『名著の予知能力』(秋満吉彦著、幻冬舎新書)は、NHK・Eテレビの「100分de名著」のプロデューサーの手になる番組の企画・制作の裏話満載の一冊です。
とりわけ興味深いのは、●スタニスワフ・レムの『ソラリス』。●オルテガ・イ・ガセットの『大衆の反逆』、●バールーフ・デ・スピノザの『エチカ』――の3つです。
●ソラリス
「沼野(充義)さんの解説の中で、最も心に刻まれたのは、『ソラリス』という作品に『絶対的な他者と向き合うことの大切さ』というメッセージが込められているという指摘だった。・・・沼野さんの解説を通じて、『ソラリス』には、まさに今、世界を覆っている重苦しい暗雲を振り払っていくヒントがあると思った。世界は元来、もっともっと複雑で多様であるはずなのに、全てを『敵か味方か』という二色だけで色分けし、敵とみなしたものは徹底して排除するという思潮が世を覆っている。・・・しかし、人間の真の勇気とは、自分とは全く異なる他者に身をさらし、自分自身が変わっていくことも恐れず、違和感や異質性に向き合い続けることではないか? 『ソラリス』の主人公、クリス・ケルヴィンが最後に示した姿勢こそ、レムが最も訴えたかったメッセージであり、私たちが今、最も学ばなければならないことだと思えてならない」。SF作品は苦手な私だが、秋満吉彦にここまで言われては、沼野訳の『ソラリス』を読まずに済ますわけにはいきません。早速、私の「読みたい本」リストに加えました。
●大衆の反逆
「『敵とともに生きる! 反対者とともに統治する!』という言葉に込められたオルテガの洞察は、中島岳志さんが解説してくれた次の文章を読んでいただければわかるだろう。それは中島さんが依拠する『保守思想』の根幹ともいうべき思想だ。<重要な手続きや規範、礼節などを面倒くさがり、すっ飛ばしてしまうのが大衆の時代ではいか、とオルテガは言います。大衆は、そんな面倒なことをするよりも、さっさと多数派で決めてしまえ、多数者にこそ正しさが宿るのだ、と考える。『リベラル』の根幹にあるはずの、互いの自由を保障し、引き受けるという文明性が大衆の時代に破壊されつつあることに、彼は警鐘を鳴らそうとしていたのだと思います。・・・大衆の時代である現代、人々は自分とは異なる思考をもつ人間を殲滅しようとしている。自分と同じような考え方をする人間だけによる統治が良い統治だと思い込んでいる。それは違う、とオルテガは言うのです。自分と真っ向から対立する人間をこそ大切にし、そういう人間とも議論を重ねることが重要なのだ、と>。中島著の『オルテガ <大衆の反逆>――真のリベラルを取り戻せ』も「読みたい本」リストに加えました。
●エチカ
「國分(功一郎)さんによる『エチカ』解説で、私たちが漠然と前提としているものの見方がことごとく覆されていった。そこには私たちが日常の中で見過ごしている物事の本質が浮かび上がっていく。近代社会の延長にある私たちの頭の中のOSでは、スピノザが扱っている概念はうまく走ってくれない。そう語る國分さんの解説の通り、最初はとりつくしまもないように感じられた『エチカ』の思考が、私たちの日常の中にぐいぐいと入ってくるような経験だった。私の中では、既存の思考のOSが書き換えられていくような経験といっても過言ではない。それは大げさにいっているわけでは決してなく、仕事の仕方や物事の見方が明らかに変わってきたのだ。たとえば、私たちが使い慣れた『本質』という概念を『形』(エイドス)ではなく『力』(コナトゥス)としてとらえる大胆な視点が挙げられる。・・・新自由主義的な、自己責任だけで人を追い詰めていく考え方から自由になれるのだ。・・・スピノザの哲学には、現代では失われつつある思考の本来のあり方や自由の根源的な意味を考えるための重要なヒントが数多くちりばめられているということに、國分さんが解像度を上げてくれたことで気づくことができた」。この件(くだり)を読むと、どうも、私はスピノザを誤解していたようです。従って、國分著の『スピノザ <エチカ>――「自由」に生きるとは何か』も「読みたい本」リストに加わりました。
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名著の予知能力 (幻冬舎新書 689) 新書 – 2023/5/31
秋満 吉彦
(著)
