私は、「死の棘」を読んだこともないし、島尾敏雄についても何の知識も持っていなかったが、書評を見て購入しようという気になった。
買ってよかった。
とにかく、力の入った1冊で、なかなか時間はかかったけれど、ようやく読み終えた。
読み終えることができてよかった。
本書の著者、梯久美子さんも
対象になっている、島尾敏雄夫妻も
ここまで書く人、書かれる人としての覚悟を持っているのが、文学なのだろう。
しかし、この島尾夫妻は、それぞれにすごい。
私は、どちらかというと、ミホの肩を持ちたい。
敏雄は、ただの甘ちゃんのM男としか思えない。
ミホは、最初は、狂う人を演技していたのだろうな。
島尾夫妻の子供たちは、島尾夫妻の文学への狂気の犠牲者なのだろう。
ミホは、おそらく、自分も含めて、家族は、敏雄への、捧げものと考えていたのだろう。
まるで宗教、殉教だなあと思った。
評伝を書くことに同意した、島尾夫妻の長男伸三氏も、父母の文学にささげた人生を認めているのだろうと思った。
とにかく、圧倒的で、すごい1冊。
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狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ 単行本 – 2016/10/31
梯 久美子
(著)
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戦後文学史に残る伝説的夫婦の真実に迫り、『死の棘』の謎を解く衝撃大作。
島尾敏雄の『死の棘』に登場する愛人「あいつ」の正体は?
あの日記には何が書かれていたのか。
ミホの書いた「『死の棘』の妻の場合」は、なぜ未完成なのか。
そして本当に狂っていたのは妻か夫か──。
未発表原稿や日記、手紙等の膨大な新資料によって、
不朽の名作の隠された事実を掘り起こし、
妻・ミホ生涯を辿る、渾身の決定版評伝。
目次より
序章 「死の棘」の妻の場合
第一章 戦時下の恋
第二章 二人の父
第三章 終戦まで
第四章 結婚
第五章 夫の愛人
第六章 審判の日
第七章 対決
第八章 精神病棟にて
第九章 奄美へ
第十章 書く女
第十一章 死別
第十二章 最期
「死の棘」あらすじ/島尾敏雄・ミホ年譜/主要参考文献
島尾敏雄の『死の棘』に登場する愛人「あいつ」の正体は?
あの日記には何が書かれていたのか。
ミホの書いた「『死の棘』の妻の場合」は、なぜ未完成なのか。
そして本当に狂っていたのは妻か夫か──。
未発表原稿や日記、手紙等の膨大な新資料によって、
不朽の名作の隠された事実を掘り起こし、
妻・ミホ生涯を辿る、渾身の決定版評伝。
目次より
序章 「死の棘」の妻の場合
第一章 戦時下の恋
第二章 二人の父
第三章 終戦まで
第四章 結婚
第五章 夫の愛人
第六章 審判の日
第七章 対決
第八章 精神病棟にて
第九章 奄美へ
第十章 書く女
第十一章 死別
第十二章 最期
「死の棘」あらすじ/島尾敏雄・ミホ年譜/主要参考文献
- 本の長さ672ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2016/10/31
- 寸法14 x 3.5 x 19.7 cm
- ISBN-104104774022
- ISBN-13978-4104774029
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対象商品: 狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ
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著者について
1961年熊本県生れ。北海道大学文学部卒業。編集者を経て文筆業に。『散るぞ悲しき』で、2006年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞、同書は米・英・仏・伊など世界8カ国で翻訳出版されている。著書に『昭和二十年夏、僕は兵士だった』『昭和の遺書──55人の魂の記録』『百年の手紙──日本人が遺したことば』『廃線紀行──もうひとつの鉄道旅』『愛の顛末──純愛とスキャンダルの文学史』など多数。
登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2016/10/31)
