日銀は2016年1月にマイナス金利付き量的・質的金融緩和政策を導入したが、金融機関の利ざや悪化による理由で、わずか8ヶ月後に長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策に移行した。
その後ヘリコプターマネーや物価水準の財政理論が議論になったが、2017年3月時点までの黒田日銀総裁の講演等の発言では、「ヘリコプターマネー、必要も可能性もない(2016年、7月21日)」、「シムズ理論、現実的な政策論として有意義でない(2017年、3月9日)」、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和は現時点で考えうる最善の枠組みだ。物価目標に関しては任期中に2%に達するかは分からない(2017年、3月24日)」と述べているので、当面は政策変更せずに任期満了まで行きそうな予感がする。
翁氏によれば、金融政策の中核とは名目市場金利から予想インフレ率を差し引いた実質市場金利が自然利子率(完全雇用に対応する実質利子率、均衡実質金利、中立的金利とも呼ぶ)と等しくなるように金利を誘導すればよい。と言うことである。
翁氏が紹介するイングランド銀行のエコノミスト、レイチェルとスミスの2015年12月論文はローレンス・サマーズが取り上げてから注目されている世界長期停滞論を援護する内容でとても興味深い。
先進国の実質市場金利が一貫して低下するなかで一向にインフレが加速せず、むしろインフレ目標から遠ざかってきているということは、自然利子率は実質市場金利以上に急速なテンポでトレンド的に下がってきている可能性を示唆している。
これにはさまざまな理由が考えられる。 そのひとつは技術進歩が停滞して新しい投資の種が枯渇していくと投資需要が先細る形でIS曲線(縦軸は実質金利、横軸はGDP水準の座標軸、右肩下がりの線)を押し下げるから自然利子率の低下につながる。(ただし2025年には完全自動運転実現が予想等、AIによるイノベーションが始まっている)
またトマ・ピケティが指摘したように富の格差が拡大することにより、消費性向より貯蓄性向が高くなるので、IS曲線を押し下げて、自然利子率を低下させる。
さらに世界的な総需要の伸びが停滞しているなかでは、シェールオイルの増産や中国経済も自然利子率低下の大きなトレンドに影響される。
まして日本は少子高齢化で潜在成長率が低下しているので、海外の経済情勢に大きく左右されやすく、背景として世界経済の中長期的な展望を考慮しなければならないと、著者は述べる。
自然利子率を上げるために金融政策に頼れば、実質金利を低下させることで需要を前倒しできるとしても、その結果将来の自然利子率をむしろ下げてしまうという「不都合な真実」がある。
今後、世界は財政支出を拡張する政策を選択していく可能性がある。 それは同じ金利水準では総需要が増えるためにIS曲線は右に移動し今期の自然利子率を上昇させて、来期は財政支出が拡張前の水準に戻ると、IS曲線は元の位置に戻り、自然利子率は低下するという理由で、金融緩和政策ほど自然利子率をさらに下げる副作用がないためである。
ただし日本は財政を拡張させる余裕はなく、ヘリコプターマネーや無利子永久国債の日銀引き受けを採用しても、統合政府としての利払い費を節約することは理論上は出来ない。(詳しくは本文を)
日本が自然利子率を上げるためには、人口問題と正面から向き合うことで、高齢化をイノベーションと需要増につなげて成長の源泉に転化していく必要があると著者は述べる。
<MMTの出現と自然利子率の関係を理解する為の重要な図表>
【図表2-1 教科書的に整理した自然利子率の概念】
【図表4-1 自然利子率がマイナスになる場合の概念図】
【図表8-1 財政拡張の効果】
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金利と経済―――高まるリスクと残された処方箋 単行本(ソフトカバー) – 2017/2/17
翁 邦雄
(著)
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購入オプションとあわせ買い
トランプノミクスで高まる財政への期待と不確実性
異次元緩和、マイナス金利政策の副作用
待望されるヘリコプターマネーのコスト
イールドカープ・コントロールの効果……
生きた題材をもとに、日銀金融研究所長などを歴任した第一人者が
景気、成長と利子率の関係を検証した、いま最も読まれるべき経済書
金利操作に期待されるのは、
「トレンドへの働きかけ」か、「経済の安定化」か?
