今、私は、「思い出の手放し方」について、思索しています。
「手放すこと」は、「捨てること」とは違う。
断じて違う。ましてや「覚えていない」「忘れた」「消した」などという戯言も論外だ。または、そのフリもだ。
肉体や建物や風景から、見かけではないその本質的な、思い出や愛しさや募る情感を切り離してあげることなのだ、と思うように、思おうとするように、今、自分に言い聞かせているところがあります。
これは、深刻で重い、思索の修行でもあります。
私の母は、最後の10年間は、手術と闘病の日々でした。
心身ともに傷んでいました。
自分の故郷を戦災も含め二度も喪失。
自分の乳房、大腿骨、腰の骨も喪失しました。
自尊心まで失いかけての死でした。
自尊心というのは、自分を粗末にしない心のことです。
それは、言い換えると、他人が自分を大事に思ってくれていると自ら十分に思えている時に、そういう心もちになるのだと言えます。
そのことを思うと、私自身がその自尊心の支えになれていたのか、という後悔と自責と、さらに他者への不満が、心の奥からぬぐいきれないのです。
それでも、このごろ、やっと、 あんなに苦しい肉体から、魂は、抜け出したかったのだと、思えるようになり始めました。
精神が、傷んだ肉体から解放されたのだ、と実感しはじめています。
やっと、少しずつ。そうでも思わないと、とても死を現実として理解できないのです。
写真家の荒木さんは、生と死をリアルに描く人です。
この場合の「リアル」というのは、荒木さんの写真の対象との距離感のことを示しています。
チロは、荒木さんの愛猫です。
『愛しのチロ』では若々しかった肉体。
『チロ愛死』では、衰弱し、朽ちてゆく肉体。
そのどちらも、「愛しい距離感」=リアルに写しています。
カメラを構えながら、荒木さんは、「思い出の手放し方」を探っていたのでしょうか。
『愛しのチロ』では存命だった妻、陽子さんも、『チロ愛死』では、亡くなっています。
チロの死を通して重なる思い出を、荒木さんは、抱きしめるように、祈るように、愛おしむように、写真という表現を通して、「手放している」と、とても素直に感じられた、私が、いました。

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チロ愛死 ハードカバー – 2010/9/18
荒木 経惟
(著)
ベストセラー『愛しのチロ』でも知られる、アラーキーの愛猫チロ。22年をともに生きたチロの死を看取り=見撮り、チロへの深い愛を、切ないまでに焼きつけた、感動の写真集!
- 本の長さ112ページ
- 言語日本語
- 出版社河出書房新社
- 発売日2010/9/18
- ISBN-104309272126
- ISBN-13978-4309272122
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商品の説明
著者について
1940年東京生まれ。写真家。“アラーキー”の愛称とともに多彩な活躍を続け、既に200冊以上の著作を刊行。1990年代以降、世界で最も注目を集めるアーティストの一人となる。
登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (2010/9/18)
- 発売日 : 2010/9/18
- 言語 : 日本語
- ハードカバー : 112ページ
- ISBN-10 : 4309272126
- ISBN-13 : 978-4309272122
- Amazon 売れ筋ランキング: - 484,387位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 3,370位写真 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2014年1月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
愛猫のミー子が亡くなって、私と家内はとても落ち込んでいました。特に訳あってミー子の最後を見届けることができなかったのも大きな原因の一つでした。そんな時、荒木さんの「チロ愛死」に出会って救われる思いがしました。日付順に、衰弱していくチロが荒木さんの愛でカメラに収められています。チロはミー子に似ていました。私はそんな風には撮せなかった。愛が足りなかった。
アラーキーと呼ばれるこの人がこんな視点で猫のことを見ているんだと知ったことも、なぜだか心落ち着かせてくれました。「チロ愛死」は愛猫を失った人にはお勧めです。いつかそこから立ち直らなければならないのですから。
アラーキーと呼ばれるこの人がこんな視点で猫のことを見ているんだと知ったことも、なぜだか心落ち着かせてくれました。「チロ愛死」は愛猫を失った人にはお勧めです。いつかそこから立ち直らなければならないのですから。
