〇 1987年に読んだ本書を2021年になって読み返した。その時代を論じた評論を35年の後に読む意味があるか、そのような疑問は当然のことながらあった。読んでみた結果はどうか。本書が令和の日本社会を理解するうえでこの上もなく有用で貴重な示唆に満ちた本であることに驚いている。
〇 本書は、1970年台の日本社会を分析して、画一的大量生産から多品種少量生産への変化、サービス産業化、消費の時代の到来、余暇の増加、個人の趣味の多様化と細分化などを、その時代を特徴づけるものとして抽出している。そしてその結果として人々は自分の望むものを模索し探し出し、生きがいを求めて職場や家庭以外のさまざまな集団に重層的に所属するようになって、お互いに顔の見える人間関係ネットワークを形成するようになるはずだ、と述べている。
〇 このような分析を背景にすると、2021年時点で我々がどのような歴史の流れのなかに立っているのか位置づけが明らかになり、がぜん見通しが良くなる。今日の流れは、1970年代に生まれて、その後のデジタル化で加速されているもののようで、そうだとすれば今後も根強く今日の個人主義と新しい消費の時代が続くと考えるのが自然であろう。優れた評論の持つ力をまざまざと感じる。
〇 もうひとつ。本書を読み直そうと思ったそもそもの動機は、その流麗な文章を確認することであった。そしてこの面でも期待は裏切られない。パラグラフは、それにしても・・・、なによりも象徴的なことに・・・、これにたいして・・・、ついでながら・・・、などとその前の記述を受ける言葉で始まる。下手をすれば単に饒舌な感じを生むだけになりかねないこれらのつなぎ言葉が、思考の流れを生んで、滔々とした講演を聞いているような印象を受ける。用語も正統的でありながら微妙な組み合わせと比喩が新鮮で、著者の豊富な語彙と言語感覚の鋭さに圧倒される。品格を備えた今日の名文だと思う。

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柔らかい個人主義の誕生: 消費社会の美学 (中公文庫 M 332) 文庫 – 1987/3/10
山崎 正和
(著)
- 本の長さ244ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日1987/3/10
- ISBN-104122014093
- ISBN-13978-4122014091
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登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (1987/3/10)
- 発売日 : 1987/3/10
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 244ページ
- ISBN-10 : 4122014093
- ISBN-13 : 978-4122014091
- Amazon 売れ筋ランキング: - 324,112位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 251位商法
- - 2,269位中公文庫
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2015年12月3日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
今は無き共通一次を思いだす。
高校現代文の定番だった気が。
35過ぎないと表題の意味は分からん気がする。
世間は理不尽な事ばかりだし(笑)。
サラリーマンはツラい。
利害関係の薄い親戚のおじさんや学生時の友達先生は大切だよって話。
高校現代文の定番だった気が。
35過ぎないと表題の意味は分からん気がする。
世間は理不尽な事ばかりだし(笑)。
サラリーマンはツラい。
利害関係の薄い親戚のおじさんや学生時の友達先生は大切だよって話。
2013年5月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
山崎正和氏の思想の原点となる著作と思えます。1980年代に1970年代を評価し30年後の現代を見通していたことに驚くばかりです。
特に産業社会の分析と消費社会における消費の定義については納得のいく主張です。すなわち消費とは充実した時間の消耗こそ目的とする行動だと効率優先の生産社会に対比して定義するところに人間的な感性の鋭さがあります。
特に産業社会の分析と消費社会における消費の定義については納得のいく主張です。すなわち消費とは充実した時間の消耗こそ目的とする行動だと効率優先の生産社会に対比して定義するところに人間的な感性の鋭さがあります。
2023年9月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
アマゾンを「個人主義」で検索したところ、この本が出てきて、書名は聞いたことがあっても読んだことがなかったので買ってみましたが、内容的には取るに足らない本で、特に語る程のことは書かれていません。
こんな程度の中身でもそれなりに評価されていた時代がこの国にあったことが今となっては信じられなかったりもします。
ただ出版当時のこの国の空気を伝えるものとしての価値はあると思うので星2つにします。
因みに1984年に発刊されたにも関わらず旧仮名で書かれた恐ろしい本です。
こんな程度の中身でもそれなりに評価されていた時代がこの国にあったことが今となっては信じられなかったりもします。
ただ出版当時のこの国の空気を伝えるものとしての価値はあると思うので星2つにします。
因みに1984年に発刊されたにも関わらず旧仮名で書かれた恐ろしい本です。
2008年3月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
80年代当時の筆者の視点から60年代以前から70年代までの日本の、主に消費者の変化が論じてあります。60年代以前は禁欲的、プログラム的で消費者の「顔」が見えない生産至上主義な時代、それに対して70年代は多品種少量の時代で人々が自分をかけがえのない人格として自己固有の趣味を形成し始めた時代としています。衣服は「着れればそれでいい」からデザインを気にするようになり、消費動機も機能よりデザイン・イメージを重視し、消費の過程を楽しむ時代であると主張し、筆者はそれを、他人と触れ合いつつ柔軟に自己を形成していく「柔らかい個人主義」として支持しています。
2010年8月14日に日本でレビュー済み
の表現を引用して、現代人というものは、社会や歴史の中で、いま、自分がどこにいるのか確認しないと生きていけない、と説きました。
この部分が、検討の対象となりました。
このことを認めるのと認めないのとでは、もろもろの判断がわかれてくるからです。
この部分が、検討の対象となりました。
このことを認めるのと認めないのとでは、もろもろの判断がわかれてくるからです。
2004年1月17日に日本でレビュー済み
「茶室で無限の宇宙を感じる」とか「オンリーイエスタデイズ70’S」とか いえり だったと記憶してるんだけど 柔らかい個人主義の芽生えという本だったはずで 兎に角一度もう枯れてないかなあと心配でお会いしたい一人 そう言えば能書きもありだけど僕は東京が好きで歌舞伎も嫌いな石器時代で 2pacで川原でかぶく方が好きもちろん多摩川