この大事故については他の本も2冊読んだが、それだけではわからなかった事実もこの本には書かれていて参考になった。物語風に書かれた本文も読みやすい。大事故の進行、関係者の葛藤、関係機関との連携と軋轢。それらがよく理解できる。
まず一つ言えることは、現場は、次々に起きる初めての事態に、限られた人員、機材をフル活用して対応していたと言うことだ。この大事故の対応に当たった方々は相当の被曝をされたと思うが、その後の定期的な経過観察や適切な医療は受けられているのだろうか。
反対に、東電本社の(申し訳ないが)役に立たない姿。事態を把握できていない。現場からいろいろと(足りないものなど)要望を出されても勘違いして発注したり、始めていた注水を「官邸がごちゃごちゃ言っている」という理由で止めさせようとする理不尽さ。本社には原子力の専門家はいないのだろうか。そんなはずはない。武黒氏はまさに専門家のはずだ。その武黒氏が、吉田所長に対して「官邸がグジグジ言っているからともかく注水を止めろ」と言い出すとは。冷却を止めたら大惨事になるのはわかっているはずなのに、どうしてそんな発言が出来たのか。わからない。(ちなみに、吉田所長は注水を決して止めなかった。)
また、何とか冷温停止に成功した福島第二原発も、実は危ない状態だったことがわかる。この本には、短い記述だが、福島第二原発の必死の対応も書かれている。ここは、外部電源4回線の内、唯一、東電の富岡線が生き残っていたために、対応ができたこともよくわかった。ところが、その生命線の富岡線を「切ってもいいですか」と電話してくる本社の担当者。福島第二原発の増田所長は電話に対して怒ったという。「これが切られたら、第二も終わってしまうんですよ。これだけは絶対に守ってください」と。本社は全く事態を把握できていなかったわけだ。
さらに、組織がばらばらに存在するために起きる混乱。原子力安全委員会と原子力安全・保安院が、別々に存在するとは知らなかった。そしてまさか、原子力安全・保安院のトップが、原子力の専門家ではなくて経済学部出身の門外漢だとは。開いた口がふさがらなかった。
組織の連携が巧く行かないために、官邸にも情報が伝わりきらない。そんなときの総理が冷静な方ならよかったのだが、時の総理は菅総理。短気ですぐに怒鳴ることで有名だったが、この事故の時の態度も(記述がすべて正しいとすれば)、とてもトップに立っていい人格とは思えない。怒鳴りつけるよりもまず、冷静に話を聞いて判断して欲しかった。そして、対応で大変な現場に無理に視察に行くなどという行為はやめてほしかった。その事で、それでなくても大混乱で人手が足りない福島第一の人々がどれだけ無駄な時間を割くことになったか。行く前に考えつかなかったのだろうか…。
このそれぞれの組織が、テレビ会議でそれぞればらばらに吉田所長に質問と対応を迫るわけだ。どう考えても、一人の人間が対応できる容量はとうに越えてしまっている。
事故対応の時は、現場と本社が連絡し合い、あとは本社が窓口になって関係機関や官邸と対応するという流れが出来ていれば、もう少しスムーズに話は進んだ気がする。あれから数年。そんなシステムが出来ていると良いのだが…。何しろ、それでも各地の原発は再稼働している。そして、これから来るいくつかの大地震で、また同じ事が起きないとは限らないのだから…。

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
全電源喪失の記憶: 証言・福島第1原発 日本の命運を賭けた5日間 (新潮文庫) 文庫 – 2018/2/28
高橋 秀樹
(著),
共同通信社原発事故取材班
(著)
最後の最後、俺と一緒に死ぬのは誰だ――。
揺れ動く人間を詳細に描く迫真のドキュメント。
東日本に大津波が押し寄せたあの日、濁流は福島第1原子力発電所をも飲み込んだ。全電源を喪失し制御不能となった原発。万策尽きた吉田昌郎所長は、一人一人の顔を眺めながら共に死ぬ人間を選んだ――。
遺書を書き、家族に電話をかけ、嗚咽する人。現場に背を向けた人……。極限で彼らは何を思い、どう行動したか。絶望と死地を前にして揺れ動く人間を詳細に描いた、迫真のドキュメント。
【目次】
はじめに
福島第1原発構内図と1号機原子炉構造
プロローグ
第一章 3・11
史上最大の震災/無事でいてくれ/駆け上がる濁流/沖合9キロ/タービン建屋地下の悲劇/DGトリップ!/免震重要棟/全交流電源、喪失す/トップの不在/原発に向かう者たち
第二章 爪痕
