難しい文体と難解な内容を予想しつつ読みだした初ウエルベックですが、とても面白いです。
登場人物の描写と思わせ、その実、主人公が今まさに描いている絵画の描写であったことが分かる冒頭1ページ目を読んだ時点で、ウエルベック面白いと思わず頷いてしまいました。
さらにウエルベックを含め実在の人物が多数登場し、読者を飽きさせません。
主人公ジェドは芸術家であることから、芸術に関する考え、たとえば
「アーティストであるとは、従順な何者かであるということ。それは直観とし呼びようのない種類のメッセージに対する従順さなのだが、それを逃れる術をまったく与えない」とか
「美は絵画において二次的な問題であり、過去の偉大な画家たちがその偉大さを認められたのは、彼らが世界に関して一貫性のある、しかも革新的なヴィジョンを展開したからだった」とか
「自分自身が本当に存在していることを確かめるため、自分の作品を世の人々に示したいという欲求を覚える。社会の内部にあって、個人とは束の間のフィクションに過ぎない」とかが述べられます。
そして、それらはウエルベックの作家としての考えにも通ずるものだと思われ、とても興味深いです。
もちろん本書にはウエルベック自らが登場し、自身のスタイルをのべる場面もありますが。
「ノートをとったり文章を連ねることはできる。だが小説の執筆に身を投じるには、すべてが引き締まった反駁の余地のない状態になるまで待たなければならない」
村上春樹も同様のことを何かに書いていた記憶がありますが、これはウエルベックに限らず有能な作家に共通するものなのかもしれません。
また、本書では、人生についても興味深い表現がなされています。たとえば
「ほんの数秒で一生が決まるとまでは言わなくても、少なくとも人生が進む大体の方向が決まることがありうる」とか
「人生はときにチャンスを与えてくれるが、あまりに臆病だったり優柔不断だったりしてそれをつかめなければ、配られたカードは取り上げられてしまう」など。
これからもウエルベックの作品を読んでいこうと思わせる、魅力的な作品です。
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地図と領土 (ちくま文庫 う 26-2) 文庫 – 2015/10/7
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購入オプションとあわせ買い
孤独な天才芸術家ジェドは、世捨て人作家ウエルベックと出会い友情をはぐくむが、作家は何者かに惨殺される。最高傑作と名高いゴ…
- 本の長さ464ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2015/10/7
- 寸法10.7 x 1.7 x 14.8 cm
- ISBN-104480433082
- ISBN-13978-4480433084
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登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2015/10/7)
- 発売日 : 2015/10/7
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 464ページ
- ISBN-10 : 4480433082
- ISBN-13 : 978-4480433084
- 寸法 : 10.7 x 1.7 x 14.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 78,932位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2019年4月29日に日本でレビュー済み
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2018年3月2日に日本でレビュー済み
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造形芸術としての絵画と言語の芸術としての小説とを小説の中で対比させている。けれども、創造と孤独との親和性(という神話)も提示しているように思う。絵画と小説は、物質と情報であるとか、素材と構想とか、ヒュレーとエイドスとか、そういった対比を連想させる。また、地図と領土は、肖像画とそのモデルとに対応している。