- 発売日 : 2016/10/31
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 672ページ
- ISBN-10 : 4104774022
- ISBN-13 : 978-4104774029
- 寸法 : 14 x 3.5 x 19.7 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 253,280位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 41,558位ノンフィクション (本)
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2017年3月5日に日本でレビュー済み
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2020年4月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
いやー面白かった。あまりに文学的でありすぎた変人夫婦の、あまりに多面的な心の真実に、真っ向から誠実に切り込んでいるように感じた。二人の膨大な著作や日記、メモを縦横に引用しているので、もはや島尾敏夫/ミホの作品は読まなくていいかなとすら思えてしまった(未読です)。でも唯一読みたくなったのは、ミホが子どもの頃の思い出をもとに書いた2冊だ。インテリだったり主婦だったり作家だったりいろいろな面のあるミホだが、やはりどこか「南島の巫女」の雰囲気を常にまとっていて、そこが作家としても主人公としても一番の魅力だったんじゃないかと思った。
2016年12月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
600ページを超える大部である。
しかし、どこにも無駄が感じられない。著者の執念とも思える取材と
そこから生まれた緊迫感のある文章。
奥野健男や吉本隆明らによってつくられた島尾ミホのイメージを
覆すというか一変させるというか……。
ミホへのインタビューは未完に終わるのだが,その後発見された膨大な資料を
著者はおそらく何もかも忘れるほど没頭して読み込んだのだろう。
でないと、ここまでのノンフィクションはできない。
ミホを狂わせた17文字とは、何だったのだろうか。俳句だったのだろうか手紙の一節だったのだろうか。
いずれにしても「文字」によって、彼女は突き動かされる。
『死の棘』の凄さの秘密を見る思いの力作である。
しかし、どこにも無駄が感じられない。著者の執念とも思える取材と
そこから生まれた緊迫感のある文章。
奥野健男や吉本隆明らによってつくられた島尾ミホのイメージを
覆すというか一変させるというか……。
ミホへのインタビューは未完に終わるのだが,その後発見された膨大な資料を
著者はおそらく何もかも忘れるほど没頭して読み込んだのだろう。
でないと、ここまでのノンフィクションはできない。
ミホを狂わせた17文字とは、何だったのだろうか。俳句だったのだろうか手紙の一節だったのだろうか。
いずれにしても「文字」によって、彼女は突き動かされる。
『死の棘』の凄さの秘密を見る思いの力作である。
2018年2月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
感銘しました。
電車で読みふけり、目的の駅を通り過ぎてしまうことが何度かありました。
対象に寄り添うのに冷静な著者の文体に惹かれたのは、この本の前に読んだ散るぞ悲しきでしたが、今回も、通底する冷静なあたたかみに魅せられながら、読了いたしました。
終わりに近づき、どう締めくくるのかと楽しみにしていましたら、あっけなく、ぷつりと終わりました。そう感じました。
きっと、それは、もっと読みたい、読んでいたい、このしたたかな知力に触れていたい、という気持ちの高まりのせいだったと思います。
電車で読みふけり、目的の駅を通り過ぎてしまうことが何度かありました。
対象に寄り添うのに冷静な著者の文体に惹かれたのは、この本の前に読んだ散るぞ悲しきでしたが、今回も、通底する冷静なあたたかみに魅せられながら、読了いたしました。
終わりに近づき、どう締めくくるのかと楽しみにしていましたら、あっけなく、ぷつりと終わりました。そう感じました。