電源設備、調査せよ/口を開けるマンホール/注水ラインを構築せよ/頼みは協力企業/車のバッテリー/振り下ろしたハンマー「/もう全滅だ」/情報なき首相官邸/正門の明かりは消えていた/格納容器ベント準備せよ/挙げられなかった右手
第三章 1号機爆発
首相、原発へ「/爆発はしません」/響き渡った怒声/黄色い死に神「/万が一」は今/ついに針は振り切れた/出動命令/トリプルX/白い煙/原発安全神話/この世の終わり/飛んできた鉄骨/野戦病院/最後の写真
第四章 制御不能
福島第2原発の苦闘/桜のトンネル/タイムリミット「/ふざけんじゃねえ」/「カン首相」の電話/カメラは見ていた/テレビで知った官邸/命の保証/吉田の機転/ごめんね/駐屯地への帰還/暗闇に飛ぶ火花/遺書
第五章 東電の敗北
真水か海水か/逆洗弁ピット/危険な食事/3号機、爆発/怖い、怖い、怖い/やるしかねえべ/病院を目指して/神が与えた試練/バスを用意せよ/邪魔をするな/限界突破/お母さん、逃げて/必ず生きて帰る/全面撤退/ただ祈るだけ
第六章 選択
撤退はあり得ない/サプチャン圧力ゼロ/2Fに向かえ/目撃者/そして退避が始まった/君は出なさい/墓標/衝撃音の正体/5台の避難バス/運転員の意地「/フクシマ50」/退避は完了した/絶対に引かない/まだ戦える
第七章 反転攻勢
米国の懸念「/日本は隠している」/この国の存在感/北へ向かえ/モニタリングヘリ離陸/ハーモニックT/迫る日没/落胆する官邸/目標は3号機/決行せよ/事に臨んでは/歓声/日米首脳会談/任務は成功
第八章 1F汚染
コンクリートポンプ車/日本のために/愛称はキリン/死ぬのか、死なんのか/福島に希望はあるか/汚された山村/駅前に人影なく/代わりはいない/地下の汚染水/被ばく事故/所長、東京へ
最終章 命
海王丸/当直長の帰還/うそつき/家族との再会/母になった運転員/最悪のシナリオ/2人を捜しに/広大な建屋地下で/黙祷/首にかかったIDカード/泣いてはいけない/吉田昌郎という男/じゃあね/最後の言葉/俺と死ぬのは誰だ
あのとき何があったのか――解説に代えて 池上彰
揺れ動く人間を詳細に描く迫真のドキュメント。
東日本に大津波が押し寄せたあの日、濁流は福島第1原子力発電所をも飲み込んだ。全電源を喪失し制御不能となった原発。万策尽きた吉田昌郎所長は、一人一人の顔を眺めながら共に死ぬ人間を選んだ――。
遺書を書き、家族に電話をかけ、嗚咽する人。現場に背を向けた人……。極限で彼らは何を思い、どう行動したか。絶望と死地を前にして揺れ動く人間を詳細に描いた、迫真のドキュメント。
【目次】
はじめに
福島第1原発構内図と1号機原子炉構造
プロローグ
第一章 3・11
史上最大の震災/無事でいてくれ/駆け上がる濁流/沖合9キロ/タービン建屋地下の悲劇/DGトリップ!/免震重要棟/全交流電源、喪失す/トップの不在/原発に向かう者たち
第二章 爪痕
電源設備、調査せよ/口を開けるマンホール/注水ラインを構築せよ/頼みは協力企業/車のバッテリー/振り下ろしたハンマー「/もう全滅だ」/情報なき首相官邸/正門の明かりは消えていた/格納容器ベント準備せよ/挙げられなかった右手
第三章 1号機爆発
首相、原発へ「/爆発はしません」/響き渡った怒声/黄色い死に神「/万が一」は今/ついに針は振り切れた/出動命令/トリプルX/白い煙/原発安全神話/この世の終わり/飛んできた鉄骨/野戦病院/最後の写真
第四章 制御不能
福島第2原発の苦闘/桜のトンネル/タイムリミット「/ふざけんじゃねえ」/「カン首相」の電話/カメラは見ていた/テレビで知った官邸/命の保証/吉田の機転/ごめんね/駐屯地への帰還/暗闇に飛ぶ火花/遺書
第五章 東電の敗北
真水か海水か/逆洗弁ピット/危険な食事/3号機、爆発/怖い、怖い、怖い/やるしかねえべ/病院を目指して/神が与えた試練/バスを用意せよ/邪魔をするな/限界突破/お母さん、逃げて/必ず生きて帰る/全面撤退/ただ祈るだけ
第六章 選択
撤退はあり得ない/サプチャン圧力ゼロ/2Fに向かえ/目撃者/そして退避が始まった/君は出なさい/墓標/衝撃音の正体/5台の避難バス/運転員の意地「/フクシマ50」/退避は完了した/絶対に引かない/まだ戦える
第七章 反転攻勢
米国の懸念「/日本は隠している」/この国の存在感/北へ向かえ/モニタリングヘリ離陸/ハーモニックT/迫る日没/落胆する官邸/目標は3号機/決行せよ/事に臨んでは/歓声/日米首脳会談/任務は成功
第八章 1F汚染
コンクリートポンプ車/日本のために/愛称はキリン/死ぬのか、死なんのか/福島に希望はあるか/汚された山村/駅前に人影なく/代わりはいない/地下の汚染水/被ばく事故/所長、東京へ