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「100分de名著」(NHK Eテレ)で取り上げる作品を九年にわたり選び続けてきたプロデューサーが最も戦慄を覚えたのは、現代社会のありようを言い当てる「名著の予知能力」。カミュ「ペスト」には、新型コロナで苦しむ「今」があった。ル・ボン「群衆心理」は、対立意見で分断を煽るSNS社会を見通したかのようだ。ミッチェル「風と共に去りぬ」には、トランプ政権へつながるアメリカの裂け目が見える。名著との格闘から得られる、驚き、興奮、感動。そして人生を変える力。画期的な「名著」の読み方。
- 本の長さ320ページ
- 言語日本語
- 出版社幻冬舎
- 発売日2023/5/31
- 寸法11.1 x 1.6 x 17.4 cm
- ISBN-104344986911
- ISBN-13978-4344986916
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商品の説明
著者について
秋満吉彦(あきみつよしひこ)
一九六五年生まれ。大分県中津市出身。熊本大学大学院文学研究科修了後、一九九〇年にNHK入局。ディレクター時代に「BSマンガ夜話」「日曜美術館」等を制作。その後、ドラマ「菜の花ラインに乗りかえて」、「100分 de 平和論」(第42回放送文化基金賞優秀賞)、「100分 de パンデミック論」(第48回放送文化基金賞優秀賞)、「100分 de メディア論」(第55回ギャラクシー賞優秀賞)等をプロデュースした。現在、NHKエデュケーショナルで教養番組「100分 de 名著」のプロデューサーを担当。著書に『行く先はいつも名著が教えてくれる』(日本実業出版社) 、『「名著」の読み方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)等がある。
一九六五年生まれ。大分県中津市出身。熊本大学大学院文学研究科修了後、一九九〇年にNHK入局。ディレクター時代に「BSマンガ夜話」「日曜美術館」等を制作。その後、ドラマ「菜の花ラインに乗りかえて」、「100分 de 平和論」(第42回放送文化基金賞優秀賞)、「100分 de パンデミック論」(第48回放送文化基金賞優秀賞)、「100分 de メディア論」(第55回ギャラクシー賞優秀賞)等をプロデュースした。現在、NHKエデュケーショナルで教養番組「100分 de 名著」のプロデューサーを担当。著書に『行く先はいつも名著が教えてくれる』(日本実業出版社) 、『「名著」の読み方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)等がある。
登録情報
- 出版社 : 幻冬舎 (2023/5/31)
- 発売日 : 2023/5/31
- 言語 : 日本語
- 新書 : 320ページ
- ISBN-10 : 4344986911
- ISBN-13 : 978-4344986916
- 寸法 : 11.1 x 1.6 x 17.4 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 212,137位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 401位幻冬舎新書
- カスタマーレビュー:
イメージ付きのレビュー
5 星
NHK・Eテレビの「100分de名著」の番組企画・制作の舞台裏
『名著の予知能力』(秋満吉彦著、幻冬舎新書)は、NHK・Eテレビの「100分de名著」のプロデューサーの手になる番組の企画・制作の裏話満載の一冊です。とりわけ興味深いのは、●スタニスワフ・レムの『ソラリス』。●オルテガ・イ・ガセットの『大衆の反逆』、●バールーフ・デ・スピノザの『エチカ』――の3つです。●ソラリス「沼野(充義)さんの解説の中で、最も心に刻まれたのは、『ソラリス』という作品に『絶対的な他者と向き合うことの大切さ』というメッセージが込められているという指摘だった。・・・沼野さんの解説を通じて、『ソラリス』には、まさに今、世界を覆っている重苦しい暗雲を振り払っていくヒントがあると思った。世界は元来、もっともっと複雑で多様であるはずなのに、全てを『敵か味方か』という二色だけで色分けし、敵とみなしたものは徹底して排除するという思潮が世を覆っている。