ルネサンスに興味があり、初学者ですが本書を手に取りました。とても読みやすかったです。「ルネサンス」という言葉はとても有名ですが、これはいったい何なのか、またなぜルネサンスが起こり、どうやって終焉したのか、という、理解しているようで答えにくい問いについて解説していました。私の備忘録として本書の概要を記載すると、まずルネサンスと呼ばれている時代は、古代ローマ・ギリシャ時代の思想、芸術、技術などが再評価された時代であるということです。これは絵画、彫刻、建築、哲学のような分野で顕著にあらわれます。逆に古代ローマに「学ばなかった」点としては、公衆衛生があるようです。ゆえにルネサンス時代の欧州主要都市はかなり臭かったようですし、ペスト(黒死病)の脅威からなかなか逃れられなかったわけです。
次になぜルネサンスが始まったかについてです。本書では十字軍遠征をその理由としています。欧州のキリスト教国が軍隊を組織して、エルサレムをはじめとした聖地奪還のための遠征をするわけですが、これによってヴェネチアやフィレンツェを筆頭にイタリアで商業や金融業が発展します(事実上の金貸し業である両替業や為替業が発展)。また当時のキリスト教国では皇帝と教皇という二大権力が存在していて、町同士が対立や連携をしていました。その中で商人層が力をつけ、いわゆる自治都市国家が生まれます。つまり君主や教会以外の第3の勢力が生まれたわけです。さらに十字軍遠征によって、イスラム国家から、古代ギリシャ・ローマ時代の文献が逆輸入されるようになり、特にプラトンの思想が注目されることになりました(ネオプラトニズムの進化と人文主義)。建築でも古代ローマ時代の建築技術が再評価されますし、絵画では「奥行きを持った空間」「人間描写の写実性」「感情表現」というこれも古代ギリシャ・ローマのテクニックが再評価され、進化していくわけです。
そして16世紀にルネサンスは衰退していきますが、この理由について本書では、大航海時代の到来と宗教革命を挙げます。前者はアメリカ大陸の発見や世界一周航路の発見で、これによって地中海貿易の重要度が低下し、大西洋側に経済の中心が移行するわけです。これによってイタリアの文化・経済面での地位低下が始まりますが、ダヴィンチのフランス移住などもその象徴と言えます。また宗教改革によってプロテスタントが登場しますが、プロテスタントはカトリックのような華美な装飾具や絵画を必要としないことから、ルネサンス時代の芸術や建築需要が低下していくという流れです。
ルネサンスを扱った書籍と言うと芸術に偏る本が多いなか、本書では芸術だけではなく世界史的なビッグヒストリー観の中に芸術や建築、思想の変化を埋め込んでいて、とても良い印象を持ちました。ルネサンスを学ぶにあたって初めに読む本としてはお薦めだと思います。

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ルネサンス 歴史と芸術の物語 (光文社新書) 新書 – 2012/6/15
池上 英洋
(著)
ルネサンスとは、15世紀のイタリア・フィレンツェを中心に、 古代ギリシャ・ローマ世界の秩序を規範として古典復興を目指した一大ムーブメントを指す。 しかし、古代の文化が復興した理由、あるいは中世的世界観から脱する流れに至った理由を明確に答えることはできるだろうか。 ルネサンスとは本来、何を意味し、なぜ始まり、なぜ終わったのか――。 皇帝と教皇による「二重権力構造」をもち、圧倒的な存在として人々を支配していた中世キリスト教社会は、いかにして変革していったのか。 美術との関係だけで語られることの多い「ルネサンスという現象」を社会構造の動きの中で読み解き、西洋史の舞台裏を歩く。
- 本の長さ238ページ
- 言語日本語
- 出版社光文社
- 発売日2012/6/15
- 寸法10.8 x 1.2 x 17.3 cm
- ISBN-104334036910
- ISBN-13978-4334036911
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商品の説明
著者について
池上英洋(いけがみひでひろ) 1967年広島県生まれ。國學院大学文学部准教授。 東京芸術大学卒業、同大学院修士課程修了。 海外での研究活動、恵泉女学園大学人文学部准教授を経て現職。専門はイタリアを中心とする西洋美術史・文化史。 著書に『Due Volti dell'Anamorfosi』(Clueb、イタリア)、『レオナルド・ダ・ヴィンチの世界』(編著、東京堂出版)、 『ダ・ヴィンチ―全作品・全解剖。』『キリスト教とは何か。』(監修、ともに阪急コミュニケーションズ)、 『血みどろの西洋史』(河出書房新社) 『恋する西洋美術史』『イタリア 24の都市の物語』(ともに光文社)、 『西洋美術史入門』(筑摩書房)などがある。
登録情報
- 出版社 : 光文社 (2012/6/15)
- 発売日 : 2012/6/15
- 言語 : 日本語
- 新書 : 238ページ
- ISBN-10 : 4334036910
- ISBN-13 : 978-4334036911
- 寸法 : 10.8 x 1.2 x 17.3 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 390,497位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,465位光文社新書