きっと、それは、もっと読みたい、読んでいたい、このしたたかな知力に触れていたい、という気持ちの高まりのせいだったと思います。
2017年2月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2016年の最大の文学的偉業、梯久美子(かけはしくみこ)による島尾ミホの評伝「狂う人」を読むにあたり、島尾敏雄の17年間にわたり書きつづけられた長編「死の棘」を取り出してみた。昭和52年出版の世の中を震撼とさせたこの黙示録に、当時、生きるエネルギ-が全部吸収されてしまうかのような衝撃を受けたのを覚えている。その2年前の昭和50年に刊行された東欧紀行「夢のかげを求めて」は、この国でこれまでに書かれた紀行文の金字塔とでもいうべき作品だった。多くの日本人にとって振り子の振れ幅の一番端に位置するポーランドやチェコという、普通ならばわきにどけておく国々の人々が、ページから忽然と目の前に立ち現れる。「死の棘」はそれとのギャップが大きすぎてすくんでしまったのだ。
「死の棘」は、夫の浮気を知り精神に錯乱をきたした妻のミホとともに夫が千葉県の国立国府台病院精神科の閉鎖病棟に入院するところで終わる。ミホの評伝であるこの「狂う人」は、そこにいたる過程をミホからの聞き取りを中心におきつつも、語られていない多くの出来事を文献により推測しながらミホの半生を丹念に検証していく。そのうえで、小説の終わったあとのことが本の1/3を占める。閉鎖病棟でのふたりの生活(といえるだろうか?) が克明に記録されている。退院後に、ふたりは禁忌にとりまかれた東京を離れ、移住先の奄美大嶋にわたる。「いくら島尾が心を入れ替えても、その裏切りは、島尾が女とともに踏んだ土地に刻印され、消えることがない。」からだ。
奄美での生活。次第に落ち着きを取り戻していくふたり。ミホもまたさまざまな作品を書き残すようになる。奄美の因習や閉鎖的な共同体での怨念や狂気を奄美の方言や表記法を多用して書かれたミホの小説は、その文章の「呼吸するように自然に外界と呼応しあう感覚」の新鮮さにより本土の多くの読者をひきつけている。
昭和51年、二十年間暮らした奄美を去り鹿児島の指宿を経由してその後神奈川県茅ケ崎に転居する。「家から茅ケ崎駅まではタクシ-で5分ほどだが、島尾は駅につくとすぐに電話で「○時○分の東京行きに電車に乗ります」と知らせてくる。帰りにも、東京駅から克明に電話連絡があり、茅ケ崎駅に着くと、タクシ-乗り場に並んでいる人の数を伝え、家に到着する時間をミホに伝えたという。この分刻みの報告を「ミホはそれを自分への愛情の証として語った」。
島尾は体調を崩し、再び鹿児島県に転居。昭和61年に死去した。「私ね、島尾の骨を食べましたのよ」。「狂うほど夫を愛した妻にふさわしい別れの儀式のように思ったのである。」と梯は書いている。
なんといっても、第一章、奄美の加計呂麻島に赴任したばかりの若い島尾敏雄と島の長の娘であり巫女の血を継いだとされるミホとの逢瀬についての記録は印象的だ。「ヒルマ、ハマベニ行クト、ミホの座ッテイタトコロガ凹ンデイタ」。それをみて、今日の夜にまた来るに違いないと思いこみ、島尾は兵舎を抜け出してそのくぼみの横に座り、一晩中星明りの下で待つ。「ハマベハ闇バカリ、ハゴイタ星ハ大分タカク空の上に上ツテイタ。ヤガテ気味ワルイ金星ガギラギラ光リダシタノデ、ヌケガラノヨウニナッテ帰ッタ。星ガ流レル。」こう記した島尾の手紙は、翌日、ミホの勤務している学校に届けられた、という。
「死の棘」は、夫の浮気を知り精神に錯乱をきたした妻のミホとともに夫が千葉県の国立国府台病院精神科の閉鎖病棟に入院するところで終わる。ミホの評伝であるこの「狂う人」は、そこにいたる過程をミホからの聞き取りを中心におきつつも、語られていない多くの出来事を文献により推測しながらミホの半生を丹念に検証していく。そのうえで、小説の終わったあとのことが本の1/3を占める。閉鎖病棟でのふたりの生活(といえるだろうか?) が克明に記録されている。退院後に、ふたりは禁忌にとりまかれた東京を離れ、移住先の奄美大嶋にわたる。「いくら島尾が心を入れ替えても、その裏切りは、島尾が女とともに踏んだ土地に刻印され、消えることがない。」からだ。
奄美での生活。次第に落ち着きを取り戻していくふたり。ミホもまたさまざまな作品を書き残すようになる。奄美の因習や閉鎖的な共同体での怨念や狂気を奄美の方言や表記法を多用して書かれたミホの小説は、その文章の「呼吸するように自然に外界と呼応しあう感覚」の新鮮さにより本土の多くの読者をひきつけている。
