マルコフ連鎖モンテカルロ・シュミレーションを知る目的で本書を読みました。
豊田秀樹さん著書「基礎からのベイズ統計学 ハミルトニアンモンテカルロ法による実践的入門」は、MCMCの中のHMC法について理解する目的に合う本でした。
ベイズ統計学とHMC法を組み合わせると、モデル構成そのものに集中できるので、数式を解く煩わしさから解放してくれます。
ベイズ統計学については、豊田秀樹さんの著書「はじめてのデータ分析 ベイズ的<ポストP 値時代>の統計学」を読んでおくことをお奨めします。
第3章で事前分布の選択について、豊田さんはかなり慎重な扱いをされていますが、本書が書かれた2015年ならさもありなんでしょうが、2022年に大規模言語モデルLLMが登場して以来、人工知能のブラックボックス化が前提となっている近年は、有効な「帰納バイアス」はすでに容認されていると考えていいでしょう。
マルコフ連鎖については、「確率過程の遷移」を見ているわけですが、変化しなくなった確率分布Pの定常分布あるいは不変分布と呼ばれている状態への収束を見ていることになります。
収束までの期間がバーンイン期間です。
「詳細釣り合い条件」とは非平衡統計力学において、順方向と逆方向の遷移確率の釣り合いのことですから、定常状態とはエントロピー増大の終点を意味しています。
メトロポリス・ヘイスティング法(MH法)は、確率密度関数f(θ)のパラメータがθ'からθへ移動してくる確率補正のアルゴリズムになっています。
MHアルゴリズムを利用することで、面倒な積分計算を巧妙に回避することができると豊田さんは述べています。
MH法には独立MH法とランダムウオークMH法があります。
ランダムウォークMH法の誤差分散が大きい場合に、1回の遷移における移動距離が長くなりすぎると、受容率が低くなるという問題が生じます。
そこで事後分布をオールマイティにシュミレートするためには、高次元空間で平均移動距離が長く取れて、同時に受容率を高く保てる必要がありました。そこで考案されたのがハミルトニアンモンテカルロ法(HMC法)です。
ハミルトニアン(Hamiltonian)は物理学におけるエネルギーに対する物理量です。
解析力学においてハミルトニアンは物体に有するエネルギーを「位置」と「運動量」で表現した関数であり、「運動の経路の予測」に利用されます。
例としてジェットコースターの軌跡を挙げています。
ポテンシャルエネルギーU(π)= F(τ)× 移動距離(τ)=mgh(τ)
=質量 × 重加速度 × 高さ
運動エネルギーK(τ)=F(τ)× 移動距離(τ)
そしてポテンシャルエネルギーと運動エネルギーをあわせた力学的エネルギー(Mechanical Energy)は
H(τ)=U(τ)+ K(τ)です。
これをハミルトニアンと呼びます。
摩擦や空気抵抗などがない理想状態では、力学的エネルギーは保存され、物体は常にハミルトニアンが一定になるように運動します。
これを力学的エネルギー保存の法則と呼びます。
ポテンシャルエネルギーを統計学に利用するときは、平面を母数空間に対応させ、高さは負の対数確率に対応させます。
H(τ)=h(θ(τ))のように高さを平面座標で表現することが可能です。
物体の運動を予測するハミルトニアンの運動方程式では、時間の変化によらず常にハミルトニアンは一定ですから、微分すると0になります。
dH(τ)/ dτ=0
運動エネルギーは運動量P(τ)の関数であり、ポテンシャルエネルギーは座標θ(τ)の関数だから、どちらも時間τの関数です。いろいろ式変形すると
dP(τ)/dτ= -dU(θ(τ))/dθ(τ)
dθ(τ)/dτ = dK(P(τ)/dP(τ)
これがハミルトニアンの運動方程式です。
さらに式変形すると
dP(τ)/dτ=-h'(θ(τ))
dθ(τ)/dτ= P(τ)
運動量の微小な移動は斜面の勾配の逆を意味します。
時間の経過に従って微分方程式を解き、経路を予測することを経路積分と呼びます。
位置と運動量を座標(直行軸)とする空間を位相空間と呼びます。
HMC法は遷移の距離を大きくして、なおかつ受容率を高め事後分布に従う乱数を得る方法と言えます。
乱数発生のアナロジーとして適当な物理空間に置いたビー玉を弾き一定時間の経過ののちに指で止めるという説明がされています。これを繰り返すことがT個の乱数を得ることを意味しています。
だいたいここまでがHMC法の理論説明になるでしょう。
ベイズ統計学では検定統計量を導出するのではなく母数そのものもしくはその関数に関して事後分布を評価します。
MCMC法を用いたベイズ推論では、伝統的な統計学における推測分布の枠組みであまり注目されることのなかったポアソン分布や指数分布、ガンマ分布といった正規分布以外の分布についても簡単に考察することができます。
本書ではさまざまな具体例を用いて、分析結果として
EAP(事後期待値)
Post.st(事後標準偏差)
95%下側確信区間
95%上側確信区間
を算出して分析しています。
私が実際にMCMCを行う機会はほとんどないと思います。
ただしMCMCは統計力学の中から生まれたことと、基本アルゴリズムは「ベイズ統計学」と「力学的エネルギー保存の法則」を応用していることが確認できたことは収穫でした。
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基礎からのベイズ統計学: ハミルトニアンモンテカルロ法による実践的入門 単行本 – 2015/6/25