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2023年9月22日に日本でレビュー済み
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2019年4月30日に日本でレビュー済み
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十字軍遠征でキリスト教徒がみたイスラム文化は先端的で、その後のヨーロッパの発展に寄与していることが学べます。
2017年7月25日に日本でレビュー済み
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歴史上の大きな転換は様々あるが、そのどれもが突然変異で生み出さるわけではない。
その地や周辺国の情勢、信仰、気候、病、経済、あらゆる条件が折り重なり、未知なるを織り紡ぐ。
ルネサンスはただの古典古代の復刻ではない。いわゆる暗黒の中世を経て1000年ぶりの人文主義への大回帰。
本書はルネサンスに興味を持った人への導入に素晴らしい。十字軍から始まり、金融の興隆からコムーネの拡大、やがて広がる共和制への流れなど簡潔にまとめられている。長々書かずポイントポイントで小気味良く区切られているので、ついついと読み進めて閉じるタイミングがみつからずあっという間に読み終わる。もちろん細かな考察まではカバーしていない。例えば古代の神々が復活したとはいえキリスト教がすたれるわけではなく、むしろ古代の神々をキリスト教に取り込みながら進化していったりという、もう一歩踏み込んだ考察などは書かれていない。
あくまで導入書である。されど素晴らしき導入書でもある。これを手にした人ならば本書をきっかけにさらにルネサンス時代に足を踏み入れることになるであろう良書。
その地や周辺国の情勢、信仰、気候、病、経済、あらゆる条件が折り重なり、未知なるを織り紡ぐ。
ルネサンスはただの古典古代の復刻ではない。いわゆる暗黒の中世を経て1000年ぶりの人文主義への大回帰。
本書はルネサンスに興味を持った人への導入に素晴らしい。十字軍から始まり、金融の興隆からコムーネの拡大、やがて広がる共和制への流れなど簡潔にまとめられている。長々書かずポイントポイントで小気味良く区切られているので、ついついと読み進めて閉じるタイミングがみつからずあっという間に読み終わる。もちろん細かな考察まではカバーしていない。例えば古代の神々が復活したとはいえキリスト教がすたれるわけではなく、むしろ古代の神々をキリスト教に取り込みながら進化していったりという、もう一歩踏み込んだ考察などは書かれていない。
あくまで導入書である。されど素晴らしき導入書でもある。これを手にした人ならば本書をきっかけにさらにルネサンス時代に足を踏み入れることになるであろう良書。
2017年9月14日に日本でレビュー済み
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ルネサンスが起こった歴史的・地理的背景、ヨーロッパ社会に与えたインパクト、なぜギリシャやローマ文化の復活と関連するのか、当時の生活様式などなど、ルネサンスが一通り分かるように書かれている。
簡潔な記載で内容が絞られており読みやすい。
ルネサンスを学ぶのであれば、入門書として手に取る価値はある。
簡潔な記載で内容が絞られており読みやすい。
ルネサンスを学ぶのであれば、入門書として手に取る価値はある。
2018年3月28日に日本でレビュー済み
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イタリア旅行に行く前に読むことをおススメします。背景知識ゼロで教会や美術館を観光するのと、この本を読んでから観光するのとでは、着眼点がはっきり変わるはずです。例えば本書で紹介のあった「サンタ・マリアデルカルミネ教会にあるマザッチョの絵」は人の感情を豊かに表現している点などにおいて当時としては非常に革新的で、ミケランジェロなどの多くの画家たちがこの教会で模写するという美術教育を受けたそうです。それを知ってこの教会を訪れるのと知らずにこの訪れるのとでは絵を見た時の感動も大きく違うはずです。これはほんの一例で、本書ではルネサンスの始まりから終焉までを丁寧に噛み砕いて説明されており、その激動の時代に創られた芸術作品や建築物を実際に見に行くことで、イタリア旅行をより一層楽しめるはずです。とにかく私はイタリアに行きたくなりました。
2020年9月5日に日本でレビュー済み
14~15世紀のルネサンスを中心とする多くの造形芸術(絵画・彫刻・建築)をとりあげ、それらの特徴を比較しながら、背景にある当時の経済・社会情勢も解説しようとする著作。
筆者の専門である美術史に関する説明はわかりやすいし、説得力もある。例えば、古典復興として立ち現れた古代ギリシア・ローマの多神教的文化をキリスト教的一神教文化の中に融合させるためには、唯一絶対神理論との親和性が高かったプラトン哲学のイデア論が利用され(ネオ・プラトニズム)、さらには当時の芸術理論も形成したことなどは興味深かった。「プラトンの思想こそ、ルネサンス芸術の本質をある程度決定した」(101頁)