2014年10月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
愛しのチロを手にした頃はまだ猫を飼っていませんでした。
毎日の世話なんて絶対無理だと思って、ブログや猫本で他所様の猫を眺めるだけでした。
その後、知人から半ば強引に保護猫を押し付けられて
いつもそばに猫がいる夢の暮らしを手に入れました(笑)
柔らかい身体に触るとストレスも溶けていくようで、
甘えられているようで、実は自分がべったり甘えてました。
最近その猫が病気で亡くなってしまい、
想像以上の喪失感で一向に立ち直れずいろいろ模索してたときに
チロも亡くなっていたのを知りました。
人も猫も、日々を生きて、いつか死んでしまう。
抗えない自然の営みだ。そこに空があるように。
本を見てそんなふうに思い至りました。
老いて弱って死んで骨になるまで見続ける。作者の深い深い愛情が沈んだ心に染み入りました。
毎日の世話なんて絶対無理だと思って、ブログや猫本で他所様の猫を眺めるだけでした。
その後、知人から半ば強引に保護猫を押し付けられて
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柔らかい身体に触るとストレスも溶けていくようで、
甘えられているようで、実は自分がべったり甘えてました。
最近その猫が病気で亡くなってしまい、
想像以上の喪失感で一向に立ち直れずいろいろ模索してたときに
チロも亡くなっていたのを知りました。
人も猫も、日々を生きて、いつか死んでしまう。
抗えない自然の営みだ。そこに空があるように。
本を見てそんなふうに思い至りました。
老いて弱って死んで骨になるまで見続ける。作者の深い深い愛情が沈んだ心に染み入りました。
2011年7月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
健やかなる時も病める時も、そして最愛の妻、陽子さんを亡くしたときも、
ただそっと寄り添い、見守り続けてくれた大切な存在、チロちゃん。
そして訪れた別れの時。
生まれては一瞬で消える「刹那」の連続の中で私たちは「生きて」いて、そしていずれ「死」を迎える。
その当然の「死」というものが、まるで言葉か別世界でしか存在しないかのように、
きれいにそれを覆い隠し、忘れさせてしまうこの世界。
その中にあって、痛々しく変わっていこうとも、
愛する者の生きている姿を、そしてその死までも撮るという事。
それは「刹那」の「生」を「永遠」に変えること。
「撮ることが生きてる証」
先日放映された番組での荒木さんの言葉。
この写真集は、かけがえの無い存在が生きていたという証そのもの。
荒木さんに向けられる、この愛しくて切なくて慈しみに満ちた眼差し。
自らの終わりを受け入れながらも、最後の一瞬まで生きようとする姿。
涙で滲んでいるかのような写真。
これを撮れるのは、チロちゃんにとってまさしく荒木さんしかいない。
オーバーラップする陽子さんの死とチロちゃんの死。
以前、「東京日和」で陽子さんを亡くした後撮られた、
チロちゃんが空を見ている後ろ姿の写真がありました。
写真を見て涙がでたのはそれが初めてでした。
そしてこの写真集の最後には、本当に美しい空が何枚も映されています。
愛しい存在たちが、そこから優しく身守ってくれているかのような空が。
ただそっと寄り添い、見守り続けてくれた大切な存在、チロちゃん。
そして訪れた別れの時。
生まれては一瞬で消える「刹那」の連続の中で私たちは「生きて」いて、そしていずれ「死」を迎える。
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きれいにそれを覆い隠し、忘れさせてしまうこの世界。
その中にあって、痛々しく変わっていこうとも、
愛する者の生きている姿を、そしてその死までも撮るという事。
それは「刹那」の「生」を「永遠」に変えること。
「撮ることが生きてる証」
先日放映された番組での荒木さんの言葉。
この写真集は、かけがえの無い存在が生きていたという証そのもの。
荒木さんに向けられる、この愛しくて切なくて慈しみに満ちた眼差し。
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以前、「東京日和」で陽子さんを亡くした後撮られた、
チロちゃんが空を見ている後ろ姿の写真がありました。
写真を見て涙がでたのはそれが初めてでした。
そしてこの写真集の最後には、本当に美しい空が何枚も映されています。
愛しい存在たちが、そこから優しく身守ってくれているかのような空が。
2010年9月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