・・・しかし、人間の真の勇気とは、自分とは全く異なる他者に身をさらし、自分自身が変わっていくことも恐れず、違和感や異質性に向き合い続けることではないか? 『ソラリス』の主人公、クリス・ケルヴィンが最後に示した姿勢こそ、レムが最も訴えたかったメッセージであり、私たちが今、最も学ばなければならないことだと思えてならない」。SF作品は苦手な私だが、秋満吉彦にここまで言われては、沼野訳の『ソラリス』を読まずに済ますわけにはいきません。早速、私の「読みたい本」リストに加えました。●大衆の反逆「『敵とともに生きる! 反対者とともに統治する!』という言葉に込められたオルテガの洞察は、中島岳志さんが解説してくれた次の文章を読んでいただければわかるだろう。それは中島さんが依拠する『保守思想』の根幹ともいうべき思想だ。<重要な手続きや規範、礼節などを面倒くさがり、すっ飛ばしてしまうのが大衆の時代ではいか、とオルテガは言います。大衆は、そんな面倒なことをするよりも、さっさと多数派で決めてしまえ、多数者にこそ正しさが宿るのだ、と考える。『リベラル』の根幹にあるはずの、互いの自由を保障し、引き受けるという文明性が大衆の時代に破壊されつつあることに、彼は警鐘を鳴らそうとしていたのだと思います。・・・大衆の時代である現代、人々は自分とは異なる思考をもつ人間を殲滅しようとしている。自分と同じような考え方をする人間だけによる統治が良い統治だと思い込んでいる。それは違う、とオルテガは言うのです。自分と真っ向から対立する人間をこそ大切にし、そういう人間とも議論を重ねることが重要なのだ、と>。中島著の『オルテガ <大衆の反逆>――真のリベラルを取り戻せ』も「読みたい本」リストに加えました。●エチカ「國分(功一郎)さんによる『エチカ』解説で、私たちが漠然と前提としているものの見方がことごとく覆されていった。そこには私たちが日常の中で見過ごしている物事の本質が浮かび上がっていく。近代社会の延長にある私たちの頭の中のOSでは、スピノザが扱っている概念はうまく走ってくれない。そう語る國分さんの解説の通り、最初はとりつくしまもないように感じられた『エチカ』の思考が、私たちの日常の中にぐいぐいと入ってくるような経験だった。私の中では、既存の思考のOSが書き換えられていくような経験といっても過言ではない。それは大げさにいっているわけでは決してなく、仕事の仕方や物事の見方が明らかに変わってきたのだ。たとえば、私たちが使い慣れた『本質』という概念を『形』(エイドス)ではなく『力』(コナトゥス)としてとらえる大胆な視点が挙げられる。・・・新自由主義的な、自己責任だけで人を追い詰めていく考え方から自由になれるのだ。・・・スピノザの哲学には、現代では失われつつある思考の本来のあり方や自由の根源的な意味を考えるための重要なヒントが数多くちりばめられているということに、國分さんが解像度を上げてくれたことで気づくことができた」。この件(くだり)を読むと、どうも、私はスピノザを誤解していたようです。従って、國分著の『スピノザ <エチカ>――「自由」に生きるとは何か』も「読みたい本」リストに加わりました。
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2023年9月13日に日本でレビュー済み
『名著の予知能力』(秋満吉彦著、幻冬舎新書)は、NHK・Eテレビの「100分de名著」のプロデューサーの手になる番組の企画・制作の裏話満載の一冊です。
とりわけ興味深いのは、●スタニスワフ・レムの『ソラリス』。●オルテガ・イ・ガセットの『大衆の反逆』、●バールーフ・デ・スピノザの『エチカ』――の3つです。
●ソラリス
「沼野(充義)さんの解説の中で、最も心に刻まれたのは、『ソラリス』という作品に『絶対的な他者と向き合うことの大切さ』というメッセージが込められているという指摘だった。・・・沼野さんの解説を通じて、『ソラリス』には、まさに今、世界を覆っている重苦しい暗雲を振り払っていくヒントがあると思った。世界は元来、もっともっと複雑で多様であるはずなのに、全てを『敵か味方か』という二色だけで色分けし、敵とみなしたものは徹底して排除するという思潮が世を覆っている。・・・しかし、人間の真の勇気とは、自分とは全く異なる他者に身をさらし、自分自身が変わっていくことも恐れず、違和感や異質性に向き合い続けることではないか? 『ソラリス』の主人公、クリス・ケルヴィンが最後に示した姿勢こそ、レムが最も訴えたかったメッセージであり、私たちが今、最も学ばなければならないことだと思えてならない」。SF作品は苦手な私だが、秋満吉彦にここまで言われては、沼野訳の『ソラリス』を読まずに済ますわけにはいきません。早速、私の「読みたい本」リストに加えました。
