ネタバレ含む
鹿の市の宝物や食べ物屋の描写が切なくなるほど美しい。
つゆ玉のような紫水晶の首飾り、上りたての月のような黄金の梨など。
今は数少なくなっている山で生計を立てる猟師、清十さんが私個人的には好き。
清十さんが一番最初に言われて作ったぶどう酒を、図らずも後から鹿の市に
でかける娘達が飲む。「お父さんが作った酒だよ。」
お父さんが注ぐ、見知らぬ場所へに行く娘達への愛情に思えてしょうがなかった。
清十さんはそれ、知らないだろうケドね。知ってるのかな?
娘たちは帰ってきて話をしたのだろうか?
いや、やはり全部しただろう。それを清十さんとおかみさんは全部聞いただろう。
でもなぜ鹿が落胆するのかは知らなかったに違いない。
なぜなら鹿を撃つのは、生計のため、娘の嫁入り道具を揃えるためだから。
鹿が肝をとられたことで天にも上がれず、地にも戻れないことは
知る由もないのだ。
鹿は上の娘達に「鹿の市で梨はいらなかったのか」「雑炊はいらなかったのか」
「花はいらなかったのか」と尋ねる。
それこそ物語の中で「正解」のアイテムのわけだが
3人姉妹の(よくある物語の構成上)の最後の娘しか気がつかない。
最後がどうしても切なく、美しかった。
三番目の娘を探す清十さんが、雲の中に娘の影を見つけてどう思ったのか
自然界の輪廻(命あるものは命あるものにとられる。娘はやがてとついで行く)
に娘がすっぽり入ってしまったことに、悲しんだのか、納得したのか
「おうおうおう」と叫ぶ場面がとても印象的だった。

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天の鹿 ペーパーバック – 1979/9/25
- 本の長さ135ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日1979/9/25
- ISBN-104480880275
- ISBN-13978-4480880277
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トップレビュー
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2013年12月31日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この本のうまみがわかる人は、限られたごく少数かもしれない。
初対面でもきっと「心友」になれる言語をお互いもっている気がする。
宮沢賢治のような世界観がある作品。
自分の心に波が立ったとき、自分を取り戻すために何度も読んでいる。
要領よく世の中渡っていけない自分をもどかしく感じながら。
初対面でもきっと「心友」になれる言語をお互いもっている気がする。
宮沢賢治のような世界観がある作品。
自分の心に波が立ったとき、自分を取り戻すために何度も読んでいる。
要領よく世の中渡っていけない自分をもどかしく感じながら。
2009年5月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
日本の昔話風の設定でありながら、現代の競争社会で生きている私たちに多くの問題を提起しています。
人より豊かな暮らしがしたい、家族を守りたいというような当たり前の欲求を満たすために、知らないうちに小さきものを傷つけ、そして傷つけたことすら気が付かない人間の傲慢さや原罪を鋭く描いています。
後半3分の1は、涙が止まりませんでした。
子供にも大人にも読んでほしい、切なく素晴らしい作品です。
人より豊かな暮らしがしたい、家族を守りたいというような当たり前の欲求を満たすために、知らないうちに小さきものを傷つけ、そして傷つけたことすら気が付かない人間の傲慢さや原罪を鋭く描いています。
後半3分の1は、涙が止まりませんでした。
子供にも大人にも読んでほしい、切なく素晴らしい作品です。
2012年8月16日に日本でレビュー済み
子供の頃から、ずっと安房さんの作品の虜でした
美しく、不思議で、楽しく、幸せな
さまざまな明るいストーリーのかげに
通奏低音のように流れる
「哀しさ」や「不安」や「さびしさ」の気配が
安房さんの世界を、唯一無二のものとしている、そう感じていました
このお話は、安房さんの数ある傑作の中でも
最も私を引きつけた物語です
ハードカバーも旧版を持っていて
何十回も読んだ本なのに
この新装版を再度買ってしまったのは
なにより初版についていた帯にハッとしたからです
「このさびしさは、知ってる」
おそらく初版以降はついていない帯ですが
安房さんの愛読者ならば、きっと思い出すだろう
心の中をサッと吹き抜けていく
涼しい風のような哀しさ
見事な帯に敬意を表して
レビューさせていただきます
美しく、不思議で、楽しく、幸せな
さまざまな明るいストーリーのかげに
通奏低音のように流れる
「哀しさ」や「不安」や「さびしさ」の気配が
安房さんの世界を、唯一無二のものとしている、そう感じていました
このお話は、安房さんの数ある傑作の中でも
最も私を引きつけた物語です
ハードカバーも旧版を持っていて
何十回も読んだ本なのに
この新装版を再度買ってしまったのは
なにより初版についていた帯にハッとしたからです
「このさびしさは、知ってる」
おそらく初版以降はついていない帯ですが
安房さんの愛読者ならば、きっと思い出すだろう
心の中をサッと吹き抜けていく
涼しい風のような哀しさ
見事な帯に敬意を表して
レビューさせていただきます
2013年7月31日に日本でレビュー済み
不思議な世界へ旅してみたいなら。
読書は、とてもいい道しるべになる。
この本は、傑作の誉れ高くも、隠れた良書。
安房直子の文章もさることながら、それにこれほどの
相性はないほどの絵本作家で画家のスズキコージの
役割もかなり大きい、これほどまでにすぐれたコラボレーションは
ないだろう。
一読を!
