ぼくはキリスト教会の牧師で、毎週、礼拝の脚本、演出、出演を担当しています。つまり、その日曜日の礼拝の流れ・構成を前もって考え、当日は、オルガニストや司会とともに、舞台に立ちます。演劇と共通する部分があるように思っています。
しかし、三十年以上この仕事をしていますが、一向にうまくいきません。身体表現はほとんどなく、セリフは学芸会の棒読みで、脚本はますます書けなくなってきます。
(「半分、青い」という朝ドラで主人公が漫画家としてデビューするも、だんだんと何も思い浮かばなくなり、書けなくなって、十年後に筆を折った消息は、身につまされました)
そこで、この本を読んでみることにしました。そして、以下のような点が、今のぼくには非常に参考になりました。
「俳優の感じた感情は、観客に伝わる」(p.55)。教会の礼拝の説教では、聖書をもとに語るのですが、その原稿を書くときも、当日読むときも、牧師が人に伝えたいほど何かを聖書に感じていることが大切なのでしょう。
「参加者がまだよそよそしかったり、疲れている時は、ゆっくりと穏やかに始めたほうがいいでしょう。みんながノッている時は、派手に始めると、より興奮するでしょう」(p.77)。
ぼくは、聴き手の集中力を高めると同時にリラックスしていただくために、説教の初めの方に、笑いをとろうとします。あるいは、中だるみをピンとするために。しかし、聴き手が乗れないときに、無理にそうするよりも、そのタイミングをはかった方がよさそうですね。
「情報量において豊かで、意味において曖昧な演劇は、曖昧だからこそ、観客は感情移入しやすくなります。充分な説明がないからこそ、観客は想像力をより使って物語に参加するのです」(p.109)。
説教では、詳しく丁寧に説明しようとする誘惑がありますが、みなまで言うな、ですね。とくに、結論には聴き手が考える余地を残しておいた方がよいのかも知れません。
「芸術は、『あなたの人生はそれでいいのか?』と挑発するものであり、芸能は『あなたの人生はそれでいいのです』と肯定するものである」(p.140)。
説教も同じですね。挑発というより、あるいは、難詰、追い詰めではなく、問いかけと、そして、肯定は、聖書そのものの二本柱でもあります。
「予想を裏切り、期待に応える」(p.155)。
なるほど。ぼくは、聴き手の期待に応えることを意識してきましたが、話の結論においてはそうでも、展開においては、予想を裏切る部分があったほうがよさそうです。いや、結論も、心に届く裏切りなら、むしろよいかもしれません。
「演技はセリフの決まったアドリブ」(p.164)。
ぼくだけでなく、説教の際に(メモ、要旨以上の)完全原稿を用意している牧師は少なくないと思いますが、そこにも、アドリブの余地はあるのですね。アドリブと言っても、内容をいじくることとは限りません。
「必要なのは、読みながら感じることです。感じれば、読み方の速度、表現、言い方などを変えることができるのです。そういう人を『スピーチの達人』と呼ぶのです」(p.165)。
感じながら、あるいは、考えながら、過去に書いた文としてではなく、いまの言葉として発するように読むことなのでしょうね。
「目的が明確になったら、その実現をじゃましているもの、障害を明確にします。どんなものでも、目的が簡単に実現してしまうと、面白さがなくなるからです」(p.177)。
神はあなたを愛している、というメッセージを伝えるには、そのように思えない、感じられない現状を明らかにすることがよいのでしょう。
「求められるのは、崇高な目的を実現しようとする『説明セリフ』ではなく、自然な感情で語られる生の言葉なのです」(p.253)。
この生の言葉とは、24時間テレビや陳腐なドラマのような「シバイがかった」(失礼! ほんとうの意味での芝居の言葉のことではありません)文句ではないでしょう。しかし、説教でも、そういう口調が見られないわけではありません。けれども、求められているものは、その日の聖書の言葉に対する、あるいは、聴き手に対する「自然な感情で語る生の言葉」なのでしょう。
「大きな状況説明から、中間の状況説明、そして、面白かった核心を、冷静にならず、ワクワクドキドキした気持ちのままで語るのです」(p.257)。
これも説教に応用できるでしょう。退屈にならない範囲で、大状況、中状況を説明し、つまり、徐々にズームインし、最後に、その場の神の愛に感じたワクワクドキドキを語るのです。これだけで、説教の半分は構成できるのではないでしょうか。
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演劇入門 生きることは演じること (集英社新書) 新書 – 2021/6/17
鴻上 尚史
(著)
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【鴻上尚史、渾身の一作!】
「演劇は劇場にだけあるものではありません。あなたがいて、目の前にもう一人の人間がいれば、またはいると思えば、そこに演劇は生まれるのです。もし、あなたが目の前にいる人に何かを伝えたいとか、コミュニケートしたいとか思ったとしたら、演劇のテクニックや考え方、感性は間違いなく役に立つでしょう」――鴻上尚史
【内容紹介】
日本人が、「空気」を読むばかりで、つい負けてしまう「同調圧力」。
でも、その圧力を跳ね返す「技術」がある。
それが演劇。
「空気」を創る力は、演劇的な思考と感性によって磨くことができるのだ。
なにも舞台に立ったり、俳優を目指したりする必要はない。
本書で、演劇の基礎に触れて、日常の生活で意識するだけ。
長きにわたるコミュニケーション不全の時代に、人間らしい交感の喜びを取り戻し、他者とともに生きる感性を育てる方法を具体的に説く画期的な指南書。
【目次】
◆第1章 演劇とは何か?
