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雷の波濤 満州国演義七 (新潮文庫) 文庫 – 2016/5/28
船戸 与一
(著)
ダブルポイント 詳細
太平洋戦争開戦。帝国日本、南進す!
1941(昭和16)年、敷島兄弟は、マレー進攻作戦、シンガポール攻略戦を目撃する。
連戦連勝に沸く日本人と増幅してゆく狂気を描く、第七巻!
雷の波濤
━━━━西暦一九四〇年 昭和一五年 皇紀二六〇〇年 民国二九年 康徳七年━━
第一章 戦雲なびく彼方
第二章 歩み寄って来る跫音
第三章 漂流の行方
第四章 発熱する午後
第五章 深夜疾風のごとく
昭和十五年、ドイツは電撃戦により、フランスを征服。帝国陸軍はすかさず北部仏印に進駐した。敷島次郎は独立を志すインド女性たちの訓練を行い、四郎は満映作品の取材中に人工国家の綻びを目撃する。太郎は心ならずもある謀殺に加担し、三郎は憲兵としてマレー進攻作戦に同行することに。太平洋戦争開戦、南進の成功に沸きたつ日本人と次第に増幅してゆく狂気を描く、第七巻。解説・高野秀行
1941(昭和16)年、敷島兄弟は、マレー進攻作戦、シンガポール攻略戦を目撃する。
連戦連勝に沸く日本人と増幅してゆく狂気を描く、第七巻!
雷の波濤
━━━━西暦一九四〇年 昭和一五年 皇紀二六〇〇年 民国二九年 康徳七年━━
第一章 戦雲なびく彼方
第二章 歩み寄って来る跫音
第三章 漂流の行方
第四章 発熱する午後
第五章 深夜疾風のごとく
昭和十五年、ドイツは電撃戦により、フランスを征服。帝国陸軍はすかさず北部仏印に進駐した。敷島次郎は独立を志すインド女性たちの訓練を行い、四郎は満映作品の取材中に人工国家の綻びを目撃する。太郎は心ならずもある謀殺に加担し、三郎は憲兵としてマレー進攻作戦に同行することに。太平洋戦争開戦、南進の成功に沸きたつ日本人と次第に増幅してゆく狂気を描く、第七巻。解説・高野秀行
- 本の長さ688ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2016/5/28
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-104101343268
- ISBN-13978-4101343266
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出版社より
風の払暁―満州国演義一― | 事変の夜―満州国演義二― | 群狼の舞―満州国演義三― | 炎の回廊―満州国演義四― | 灰塵の暦―満州国演義五― | 大地の牙―満州国演義六― | |
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カスタマーレビュー |
5つ星のうち4.0
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5つ星のうち4.1
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価格 | — | ¥179¥179 | — | ¥64¥64 | ¥600¥600 | ¥162¥162 |
【新潮文庫】『満州国演義』シリーズ | 外交官、馬賊、関東軍将校、左翼学生。異なる個性を放つ四兄弟が激動の時代を生きる。満州国と日本の戦争を描き切る大河オデッセイ。 | 満州事変勃発!謀略と武力で満蒙領有へと突き進んでゆく関東軍。そして敷島兄弟に亀裂が走る。大河オデッセイ、緊迫の第二弾。 | 「国家を創りあげるのは男の最高の浪漫だ」。昭和七 年、満州国建国。敷島四兄弟は産声を上げた新国家に何色の夢を託すのか。 | 帝政に移行した満州国を揺さぶる内憂外患。そして、遥かなる帝都では二・二六事件が!敷島四兄弟と共に激動の近代史を体感せよ。 | 昭和十二年、日中は遂に全面戦争へ。兵火は上海から南京にまで燃え広がる。謀略と独断専行。日本は、満州は、何処へ向かうのか。 | 中国での「事変」は泥沼化の一途。そしてノモンハンで日本陸軍は大国ソ連と砲火を交える。未曾有の戦時下を生きる、敷島四兄弟。 |
雷の波濤―満州国演義七― | 南冥の雫―満州国演義八― | 残夢の骸―満州国演義九― | |
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カスタマーレビュー |
5つ星のうち4.2