最終章 命
海王丸/当直長の帰還/うそつき/家族との再会/母になった運転員/最悪のシナリオ/2人を捜しに/広大な建屋地下で/黙祷/首にかかったIDカード/泣いてはいけない/吉田昌郎という男/じゃあね/最後の言葉/俺と死ぬのは誰だ
あのとき何があったのか――解説に代えて 池上彰
- 本の長さ474ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2018/2/28
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-104101212163
- ISBN-13978-4101212166
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2018/2/28)
- 発売日 : 2018/2/28
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 474ページ
- ISBN-10 : 4101212163
- ISBN-13 : 978-4101212166
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 209,106位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 4,090位新潮文庫
- - 35,665位ノンフィクション (本)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2018年4月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2023年3月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
配送問題なし。
本は古いもので、小口の研磨がいやでしたが、読むのに問題なし。
本は古いもので、小口の研磨がいやでしたが、読むのに問題なし。
2018年5月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
著者高橋秀樹さんが出演しておられたラジオを聞きこの本を購入しました。
私は直接的な被災者ではありませんが震災当日歩いて帰宅し、翌日からは激混みの電車で通勤を余儀なくされ不満に思っていました。しかしこの時期F1ではこれほど壮絶な戦いが繰り広げられていたことを知り絶句しました。他の方もレビューしておられますが、私も自分が恥ずかしいと反省しました。
文庫の432ページに吉田所長の次の考えが記されています。『だが吉田は事故を機に変わった規制の在り方として、専門家と呼ばれる人たちだけが集まって原発がどうあるべきかを話し合うことに違和感を持っていた。そこには原発を動かした経験のある者が一人も入っていないのだ。』
これ、とても大事な視点だと思います。事故が起こるのが現場なのであれば、その現場を知る人こそが専門家ですよね。学者やインテリは現場==ブルーカラーと軽視しがちですけど、現場が持っている知識経験ってすごいもんですよ。各方面の知識や経験を集約して同じことを繰り返さないで済むシステムを作ってもらいたいと思います。
本書には多くの関係者が登場します。通常ではありえない被爆を経験されたわけですが、その後お体は大丈夫なのでしょうか。この点がとても心配です。
私は直接的な被災者ではありませんが震災当日歩いて帰宅し、翌日からは激混みの電車で通勤を余儀なくされ不満に思っていました。しかしこの時期F1ではこれほど壮絶な戦いが繰り広げられていたことを知り絶句しました。他の方もレビューしておられますが、私も自分が恥ずかしいと反省しました。
文庫の432ページに吉田所長の次の考えが記されています。『だが吉田は事故を機に変わった規制の在り方として、専門家と呼ばれる人たちだけが集まって原発がどうあるべきかを話し合うことに違和感を持っていた。そこには原発を動かした経験のある者が一人も入っていないのだ。』
これ、とても大事な視点だと思います。事故が起こるのが現場なのであれば、その現場を知る人こそが専門家ですよね。学者やインテリは現場==ブルーカラーと軽視しがちですけど、現場が持っている知識経験ってすごいもんですよ。各方面の知識や経験を集約して同じことを繰り返さないで済むシステムを作ってもらいたいと思います。
本書には多くの関係者が登場します。通常ではありえない被爆を経験されたわけですが、その後お体は大丈夫なのでしょうか。この点がとても心配です。