豊田秀樹
(著)
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- 本の長さ228ページ
- 言語日本語
- 出版社朝倉書店
- 発売日2015/6/25
- 寸法15 x 1.4 x 21.1 cm
- ISBN-104254122128
- ISBN-13978-4254122121
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商品の説明
著者について
早稲田大学教授
登録情報
- 出版社 : 朝倉書店 (2015/6/25)
- 発売日 : 2015/6/25
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 228ページ
- ISBN-10 : 4254122128
- ISBN-13 : 978-4254122121
- 寸法 : 15 x 1.4 x 21.1 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 250,872位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2023年12月25日に日本でレビュー済み
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2022年3月10日に日本でレビュー済み
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AIやデータサイエンスが流行している今日、「ベイズ統計」を学ぶ人が増えていると聞いています。
「フィッシャー統計と何が違うのか?」や「ベイズ統計は何に役立つのか?」を知りたい人が多いのは良い事だと思います。実は、両方の統計において、特別に変わったところは無いのですが、主観確率という問題が含まれているために「ベイズ統計」には疑念の目が向けられてきました。
その疑いを拝して、道具として「ベイズ統計」を使いこなしたい人には、オススメしたい書物です。無論、その前に「統計学入門」や「数理統計学入門」などで、「フィッシャー統計」を学んでからにしてほしいと思います(でないと、つまづくので...)。
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その疑いを拝して、道具として「ベイズ統計」を使いこなしたい人には、オススメしたい書物です。無論、その前に「統計学入門」や「数理統計学入門」などで、「フィッシャー統計」を学んでからにしてほしいと思います(でないと、つまづくので...)。
2021年1月7日に日本でレビュー済み
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商品の状態も良く、迅速に対応いただき、大変満足しています。
2020年3月29日に日本でレビュー済み
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ベイズ統計学の経緯や考え方が最初に丁寧にかかれており、伝統的な統計学を学んだ方がとても入りやすい。HMC法については、ハミルトニアンから付録のNUTSまで丁寧に解説されており、初学者でも追えると感じた。ただ、NUTSについては本編でも多少触れたほうが、よりHMC法がわかりやすいのではないかと感じた。
2018年8月27日に日本でレビュー済み
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Rで追体験でき、内容も豊富でした。豊田先生に感謝です。
2023年9月29日に日本でレビュー済み
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第一章のベイズの定理を導くまでが簡潔にまとまっていて良かったので、思わず購入してしまいました。
ですが、著者自身、ベイズの定理の数式を理解できているとはとても思えません。
ですが、著者自身、ベイズの定理の数式を理解できているとはとても思えません。
2020年6月15日に日本でレビュー済み
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「○○講義の実況中継」的なテキストで受験勉強した世代にはぴったりくると思う。
内容はしっかりしているので通読すれば力はつくと思う。章末問題に解答がついているのも高評価。
一般的な理系大学を卒業した人がベイズ統計学を独習するのに向いていると思う。
内容はしっかりしているので通読すれば力はつくと思う。章末問題に解答がついているのも高評価。
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2018年1月6日に日本でレビュー済み
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ベイズ統計については多くの入門書が出ていますが概して、やさしいものの、突っ込みが足りない傾向が強いと思います。しかし、本書は基本的なことから、数式をわかりやすく用いて、その体系を解説しています。ベイズ統計の本格的な入門書としては出色の出来だと思います。