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価格 | ¥331¥331 | — | — |
太平洋戦争開戦!敷島兄弟はマレー進攻作戦、シ ンガポール攻略戦を目撃する。連戦連勝に沸く日本人と増幅してゆく狂気を描く。 | 大海原ミッドウェーでの敗戦。インパール作戦という名の地獄の扉。各戦線で反攻に転じた連合軍。敷島兄弟は破滅の足音を聞く──。 | 昭和二十年八月、ソ連軍の侵攻が始まった。敷島兄弟は国家崩壊の渦中で、それぞれの運命と対峙する。大河オデッセイ、遂に完結。 |
登録情報
- 出版社 : 新潮社; 文庫版 (2016/5/28)
- 発売日 : 2016/5/28
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 688ページ
- ISBN-10 : 4101343268
- ISBN-13 : 978-4101343266
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 187,783位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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1944(昭和19)年、山口県生れ。早稲田大学法学部卒業。
1985年『山猫の夏』で吉川英治文学新人賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。1989(平成元)年『伝説なき地』で日本推理作家協会賞を受賞。1992年『砂のクロニクル』で山本周五郎賞を受賞。2000年『虹の谷の五月』で直木賞を受賞する。主な著書に『猛き箱舟』『炎 流れる彼方』『蝦夷地別件』『龍神町龍神十三番地』『緋色の時代』『三都物語』『河畔に標なく』などがある。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2020年12月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
読みづらい本だったが、最後まで読み通したので、結局は面白かったと思う。
2018年4月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
船戸与一さんのこのシリーズが文庫ででたので早速買いました。残念ながらこれで絶筆となってしまいました。もう少し書いて欲しかった。
2022年10月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
単行本とうたってあるので注文しましたが、実際はハードブックでした。取り換え依頼しましたが売れ切れとの
ことでした。
ことでした。
2017年2月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
「満州事変に成功すると歴史がおかしな方向に回り始めた。陸軍も海軍も自らの組織を増殖させるために米英との戦争を選ぶしかなくなった。ナチスドイツの怒濤の動きを見れば、政治家や外務官僚も冷静になれるはずもなかった」。近衛首相発信の大政翼賛会は軍部主導に。運命づけられていた独ソ戦を読めず、松岡洋右の日ソ独伊四カ国同盟構想が瓦解。南部仏印進駐がアメリカを刺激して対日石油禁輸、石油の確保を巡り海軍と陸軍がそろって米英戦に傾く。
2012年8月17日に日本でレビュー済み
昭和15年、ドイツがパリを制圧する。日本軍は北部仏印に武力進駐。大政翼賛会の発足。日独伊三国同盟。
昭和16年、日本軍は華北での治安強化を進める。ドイツのバルバロッサ作戦。日ソ中立条約。ドイツのソ連進攻。帝国国策要綱、関東軍特殊演習。南部仏印進駐。ABCD包囲網に対する戦争準備のための帝国国策遂行要領。尾崎秀美、ゾルゲ検挙。第三次近衛内閣総辞職と東条英機内閣。御前会議で開戦の決定。日本軍の英領マレー制圧の軍事行動開始と真珠湾攻撃。
昭和17年、そしてシンガポール陥落。
状況が煮詰まってくると、だれもが疑心暗鬼となる。度重なる政権交代に長引く不況。出口の見えない鬱屈が沸点に達したとき、思考停止に陥った世論は戦争へとなだれ込んでいく。
英米独ソ、そして中国の思惑。これに翻弄されるままの大日本帝国。リーダーを欠如した内閣、軍部により外交は混乱に終始し、マスコミの熱狂は国民を対米戦争へと駆り立てる。