読書は、とてもいい道しるべになる。
この本は、傑作の誉れ高くも、隠れた良書。
安房直子の文章もさることながら、それにこれほどの
相性はないほどの絵本作家で画家のスズキコージの
役割もかなり大きい、これほどまでにすぐれたコラボレーションは
ないだろう。
一読を!
2003年12月14日に日本でレビュー済み
ヒルルルルル・・・・
月も宵闇にひり出される様に、ぽかりと、天に現れ始める頃。山中に鹿笛が魔笛の様に木霊していた。初老の、男。三人の娘っ子を思い起こしながら、村一を誇る自らの鹿笛に言い知れぬ予感を乗せていた。
「今日は、大きな獲物が獲れるに違いない・・・」
そして。追いすがる誰かを嘲笑いながら振り払い今日も、去り行くかのような夕闇を背に、「彼」は降り立った。最後に会ったのはいつだったか。思い出せないような立派な牡鹿。
「やめておくれ。」すがる訳でなく。優しく厳かに紡がれたことば。「彼」は気付いていた。岩陰に潜む、人の子が作り出した冷たい鉛の塊りが、自分の眉間を狙っている事を。
今日に限ってやけに手が振るえ、旨く定まらない猟銃を持ち直そうとしていた男は、悲しげにも聞こえるその声に気付かされた。奴は、この鹿は、鹿笛に誘われずして此処に来た。きっと其処には何か・・・
・・。 「代わりに」 牡鹿は深い瞳を揺らしただろうか?直視されているはずなのに逸らせないままなのに、男には底まで読み取れない。まま。「代わりに、鹿の市に連れて行ってあげよう。」牡鹿の言葉に引き寄せられて、その背に跨ったのだった。
初めて行く、鹿の店員だけが出店を連ねる鹿だけの市。
珠敷きの店の暈の中、たった一人の人間。
無事家路にも着き、その夢のような体験を娘たちに語って聞かす男。
二、三何かを尋ね、去っていった牡鹿。
鹿の市の華やかさに憧れ夢馳せるは娘と娘。そして、彼を案じるも一人。娘。
しかし、鹿と一家との不思議な交流は ここから、 或いはもっと
昔から? 続いてゆくのである・・・
「出会うことを恐れるなら、きっともう昔にすませてしまっていた。
だからきっともういまは、ただ会うことを望んでいる・・」
葡萄酒、お祭り、首飾り。絹の反物、ぴかぴか暖かいランプは半端に誰かの何かを守って。安房直子の不思議で、暖かいけれど胸を挿す。そんな独特の感覚を一番感じられる物語は、此処にあるのではないでしょうか?そう思わせる、私が世界で一等好きな本です。牡鹿の求めたものは何だったのか。幸せは何処から感じ始めましたか?安房さんワールド大炸裂!読めば其処が都です!!この安心感をあなたにも・・・、欲しい人から、とどきますよう・・・祈りは鹿に、伝えときます。
月も宵闇にひり出される様に、ぽかりと、天に現れ始める頃。山中に鹿笛が魔笛の様に木霊していた。初老の、男。三人の娘っ子を思い起こしながら、村一を誇る自らの鹿笛に言い知れぬ予感を乗せていた。
「今日は、大きな獲物が獲れるに違いない・・・」
そして。追いすがる誰かを嘲笑いながら振り払い今日も、去り行くかのような夕闇を背に、「彼」は降り立った。最後に会ったのはいつだったか。思い出せないような立派な牡鹿。
「やめておくれ。」すがる訳でなく。優しく厳かに紡がれたことば。「彼」は気付いていた。岩陰に潜む、人の子が作り出した冷たい鉛の塊りが、自分の眉間を狙っている事を。
今日に限ってやけに手が振るえ、旨く定まらない猟銃を持ち直そうとしていた男は、悲しげにも聞こえるその声に気付かされた。奴は、この鹿は、鹿笛に誘われずして此処に来た。きっと其処には何か・・・
・・。 「代わりに」 牡鹿は深い瞳を揺らしただろうか?直視されているはずなのに逸らせないままなのに、男には底まで読み取れない。まま。「代わりに、鹿の市に連れて行ってあげよう。」牡鹿の言葉に引き寄せられて、その背に跨ったのだった。
初めて行く、鹿の店員だけが出店を連ねる鹿だけの市。
珠敷きの店の暈の中、たった一人の人間。
無事家路にも着き、その夢のような体験を娘たちに語って聞かす男。
二、三何かを尋ね、去っていった牡鹿。
鹿の市の華やかさに憧れ夢馳せるは娘と娘。そして、彼を案じるも一人。娘。
しかし、鹿と一家との不思議な交流は ここから、 或いはもっと
昔から? 続いてゆくのである・・・
「出会うことを恐れるなら、きっともう昔にすませてしまっていた。
だからきっともういまは、ただ会うことを望んでいる・・」
葡萄酒、お祭り、首飾り。絹の反物、ぴかぴか暖かいランプは半端に誰かの何かを守って。安房直子の不思議で、暖かいけれど胸を挿す。そんな独特の感覚を一番感じられる物語は、此処にあるのではないでしょうか?そう思わせる、私が世界で一等好きな本です。牡鹿の求めたものは何だったのか。幸せは何処から感じ始めましたか?安房さんワールド大炸裂!読めば其処が都です!!この安心感をあなたにも・・・、欲しい人から、とどきますよう・・・祈りは鹿に、伝えときます。