荒木さんの愛猫チロちゃんの最期を撮り続けた写真集です。90年に亡くなられた奥様のお棺の写真や遺骨を抱いて電車の座席に座る「センチメンタルな旅・冬の旅」に収められた有名な写真もここで使われています。目に涙をいっぱいたたえて、荒木さんを見つめ続けるチロちゃん。生と死のコントラストが鮮やか。
2014年3月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2010年3月2日に22歳で死亡した猫のチロの飼い主であるアラーキーこと荒木経惟による写真集。2009年11月30日からのチロの最後の3ヶ月と死亡後の5月5日までのチロ以外の写真も掲載されている。チロ以外の写真が、すべて日付入りで掲載されているので、アラーキーの半年のドキュメンタリーか日記を読んでいるような感がある。チロは、最初のページから老いと衰弱は明らかで、腎不全で死亡する直前のものは痛々しい。20年前に撮られたチロの写真集、”愛しのチロ”の完結編ともいえるのだが、前者が、年齢を問わず一般の全ての愛猫家のための本であるのに対し、本書は、チロあるいはアラーキーのファンのための一冊で、女性のヌード写真なども多いので、対象は成人に限られる。”愛しのチロ”と異なり、アラーキーのコメントなどは一切ないので、一見関係ないと思われる写真が掲載されている意味を理解するのは難しい。2010年に放映された35分のNHKのドキュメンタリー、“アラーキー・センチメンタルな夏”は、現在YouTubeなどで視聴が可能だが、この番組は、本書の味わいを深くしてくれる構成なのでファンにはお勧め。たとえば、本書は一見、哀しい写真集なのだが、当時、自らも癌を患っていたアラーキーは生きたい”生欲”が湧いてきたとし、”新しい写真集は色つきにしたい。チロの死を明るく振り返りたいんだよ”と語っている。また、本書のラストの30ページはすべて空の写真なのだが、この空の写真は、アラーキーが妻が他界してから、毎日撮影しているものだそうで、アラーキーの想いがこめられているのがわかる。また、KAWADE夢ムックの”荒木経惟”は、チロの死に際して寄せられたコメントやアラーキーの対談などが掲載されており、本書を補う内容なので、本書のファンには必携の一冊。死にかけていたはずのチロが、カメラを向けるアラーキーに応えるために、目に涙をためて立ち上がろうとした話などは涙を誘い、本書のチロの写真が胸に迫る。以下は同書のアラーキーのコメントから。
カメラを向けた荒木にチロは最後の命を燃やすように応えた。“シャッター音に反応して、クッとこっち見て立ち上がろうとすんだよ。目に涙をためて、、、最後までオレに真剣勝負で付き合ってくれた。”
カメラを向けた荒木にチロは最後の命を燃やすように応えた。“シャッター音に反応して、クッとこっち見て立ち上がろうとすんだよ。目に涙をためて、、、最後までオレに真剣勝負で付き合ってくれた。”
2013年11月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
愛するものを亡くした時、人は空を見上げ、ただ目の前に広がる空の向こうに感じ入る
当たり前の事なのに写真集のラストを飾る空に、はっとさせられた
空をみて泣いた日を思い出して、また泣けてしまった
薄れていった思いを再確認させていただきました
当たり前の事なのに写真集のラストを飾る空に、はっとさせられた
空をみて泣いた日を思い出して、また泣けてしまった
薄れていった思いを再確認させていただきました
2010年10月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
これほどものをいう写真集は昨今お目にかかれない。私も年老いた猫を飼っている。自分の心構えのつもりでこの写真集を買いました。チロが自分の猫のように思え遺骨をもつアラーキーの姿が自分にダブります。アラーキーの写真だからチロだけでなくチロの呼吸していた生活の匂いまで伝えてくれました。ページの半分をその日までの空が続きます。きっとなくなるまで一緒にみていた空なのでしょう。いつまでも手元においておきたい一冊です。アラーキーのさらなる飛躍に期待します。いつまでもアラーキーの孤独を見守ってゆきたいファンはこの本でさらにファンになりました。アラーキーの写真はいつも自分が見守られているという不思議な体感を感じさせてくれます。視線は貪欲でエロチックです。万歳!
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Nat06
5つ星のうち4.0
Étrange
2018年7月11日にフランスでレビュー済みAmazonで購入
Perturbant..une impression de vécu et qui dérange