船戸は小説家にこそ許されているはずのあざとい史実の改変や通説の新解釈を意図的に回避している。ただただ通説を丹念に追う姿勢を崩さない。整然と史実をとらえながらも、驚くべき筆圧で歴史をドラマティックに展開してみせる。
わたしらの年代なら、太平洋戦争へ向けて、秘話とか言われる通説も含めた断片的知識はある。だがそれは個々のエピソードの積み上げにしか過ぎなかった。いまさら恥ずかしいことだが、数々の断片が一貫した流れの中で浮彫りされた全体像を、わたしはこの小説で初めて把握することができたことになる。
このところいささか退屈気味の大長編だったが、活を入れられた心地がして、とにかく読み応えのある第7巻だった。間もなく終戦の日を迎える今、本書を読むには絶好のタイミングだ。
目下のわが国の末期的政治状況を重ね合わせれば、なおさらである。
引き続き、敷島四兄弟の見聞としてこの複雑な国際・国内情勢が詳細に語られる。
そして彼らが体験するのは侵攻第一線の血なまぐさい現実である。
満州国国務院の高級官僚・太郎は若い女との快楽におぼれ、妻の精神障害が重なり社会的生命は破滅寸前にある。五族協和、満州国建国の夢はとうに破綻した。ただ死に向かって身もだえする満州国そのものを象徴する人物として描かれる。太郎は弱みにつけこまれ、奉天特務中佐・間垣徳蔵よりある関東軍大尉を密殺する手引きを強要される。この大尉は対米開戦に踏み切れない近衛首相の暗殺をもくろむ人物なのだが、政治、軍部、特務機関に内在する複雑奇怪なもつれ合いがこのエピソードによく表れている。
映画会社「満映啓民」に勤務する四郎が取材した北満の地獄と呼ばれる売春・阿片窟「大観園」の描写が凄まじい。読み終えたばかりの皆川博子『双頭のバビロン』にも同様の風景描写があるが、両者の作風の違いには興味をそそられた。
満州開拓移民たちの悲惨は既刊で述べられている。ここでは「開拓女塾」という、わたしが全く知らなかった満州開拓政策の一環が紹介されている。余剰人口のはけ口として16〜24歳の東北出身の娘たち四十数人を集めた教育施設のようだ。名目は日本を代表する貞女に育て上げることにある。だが実態は、独身の開拓移民へ日本人の純血維持を目的とした強制的な花嫁・供給システムだ。醜い中年の男にまるで牛馬のようにあてがわれる娘を抱いてやりながら、四郎は「開拓民の妻として立派にお国のために尽くします」という悲痛を聞くのだ。ここでも戦争にある「真実」が語られている。
五里霧中のうちに軍部は南進へと舵をきる。英領インド、英領ビルマ、英領マレーにある反英勢力を組織化し、武器供与を供与する。仏領インドシナにおける反中国活動等、いくつもの帝国謀略機関が擬似的な独立運動支援を旗印に秘密裏の行動を展開していく。
巻頭の参考地図も中国北部から東アジア全域に拡大され、元馬賊の頭目・次郎と信望厚い武人の関東憲兵隊大尉・三郎は、日本軍の南進作戦に沿って満州から華南、香港、海南島、仏領インドシナそして英領マレーへと移動していく。彼らの軌跡上にこの侵略戦争の犠牲者となる人の群れがある。
ヨーロッパを追われ、救いをこの地に求めるユダヤ人組織。インド独立の遊撃隊として次郎が軍事訓練するインド人の婦女子たち。731部隊の人体実験用に供される白系ロシア人捕虜。ビルマ独立義勇軍作りに海南島で軍事訓練を受けるビルマ人の若者たち。長い歴史の中で漢人に支配されてきた中国周辺の少数民族。英領マレーのマレー人、インド人、中国人。ほとんどがわたしの知らない逸話なのだが、次郎、三郎の命がけの行動の中で、いくつものエピソードが戦慄のディテールで語られていく。これが迫真力をもって読者に伝わるのは、次郎・三郎が訪れる町・村・地域の情景、大国に対して歴史的に抱くそれぞれの民族感情が実にリアルに描写されているからである。船戸は膨大な資料を検証したに違いない。そして小説家としてのセンスも抜群にさえている。
太平洋戦争の開戦を語るには真珠湾攻撃が当たり前だと思うのだが、船戸はこれをしなかった。その直前のマレー上陸作戦を詳述したのだ。戦闘機対戦艦の戦いであった真珠湾攻撃とは異なり、シンガポール陥落までの道のりは敵味方血みどろの白兵戦であり、反日華僑に対する虐殺もあった。
マレー侵攻作戦をほとんど知らなかったわたしは7巻の三分の二あたりから釘づけになってしまった。なにせ「怪傑ハリマオ」という「正義の人」が実在していたなんてびっくりしてしまった。イギリス人捕虜を英雄的に描いた映画『戦場へかける橋』もこの作戦の延長にあるエピソードだった。
谷豊 日本人名大辞典より