昭和51年、二十年間暮らした奄美を去り鹿児島の指宿を経由してその後神奈川県茅ケ崎に転居する。「家から茅ケ崎駅まではタクシ-で5分ほどだが、島尾は駅につくとすぐに電話で「○時○分の東京行きに電車に乗ります」と知らせてくる。帰りにも、東京駅から克明に電話連絡があり、茅ケ崎駅に着くと、タクシ-乗り場に並んでいる人の数を伝え、家に到着する時間をミホに伝えたという。この分刻みの報告を「ミホはそれを自分への愛情の証として語った」。
島尾は体調を崩し、再び鹿児島県に転居。昭和61年に死去した。「私ね、島尾の骨を食べましたのよ」。「狂うほど夫を愛した妻にふさわしい別れの儀式のように思ったのである。」と梯は書いている。
なんといっても、第一章、奄美の加計呂麻島に赴任したばかりの若い島尾敏雄と島の長の娘であり巫女の血を継いだとされるミホとの逢瀬についての記録は印象的だ。「ヒルマ、ハマベニ行クト、ミホの座ッテイタトコロガ凹ンデイタ」。それをみて、今日の夜にまた来るに違いないと思いこみ、島尾は兵舎を抜け出してそのくぼみの横に座り、一晩中星明りの下で待つ。「ハマベハ闇バカリ、ハゴイタ星ハ大分タカク空の上に上ツテイタ。ヤガテ気味ワルイ金星ガギラギラ光リダシタノデ、ヌケガラノヨウニナッテ帰ッタ。星ガ流レル。」こう記した島尾の手紙は、翌日、ミホの勤務している学校に届けられた、という。
2017年5月6日に日本でレビュー済み
『死の棘』のモデルとなった島尾敏雄・ミホ夫妻を丹念に追ったノンフィクション。
ミホ夫人の伝記を書く依頼を受けた著者は(結局、これはミホから断られるかたちになったが)
彼女の死後に残された大量の資料をひもといて『死の棘』の真実に迫ろうとしている。
奄美大島出身であるミホの家系や養父母の人となりを掘り起こし、
ミホの狂気の原因となった島尾敏雄の情事の相手を特定し(本著では仮名で記されている)、
文学仲間や親戚にまで話を聞いて彼女の実像に迫るという徹底ぶりには驚かされた。
島尾夫妻を描いた本としては、現時点では最高の一冊だろう。
吉本隆明や奥野健郎の唱えた「ミホ=聖なる存在」という図式に
女性の立場から異を唱えている点が印象に残り、ミホ夫人が「自分を正当化するための
物語をつくりあげた」と指摘している箇所にははっとした。
そして著者の取材や筆力に感心すればするほど、夫妻の「愛の物語」を神格化しようとしたミホ夫人や
自らの芸術のために夫人を利用したともとれる島尾敏雄に対する
割り切れない気持ちがつのっていくのを抑えられなかった。
幼い日々に父母の激しい諍いに苦しんだ長男の島尾伸三氏は
「この人たちは何をやっているんだ」と思った、とある編集者に打ち明けたと聞く。
両親の確執の間できわめて暗い子供時代を送った伸三氏と妹のマヤさん(失語症で苦しんだ)に思いを馳せると、
梯氏の尽力に感銘を受けつつも、島尾夫妻は文学という業に憑かれた哀しい人々と感じられてならなかった。
ミホ夫人の伝記を書く依頼を受けた著者は(結局、これはミホから断られるかたちになったが)
彼女の死後に残された大量の資料をひもといて『死の棘』の真実に迫ろうとしている。
奄美大島出身であるミホの家系や養父母の人となりを掘り起こし、
ミホの狂気の原因となった島尾敏雄の情事の相手を特定し(本著では仮名で記されている)、
文学仲間や親戚にまで話を聞いて彼女の実像に迫るという徹底ぶりには驚かされた。
島尾夫妻を描いた本としては、現時点では最高の一冊だろう。
吉本隆明や奥野健郎の唱えた「ミホ=聖なる存在」という図式に
女性の立場から異を唱えている点が印象に残り、ミホ夫人が「自分を正当化するための
物語をつくりあげた」と指摘している箇所にははっとした。
そして著者の取材や筆力に感心すればするほど、夫妻の「愛の物語」を神格化しようとしたミホ夫人や
自らの芸術のために夫人を利用したともとれる島尾敏雄に対する
割り切れない気持ちがつのっていくのを抑えられなかった。
幼い日々に父母の激しい諍いに苦しんだ長男の島尾伸三氏は
「この人たちは何をやっているんだ」と思った、とある編集者に打ち明けたと聞く。
両親の確執の間できわめて暗い子供時代を送った伸三氏と妹のマヤさん(失語症で苦しんだ)に思いを馳せると、
梯氏の尽力に感銘を受けつつも、島尾夫妻は文学という業に憑かれた哀しい人々と感じられてならなかった。