●大衆の反逆
「『敵とともに生きる! 反対者とともに統治する!』という言葉に込められたオルテガの洞察は、中島岳志さんが解説してくれた次の文章を読んでいただければわかるだろう。それは中島さんが依拠する『保守思想』の根幹ともいうべき思想だ。<重要な手続きや規範、礼節などを面倒くさがり、すっ飛ばしてしまうのが大衆の時代ではいか、とオルテガは言います。大衆は、そんな面倒なことをするよりも、さっさと多数派で決めてしまえ、多数者にこそ正しさが宿るのだ、と考える。『リベラル』の根幹にあるはずの、互いの自由を保障し、引き受けるという文明性が大衆の時代に破壊されつつあることに、彼は警鐘を鳴らそうとしていたのだと思います。・・・大衆の時代である現代、人々は自分とは異なる思考をもつ人間を殲滅しようとしている。自分と同じような考え方をする人間だけによる統治が良い統治だと思い込んでいる。それは違う、とオルテガは言うのです。自分と真っ向から対立する人間をこそ大切にし、そういう人間とも議論を重ねることが重要なのだ、と>。中島著の『オルテガ <大衆の反逆>――真のリベラルを取り戻せ』も「読みたい本」リストに加えました。
●エチカ
「國分(功一郎)さんによる『エチカ』解説で、私たちが漠然と前提としているものの見方がことごとく覆されていった。そこには私たちが日常の中で見過ごしている物事の本質が浮かび上がっていく。近代社会の延長にある私たちの頭の中のOSでは、スピノザが扱っている概念はうまく走ってくれない。そう語る國分さんの解説の通り、最初はとりつくしまもないように感じられた『エチカ』の思考が、私たちの日常の中にぐいぐいと入ってくるような経験だった。私の中では、既存の思考のOSが書き換えられていくような経験といっても過言ではない。それは大げさにいっているわけでは決してなく、仕事の仕方や物事の見方が明らかに変わってきたのだ。たとえば、私たちが使い慣れた『本質』という概念を『形』(エイドス)ではなく『力』(コナトゥス)としてとらえる大胆な視点が挙げられる。・・・新自由主義的な、自己責任だけで人を追い詰めていく考え方から自由になれるのだ。・・・スピノザの哲学には、現代では失われつつある思考の本来のあり方や自由の根源的な意味を考えるための重要なヒントが数多くちりばめられているということに、國分さんが解像度を上げてくれたことで気づくことができた」。この件(くだり)を読むと、どうも、私はスピノザを誤解していたようです。従って、國分著の『スピノザ <エチカ>――「自由」に生きるとは何か』も「読みたい本」リストに加わりました。
とりわけ興味深いのは、●スタニスワフ・レムの『ソラリス』。●オルテガ・イ・ガセットの『大衆の反逆』、●バールーフ・デ・スピノザの『エチカ』――の3つです。
●ソラリス
「沼野(充義)さんの解説の中で、最も心に刻まれたのは、『ソラリス』という作品に『絶対的な他者と向き合うことの大切さ』というメッセージが込められているという指摘だった。・・・沼野さんの解説を通じて、『ソラリス』には、まさに今、世界を覆っている重苦しい暗雲を振り払っていくヒントがあると思った。世界は元来、もっともっと複雑で多様であるはずなのに、全てを『敵か味方か』という二色だけで色分けし、敵とみなしたものは徹底して排除するという思潮が世を覆っている。・・・しかし、人間の真の勇気とは、自分とは全く異なる他者に身をさらし、自分自身が変わっていくことも恐れず、違和感や異質性に向き合い続けることではないか? 『ソラリス』の主人公、クリス・ケルヴィンが最後に示した姿勢こそ、レムが最も訴えたかったメッセージであり、私たちが今、最も学ばなければならないことだと思えてならない」。SF作品は苦手な私だが、秋満吉彦にここまで言われては、沼野訳の『ソラリス』を読まずに済ますわけにはいきません。早速、私の「読みたい本」リストに加えました。
●大衆の反逆