クーンズとハーストの作品が非常に高価であり、現在の(造形)美術市場が投機対象として捉えられている点に関しては、(作中に登場する)ラフェエル前派の批判とも通じる。ラファエロや(ヴェネチア派の)ティツィアーノなどは芸術家であり親方でありビジネスマンだった。(ミケランジェロは自らを彫刻家だと名乗っていたようだが)彼らの活躍した時期に絵画の重要性・価値であるとか芸術家の社会的価値などが定まっていったのではないだろうか。いわゆるルネサンスは、今日の(西洋的)芸術観の原型になっているように思う。それとは別に、西洋思想の理想的源流を古代ギリシアに求めることはよく見られるけれども、そこでは芸術のモデルは叙事詩であり、第一の芸術家はホメロスだろうと思われる。ここでは言語芸術が造形芸術よりも重視されている。クーンズの軽やかさとその成功は、現代的であるかもしれない。しかし、彼のアシスタントは100名以上であり、実際に描くのはアシスタントであって、これはルネサンスの工房を思わせる。一方のハーストはインスタレーションや彫刻作品を発表しているが、恐らく特殊な業者に発注して制作されると思われる。スティーブ・ジョブズとビル・ゲイツも象徴的な一組として作中で提示される。スティーブ・ジョブズは経営者・プロデューサーであり、彼自身はプログラミングや電子工学の専門家ではない(初期のマッキントッシュはスティーブ・ウォズニアックが制作した)。これは現在のクーンズにも通じる(以前の作品は彼自身が描いていた)。
小説の中盤では、ラフェエル前派とともにウィリアム・モリスやシャルル・フーリエへの言及がある。彼らは社会主義者であるが、モリスの成功への言及は何というか直截的であり、ある面でウエルベックの理想を示しているかもしれない。また、トクヴィルへの言及は唐突に感じられた。『アメリカのデモクラシー』でトクヴィルは、ニュー・イングランドの直接民主制であるタウン・ミーティングを賞賛している。創造の場における孤独と対称にあると思える直接民主制はモリス的ユートピアにも通じる。しかし、モリスの成功は創造性を通して達成されたものであり、創造の場おいては責任に応じた(ある程度の)緊張関係があったように思える。しかし、そのような共同体は婚姻と同様に稀にしか成功しないようだ。モリスの結婚生活は成功とは言えなかったことが作中で指摘されていることからも窺われる。小説を通して婚姻と出産に関わる社会制度への著者の疑問は随所に感じる。契約と関係性も、地図と領土とに対応するように思える。
地図と領土、肖像画とモデル、契約と関係性(、絵画と小説)、こういった対比を様々に展開しているところは、造形芸術や言語芸術ではなく音楽という芸術に近いかもしれない、それはクラシックのベートーヴェンのソナタ形式を思わせる。主題の変奏や展開とその解決が、ベートーヴェン芸術の主柱のひとつと聞いた事がある。芸術家を主人公に据えて、様々な(西洋的)芸術をしのばせる、そして、ロシア美女という今日的象徴を配置しプロットを推進するなど、マニエリスムを感じる。とても間口の広い作家だと感じた。
クーンズとハーストの作品が非常に高価であり、現在の(造形)美術市場が投機対象として捉えられている点に関しては、(作中に登場する)ラフェエル前派の批判とも通じる。ラファエロや(ヴェネチア派の)ティツィアーノなどは芸術家であり親方でありビジネスマンだった。(ミケランジェロは自らを彫刻家だと名乗っていたようだが)彼らの活躍した時期に絵画の重要性・価値であるとか芸術家の社会的価値などが定まっていったのではないだろうか。いわゆるルネサンスは、今日の(西洋的)芸術観の原型になっているように思う。それとは別に、西洋思想の理想的源流を古代ギリシアに求めることはよく見られるけれども、そこでは芸術のモデルは叙事詩であり、第一の芸術家はホメロスだろうと思われる。ここでは言語芸術が造形芸術よりも重視されている。クーンズの軽やかさとその成功は、現代的であるかもしれない。しかし、彼のアシスタントは100名以上であり、実際に描くのはアシスタントであって、これはルネサンスの工房を思わせる。一方のハーストはインスタレーションや彫刻作品を発表しているが、恐らく特殊な業者に発注して制作されると思われる。スティーブ・ジョブズとビル・ゲイツも象徴的な一組として作中で提示される。スティーブ・ジョブズは経営者・プロデューサーであり、彼自身はプログラミングや電子工学の専門家ではない(初期のマッキントッシュはスティーブ・ウォズニアックが制作した)。これは現在のクーンズにも通じる(以前の作品は彼自身が描いていた)。
小説の中盤では、ラフェエル前派とともにウィリアム・モリスやシャルル・フーリエへの言及がある。彼らは社会主義者であるが、モリスの成功への言及は何というか直截的であり、ある面でウエルベックの理想を示しているかもしれない。また、トクヴィルへの言及は唐突に感じられた。『アメリカのデモクラシー』でトクヴィルは、ニュー・イングランドの直接民主制であるタウン・ミーティングを賞賛している。創造の場における孤独と対称にあると思える直接民主制はモリス的ユートピアにも通じる。しかし、モリスの成功は創造性を通して達成されたものであり、創造の場おいては責任に応じた(ある程度の)緊張関係があったように思える。しかし、そのような共同体は婚姻と同様に稀にしか成功しないようだ。モリスの結婚生活は成功とは言えなかったことが作中で指摘されていることからも窺われる。小説を通して婚姻と出産に関わる社会制度への著者の疑問は随所に感じる。契約と関係性も、地図と領土とに対応するように思える。