「昭和時代前期の軍事諜報員。明治44年11月6日生まれ。虐殺された妹の復讐のためマレーで盗賊団にはいり、「ハリマオ」(マレー語で虎の意)とよばれる首領となる。太平洋戦争の初期、日本軍の諜報組織の一員としてイギリス軍に対しゲリラ活動を展開。昭和17年3月17日マラリアで死去するが、軍当局により英雄として宣伝された。32歳。福岡県出身。」
戦争と人間の狂気を直視した感性のエッセンスがダイナミックに描写された、この「雷の波濤」は全巻中白眉の出来栄えであるとして言い過ぎではない。
船戸与一氏は病気療養中と聞く。愛読者としてはただただ健康の回復を祈るばかりである。
昭和16年、日本軍は華北での治安強化を進める。ドイツのバルバロッサ作戦。日ソ中立条約。ドイツのソ連進攻。帝国国策要綱、関東軍特殊演習。南部仏印進駐。ABCD包囲網に対する戦争準備のための帝国国策遂行要領。尾崎秀美、ゾルゲ検挙。第三次近衛内閣総辞職と東条英機内閣。御前会議で開戦の決定。日本軍の英領マレー制圧の軍事行動開始と真珠湾攻撃。
昭和17年、そしてシンガポール陥落。
状況が煮詰まってくると、だれもが疑心暗鬼となる。度重なる政権交代に長引く不況。出口の見えない鬱屈が沸点に達したとき、思考停止に陥った世論は戦争へとなだれ込んでいく。
英米独ソ、そして中国の思惑。これに翻弄されるままの大日本帝国。リーダーを欠如した内閣、軍部により外交は混乱に終始し、マスコミの熱狂は国民を対米戦争へと駆り立てる。
船戸は小説家にこそ許されているはずのあざとい史実の改変や通説の新解釈を意図的に回避している。ただただ通説を丹念に追う姿勢を崩さない。整然と史実をとらえながらも、驚くべき筆圧で歴史をドラマティックに展開してみせる。
わたしらの年代なら、太平洋戦争へ向けて、秘話とか言われる通説も含めた断片的知識はある。だがそれは個々のエピソードの積み上げにしか過ぎなかった。いまさら恥ずかしいことだが、数々の断片が一貫した流れの中で浮彫りされた全体像を、わたしはこの小説で初めて把握することができたことになる。
このところいささか退屈気味の大長編だったが、活を入れられた心地がして、とにかく読み応えのある第7巻だった。間もなく終戦の日を迎える今、本書を読むには絶好のタイミングだ。
目下のわが国の末期的政治状況を重ね合わせれば、なおさらである。
引き続き、敷島四兄弟の見聞としてこの複雑な国際・国内情勢が詳細に語られる。
そして彼らが体験するのは侵攻第一線の血なまぐさい現実である。
満州国国務院の高級官僚・太郎は若い女との快楽におぼれ、妻の精神障害が重なり社会的生命は破滅寸前にある。五族協和、満州国建国の夢はとうに破綻した。ただ死に向かって身もだえする満州国そのものを象徴する人物として描かれる。太郎は弱みにつけこまれ、奉天特務中佐・間垣徳蔵よりある関東軍大尉を密殺する手引きを強要される。この大尉は対米開戦に踏み切れない近衛首相の暗殺をもくろむ人物なのだが、政治、軍部、特務機関に内在する複雑奇怪なもつれ合いがこのエピソードによく表れている。
映画会社「満映啓民」に勤務する四郎が取材した北満の地獄と呼ばれる売春・阿片窟「大観園」の描写が凄まじい。読み終えたばかりの皆川博子『双頭のバビロン』にも同様の風景描写があるが、両者の作風の違いには興味をそそられた。
満州開拓移民たちの悲惨は既刊で述べられている。ここでは「開拓女塾」という、わたしが全く知らなかった満州開拓政策の一環が紹介されている。余剰人口のはけ口として16〜24歳の東北出身の娘たち四十数人を集めた教育施設のようだ。名目は日本を代表する貞女に育て上げることにある。だが実態は、独身の開拓移民へ日本人の純血維持を目的とした強制的な花嫁・供給システムだ。醜い中年の男にまるで牛馬のようにあてがわれる娘を抱いてやりながら、四郎は「開拓民の妻として立派にお国のために尽くします」という悲痛を聞くのだ。ここでも戦争にある「真実」が語られている。
五里霧中のうちに軍部は南進へと舵をきる。英領インド、英領ビルマ、英領マレーにある反英勢力を組織化し、武器供与を供与する。仏領インドシナにおける反中国活動等、いくつもの帝国謀略機関が擬似的な独立運動支援を旗印に秘密裏の行動を展開していく。
巻頭の参考地図も中国北部から東アジア全域に拡大され、元馬賊の頭目・次郎と信望厚い武人の関東憲兵隊大尉・三郎は、日本軍の南進作戦に沿って満州から華南、香港、海南島、仏領インドシナそして英領マレーへと移動していく。彼らの軌跡上にこの侵略戦争の犠牲者となる人の群れがある。