「『敵とともに生きる! 反対者とともに統治する!』という言葉に込められたオルテガの洞察は、中島岳志さんが解説してくれた次の文章を読んでいただければわかるだろう。それは中島さんが依拠する『保守思想』の根幹ともいうべき思想だ。<重要な手続きや規範、礼節などを面倒くさがり、すっ飛ばしてしまうのが大衆の時代ではいか、とオルテガは言います。大衆は、そんな面倒なことをするよりも、さっさと多数派で決めてしまえ、多数者にこそ正しさが宿るのだ、と考える。『リベラル』の根幹にあるはずの、互いの自由を保障し、引き受けるという文明性が大衆の時代に破壊されつつあることに、彼は警鐘を鳴らそうとしていたのだと思います。・・・大衆の時代である現代、人々は自分とは異なる思考をもつ人間を殲滅しようとしている。自分と同じような考え方をする人間だけによる統治が良い統治だと思い込んでいる。それは違う、とオルテガは言うのです。自分と真っ向から対立する人間をこそ大切にし、そういう人間とも議論を重ねることが重要なのだ、と>。中島著の『オルテガ <大衆の反逆>――真のリベラルを取り戻せ』も「読みたい本」リストに加えました。
●エチカ
「國分(功一郎)さんによる『エチカ』解説で、私たちが漠然と前提としているものの見方がことごとく覆されていった。そこには私たちが日常の中で見過ごしている物事の本質が浮かび上がっていく。近代社会の延長にある私たちの頭の中のOSでは、スピノザが扱っている概念はうまく走ってくれない。そう語る國分さんの解説の通り、最初はとりつくしまもないように感じられた『エチカ』の思考が、私たちの日常の中にぐいぐいと入ってくるような経験だった。私の中では、既存の思考のOSが書き換えられていくような経験といっても過言ではない。それは大げさにいっているわけでは決してなく、仕事の仕方や物事の見方が明らかに変わってきたのだ。たとえば、私たちが使い慣れた『本質』という概念を『形』(エイドス)ではなく『力』(コナトゥス)としてとらえる大胆な視点が挙げられる。・・・新自由主義的な、自己責任だけで人を追い詰めていく考え方から自由になれるのだ。・・・スピノザの哲学には、現代では失われつつある思考の本来のあり方や自由の根源的な意味を考えるための重要なヒントが数多くちりばめられているということに、國分さんが解像度を上げてくれたことで気づくことができた」。この件(くだり)を読むと、どうも、私はスピノザを誤解していたようです。従って、國分著の『スピノザ <エチカ>――「自由」に生きるとは何か』も「読みたい本」リストに加わりました。
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2023年7月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
読みたくなる本を探すのに効果的なのだが、途中クドくなる点が若干残念。
2023年7月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
情熱や裏話はわかるが、文章が読みづらい
2023年7月4日に日本でレビュー済み
著者は、NHK番組「100分de名著」のプロデューサーである。評者は、当番組の以前からの視聴者の一人ではあるが、「隠れた人気番組」の企画過程を本書で知り改めて納得するとともに、もう一度見直したい「名著」がいくつもあった。
「100分de名著」の魅力は、普通の人なら読むことのない(または少ない)「名著」を、25分×4回つまり1か月間で、独自の視点から講師が解説してくれることだろう。また司会(女性アナウンサーと伊集院光氏)の役割も大きい。特に伊集院氏の起用が本番組の大きな魅力である。「素人」を自称する伊集院氏のコメントが名著の魅力を引き出すのにどんなに貢献していることか。本書でも何か所で述べられているが、同氏の鋭いコメントで講師が唖然としたり、独創的過ぎて講師を青ざめたりさせることも稀ではない。
著者はNHKの外で様々な著者たちと接触する機会を積極的に作り、その中からピンとくるテーマを探り出し磨き上げながら番組化していく、とのことである。放送までに1年近い準備期間が必要というから驚いた。それが放送の頃には、時代にピシャリとはまるテーマになっていることがしばしばだという。「名著の予知能力」と題した由縁である。鋭い時代精神と批判精神に溢れた著者の名著「選択眼」に感謝の拍手を贈りたい。
「100分de名著」は2023年6月放送分までで131もの名著を紹介しているが、本書で紹介したのはその一部に過ぎない。見逃した分はNHKオンラインで(有料であるが)視聴できるのが有難い。今後も魅力的な名著の紹介が続くことを期待する。