一方、経済・社会史に関する説明になると、底の浅さが垣間見えてしまうように思えた。例えば、ルネサンスという文化運動が生まれた原因を、筆者はしきりに十字軍を契機に東西間での人・モノ・情報の交流が盛んになったためと説明する。一応この説明を認めるとしても、ビザンティンないしイスラムで継承・保存されていた古代ギリシア文化は、十字軍兵士にとって「かつて彼らの祖先には馴染みのものだった」(96頁)とか「かつて放棄していた“自分たちの文化”にほかなりませんでした」(98頁)といった叙述になると、筆者の研究者としての力量に大きな疑問符がつく。十字軍騎士・兵士の大部分は現在の仏独英出身であり、彼らの祖先は広い意味でのゲルマン民族となろう。共和制および帝政ローマにギリシア文化が深く浸透していたことは事実だが、それがゲルマン民族にまで及んでいたのかどうかはきわめて疑わしい。結局のところ、ヨーロッパを一緒くたにしてその精神的起源は古代ギリシアだとみなす近代「ギリシア愛護主義」を鵜呑みにした安直な言説といえよう。
本書は、焦点を美術・芸術の歴史にどっしりと据え、その背後にある経済や社会に関しては、「こう言われている」程度で軽くふれておく方が無難だったのではないか。
筆者の専門である美術史に関する説明はわかりやすいし、説得力もある。例えば、古典復興として立ち現れた古代ギリシア・ローマの多神教的文化をキリスト教的一神教文化の中に融合させるためには、唯一絶対神理論との親和性が高かったプラトン哲学のイデア論が利用され(ネオ・プラトニズム)、さらには当時の芸術理論も形成したことなどは興味深かった。「プラトンの思想こそ、ルネサンス芸術の本質をある程度決定した」(101頁)
一方、経済・社会史に関する説明になると、底の浅さが垣間見えてしまうように思えた。例えば、ルネサンスという文化運動が生まれた原因を、筆者はしきりに十字軍を契機に東西間での人・モノ・情報の交流が盛んになったためと説明する。一応この説明を認めるとしても、ビザンティンないしイスラムで継承・保存されていた古代ギリシア文化は、十字軍兵士にとって「かつて彼らの祖先には馴染みのものだった」(96頁)とか「かつて放棄していた“自分たちの文化”にほかなりませんでした」(98頁)といった叙述になると、筆者の研究者としての力量に大きな疑問符がつく。十字軍騎士・兵士の大部分は現在の仏独英出身であり、彼らの祖先は広い意味でのゲルマン民族となろう。共和制および帝政ローマにギリシア文化が深く浸透していたことは事実だが、それがゲルマン民族にまで及んでいたのかどうかはきわめて疑わしい。結局のところ、ヨーロッパを一緒くたにしてその精神的起源は古代ギリシアだとみなす近代「ギリシア愛護主義」を鵜呑みにした安直な言説といえよう。
本書は、焦点を美術・芸術の歴史にどっしりと据え、その背後にある経済や社会に関しては、「こう言われている」程度で軽くふれておく方が無難だったのではないか。
2013年4月4日に日本でレビュー済み
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著者は美術史と文化史が専門ということで、西洋史の専門家が書いた史学書とは多少異なった趣がある本です。特徴としては、まずなんといっても美術作品や美しい建造物がフルカラーで載せてあり目を引きます。しかし、それだけではなく、ルネサンスを語る上では欠かせない人文主義と古典復興、キリスト教、戦争、都市機構、経済システム、交易などについても詳細に語られています。
私自身、本書を読んで最も感心したのは、ルネサンスが起こすまでの歴史、現実に起こるに至る道筋、ルネンサンスの栄華と終焉といった風に、時間軸を置いて全体の流れを示していることです。このような構成のため、初学者にも優しくわかりやすいものとなっていると思います。
観て楽しく、読んで楽しい本ですので、ルネサンスに興味があれば手に取ってみてください。
私自身、本書を読んで最も感心したのは、ルネサンスが起こすまでの歴史、現実に起こるに至る道筋、ルネンサンスの栄華と終焉といった風に、時間軸を置いて全体の流れを示していることです。このような構成のため、初学者にも優しくわかりやすいものとなっていると思います。
観て楽しく、読んで楽しい本ですので、ルネサンスに興味があれば手に取ってみてください。
2020年5月15日に日本でレビュー済み
本書は、美術作品をひとつひとつ、じっくりと語ることはしない。最後の第6章でルネサンスの美術家30人が挙げられているが、掲載図版は各人の代表作1点のみであり、その活動の歴史的意義が手短に述べられるにとどまっている。著者はプロト・ルネサンスからルネサンスの終焉までの美術作品を味わうために必要な歴史的背景やキーワード(「金融業」「メディチ家」「遠近法」「ネオ・プラトニズム」「共和制」など)を、読者にわかりやすく伝えることに専念している。
同著者のレオナルド・ダ・ヴィンチ論などの愛読者には、内容的に少し物足りないと感じられるかもしれないが、ルネサンス美術鑑賞のために携帯しておくべき簡易ハンドブックであると言えるだろう。
同著者のレオナルド・ダ・ヴィンチ論などの愛読者には、内容的に少し物足りないと感じられるかもしれないが、ルネサンス美術鑑賞のために携帯しておくべき簡易ハンドブックであると言えるだろう。