いていても秘密警察があちこちにいると言われます。我がプロジェクト事務所でも時々運転手が突然消えます。しばらくすると大きなあざをつくって帰ってくるのでした。夜の酒場で酔っ払った
勢いでサダムフセインの陰口でも叩いたのか、理由があって秘密警察に捕まり牢屋に入れられ、拷問を
受けていたのでした。ですからイラク人の従業員と申しても、表面上のことはともかくなかなか腹を割ってのはなしなどできないのでした。日々ともに仕事をする仲であっても、めったなことはお互いにしゃべれない。どこか打ち解けない関係が延々と続くのです。良心的なクラークのおじさんなどは、その制約の中で自分の誠意を賢明に表そうとしてました。それが痛いほど理解できた私はなんとも「せつない」気持ちにさせられました。これが独裁国の社会なのだとつくづく思いました。
そんな時に前任者の一人が残していった文庫本の中にカフカの「城」があったのでした。相手について
まったく知らない警戒し合っている者同士の間でのどうしようもなくうまくいかなないコミュニケーション、その中で広がる不安や疑惑、虚言と駆け引き、警戒と恐怖といったものを我がこととして切実に
感じ、20を過ぎたばかりの私は、このカフカの「城」を貪るように読みました。どこまでいっても先が
見えない物語を追っていくと、そこにこそ真実があるのだと納得しました。そして、イラク人の真の友人を何年たってもつくれない現実の私のイラクでの生活のさまにそれは直結しました。あきらめの悪い私は、誰も残りたがらない中近東の海外プロジェクトに、真の人間関係を築こうと、最後の最後まで立ち会いました。Final Acceptance Certificateというブロジェクト最終承認書の取得やRetentionという、日本円で億単位の契約金の最終5%の取得の仕事に従事しました。Retentionというこの最終まで保留にされた額の受領には社会保険局や税務所他様々な役所から、私が携わったプロジェクトが関係した未処理の案件がもうないという証明書をもらわねばならず、一つのステップ処理のためにある役所を訪ねると、別の
三つの要求をされ帰ってくるというようなことはザラで、そのために別の部署をいくつもたらいまわしにされるのでした。「城」のごとく露骨なお役所仕事です。仕事が一向に捗(はかど)らないフラストレーションの溜まった一日を終えた夜など私はもう精魂尽き果て、自分の神経がやられる寸前になりました。そんな時私はカフカの思いに深くまで入りこむがごとく「城」を貪り読み、そのことにより微(かす)かに癒され、神経がまいるのを免れたのでした。
またイラクには異端キリスト教のアッシリア人が少数います。イラクはもちろんイスラム教国ですが洗練されたイスラム世界の中心国ではないので、割と自由で酒も飲めます。シャヘラザードという千夜一夜物語のお姫様の名を取ったビールもあるくらいです。イラク女性はニカーブという黒い布で体全体を覆って目だけ見せてるなどということもごくまれです。ところが、歴史的にイスラムより虐げられてきた少数民族のアッシリア人社会は、もの凄く閉鎖的でした。常住のホテルの受付のアッシリアの女性と親しくなり、ある年クリスマス・パーティーに呼ばれたことがありました。このホテルの従業員もほとんどが
アッシリア人です。彼女は小柄ながら千夜一夜物語に登場するお姫様のように、愛らしく、美しく、そしてたれ目ぎみの、常に潤んだ流れるような瞳がとても魅力的な女性でした。クリスマス・パーティーの会場はホテルのレストランの貸切(かしきり)です。皆楽しそうでした。私もビールを少し飲んで皆の楽しんでいる様子を眺めていました。そして、アッシリアの伝統的なフォークダンスの段になったので、若い私は思い切ってきれいに着飾ったその彼女の前に行き、一緒にダンスを踊りましょうと丁寧にお願いしたのです。さあそれからがたいへんです。「若い日本人の酔っ払いがいる」という騒ぎになり、私は2-3人のホテルの男性従業員にがんじがらめにされて、レストランの外に無理やり追い出されました。私はまったく酔っぱらってなどいません。しきたりとしてだめであれば、そう言ってくれれば私も無理強いはしません。一方的に酔っ払い扱いされ自室に戻った私は、ベッドに臥せりながら、くやしくてたまりませんでした。そして、またカフカの「城」のフリーダとKとの会話のやり取りの部分を読むのでした。翌日、ホテルの従業員たちは、昨日のことはなかったように、笑顔で私にGood morningと白々しく挨拶するのでした。その後も、この彼女には無駄な努力とわかりながらも、日本に一時帰国するたびに、たくさんの土産を買ってきました。その品々を渡す時はホテル内ではできず、所定の場所で渡すのですが、厳しい顔つきの彼女の母が、かならずついてきたものです。