「100分de名著」の魅力は、普通の人なら読むことのない(または少ない)「名著」を、25分×4回つまり1か月間で、独自の視点から講師が解説してくれることだろう。また司会(女性アナウンサーと伊集院光氏)の役割も大きい。特に伊集院氏の起用が本番組の大きな魅力である。「素人」を自称する伊集院氏のコメントが名著の魅力を引き出すのにどんなに貢献していることか。本書でも何か所で述べられているが、同氏の鋭いコメントで講師が唖然としたり、独創的過ぎて講師を青ざめたりさせることも稀ではない。
著者はNHKの外で様々な著者たちと接触する機会を積極的に作り、その中からピンとくるテーマを探り出し磨き上げながら番組化していく、とのことである。放送までに1年近い準備期間が必要というから驚いた。それが放送の頃には、時代にピシャリとはまるテーマになっていることがしばしばだという。「名著の予知能力」と題した由縁である。鋭い時代精神と批判精神に溢れた著者の名著「選択眼」に感謝の拍手を贈りたい。
「100分de名著」は2023年6月放送分までで131もの名著を紹介しているが、本書で紹介したのはその一部に過ぎない。見逃した分はNHKオンラインで(有料であるが)視聴できるのが有難い。今後も魅力的な名著の紹介が続くことを期待する。
2023年11月15日に日本でレビュー済み
番組のファンです。録画で繰り返し見る回もあります。アニメーション動画に凝った回(直近では林芙美子の回など)は、録画を消せなくて保存版にしています。林芙美子の回は朗読の方も素敵でした。
作業しながら録画の音だけを聞くこともあるので25分はあっという間です。今回、本書でゆっくり向き合えてますます番組のファンになりました。
複雑な時代を反映し、どこをクローズアップし、何をどのような表現にするかなど、細かいところの気遣いに感服します。放送を見るだけでもじゅうぶんに伝わってきますが、本書を読むとさらにそこに至るまでの試行錯誤の軌跡がわかります。
裏話の続編もぜひぜひ
作業しながら録画の音だけを聞くこともあるので25分はあっという間です。今回、本書でゆっくり向き合えてますます番組のファンになりました。
複雑な時代を反映し、どこをクローズアップし、何をどのような表現にするかなど、細かいところの気遣いに感服します。放送を見るだけでもじゅうぶんに伝わってきますが、本書を読むとさらにそこに至るまでの試行錯誤の軌跡がわかります。
裏話の続編もぜひぜひ
2023年7月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書はNHK Eテレの「100分de名著」プロデューサーによる番組制作の裏話や随筆集です。理由は後述しますが、自分は「100分de名著」という番組コンセプト自体に否定的です。原典をエディットした時点で原典とは別の作品となり、原典とは似て非なるものになります。そこからうかがい知れるのは、原典の意図する事ではなくエディットした人間の個性になってしまうと思います。エディットしたのは番組のプロデューサーである本書の著者ですから、著者の個性が本書に表れています。ちょっとおしつけがましいところがあります。
一般にプロデューサーとはヒトとモノとコトをつなぐ仕事であると言われます。たくさんの情報を見聞きし学び人に会いそれらをつないでいく、本当に大変な労力をかけて著者が仕事に取り組まれているのが本書を読むとわかります。その点は本当に敬服いたします。また、本書には結果的に多くのおすすめ書籍が並んでおり読んでみたい興味をそそられます。
ですがあれれ?と思う点もあります。まず「100分で名著」というコンセプトです。これは私が仏教を学ぶ中で感じるようになった事なのですが、原典は編纂しちゃだめです。元々仏教というのはブッダの教えの事ですが、ブッダは生前テキストをまとめるという事をしませんでした。何でかは知りません。あらゆるものは変化し続けるという事と関係があるかもしれないし、ブッダが相談者に応じたそれぞれ異なる説法を行い相手を悟りに導く対機説法を行った事と関係があるのかもしれません。いずれにせよブッダの死後に大量のお経が生まれました。ブッダの言葉を能う限り正確に残したとされるお経もあるにはありますが、それ以外にたとえば「如是我聞(おれは個人的にはこんな風に理解してんだけどさ、ぐらいの意訳でとらえています)」から始まるものもあります。