ピーター・ブルックの言葉/演劇とは、俳優と観客である/人間は演じる存在/私達の人生は演劇そのもの
◆第2章 映像との違い
「演劇」と「映像」はどう違うのか?/演技の違い/俳優の感じた感情は、観客に伝わる
◆第3章 ライブであるということ
演劇はお客さんによって変わっていく/「舞台の上で漂う」/「二日目落ち」
◆第4章 一人と大勢
「幻の共同体」─―観客が観客に出会う/神なき祝祭/「たった一回」の愛おしさ
◆第5章 演劇と小説
演劇の情報量/小説の内面描写/「リアリティの幅」
◆第6章 情報化社会と演劇
「より多くの人へ、より速く、より正確に」への懐疑/「より親密に、より着実に、より創造的に」
◆第7章 演劇の創り方
演劇の面白さは俳優の面白さ/演技は「心の旅」/スタニスラフスキーの「与えられた状況」/どんな役でも人生の可能性のひとつ
◆第8章 なぜ子供達に演劇が必要なのか
他人を生きて、発見する/演劇系の学生の「コミュニケーション能力」の高さ/シンパシーとエンパシー/接客マニュアル/本気で人と話そうとしない日本社会
◆第9章 演技の上達について
上達の秘訣は場数/リーディング/演劇は必要か
【著者略歴】
鴻上尚史(こうかみ しょうじ)
作家・演出家。1958年愛媛県生まれ。
早稲田大学在学中の81年に劇団「第三舞台」を結成。「朝日のような夕日をつれて '87」で紀伊國屋演劇賞団体賞、「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞。戯曲集「グローブ・ジャングル」で読売文学賞受賞。日本劇作家協会会長も務めるなど日本の演劇界を牽引。
『不死身の特攻兵』(講談社現代新書)などのベストセラーも。
「演劇は劇場にだけあるものではありません。あなたがいて、目の前にもう一人の人間がいれば、またはいると思えば、そこに演劇は生まれるのです。もし、あなたが目の前にいる人に何かを伝えたいとか、コミュニケートしたいとか思ったとしたら、演劇のテクニックや考え方、感性は間違いなく役に立つでしょう」――鴻上尚史
【内容紹介】
日本人が、「空気」を読むばかりで、つい負けてしまう「同調圧力」。
でも、その圧力を跳ね返す「技術」がある。
それが演劇。
「空気」を創る力は、演劇的な思考と感性によって磨くことができるのだ。
なにも舞台に立ったり、俳優を目指したりする必要はない。
本書で、演劇の基礎に触れて、日常の生活で意識するだけ。
長きにわたるコミュニケーション不全の時代に、人間らしい交感の喜びを取り戻し、他者とともに生きる感性を育てる方法を具体的に説く画期的な指南書。
【目次】
◆第1章 演劇とは何か?