2018年5月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
共同通信の記者たちが、福島第一原発事故当時に現場に居合わせた人たちを取材した1冊。
全電源が失われ、暴走・メルトダウンしていく原発をなんとか制御しようと奮闘した姿と、どのようにも対処できなかった様が、東京電力、協力関連企業の人々の証言から浮かび上がってくる。
本書のタイトルは「記録」ではなく「記憶」となっている。
勝手な解釈ではあるが、「記録」は個人の感情を排除した公的なものだが、「記憶」は思考、感情の揺れが織り込まれた私的なものだ。
日本だけでなく世界中を震撼させた福島第一原発の事故について、政府や東京電力などによる味気ない経過報告の記録書を読み解くことは専門知識のない私には難しいし、得られるものはほとんどないだろう。
しかし、この本では動揺しながらも必死で未曾有の悪夢に突然立ち向かうことになった人々がどのように考え行動したか、当事者たちの記憶を私たち読者も一緒に辿りながら知ることができ、大変に貴重だ。
あの事故から7年経った2018年にこの本を私は読んだが、その内容は色褪せていない。それどころか逆に私の中で忘れかけていた当時の緊迫感と混乱した社会状況を再び呼び起こしてくれた。
本書は後世の人々にとって大切な史料になるだろう。
全電源が失われ、暴走・メルトダウンしていく原発をなんとか制御しようと奮闘した姿と、どのようにも対処できなかった様が、東京電力、協力関連企業の人々の証言から浮かび上がってくる。
本書のタイトルは「記録」ではなく「記憶」となっている。
勝手な解釈ではあるが、「記録」は個人の感情を排除した公的なものだが、「記憶」は思考、感情の揺れが織り込まれた私的なものだ。
日本だけでなく世界中を震撼させた福島第一原発の事故について、政府や東京電力などによる味気ない経過報告の記録書を読み解くことは専門知識のない私には難しいし、得られるものはほとんどないだろう。
しかし、この本では動揺しながらも必死で未曾有の悪夢に突然立ち向かうことになった人々がどのように考え行動したか、当事者たちの記憶を私たち読者も一緒に辿りながら知ることができ、大変に貴重だ。
あの事故から7年経った2018年にこの本を私は読んだが、その内容は色褪せていない。それどころか逆に私の中で忘れかけていた当時の緊迫感と混乱した社会状況を再び呼び起こしてくれた。
本書は後世の人々にとって大切な史料になるだろう。
2021年4月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
なぜ原発暴走を止めることができたのか、その原因を知りたかったが、この本は人間会話のフィクションの面に重きを置いているので、目的を知ることができなかった。
2018年4月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
事故直後の原発内部および関係者周辺の状況がリアルに伝えられます。丹念に拾い集めた事実と証言で再構築した、事故当日から数日間の記録です。極めて迫力のあるドラマで誰にでも一気に読み通せます。何があの混乱をきたしたか、思い出したくも無い方々こそ、目をそらさず向き合うべきと考えます。
2019年6月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
東日本大震災につづいて起こった福島第1原発爆発による東日本壊滅という最悪の事態を命がけで防いだ現場の人達の奮闘を記したドキュメンタリーである。吉田昌郎所長を中心に主に震災後5日間の極限状態が詳細に書かれているが、事態が落ち着いた後に作業員が家族に再会する話や吉田の病死についても触れている。この手の本には特定の人物や組織を糾弾することを目的としたものがあるが本書はその類ではなく、安心して読むことができる。
本書の最後に吉田のこの事故に対する考えが書かれている。「荒れ狂う原子炉を目の当たりにした吉田だったが、それでも制御は可能だと言い切った」「事故を止めたのは最終的に人の力だった」「今回のような事故が起きた時に、ある程度のレベルで抑えるためには、現場の人がきちっとやっていくことだと思う」。間違ってはいまい。しかしそこに、俺たちが苦労してやったんだ、という傲慢さが見えないか。取り返しのつかない汚染を起こした責任に現場も本店もあるまい。そもそも地震や津波に対する対策があれば、事故は起きなかったのである。その対策は現場でできることではあるまい。