【第1章より抜粋】
昔は、金融政策はきわめてシンプルなものだ、と考えられていた。
今でも多くの経済人が、
景気が悪ければ金利を下げて金融を緩和すればよい、
という単純な原理の有効性を基本的に信じているようにみえる。
「景気」の本質が変化して金融政策の働きかけの意味が変わったとき、
先の原理の効果は思うようには出なくなり、
金融政策は新たな工夫を試みてどんどん複雑化してくる。
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「景気」の本質が変化して金融政策の働きかけの意味が変わったとき、
先の原理の効果は思うようには出なくなり、
金融政策は新たな工夫を試みてどんどん複雑化してくる。
- 本の長さ276ページ
- 言語日本語
- 出版社ダイヤモンド社
- 発売日2017/2/17
- 寸法13.1 x 1.8 x 18.9 cm
- ISBN-10447810168X
- ISBN-13978-4478101681
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商品の説明
著者について
翁 邦雄(おきな・くにお)プロフィル
京都大学公共政策大学院教授。1974年日本銀行入行。同調査統計局企画調査課長、同金融研究所長などを歴任。2009年4月より現職。専門は金融論、金融政策論、国際金融論。『期待と投機の経済分析』(東洋経済新報社、1985年、日経図書文化賞受賞)、『ポスト・マネタリズムの金融政策』(日本経済新聞出版社、2011年)、『日本銀行』(ちくま新書、2013年)、『経済の大転換と日本銀行』(岩波書店、2015年、石橋湛山賞受賞)など著書多数。東京大学経済学部卒業、シカゴ大学Ph.D.(Economics)取得。
京都大学公共政策大学院教授。1974年日本銀行入行。同調査統計局企画調査課長、同金融研究所長などを歴任。2009年4月より現職。専門は金融論、金融政策論、国際金融論。『期待と投機の経済分析』(東洋経済新報社、1985年、日経図書文化賞受賞)、『ポスト・マネタリズムの金融政策』(日本経済新聞出版社、2011年)、『日本銀行』(ちくま新書、2013年)、『経済の大転換と日本銀行』(岩波書店、2015年、石橋湛山賞受賞)など著書多数。東京大学経済学部卒業、シカゴ大学Ph.D.(Economics)取得。
登録情報
- 出版社 : ダイヤモンド社 (2017/2/17)
- 発売日 : 2017/2/17
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 276ページ
- ISBN-10 : 447810168X
- ISBN-13 : 978-4478101681
- 寸法 : 13.1 x 1.8 x 18.9 cm
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2017年3月25日に日本でレビュー済み
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2021年2月1日に日本でレビュー済み
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少し難しい。
2023年3月11日に日本でレビュー済み
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異次元緩和に懐疑的な私には納得の内容でした。
”自然利子率”の長期低下傾向が肝です。
”自然利子率”の長期低下傾向が肝です。
2017年3月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
翁氏の一冊です。同氏は現行の日銀の政策について出口戦略の必要性を訴えている方です。
最近の金利本は何やら偏った本(破滅やら株価3万やら)が多いですが、こちらは比較的中立的な立場で書かれた本の印象です。
書いてある内容もなかなかに興味深い内容でした。長短金利操作(イールドカーブコントロール)などの最新の日銀の動向を踏まえ、
多くの考察をしています。ぜひ、一読をお勧めしたい一冊です。
さらっと読めるかと思ったら案外時間かかったのは誤算でしたが・・(笑)
最近の金利本は何やら偏った本(破滅やら株価3万やら)が多いですが、こちらは比較的中立的な立場で書かれた本の印象です。
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さらっと読めるかと思ったら案外時間かかったのは誤算でしたが・・(笑)
2018年1月13日に日本でレビュー済み
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「自然利子率」=完全雇用に対応する実質利子率 の概念を中心に据えて金融政策の現状を明解に斬っていく本。経済学の基礎的な知識があれば読むことができる。
