フランスの怪談と言うと、ヴェルサイユ宮殿を散策していた旅行者が突然ロココ時代の雅宴にタイム・スリップしてしまった…等と言う話が有名な所為か、つい「フランスともなると幽霊譚までエレガントなのか」と思ってしまう。
だが、実際にはそんな優雅な話ばかりではない…本書を読めば、フランスの怪異譚も他の欧州地域と同じく、幽霊、妖怪、吸血鬼、超能力、魔術等々、ごく一般的な事が解るであろう。
勿論、本書は実録ではない上に決して怖くも無いのだが(編者も「一口に怪談と言ってしまうのは些か違う」と解説)、幻想小説集としての不可思議な魅力があったように思う。
本書に収められているのは全12話。
例えば、本書の冒頭を飾るネルヴァル「魔法の手」は、魔術と予知を題材にしながら人間の愚かさも上手く捉えているので教訓的だし、メリメ「イールのヴィーナス」は登場人物がたまたまヴィーナスの像に結婚指輪を嵌めてしまった所為で恐ろしい事が起こる怪異譚で、古今東西を問わず幅広く描かれる「人形や銅像と人間との恋」を描いた美しいロマンスとは違って無気味さを醸し出しているのが面白い。
また、ルヴェル「或る精神異常者」は、ごく平凡な一人の青年の“狂気の趣味”を描いているだけに一層「異常性」が際立っているし、エーメ「壁を抜ける男」は豪快さと滑稽さを併せ持った作品として印象的でもある。
更に、マンディアルグ「死の劇場」は澁澤龍彦『暗黒怪奇短篇集』にも収録されていたので既に読んだ事があったが、人生の最期を一つのドラマとして公衆の面前で公開すると言う発想自体が斬新でもあり、改めて読み直してもやはり迫力があった。
但し、一つ気になったのは、作品に依っては翻訳そのものに違和感があった事であろうか…特にグリーン「死の鍵」については、例えば1時間を15分毎に分けて表現する西洋独特の言い回し「四分の一時間」、或いは自分の母親を「あなた」と呼ぶのは日本では余り馴染めないので、ここは意訳しても良かったのではないかと思う。
心象風景や精神性に重点を置いた作品で若干中弛みしがちであるだけに、余りにも直訳過ぎるのが読み辛さを倍増させてしまったようにも思い、少し残念であった。
尤も、それは些細な事…ここで全てを紹介出来ないものの、個性的な作品の数々は必ずや幅広い読者層の心を捉えるであろうし、読み応えは充分だったように思う。
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フランス怪談集 (河出文庫) 文庫 – 2020/4/4
日影丈吉
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- 本の長さ480ページ
- 言語日本語
- 出版社河出書房新社
- 発売日2020/4/4
- 寸法10.6 x 1.8 x 15 cm
- ISBN-104309467156
- ISBN-13978-4309467153
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商品の説明
著者について
1908ー1991 作家、翻訳家、料理研究家。幻想小説、ミステリなど、異色の作風で知られる。「狐の鶏」で日本探偵作家クラブ賞、『泥汽車』で泉鏡花文学賞。
登録情報
- 出版社 : 河出書房新社; 新装版 (2020/4/4)
- 発売日 : 2020/4/4
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 480ページ
- ISBN-10 : 4309467156
- ISBN-13 : 978-4309467153
- 寸法 : 10.6 x 1.8 x 15 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 205,767位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2020年7月6日に日本でレビュー済み
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河出書房の国名怪談シリーズ、『イギリス怪談集』が良かったので購入しました。古き良き英国怪談というのはオーソドックスで時代を超えて楽しめるものです。しかしこの『フランス怪談集』は怪談を期待して買うと肩透かしです。テオフィル・ゴーティエ『死霊の恋』が吸血鬼ものだったのとマルセル・シュオップ『木乃伊つくる女』にミイラがでてきていて異国趣味満点だった、くらいでしょうか。ドールヴィィの『深紅のカーテン』はフランス人らしい、イメージ通りの話だなと思います。個人的には田辺貞之助と日影丈吉、澁澤龍彦が好きで(その訳文が楽しみで)期待していました。また、メリメの話が好きなので何が入っているか楽しみでしたが『イールのヴィーナス』は他のアンソロジーで読んだものでした。プロスペール・メリメの怪談をもっと読みたいです。