本書を読むと、このような人達がいる限り日本はまだ大丈夫だ、と思うのと同時に、このような人達の上に胡座をかいている連中がいる限り日本は良くならない、と考えざるを得ない。原発安全神話は皇軍不敗神話と瓜二つで、都合の悪い言論を封じることで成立している。かつて日本軍をノモンハンに葬ったジューコフは「日本軍の下士官兵は頑強で勇敢だが、高級将校は無能である」と言った。現場でできることは限られている。そのためにマネジメントというのは存在するのだ。
本書の最後に吉田のこの事故に対する考えが書かれている。「荒れ狂う原子炉を目の当たりにした吉田だったが、それでも制御は可能だと言い切った」「事故を止めたのは最終的に人の力だった」「今回のような事故が起きた時に、ある程度のレベルで抑えるためには、現場の人がきちっとやっていくことだと思う」。間違ってはいまい。しかしそこに、俺たちが苦労してやったんだ、という傲慢さが見えないか。取り返しのつかない汚染を起こした責任に現場も本店もあるまい。そもそも地震や津波に対する対策があれば、事故は起きなかったのである。その対策は現場でできることではあるまい。
本書を読むと、このような人達がいる限り日本はまだ大丈夫だ、と思うのと同時に、このような人達の上に胡座をかいている連中がいる限り日本は良くならない、と考えざるを得ない。原発安全神話は皇軍不敗神話と瓜二つで、都合の悪い言論を封じることで成立している。かつて日本軍をノモンハンに葬ったジューコフは「日本軍の下士官兵は頑強で勇敢だが、高級将校は無能である」と言った。現場でできることは限られている。そのためにマネジメントというのは存在するのだ。
2018年3月29日に日本でレビュー済み
全電源喪失の記録 証言・福島第1原発 日本の運命を賭けた5日間
共同通信社原発事故取材班 高橋秀樹 編著 を読んで
「最後の最後、俺と一緒に死ぬのは誰だ。」(本文より)
東日本震災を経験した我々は、2011年を時代の区切りとして、あれから何年 という年月の数え方をしている。2011年、原発はどうなるのと一抹の不安を感じながら、どうしたら明日は会社に行けるのか、などを埼玉で考えているとき、福島第1原発では壮絶なドラマが繰り広げられられていたのだ。勿論、東北の被災地でも。我ながら自分の想像力の乏しさを感じる。自分の些細な日常をどうしたら取り戻せるのか、いつまで停電が続くんだ、電車はいつ正常に戻るんだ とか考えていなかった。勿論、テレビで被災地や、福島第1原発は見ていた。
が、その時、自分の命をかけた壮絶なドラマが繰り広げられていたんだ。それがなかったら、私たちの当たり前でごく普通の日常はなかったのだ。今でも、その日常を奪われた人が多くいる。でも東日本全体でその日常が失われたかもしれないのだ。
福島第1原発で働いている人たちは、地元採用の人が多いとのこと、自分の家族の安否を確認できない中で、自分にできることを、死ぬかもしれないという葛藤の中で、やり遂げてきた人たちがいた。
日本のシステムが今、現場を置き去りにして議論されている。物を作る、動かす、全て現場で行われている。現場を想像できないトップや、その現場を置き去りにした企業は、何かがおかしいのだろう。
共同通信社原発事故取材班 高橋秀樹 編著 を読んで
「最後の最後、俺と一緒に死ぬのは誰だ。」(本文より)
東日本震災を経験した我々は、2011年を時代の区切りとして、あれから何年 という年月の数え方をしている。2011年、原発はどうなるのと一抹の不安を感じながら、どうしたら明日は会社に行けるのか、などを埼玉で考えているとき、福島第1原発では壮絶なドラマが繰り広げられられていたのだ。勿論、東北の被災地でも。我ながら自分の想像力の乏しさを感じる。自分の些細な日常をどうしたら取り戻せるのか、いつまで停電が続くんだ、電車はいつ正常に戻るんだ とか考えていなかった。勿論、テレビで被災地や、福島第1原発は見ていた。
が、その時、自分の命をかけた壮絶なドラマが繰り広げられていたんだ。それがなかったら、私たちの当たり前でごく普通の日常はなかったのだ。今でも、その日常を奪われた人が多くいる。でも東日本全体でその日常が失われたかもしれないのだ。
福島第1原発で働いている人たちは、地元採用の人が多いとのこと、自分の家族の安否を確認できない中で、自分にできることを、死ぬかもしれないという葛藤の中で、やり遂げてきた人たちがいた。
日本のシステムが今、現場を置き去りにして議論されている。物を作る、動かす、全て現場で行われている。現場を想像できないトップや、その現場を置き去りにした企業は、何かがおかしいのだろう。