地図と領土、肖像画とモデル、契約と関係性(、絵画と小説)、こういった対比を様々に展開しているところは、造形芸術や言語芸術ではなく音楽という芸術に近いかもしれない、それはクラシックのベートーヴェンのソナタ形式を思わせる。主題の変奏や展開とその解決が、ベートーヴェン芸術の主柱のひとつと聞いた事がある。芸術家を主人公に据えて、様々な(西洋的)芸術をしのばせる、そして、ロシア美女という今日的象徴を配置しプロットを推進するなど、マニエリスムを感じる。とても間口の広い作家だと感じた。
2020年5月16日に日本でレビュー済み
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フランスの変態作家ウエルベックの小説は、独特の比喩や洗練された文体、シニカルでスパイスの効いた言い回しなどとにかくすばらしい。しかし、今の日本の小説はそれらを削ぐ方向に向かっているので(ライトノベル化)、日本の小説を読みなれた方にはあまり受け入れられないようである。
ここでは物語に触れないが、作中には「仕事の哲学」「死に方について」「人間らしさとは」など様々なテーマが散りばめられ、後半はミステリー仕立てになっていて、今作もウエルベックらしい「問題作」となっている。
作中にウエルベック自身が登場するわけだが、そのセリフがかっこいい。
「僕は死んだ人としか会話をしたくないんだ」
死んだ著者と会話をすることは古典を読むことの本質だが、逆に言えば作中で死んだウエルベックとの会話を読者に求めているのではないかとも取れる。
とにかくすごい文学作品、ぜひ読んで味わってみてほしい。
ここでは物語に触れないが、作中には「仕事の哲学」「死に方について」「人間らしさとは」など様々なテーマが散りばめられ、後半はミステリー仕立てになっていて、今作もウエルベックらしい「問題作」となっている。
作中にウエルベック自身が登場するわけだが、そのセリフがかっこいい。
「僕は死んだ人としか会話をしたくないんだ」
死んだ著者と会話をすることは古典を読むことの本質だが、逆に言えば作中で死んだウエルベックとの会話を読者に求めているのではないかとも取れる。
とにかくすごい文学作品、ぜひ読んで味わってみてほしい。
2020年11月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
エピローグにたどりついてからの物語がとても読みごたえがあり抜群に良かったです。
しかしそこに至るまでの1部と2部が、私には興味の持てない話で、とにかく退屈でした。
物語が進んでいるうちは、次の展開が気になっておもしろくなったり、
ところどころすごく良いなと思える場面や描写に出会えたりもしたのですが、
芸術に関する論考が始まると、あまりにもつまらなくてついていけませんでした。
それも衒学的な話が延々と続くので頭に入ってこず、読むのが億劫でした。
3部に入ると雰囲気ががらっと変わっておもしろくなってきました。
いままでと打って変わってそれに続くエピローグまでとても良かったです。
この作品が著者の最高傑作とあって手に取ったけど、少々物足りませんでした。
自分にとってはおもしろい部分とおもしろくない部分の差が激しすぎました。
他の作品もこのスタイルなら合わないかもしれないけど、
気になる作家さんなので他の作品も読んでみようと思います。
しかしそこに至るまでの1部と2部が、私には興味の持てない話で、とにかく退屈でした。
物語が進んでいるうちは、次の展開が気になっておもしろくなったり、
ところどころすごく良いなと思える場面や描写に出会えたりもしたのですが、
芸術に関する論考が始まると、あまりにもつまらなくてついていけませんでした。
それも衒学的な話が延々と続くので頭に入ってこず、読むのが億劫でした。
3部に入ると雰囲気ががらっと変わっておもしろくなってきました。
いままでと打って変わってそれに続くエピローグまでとても良かったです。
この作品が著者の最高傑作とあって手に取ったけど、少々物足りませんでした。
自分にとってはおもしろい部分とおもしろくない部分の差が激しすぎました。
他の作品もこのスタイルなら合わないかもしれないけど、
気になる作家さんなので他の作品も読んでみようと思います。
2015年5月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
購入後、最初の数ページがどうにもうまくつかめず、放置、まさに積読状態であったが、連休の最後の日にようやく読もうと思い至った。
そして、読み始めて数ページ過ぎたあたりから、すっかりはまっていた。
ジェド・マルタンの粛々と人生を受け止めつつも、どこか、世間にはまりこまないような、しかし、人との関係が柔和で、かつ控えめな感じが、そのままこの小説そのもので、すっかり懐柔されてしまった気がする。
父親とのクリスマスの様子。
個展への一筆を、作家に依頼するため訪れた際の会話。
淡々と語られていく文章が、心地よかった。(これは、翻訳者の力もあるとおもう。)
第三部、唐突に事態が展開するが、これは、これで、活!とされたようで、惹きつけられた。
ウェルベックは、この「地図と領土」が初めて。
ぜひ、他の作品も読まなくては、と思っている。
そして、読み始めて数ページ過ぎたあたりから、すっかりはまっていた。