最近、長く再読してなかったカフカの「城」を久々に手に取りページをめくりました。20代前半からの
イラクでの様々なことが、「城」を読み進めれば進めるほど思い出され、なつかしさとほろにがさで胸がいっぱいになりました。やはり「せつなさ」が積もるばかりですが、決して感傷的なものではありません。カフカの小説は普遍的です。あたかもカフカは、起承転結では真実に至らないと訴えているようにさえ思えるのです。だから未完という作品の捉え方もどうかなと思います。この世界が大きく変わるという予感が高まり、次元さえ変わりかねぬ現代の世の中で、カフカの伝える、常識を突き破る普遍の真実が、改めて見直される時代がくるのではないかと密かに思っています。真実の普遍性とは、むしろ、「城」のような異常な状況の中でこそ浮き彫りになります。カフカは私が最も好きな小説家の一人です。
2008年2月9日に日本でレビュー済み
以前も挑戦した事があったのですが、そのときは全く読めなかったのですが、今回の池内さんの訳はとても読みやすくてよかったです。
城(または、組織)が支配する村に測量士として招かれたKを主人公に、非常に不思議な物語が展開されます。そして、読み手に対して丁寧にも関わらず、その判断を下す事を絶えず躊躇させ、それでいて非常に強大で圧倒的な『城(私は個人的には城に付随する『組織』と考えました)』だけが常に存在感を示し、Kを、読者を従えようとしてきます。
個人的にはいわゆる「不条理もの」と認識いたしましたが、それだけでない、読者に語りかけ、今現在でも通用する(と言うかヒトが生きている時代ならいつでも)誰でもが思う不条理さの持つ何かを問いかけてきます。組織という見えないものなのにも関わらず、圧倒的チカラを持ったモノに対抗する不条理さのリアルさが、信頼置ける何かまでもが、少しの事で(時間の経過、状況の変化、視点の転換、相手の思い込み、自分の錯覚、など)信頼していたものが、全く変わっていってしまう感覚などがまたとてもリアルです。
不条理さとは何か?と考える事は少ないけれど、この世の中は不条理に満ち溢れています、その世の中を生きていくためにも少し不条理さについて考えてみたい人に、オススメ致します。
特に「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」が好きな方には、是非とも。あの物語の原点を、私は個人的に感じました。
城(または、組織)が支配する村に測量士として招かれたKを主人公に、非常に不思議な物語が展開されます。そして、読み手に対して丁寧にも関わらず、その判断を下す事を絶えず躊躇させ、それでいて非常に強大で圧倒的な『城(私は個人的には城に付随する『組織』と考えました)』だけが常に存在感を示し、Kを、読者を従えようとしてきます。
個人的にはいわゆる「不条理もの」と認識いたしましたが、それだけでない、読者に語りかけ、今現在でも通用する(と言うかヒトが生きている時代ならいつでも)誰でもが思う不条理さの持つ何かを問いかけてきます。組織という見えないものなのにも関わらず、圧倒的チカラを持ったモノに対抗する不条理さのリアルさが、信頼置ける何かまでもが、少しの事で(時間の経過、状況の変化、視点の転換、相手の思い込み、自分の錯覚、など)信頼していたものが、全く変わっていってしまう感覚などがまたとてもリアルです。
不条理さとは何か?と考える事は少ないけれど、この世の中は不条理に満ち溢れています、その世の中を生きていくためにも少し不条理さについて考えてみたい人に、オススメ致します。
特に「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」が好きな方には、是非とも。あの物語の原点を、私は個人的に感じました。