ピーター・ブルックの言葉/演劇とは、俳優と観客である/人間は演じる存在/私達の人生は演劇そのもの
◆第2章 映像との違い
「演劇」と「映像」はどう違うのか?/演技の違い/俳優の感じた感情は、観客に伝わる
◆第3章 ライブであるということ
演劇はお客さんによって変わっていく/「舞台の上で漂う」/「二日目落ち」
◆第4章 一人と大勢
「幻の共同体」─―観客が観客に出会う/神なき祝祭/「たった一回」の愛おしさ
◆第5章 演劇と小説
演劇の情報量/小説の内面描写/「リアリティの幅」
◆第6章 情報化社会と演劇
「より多くの人へ、より速く、より正確に」への懐疑/「より親密に、より着実に、より創造的に」
◆第7章 演劇の創り方
演劇の面白さは俳優の面白さ/演技は「心の旅」/スタニスラフスキーの「与えられた状況」/どんな役でも人生の可能性のひとつ
◆第8章 なぜ子供達に演劇が必要なのか
他人を生きて、発見する/演劇系の学生の「コミュニケーション能力」の高さ/シンパシーとエンパシー/接客マニュアル/本気で人と話そうとしない日本社会
◆第9章 演技の上達について
上達の秘訣は場数/リーディング/演劇は必要か
【著者略歴】
鴻上尚史(こうかみ しょうじ)
作家・演出家。1958年愛媛県生まれ。
早稲田大学在学中の81年に劇団「第三舞台」を結成。「朝日のような夕日をつれて '87」で紀伊國屋演劇賞団体賞、「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞。戯曲集「グローブ・ジャングル」で読売文学賞受賞。日本劇作家協会会長も務めるなど日本の演劇界を牽引。
『不死身の特攻兵』(講談社現代新書)などのベストセラーも。
- 本の長さ272ページ
- 言語日本語
- 出版社集英社
- 発売日2021/6/17
- 寸法10.6 x 1.3 x 17.3 cm
- ISBN-10408721172X
- ISBN-13978-4087211726
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登録情報
- 出版社 : 集英社 (2021/6/17)
- 発売日 : 2021/6/17
- 言語 : 日本語
- 新書 : 272ページ
- ISBN-10 : 408721172X
- ISBN-13 : 978-4087211726
- 寸法 : 10.6 x 1.3 x 17.3 cm
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上位レビュー、対象国: 日本
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2021年8月16日に日本でレビュー済み
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2021年11月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
「はじめに」に「『演劇は楽しい』……ということを伝えたくて、この本を書きました。」「一番、伝えたいことは、演劇は心や身体が震えるほど楽しいんだということです。」とあり、また「あなたに演劇と幸福な出会いがありますように。」という文で全体が締めくくられる。演劇への著者の愛が溢れている。それに、コロナ禍で、演劇(などライブ系アート)が「不要不急」のものとされたことへの憤りも伝わってくる。
第1章はやや抽象的な演劇論だが、第二章以降は実践的・具体的。面白いが『鴻上尚史の俳優入門 』(講談社文庫)はじめ著者の他書との重複が多い。
第1章はやや抽象的な演劇論だが、第二章以降は実践的・具体的。面白いが『鴻上尚史の俳優入門 』(講談社文庫)はじめ著者の他書との重複が多い。
2021年7月15日に日本でレビュー済み
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ある漫画がきっかけで、演劇入門を手に取りました。空気は読むものではなく、創るものだという言葉を読んで衝撃を受けました。人生は演劇そのもので、誰もが自分の役割を、状況や相手に合わせて演じている。全ての状況で通じる自分など存在しないのだなと改めて感じました。演劇は読む、話す、聞くというコミュニケーションの基礎的な部分を鍛えるのに役立つとう話は参考になりました。学校教育にも、演劇や芝居の考え方や技術が、これからの時代必要になってくるのではないかと思います。趣味や創作にも、演劇の考え方は応用出来そうです。買って良かったです!
2021年9月23日に日本でレビュー済み
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演劇を目指す人のためでなく、大人(学生、社会人)子どもたちにむけて、演劇から得るものを伝えたくて…。
緞帳のはなし 、寺山修司氏、、走れメロス、コンビニの傘、なんだか興味わきませんか
緞帳のはなし 、寺山修司氏、、走れメロス、コンビニの傘、なんだか興味わきませんか
2021年7月5日に日本でレビュー済み
本書は演劇について書かれているが、その内容は演劇にとどまらず、クリエーティブな仕事をする人、営業やマーケティングの仕事に携わる人、コミュニケーションに関係する活動をしている人などにとってもたいへん示唆に富む。それは、何が人の気持ちを動かすのかというテーマに鋭く切り込んでいるからである。
しかも抽象的な議論や無機質なデータではなく、著者自身の長年の経験と優れた感性によって紡ぎ出され、それを適切でわかりやすい事例によって説明されている。
演劇に興味がない人でも、まるでエッセーを読むように引きつけられる。
しかも抽象的な議論や無機質なデータではなく、著者自身の長年の経験と優れた感性によって紡ぎ出され、それを適切でわかりやすい事例によって説明されている。
演劇に興味がない人でも、まるでエッセーを読むように引きつけられる。
2021年7月3日に日本でレビュー済み
頭ではなく身体の速度が人間の速度である、人間は常に演じている、演劇と映像と小説、漫画の根本的違いなど、目からウロコがボロボロ落ちました。
2021年9月8日に日本でレビュー済み
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演劇は台本(戯曲)がすべてだ.
この本は誤っている.
この本は誤っている.