90年代以前のテキストには、自然利子率の概念は載っていなかった。しかし、現在の自然利子率と市場で成立している実質利子率との関係や、自然利子率自体が上下どちらの方向に推移しているのかを考えることが経済の現状をとらえる上でとても重要であることが本書を読むことにより理解することができる。大学で経済学を履修したけれど、IS-LMやAS-ADくらいしか覚えてないという向きは、一度読んでみると経済に対する見方が変わるかも。
現在の金融政策への批判も随所に盛り込まれている。今の異常な低金利政策を続けてよいのか、総主流派の決定会合でよいのか、財政規律は保たれているのかなど、新聞を読むだけではよくわからない問題への自分なりの回答を作ることができるのもこのような本の良いところだと思う。
90年代以前のテキストには、自然利子率の概念は載っていなかった。しかし、現在の自然利子率と市場で成立している実質利子率との関係や、自然利子率自体が上下どちらの方向に推移しているのかを考えることが経済の現状をとらえる上でとても重要であることが本書を読むことにより理解することができる。大学で経済学を履修したけれど、IS-LMやAS-ADくらいしか覚えてないという向きは、一度読んでみると経済に対する見方が変わるかも。
現在の金融政策への批判も随所に盛り込まれている。今の異常な低金利政策を続けてよいのか、総主流派の決定会合でよいのか、財政規律は保たれているのかなど、新聞を読むだけではよくわからない問題への自分なりの回答を作ることができるのもこのような本の良いところだと思う。
2017年10月29日に日本でレビュー済み
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「日本経済の本質的なボトルネックは、自然利子率の趨勢的な低下にある」というのが、本書の結論である。そのメカニズムは、「自然利子率がマイナスになり、同時に、物価が持続的に低下するデフレーションに突入したとしよう。もし、中央銀行が名目金利をゼロ以下に誘導できなければ、デフレの加速により実質市場金利は上昇するはずである。すると、それは金融引き締め効果をもつ。需給ギャップは一層拡大するから、デフレーションはさらに強まる。このため、実質市場金利はさらに上昇し、需給ギャップは一層、拡大し…、という悪循環で、景気はとめどなく悪化する。」というものである。日銀の金融政策の考え方の基本がわかる。一読ではなかなか理解できなかったが、繰り返し読むうちに名著だと思った。買って損はない。
2017年12月2日に日本でレビュー済み
日銀の金融政策が、「量的質的緩和⇒マイナス金利付き〃⇒長短金利操作付き〃」へと移り変わっていく状況を分析している。
筆者によれば、長短金利操作付き量的質的緩和は、長期金利のコントロールと量的緩和で矛盾しており、自然利子率を下げてしまう可能性が高い。
今日本が陥っているデフレ的状況(実質市場金利>自然利子率)を解決するには、①予測インフレ率の上昇(量的質的緩和)、②実質市場金利の低下(長期金利の操作)ではなく、自然利子率=潜在成長率の向上が必要である。
長期停滞仮説の原因は、アルヴィン・ハンセンはフロンティアの不在、イノベーションの枯渇、人口減少による需要不足であるため、少子高齢化に向き合った財政政策(介護離職ゼロ、介護用ロボット、希望出生率向上)によって自然利子率は上昇する。
筆者によれば、長短金利操作付き量的質的緩和は、長期金利のコントロールと量的緩和で矛盾しており、自然利子率を下げてしまう可能性が高い。
今日本が陥っているデフレ的状況(実質市場金利>自然利子率)を解決するには、①予測インフレ率の上昇(量的質的緩和)、②実質市場金利の低下(長期金利の操作)ではなく、自然利子率=潜在成長率の向上が必要である。
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2017年4月13日に日本でレビュー済み
大学院で数式ばかりいじっていても仕方ないと、息抜きで買いましたが、素晴らしい良い内容でした。
マクロの専門家は異論があるのだと思いますが、なるほど、こうやって政策と理論とデータを結びつけて考えるのかと感心しました。
研究の観点から見れば雑なところはありますが、おそらく実務はこう動いているのでしょう。
大学院生は実務に関心がない人がほとんどですが、経済学もやはり世の中に出ていかなければなりませんね。
それにしても日銀に勤めながら留学してシカゴPhD。高いレベルでバランスしていることが伺える本です。
マクロの専門家は異論があるのだと思いますが、なるほど、こうやって政策と理論とデータを結びつけて考えるのかと感心しました。
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