ブッダの教えを取捨選択したらそれはもうブッダの教えではなく、取捨選択した人の考えです。本文中でも如是我聞形式で編纂行為により「100分de名著」を作る事には何度か言及がありますが、著者は結局のところ編纂行為は容認されると思っておられるようです。ほこりをかぶった名著に光を当てる事になるし、番組を足掛かりに原典にあたる視聴者もいるからです。また、如是我聞形式を本書の文章構成にも認める事ができます。ある原典を読んでほしいが長いので自分なりにまとめる→これは現代社会のこのような現象と同じではないかという意見に持っていく。何度かこのような記述が行われますが、正直ちょっと我田引水ではないかなと思いました。
現代社会を読み解くカギが名著にはある、それが名著の予知能力だとする著者の考えにも違和感があります。私は悲観的な人間ですので、名著が現代社会を射程距離におさめているのではなく、人間の精神的な有りようがたかだか数百年程度では変化していないという事、種全体としては全然進化してないって事に過ぎないと考えます。ヒトの本能的な部分を意思の力で改善した個人は歴史上何人かいたと思いますし、そうあろうと努めた方々がいたと思います。そのような方々が残されたのが「100分de名著」で取り上げられる名著群でありましょう。しかし数としてそのような方々は圧倒的に少数であり、そのような人格者達は尊ばれはしますが煙たがる人もたくさんいて、大半の人間は名著が掲げるごとくには生きられなかったのが現実かと思います。そのような現実のヒトの有り様ではなく、著者の根底には人たるものこのようにあるべきだという理想があるように感じます。理想に依拠しておられる著者のような方々は、なぜかおしなべてアメリカのトランプ前大統領を批判します。まるで試験紙くらいわかりやすいです。
理想に依拠して常に成長しようとする生き方は正しいです。ですがしばしば理想が現実を踏みにじる事もあったのは歴史上明らかです。国民が平等であるためにという理想で建国されたはずの社会主義国家では、結果的に全体主義と強制労働施設と密告と秘密警察がセットでついてきました。自分は自己批判しているから正しい道を歩んでいるんだと思い上がってはまずいです。本書でも、わからない事を問い続ける事を自分に課すべきというメッセージがありましたが、問い続けた気になって、実際には考えが硬直して現実から乖離してないかなとちらっと思いました。
本書の終章で著者は「華氏451度」を引き合いに出して、自分は焚書の時代のブックピープル(一人一冊の本を暗記した人々)になりたいという旨が語られておりました。原典を編纂して自我を忍ばせるような「100分de名著」ではなく、自我を原典の完コピに捧げるのがブックピープルじゃないの?と思いました。とりあえず自分は「華氏451度」を読んだことがないのでまずは原典にあたろうと思います。
なんだか著者の人格批判めいてしまいましたが、10数年ほど前には飲み会の席で仕事論やら男性論などの自説をこんこんと説く上司がいたものです。本書はそういう雰囲気を隠しているようで実際にはだだもれなそんな感じの少し懐かしい一冊です。
一般にプロデューサーとはヒトとモノとコトをつなぐ仕事であると言われます。たくさんの情報を見聞きし学び人に会いそれらをつないでいく、本当に大変な労力をかけて著者が仕事に取り組まれているのが本書を読むとわかります。その点は本当に敬服いたします。また、本書には結果的に多くのおすすめ書籍が並んでおり読んでみたい興味をそそられます。
ですがあれれ?と思う点もあります。まず「100分で名著」というコンセプトです。これは私が仏教を学ぶ中で感じるようになった事なのですが、原典は編纂しちゃだめです。元々仏教というのはブッダの教えの事ですが、ブッダは生前テキストをまとめるという事をしませんでした。何でかは知りません。あらゆるものは変化し続けるという事と関係があるかもしれないし、ブッダが相談者に応じたそれぞれ異なる説法を行い相手を悟りに導く対機説法を行った事と関係があるのかもしれません。いずれにせよブッダの死後に大量のお経が生まれました。ブッダの言葉を能う限り正確に残したとされるお経もあるにはありますが、それ以外にたとえば「如是我聞(おれは個人的にはこんな風に理解してんだけどさ、ぐらいの意訳でとらえています)」から始まるものもあります。ブッダの教えを取捨選択したらそれはもうブッダの教えではなく、取捨選択した人の考えです。本文中でも如是我聞形式で編纂行為により「100分de名著」を作る事には何度か言及がありますが、著者は結局のところ編纂行為は容認されると思っておられるようです。ほこりをかぶった名著に光を当てる事になるし、番組を足掛かりに原典にあたる視聴者もいるからです。また、如是我聞形式を本書の文章構成にも認める事ができます。ある原典を読んでほしいが長いので自分なりにまとめる→これは現代社会のこのような現象と同じではないかという意見に持っていく。何度かこのような記述が行われますが、正直ちょっと我田引水ではないかなと思いました。
