私にとってこの人は「手強い」作家という印象だが、この4篇の連作小説は割とすんなり読めた。と言っても、決して「易しい」小説ではない。訳者が最後に書いているように「寡黙な小説」であり、登場人物の「ある家族の人たち」はほとんど「自分の思い」を口にしない、説明しない。それでいて、淡々とした筆致の中に韓国現代史が凝縮されていて、個人の先に社会が透けて見える。特に朝鮮戦争・南北分断・米国と関わりがその底に重しのようにずしりと沈んでいて、やはり韓国（朝鮮半島）での「個人の生き様」とそれらが切っても切れない関係にあることを改めて認識させられる。
主人公（の一人）：イ・スンイル（順一）というハルモニ～女性らしくない「順一」という名（戸籍名）は、「ディディの傘」で女性主人公を「ク（彼）」と表記したこの作家の、「ジェンダーによる『～らしさ』の固定化」へのアンチテーゼの意味もあるのかも知れない。
私はこれを読みながら、韓国ドラマ「私の解放日誌」や映画「国際市場で逢いましょう」を様々に思い起こした。困難な状況でひたすらに生きてきた庶民たち～特に女性たちの「思いを飲み込んだ人生・日々」～そういう作品なんだと思う。
この作家から翻訳用の原著が送られて来たときに添えられていたという「私たちは私たちの人生を、ここで」という言葉～うん、そうだよね。
＊ちなみに「順一」は普通に発音すると「スニル」。訳者は、このハルモニが若い頃に呼ばれていた「スンジャ」という名前との関連で敢えて「スンイル」と分かち読みしている。
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