ヨーロッパを追われ、救いをこの地に求めるユダヤ人組織。インド独立の遊撃隊として次郎が軍事訓練するインド人の婦女子たち。731部隊の人体実験用に供される白系ロシア人捕虜。ビルマ独立義勇軍作りに海南島で軍事訓練を受けるビルマ人の若者たち。長い歴史の中で漢人に支配されてきた中国周辺の少数民族。英領マレーのマレー人、インド人、中国人。ほとんどがわたしの知らない逸話なのだが、次郎、三郎の命がけの行動の中で、いくつものエピソードが戦慄のディテールで語られていく。これが迫真力をもって読者に伝わるのは、次郎・三郎が訪れる町・村・地域の情景、大国に対して歴史的に抱くそれぞれの民族感情が実にリアルに描写されているからである。船戸は膨大な資料を検証したに違いない。そして小説家としてのセンスも抜群にさえている。
太平洋戦争の開戦を語るには真珠湾攻撃が当たり前だと思うのだが、船戸はこれをしなかった。その直前のマレー上陸作戦を詳述したのだ。戦闘機対戦艦の戦いであった真珠湾攻撃とは異なり、シンガポール陥落までの道のりは敵味方血みどろの白兵戦であり、反日華僑に対する虐殺もあった。
マレー侵攻作戦をほとんど知らなかったわたしは7巻の三分の二あたりから釘づけになってしまった。なにせ「怪傑ハリマオ」という「正義の人」が実在していたなんてびっくりしてしまった。イギリス人捕虜を英雄的に描いた映画『戦場へかける橋』もこの作戦の延長にあるエピソードだった。
谷豊 日本人名大辞典より
「昭和時代前期の軍事諜報員。明治44年11月6日生まれ。虐殺された妹の復讐のためマレーで盗賊団にはいり、「ハリマオ」(マレー語で虎の意)とよばれる首領となる。太平洋戦争の初期、日本軍の諜報組織の一員としてイギリス軍に対しゲリラ活動を展開。昭和17年3月17日マラリアで死去するが、軍当局により英雄として宣伝された。32歳。福岡県出身。」
戦争と人間の狂気を直視した感性のエッセンスがダイナミックに描写された、この「雷の波濤」は全巻中白眉の出来栄えであるとして言い過ぎではない。
船戸与一氏は病気療養中と聞く。愛読者としてはただただ健康の回復を祈るばかりである。
2015年7月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
続編の8を購入予定です。船戸与一氏はこれが遺稿とのこと、楽しみにしています。
2016年11月16日に日本でレビュー済み
タイ、インド、インドシナ、ビルマ、マレー半島、そしてシンガポールまで連戦連勝の日本軍。満州や中国、対ソ連を固めながらの「北守南進論」の熱狂は国全体を覆いつくす。敷島四兄弟も満州国出向中の外務官僚である長男以外はまるで磁石に引き寄せられるように南進中。
もちろんハードボイルドな船戸節も要所要所で煌く。「「威張りたがるのは単純な民族的優越感のせいだが、同情心は陰湿な優越感に基づいている。」「「社会主義と国家社会主義は同根だ、違腹の子でしかない。」「社会主義者や共産主義者、無政府主義者を徹底して痛めつけてきた日本という国家が社会主義国家の盟主であるソ連と条約を結んだのだ。この矛盾をどう考えればいい?」「状況が煮詰まってくると、誰もが疑心暗鬼になる。個人が個人を、組織が組織をまず疑ってかかるようになる。」「(もっと危険なものは)思考の停止だよ。」「(どんなに残虐な行為も)いったん活字となって新聞に掲載されると、一切が何らかの競技のように思えてしまう。」等々。
この作者のいままでのエンディングからすると、主な登場人物が「全員死亡」が常道なので、ますます目が離せなくなっているが、ほんとうに残りはたった2冊だけになってしまった。
もちろんハードボイルドな船戸節も要所要所で煌く。「「威張りたがるのは単純な民族的優越感のせいだが、同情心は陰湿な優越感に基づいている。」「「社会主義と国家社会主義は同根だ、違腹の子でしかない。」「社会主義者や共産主義者、無政府主義者を徹底して痛めつけてきた日本という国家が社会主義国家の盟主であるソ連と条約を結んだのだ。この矛盾をどう考えればいい?」「状況が煮詰まってくると、誰もが疑心暗鬼になる。個人が個人を、組織が組織をまず疑ってかかるようになる。」「(もっと危険なものは)思考の停止だよ。」「(どんなに残虐な行為も)いったん活字となって新聞に掲載されると、一切が何らかの競技のように思えてしまう。」等々。
この作者のいままでのエンディングからすると、主な登場人物が「全員死亡」が常道なので、ますます目が離せなくなっているが、ほんとうに残りはたった2冊だけになってしまった。