現代社会を読み解くカギが名著にはある、それが名著の予知能力だとする著者の考えにも違和感があります。私は悲観的な人間ですので、名著が現代社会を射程距離におさめているのではなく、人間の精神的な有りようがたかだか数百年程度では変化していないという事、種全体としては全然進化してないって事に過ぎないと考えます。ヒトの本能的な部分を意思の力で改善した個人は歴史上何人かいたと思いますし、そうあろうと努めた方々がいたと思います。そのような方々が残されたのが「100分de名著」で取り上げられる名著群でありましょう。しかし数としてそのような方々は圧倒的に少数であり、そのような人格者達は尊ばれはしますが煙たがる人もたくさんいて、大半の人間は名著が掲げるごとくには生きられなかったのが現実かと思います。そのような現実のヒトの有り様ではなく、著者の根底には人たるものこのようにあるべきだという理想があるように感じます。理想に依拠しておられる著者のような方々は、なぜかおしなべてアメリカのトランプ前大統領を批判します。まるで試験紙くらいわかりやすいです。
理想に依拠して常に成長しようとする生き方は正しいです。ですがしばしば理想が現実を踏みにじる事もあったのは歴史上明らかです。国民が平等であるためにという理想で建国されたはずの社会主義国家では、結果的に全体主義と強制労働施設と密告と秘密警察がセットでついてきました。自分は自己批判しているから正しい道を歩んでいるんだと思い上がってはまずいです。本書でも、わからない事を問い続ける事を自分に課すべきというメッセージがありましたが、問い続けた気になって、実際には考えが硬直して現実から乖離してないかなとちらっと思いました。
本書の終章で著者は「華氏451度」を引き合いに出して、自分は焚書の時代のブックピープル(一人一冊の本を暗記した人々)になりたいという旨が語られておりました。原典を編纂して自我を忍ばせるような「100分de名著」ではなく、自我を原典の完コピに捧げるのがブックピープルじゃないの?と思いました。とりあえず自分は「華氏451度」を読んだことがないのでまずは原典にあたろうと思います。
なんだか著者の人格批判めいてしまいましたが、10数年ほど前には飲み会の席で仕事論やら男性論などの自説をこんこんと説く上司がいたものです。本書はそういう雰囲気を隠しているようで実際にはだだもれなそんな感じの少し懐かしい一冊です。
2023年7月3日に日本でレビュー済み
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著者がすごい勉強家で、博覧強記なのはわかりました。
そういう下地の上に、名著紹介番組が成り立って、長く続いているということも理解できます。
古今東西の時間と空間を超越して読み継がれてきた名著が、将来起こるかもしれないことを予知してしまう「能力」を秘めていた例を語ることで、実は職業人としての著者自身の成果を語る本であることもわかりました。
そのような「実力プロデューサー」とは、各分野の専門家に出演を依頼することを「抜擢」と臆せず表現し、公刊するほどの巨匠だったということも本書で初めて知ることができ、たいへん勉強になりました。
そういう下地の上に、名著紹介番組が成り立って、長く続いているということも理解できます。
古今東西の時間と空間を超越して読み継がれてきた名著が、将来起こるかもしれないことを予知してしまう「能力」を秘めていた例を語ることで、実は職業人としての著者自身の成果を語る本であることもわかりました。
そのような「実力プロデューサー」とは、各分野の専門家に出演を依頼することを「抜擢」と臆せず表現し、公刊するほどの巨匠だったということも本書で初めて知ることができ、たいへん勉強になりました。