ジェド・マルタンの粛々と人生を受け止めつつも、どこか、世間にはまりこまないような、しかし、人との関係が柔和で、かつ控えめな感じが、そのままこの小説そのもので、すっかり懐柔されてしまった気がする。
父親とのクリスマスの様子。
個展への一筆を、作家に依頼するため訪れた際の会話。
淡々と語られていく文章が、心地よかった。(これは、翻訳者の力もあるとおもう。)
第三部、唐突に事態が展開するが、これは、これで、活!とされたようで、惹きつけられた。
ウェルベックは、この「地図と領土」が初めて。
ぜひ、他の作品も読まなくては、と思っている。
2016年9月9日に日本でレビュー済み
ウエルベックの作品は「素粒子」しか読んだことがないのですが、フランス人の知人がこの本を貸してくれたので、原文で読みました。文章自体はところどころ入り組んだところがあるけれど、全体を追えないほど難しいわけではないです。
「素粒子」では、ありとあらゆる対立項が印象的でした。(科学者と下品で性的欲望に取りつかれた高校教師、崇高な人生哲学、動物的な性的欲望、人生の悲哀と悦び。。。)「素粒子」を読んだときは、万華鏡のようにくるくると転換する、違う言い方をすればある種のこのスリリングな「脈絡のなさ」がウエルベックの持ち味なのかなと思ったのですが、「地図と領土(la carte et le territoire」はそれとはまた一味違いますね。やはりジェットコースターのような脈絡のなさはあるのですが、大分和らいでいるといった印象。あけすけな性描写等もなく、主人公のジェド・マルタンや恋人のオルガ、かつては成功した経営者だったが今ではすっかり老いてしまったその父などを通して描かれているのは人生の虚しさや悲哀です。ジェドは成功したアーティストなのですが、どれだけ金持ちになろうと彼の精神的な空虚さは決して満たされることはありません。
関心したのは、単純にジェドの人生を描くのではなく、アーティストである彼を通して我々の生きる資本主義社会やテクノロジー社会の風刺をユーモアを混ぜて描いているところですね。「地図と領土」というタイトルは、おそらく作中のジェドの展覧会から来ているのだと思います。現実の世界である「領土」とそれらを元にして作られたデータ「地図」、この2つの事象をめぐる物語なのではないかと、私は受け取ったのですが・・・。
ただ、正直に言って物足りないです。
うまく説明できませんが、「素粒子」にあった鮮やかさが幾分失われているような気がします。
特に第三章のあまりにも唐突で、都合のよすぎる展開には幾分がっかりしました。
作中のジェドが作品を発表し、リアクションを経て、また作風を変えていきます。
無意識的なものかもしれませんが、ウエルベックも、作品ごとに割と大きくテーマを変えている印象があります。
記憶に新しい「服従」はイスラム化するフランスを描いてフランスではちょっとした騒ぎになりました。
この作品の総論としては、あまり好みではないけれどほかのものも読んでみたいし、氏が次にどんな刺激的な小説を発表するのか、楽しみにしているところではあります。
「素粒子」では、ありとあらゆる対立項が印象的でした。(科学者と下品で性的欲望に取りつかれた高校教師、崇高な人生哲学、動物的な性的欲望、人生の悲哀と悦び。。。)「素粒子」を読んだときは、万華鏡のようにくるくると転換する、違う言い方をすればある種のこのスリリングな「脈絡のなさ」がウエルベックの持ち味なのかなと思ったのですが、「地図と領土(la carte et le territoire」はそれとはまた一味違いますね。やはりジェットコースターのような脈絡のなさはあるのですが、大分和らいでいるといった印象。あけすけな性描写等もなく、主人公のジェド・マルタンや恋人のオルガ、かつては成功した経営者だったが今ではすっかり老いてしまったその父などを通して描かれているのは人生の虚しさや悲哀です。ジェドは成功したアーティストなのですが、どれだけ金持ちになろうと彼の精神的な空虚さは決して満たされることはありません。
関心したのは、単純にジェドの人生を描くのではなく、アーティストである彼を通して我々の生きる資本主義社会やテクノロジー社会の風刺をユーモアを混ぜて描いているところですね。「地図と領土」というタイトルは、おそらく作中のジェドの展覧会から来ているのだと思います。現実の世界である「領土」とそれらを元にして作られたデータ「地図」、この2つの事象をめぐる物語なのではないかと、私は受け取ったのですが・・・。
ただ、正直に言って物足りないです。
うまく説明できませんが、「素粒子」にあった鮮やかさが幾分失われているような気がします。
特に第三章のあまりにも唐突で、都合のよすぎる展開には幾分がっかりしました。
作中のジェドが作品を発表し、リアクションを経て、また作風を変えていきます。
無意識的なものかもしれませんが、ウエルベックも、作品ごとに割と大きくテーマを変えている印象があります。
記憶に新しい「服従」はイスラム化するフランスを描いてフランスではちょっとした騒ぎになりました。
この作品の総論としては、あまり好みではないけれどほかのものも読んでみたいし、氏が次にどんな刺激的な小説を発表するのか、楽しみにしているところではあります。